大学は18歳から22歳のものだけではない……というのが信条の、マイスターです。
もちろん現在の中心はそういった方々ですし、これからもそうでしょう。
しかしその周りには、もっと多様な年齢層、多様な職業の方々がいてほしいと、個人的には思っています。
入社した企業の営業部に配属されたばかりで、業界知識に不安を持っている若い社会人、
既に何年も現場で経験を積んだベテランエンジニア、
定年を迎えてから学び始めたシニア、
結婚と同時に退職したけれど、知的好奇心を止められないアクティブな主婦、
大学入学を控え、興味のある分野の授業をのぞきに来た高校生、
海外からの留学生、
20年前に大学を卒業したOB、
キャンパスのある地域に暮らす人々、
人材交流で派遣されてきた研究者、
そんな様々な方々がキャンパスを歩いているような大学こそ、マイスターの理想の大学です。
高等教育機関って本来、社会の中で、そういう風に存在しているものなのではないでしょうか。
そんな考えを持っているマイスターなだけに、このニュースには本当にびっくりしました。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「茶髪・ピアス報道について」(学校法人秋田経済法科大学)
http://www.akeihou-u.ac.jp/topics/news/news.html
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読売新聞やヤフーのニュース欄に掲載されました「茶髪・ピアスやめたら1万円」の記事について補足いたします。
今回の規則の基になっているのは「高等教育を通じて健全にして善良な社会人を育成する」という本学設置の趣旨であり、学則にも制定されている事項です。
これをより徹底して実現するため、教育指導室を設置。在学中に社会人としてのマナーやモラルを身に付けさせ、社会人として通用する学生に教育しようという目標を掲げました。そしてより具体的な検討を重ねて、この度の「学生の頭髪及び装身具に関する要綱」の制定となりました。頭髪に関しては「清潔を旨とし、周囲に不快感を与える得意な(※)髪形や染色及び脱色等は禁止」
装身具については「華美を避け、かつ品位を保つことを旨とし、ピアスは禁止」
と規定しておりますが、それでは「どれぐらいの染色だと不快感を与えるのか」「どれぐらいだと華美なのか」「女性の耳ピアスもだめか」等の基準につきましては「別定め」としており、今後それらの細則を早急に検討していくところです。褒章制度につきましても「1万円が妥当なのか」「現金・図書券なのか」また、「茶髪ピアスの子が得をするようでおかしい」という声もあり、これもさらに検討が必要です。
さらに、本学では同時に「受講マナーの向上」や「あいさつの励行」、「分煙」についても指導を強化していきます。まじめに授業を受けている学生やタバコを吸わない学生が迷惑を被るようなことがあってはならないという考えです。
これらの制度は、本学に課せられた使命であります、企業人・公務員など善良な社会人の育成を達成すべく行う教育の一環でありますので、ご理解いただき、ご協力の程、お願いいたします。
※「特異な」の誤字?
(上記記事より)
大学職員.net -Blog/Newsでこの話題が取り上げられているのを見て、びっくりしてしまいました。
秋田経済法科大学が、髪の染色やピアスを「禁止」したのだそうです。
また、茶髪やピアスをやめた学生には、1万円を出すのだそうです。
マイスターは、嘘でしょう? と思いました。
この計画の主旨はわかります。「社会人として恥ずかしくない格好を、学生のうちに身につけさせよう」ということなのでしょう。
また、こういう方針を支持する声が一定の割合で存在するということもわかります。制服の着用が義務づけられている女子大と同じです。支持する人々がいる以上、こういう方針を打ち出すことで、そういった層から受験生を集めるための戦略を大学がたてるのも、無理はありません。外部の人間が、それを否定することはできません。
でも。
個人的には、このような方針は、支持できません。
それには、いくつか理由があります。
○「大学は、多様な人々が存在する場所」という前提の逆を行っている
今回の内容は、完全に「大学キャンパスには、高校を出たばかりの、18歳から22歳の学生しかいない」という前提で考えられたルールであるような気がするのですが、人数は少なくても、大学なのですから、科目等履修生や社会人学生が全くいないわけではないと思います。そういった方にもこの「髪の染色、およびピアス禁止」を適用するのでしょうか。
見ると、
今回の規則の基になっているのは「高等教育を通じて健全にして善良な社会人を育成する」という本学設置の趣旨であり、学則にも制定されている事項です。
とありますから、この学則は学校の正式な教育活動の一環だということなのでしょう。
であれば当然、全学生に適用するということですよね。大学としての教育ミッションに関わることだと言っているのですから。
