マイスターです。
アメリカの大学のwebサイトをよく見るのですが、気づくことがあります。
入学者選抜などを取り扱う「Admission」部門のコンテンツを訪れると、試験関係に加えて、必ず「Financial Aid」、つまり奨学金の情報がセットになっています。
■「Undergraduate Admission」(Princeton University)
↑例えばこちらでは、「Apply for Admission」と「Costs & Financial Aid」が、2大コンテンツになっていますね。
■「Undergraduate Admissions Office」(Cornell University)
↑こちらも、Admissions Officeのサイトですが、トップに「Financial Aid News」が随時、更新されるようになっています。
■「Undergraduate Admissions and Financial Aid」(Dartmouth College)
↑こちらなどは、コンテンツ名からして、「Undergraduate Admissions and Financial Aid」です。
上記はいずれも学費の高い私立大学であり、また海外からの留学生が比較的多い名門大学です。
ですから、特に奨学金に力を入れているのかも知れません。
そんな事情があるにしても、日本の名門私立大学などと比較したとき、違いが端的に表れているところであり、興味深いです。
アメリカの大学では、どうやら「入学業務」と「奨学金」が、不可分な関係にあるようです。
そして、新しい奨学金が加わった旨など、活きた情報がwebサイトでばんばん更新されています。
一方、日本の大学では多くの場合、奨学金の業務は学生課で取り扱われています。つまり、「学生生活のサポート」という位置づけですね。
従ってwebサイトでも、奨学金情報は「キャンパスライフ」といったコンテンツの中におさめられているケースが多いようです。
webサイトの違いは、「International Student」向けの情報になると、さらに顕著になります。
日本の大学のwebサイトの多くは、「英語版」のページになると急激に情報量が減り、使い勝手がないに等しくなるのですが、奨学金の情報も例外ではありません。ひどい場合は、英語版サイトに「Financial Aid」の項目が存在しなかったりします。
情報の量や更新頻度も、推して知るべしといった様子です。
↑先日、本気で海外から学生をとる気だとブログでご紹介した早稲田大学ですら、こんな状態です。
各奨学金の申し込みフォームもなければ、適用条件などの重要な情報もありません。
というか、メールでのお問い合わせ先もありません。キャンパスにおけるオフィスの場所と、(日本国内からかける場合の)電話番号しか、連絡先が書かれていないという状況です。
「奨学金のことは、入学してから考えなさい」……という姿勢だと思われてしまうかもしれません。
早稲田大学に限らず、多くの大学が、まだまだこういったところまで力を入れられていないようです。
海外からの留学生を増やそうとしている大学は多いのですが、入試関係をあれこれといじる割に、このあたりのサポートがほとんど手つかずだったりすることも多いようです。
大学関係者の皆様はぜひ、国内学生および留学生向けの奨学金情報の充実を、ご検討ください。
内容的にも、日本の大学では、日本学生支援機構(旧・日本育英会)の奨学金の案内が最初にどんとあり、プラス大学が持っている奨学金がひとつ、ふたつくらい案内されて、それで終わりだったりします。ことによると、日本学生支援機構の奨学金のことしか掲載されていなかったりします。これでは、サイトがほとんど更新されないのも無理はありません。
ちゃんと調べたわけではありませんが、日本の大学の学生に対する経済支援の薄さ、貧弱さは、アメリカのトップ校と比べると、まだまだ十分でないように感じてしまいます。
アジアなど、世界中から留学生を集める際は、こういった大学と対等に戦わなければならないのですから、このあたりの強化が必要であるように思われます。
