留学生採用に関心を持つ企業は多い、けれど

マイスターです。

日本で学ぶ留学生は増えています。

中曽根首相が打ちだした「留学生10万人計画」は2003年に達成。
目下、福田首相による「留学生30万人計画」が進行中です。

国境を越え、日本で学びたいという方々がやってこられるのは、非常に喜ばしいこと。
ある意味もっとも直接的な、「教育力」に対する評価だと言えるかもしれません。

せっかく日本で学ばれたこの方々には、ぜひ国内外の様々な場面で活躍していただきたいところ。
以前は、「日本企業は留学生を活用できない」なんて意見もありましたが、最近ではそうでもありません。
生産や販売の拠点を海外につくる企業も増え、日本企業全体がグローバル化してきています。
また大学の方も、これまで以上に世界中から優秀な学生を集め、育てることに力を入れています。

いい人材がいればぜひ獲得したい、と考える企業は少なくないことでしょう。

さて、今日はこんなニュースをご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「《経済》 企業の6割が留学生採用に関心 静大准教授が調査」(中日新聞)

静岡県留学生等交流推進協議会(事務局静岡大)が留学生の就職意識と企業の留学生採用について調査したところ、約6割の企業が採用に関心を持っていることが分かった。日本での就職を希望する留学生も54%に及び、“相思相愛”ぶりがうかがえる。
昨年6-8月、県内の大学や高校、専門学校で学ぶ外国人756人と企業136社に調査した。
(上記記事より)

……というわけで、やはり企業は留学生に熱い視線を送っている模様です。

学生の側も、日本での就職に前向きな様子。
もともと、日本の経済・産業に関心を持って留学を決めたという方も少なくないでしょう。
日本語を含め、大学で身につけた様々な力を、せっかくだから日本社会で発揮したいと考えるのは自然です。

ただ、双方の思惑を詳細に見てみると、また少し違った一面が。

企業が留学生の採用に興味を持った理由は「海外の顧客への対応」が25%でトップ。「会社の国際化」(21%)「海外に生産・販売拠点がある」(19%)が続き、海外業務から必要性を感じた企業が多かった。
雇用に当たっての企業の不安は、早期離職が56%で1位。37%の日本語力、32%の協調性が上位を占めた。
留学生の希望職種は「経営・経済」が38%、「人文社会学系」19%。「語学・文学」は9%と低めで、調査を担当した静岡大国際交流センターの袴田麻里准教授は「語学力より自分の専門分野を生かしたがっている留学生が多い」と分析する。
(上記記事より)

日本の企業の多くは、どうやら「留学生だから」という理由で留学生を欲しているのだということが、伺えるデータです。
日本国内で、日本人の顧客相手に活躍する人材として、留学生を活用しようと考える企業は、まだまだそう多くはない、ということなのかもしれません。

そう言えば以前、海外からの留学生を多く抱える大学のスタッフの方と話していたときにも、そんな話を聞きました。
最近では日本企業でも留学生を欲しがるところが増えているけれど、送り出してみると、やはり配属先は国際部門が圧倒的に多い。だからこそ普通に日本国内の支店で、日本人の顧客を相手にするスタッフとして配属する企業があると、その企業の人材に対する姿勢に感動する……と。

留学生が増えたとはいえ、今はまだまだ過渡期だということなのかもしれません。
市場のグローバル化、顧客の国際化を目の前にして、「とにかく外国人のステークホルダーとビジネスができる人材が足りていない」というニーズが先行しているという事情もあるのでしょうか。

(逆に言うと、「英語を武器にしたい」と考える日本人にとっては、留学生の存在は驚異だと思います。
国際展開をするにあたり、日本人社員を国際化するよりも、留学生に日本のビジネスを身につけてもらう方が早いし優秀だ、と考える企業人はけっこういらっしゃいそうですから)

「語学力より自分の専門分野を生かした」いと考える留学生の方々の気持ちも、よくわかります。
ただ、日本人でも(理工系や医療系など一部を除けば)専門分野を活かして就職している人はそう多くはありませんので、これは出身とはあんまり関係ないかもしれませんよ、ということだけはお伝えしておきたいです。