でも……若い社会人学生や主婦学生、留学生に、「茶髪は善良な社会人ではないから禁止」と言うことが、果たして教育上正しいのでしょうか。彼らは、既に自分の責任で服装を選び、学費を払って大学に通っている身です。マイスターにはどうも、純粋に知的好奇心を持ってやってきた大の大人達に茶髪禁止を強制することが教育方針として正しいとは、思えないのですが。
では、仮に(主旨を考えればおかしいのですが)社会人学生はこのルールの適用外にする、としましょう。でも、キャンパスを歩く学生達が、社会人経験者なのか、それとも就職活動を控えている身なのか、一目で判断できますか? できませんよね。
「おい、茶髪は禁止だぞ」
「あ、僕、社会人学生です」
「本当か? じゃあ、学生証を見せろ。む、確かに『社会人学生』マークが付いている。『茶髪許可登録』も済ませているようだな。よし、行っていいぞ」
……みたいなチェックを、キャンパスで行うのでしょうか。
そんな極端な、と思うかも知れません。でも、「禁止」ってのはそういうことです。それに秋田経済法科大学は、「本学設置の趣旨」に基づいた学則であり、「これらの制度は、本学に課せられた使命であります」とまで言っているのです。それってつまり、学生にこれを徹底できなかったら、教育ミッションを達成できなかったということになるということですよ。
こう考えてみると、高等教育機関が服装規定を持つことのおかしさを、わかっていただけるのではないでしょうか。
○主観的な要素が多過ぎる
例えばアパレルメーカーに勤める社会人が大学の授業を取りに来ていて、「茶髪は善良な社会人ではないから、禁ずる」なんて言われたら、困っちゃいますよね。その人にとっては、「善良な社会人=髪を染色しない人」ではないのです。
服装にはTPOがあるとよく言いますが、今回の「善良な社会人か否か」という話とは別の問題です。「善良な社会人にふさわしい服装」なんてものはありませんし、「大学にふさわしい服装」などというものがあるなどという話も、今のところマイスターは聞いたことがありません。したがって、キャンパス内にふさわしい格好というのも、規定しようがないと思います。
「どれぐらいの染色だと不快感を与えるのか」「どれぐらいだと華美なのか」「女性の耳ピアスもだめか」等の基準につきましては「別定め」としており、今後それらの細則を早急に検討していくところです。
↑こんなことも書かれていますが、これは、最も不毛な発想です。
ある作家が、こんなことを書いていました。
その作家は高校生の頃に生徒会長を務めており、学区の全高校の生徒会長を集めて、「校則のおかしさを皆で考えてみよう」という場を設けました。そこで、それぞれの高校の校則を実際に持ち寄り、内容を見てみたのだそうです。
ある高校では、女子生徒は黒ストッキングを着用することが、校則で義務づけられていました。
しかし他のある高校では、黒ストッキングは校則で禁止されていたそうです。
黒ストッキングを義務づけている高校は、「高校生らしい服装をしなければならない」という理由で、その校則を全女子生徒に守らせていたそうです。
一方、黒ストッキングを禁止する高校の理由は、「娼婦のようで、高校生にはふさわしくない」というものだったそうです。
すると何かい、高校生らしいってのは、娼婦らしいってことかい、とその作家は思ったわけです。
つまり、「高校生にふさわしい」などという理由は、(言葉は悪いですが)教員達の主観でどうにでもでっちあげられるものだったのですね。
「大学生にふさわしい服装」を、詳細なルールで定めるなんてのも、話はこれと全く同じです。
一体誰が、「大学生にふさわしい髪の色はこの位の茶色まで」とか、「善良な社会人の髪型は、このくらいまで」とかいった判断ができるというのでしょうか。誰にもできません。
中学や高校にはしばしば、「ソックスは白または紺一色のもの。ただしワンポイントまでは認める」なんていう校則があって、じゃあどのくらいの大きさまでがワンポイントなんだということが問題になるらしいです。で、教員達が、「タテヨコ○○センチまではワンポイントだが、全体の比率の○○%を上回るとワンポイントとしては認められない」なんていう基準を作るのだそうです。さらに、判定が微妙なケースでは、いちいち教員の会議の場で、OKかNGかを議論するのです。
「どれぐらいの染色だと不快感を与えるのか」「どれぐらいだと華美なのか」「女性の耳ピアスもだめか」等の基準につきましては「別定め」としており、今後それらの細則を早急に検討していくところです。
とありますが、これは、ソックスのワンポイントがどこまでOKなのかを議論するのと同じ行為です。キリのない、不毛な作業であるように思います。
個人的には、およそ大学が行うのにふさわしい仕事だとは思えないのです。
……と、言いたいことはたくさんあったのですが、キリがないのでこのくらいにします。
例えば秋田経済法科大学が、
「本学のミッションは、18歳から22~24歳前後の社会人経験のない若者を、最低限のマナーを身につけた社会人として送り出すことである」
というようにミッションを再設定して、社会人学生の受け入れを止めてしまうのだとしたら、「学生の頭髪及び装身具に関する要綱」は、大いに説得力のある、有効な教育手段の一つになると思います。
でも、もしそうでないのであれば、今回のルール、再検討してもいいんじゃないかな、と個人的には思います。
以上、マイスターでした。