前置きが長くなりましたが、↓こんなニュースも、そんな現状と無関係ではないのではないでしょうか。
【今日の大学関連ニュース】
■「奨学金返済の延滞率高い大学、公表へ…日本学生支援機構」(読売オンライン)
奨学金の貸与事業を行う独立行政法人の「日本学生支援機構」は10日、奨学金の返済が滞っている卒業生の割合が高い大学などの学校名を公表する方針を決めた。
近く、公表の基準などの検討に着手する。2007年度に奨学金の返済を延滞した卒業生の割合が20%以上の大学は7校を数え、中には30%を超える学校もあり、学校も奨学金の返還を学生に促す責任があると判断した。
今回の方針は同機構が設置した「奨学金の返還促進に関する有識者会議」(座長・市古夏生お茶の水女子大教授)の報告を受けての措置。これまで、同機構はすべての大学や短大などに、各校の奨学金を返還する義務のある卒業生のうち延滞している卒業生の割合を示す延滞率を文書で通知したほか、延滞率の高い大学などに同機構の職員を派遣して直接指導してきた。だが、3か月以上の延滞金は99年度末の1009億円から、07年度末には2253億円と2倍以上に増加するなど、毎年度、過去最高を更新し続けている。
これらの経緯を踏まえ、報告書は「学校の教員や奨学金の担当者に返還の意識を持ってもらうことが重要」と学校側の責任を指摘。その上で、「大学など学校の指導のあり方が延滞率に影響を与えていることを考慮し、延滞率が高く、改善が進まない学校名を公表することを検討する」として、同機構に学校名の公表を求めた。
(上記記事より)
これは個人的な印象ですが、日本の大学組織には、奨学金をどこか、オマケ的な事業として捉えている傾向があるように思います。
未だに、「かわいそうな学生に、学費を借りられる(かもしれない)仕組みを教えてあげる」という理解のスタッフも、実は少なくないのではないでしょうか。
前述したように多くの大学では、自校運営の奨学金はあまりなく、案内の中心になっているのは「日本学生支援機構」が運営する奨学金制度です。
ですから大学のスタッフは、支援機構から送られてくるポスターを掲示板に貼り、窓口に来た学生に案内と申込用紙を渡すだけ。学生が借りられても借りられなくても、返せても返せなくても大学にとってはおそらく「他人事」なのでしょう。
世界中の奨学金に精通したプロがいるわけでもなく、数年おきにローテーションする学生課のスタッフが奨学金窓口を担っているのも、結局、そのくらいの業務しか現状では行っていないからです。
そんな現状が、上記のニュースのような結果の裏にあるのではないかと思います。
もちろん、延滞という結果の責任のすべてが、大学にあるとは思いません。
それに、「どうしても返せない」というケースだってあるでしょう。逆に、そんなケースまで、大学側の責任にされてしまうとしたら、乱暴です。
ただ、返済までの計画を学生と考えるなどのことも含めて、日本の大学が、奨学金に関するサポートを十分に行っていないのも事実だと思います。
「奨学金」のwebコンテンツで、日本学生支援機構の奨学金を一番上に掲載しているにも関わらず、学生にはただ申込用紙を渡すだけで、返済できるかどうかは知ったこっちゃない……なんていう事態には、改善の余地が大いにあるように思うのですが、いかがでしょうか。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
「海外の大学のwebサイトをよく見る」と書いておいて、貼ってあるリンク先はUSAのアイビーリーグの大学。まあ、代表的な大学ということで仕方がないとも考えられるが、その後「世界中の奨学金に精通したプロがいるわけでもなく」などと数年しか大学スタッフとして所属したことのない者に書かれたくはないものだ。それでは、私立大学ならば、USAばかりではなく(大学をとりまく環境が日本とは異なり、参考にならないところも多い)、韓国の延世、パキスタンのアガカーン、チリのチリ・カトリック、ベトナムのタンロン、モロッコのアルアワワイン、国公立なら、オーストリアのグラーツ、フランスのリヨン第二、ブラジルはサンパウロ州立サンパウロ、スウェーデンのウプサラといったそれぞれの国・地域で最高学府や有力私大と言われている大学のwebサイトをよく見ていて、それぞれの奨学金制度や学費減免、学生支援制度にマイスター氏は精通しているのでしょうね。