「あれだけ金融への知識をアピールしたのに、投資部門ではなく海外営業部に採用されてしまった!
これは自分が留学生だからなのか! 差別では!?」

……などと落ち込む必要はありません。日本人で語学が達者な方も、同じ扱いを受けていますから。

企業と留学生の意識に大きな隔たりがあることも浮き彫りに。企業が期待する就業年数は10年以上が33%、定年までが25%と長期を望む声が上位。反対に、日本での就職を希望する留学生は1-5年が約5割と短期を望む。
勤務地についても、「初めは日本で近い将来は母国」を37%の企業が希望。一方、留学生の希望者は16%にとどまり、第一人気は「日本国内のみ」で27%だった。
(上記記事より)

これは、個人的にはあまり見たことがないデータで、ちょっと新鮮でした。

以上、強引にまとめると……。

留学生に対し、初めは日本で近い将来は母国に勤務という働き方を、10年以上、できれば定年まで望む日本企業。期待する役割は海外の顧客への対応や、海外の生産・販売拠点での業務。

かたや、日本国内でのみ、1-5年の短期で働きたいという留学生。
語学ではなく、経営・経済や人文社会学系の職種で、専門能力を活かして働くことを希望。

見事にすれ違っています。

ちなみに日本の企業が不安に思っているのは早期離職、そして日本語力や協調性の有無。
日本語はともかく、早期離職の点は、どうやら考えていることが逆のようです。

日本の企業が求めているのは、生涯を通じての会社への帰属や、「日本人上司が望むような」協調性など、あくまでも日本的。日本で研修を行ったら、適当なタイミングで外に出て、海外の支社や工場で、定年まで企業に尽くしてくれるようなイメージを理想としているようです。

でも思うのですが、市場環境が変わったら、こうした方々は工場や支社ごと切り捨てられる可能性が大きいのでは。
個人的には、企業が考えていることは、企業側にとってずいぶん都合のいい話だなぁ、と思ったりもします。

語学だけではなく、留学によって身につくであろう複眼的な視点や、柔軟な対応力、発想力などに期待するとか、企業を変えてくれるような幹部候補生を留学生から採るとか、そんな企業が出てきたら素敵です。
それでこそ、留学生を本当の意味で活かす企業なのではないでしょうか。

ふと思ったのですが、手始めに、大学が、自校の職員として採用してみるというのも良いかもしれませんね。それも国際交流室や留学生センターなどだけではなく、企画や財務、教務や学生課などなど、様々な部署で活躍してもらうのです。

留学生が多く在学している大学では、そうした動きが以前からあるかもしれませんが、日本人の学生や日本の受験生および保護者、高校関係者、また地域の方々などにとっても、こうしたスタッフとの出会いは、大きな意味を持つと思います。
大学が、よりエキサイティングな場になること、請け合いです。
外国人教員の人数をランキングした表は既にありますが、外国人職員の人数もぜひどなたかに調べていただきたいところです。

以上、冒頭の記事を見ながら、そんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • 就労ビザの問題を考える必要もあるでしょう。留学生が自分の専門以外の職に就くことは、就労ビザの発給が不可能なので、実現ができません。
    例えば教育関係の学位であれば、学校など、教育に関する就職先でなければビザの切り替えが出きません。

  • 日本の企業がみんなあなたのような発想を持ってたら日本社会で働くのがもっと楽になりそうですね。
    私も就職活動をしてみて思ったんですけど、不況も続いている今、日本の企業で定着するのはとても簡単なことではないと思いました。
    結局就職活動を2ヶ月ぐらいやってみて進学することにしました。
    日本で就職するのを止めた理由の一つは日本の企業は留学生の語学力にこだわり過ぎて、本当の国際的な視野を持っている意味としての人材を採りたがっているのではなかった点です。
    そういう企業で採用されたとしても永遠に「留学生」、「外国人」の目に見られますよね^^
    他にも自分の勝手な理由もありますが。。。
    今は大学時、専門としてた日本語をもっと勉強して博士まで卒業できたら国に帰って日本語の先生になろうと思っています。