「匿名」さま
マイスターです。
貴重なご指摘、ありがとうございます。
確かに、「海外の」というのは、乱暴なまとめ方であったと思います。ですので、ご指摘を受け、「アメリカの大学」という表現に修正いたしました。
(それにあわせ、他の部分も若干修正してあります)
また、何かお気づきの点がございましたら、コメントいただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
記事とコメントでのお二方のやりとりを拝見しました。確かにアメリカの大学に限った話として読んだ方が誤解がないと思います。匿名さんのご指摘は的を得ていると思いますし、それを受けてすぐに訂正されたマイスターさんも、まっとうな姿勢のご対応だと感じました。このように意見をやりとりして情報や考え方が洗練されていくのは、良いことだと思います。
ただ匿名さんの「数年しか大学スタッフとして所属したことのない者に書かれたくはないものだ」といったおっしゃり方は余計だと思います。内容に対する指摘を超えていませんか。業界の問題点や欠けている点を分析し、こうして指摘していることに何か問題があるのですか。それが事実であるなら、キャリアの長さは関係ないのではないでしょうか。民間企業や官公庁でも、裏をかいま見た方が、問題点を指摘することはよくあります。むしろ長く同じ環境に浸かっている人ほど至らない部分に気づかないということはよくありますよ。
「それでは・・・学生支援制度にマイスター氏は精通しているのでしょうね。」というのも反論としては見当外れではないでしょうか。匿名さんは大学の方なのだと思いますが、ユーザーの視点で客観的にこういった意見を書くことは私がいる製造業においては普通のことです。マイスターさんは客観的に感じた違和感や問題点を指摘しただけなのですから、プロとして事実の部分は参考にすればいいだけだと思います。
この「匿名」氏のコメント自体が、日本の大学のレベルの低さを表していますね。
指摘の内容はいいのに、反論の仕方が幼稚すぎ。知事にかみついている大阪府の職員と同じだな。大学以外ではこの程度じゃ働けませんよ。
どこの大学の関係者ですか? コメントの文脈&キレ方からして、本文で甘さを指摘された早稲田?
昨年まで学生課に勤務していたhigh190です。
私の勤めている大学でも奨学金=日本学生支援機構という構図ができていて、奨学金事務担当者はいますが、実質的には日本学生支援機構の奨学金事務の担当でした。
これは少し調べると分かることですが、日本にも色々な奨学金があって、返還が不要なものも結構あります。問題は大学の事務担当者がそうした情報を収集していないことと、現在の学生に関する情報をしっかりと分析していないということでしょう。
日本の大学の学費は右肩上がりで推移しており、経済的支援を必要とする学生は増え続けています。つまり、大学の学生課の仕事として奨学金の業務を充実させるということは大学の魅力向上に大きく繋がるということなのです。
諸外国の奨学金制度との比較を行えば、日本の大学がいかに遅れているかは大学の学生課に勤務したことのある人ならよく分かるはずです。マイスターさんが言いたいこともそこにあるのではないでしょうか。業務に少しでも変革を持ち込めれば学生支援の向上に繋がると。
私は早稲田大学に通っていたものですが、2年間給付の奨学金で大隈記念奨学金という奨学金を給付してもらったものです。大隈記念奨学生の中には、国際教養学部の学生を含め留学生が数名いました。この他にも給付の奨学金は数多く用意されており、125周年を記念した奨学金は各学部ごと独自の審査基準で奨学生選考しています。匿名さんがどこの大学関係者かわかりませんが、だからといってぱげ さんの最後のコメントは不必要かと感じます。たしかに、マイスターさんのご指摘される通り日本の大学の奨学金制度は改善してゆくべき問題が山積しているとおもいます。ただ私自身母校から給付の奨学金を受けることが出来非常に助かったので、これから大学受験をされる生徒さんの参考までにコメントさせていただきました。