「Master of Media and Governance」なる学位を持っている関係上、メディアリテラシー教育などには関心があります。
テレビや雑誌そしてインターネットなどメディアが多様化した現代において、
情報に関する知識とスキルは、「読み・書き・そろばん」に続く第四の必須基礎能力であると思います。
そんなわけで、今日はこんなニュースをご紹介。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「教科「情報」を入試科目に 14大学が来年度入試で」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp
/shakai/edu/elearningschool/nyushi/news/20051114org00m040041000c.html
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高校で必修科目として行なわれている教科「情報」を、
一般入試科目の選択肢のひとつとして導入する大学が、
国立、私立合わせて14大学に上っているとの報道です。
まだ大学入試センター試験には導入されていませんが、この報道の印象でいくと、
今後は情報系の学部学科を中心に、導入が広まっていく可能性もありますね。
ところで、高校の「情報」の授業って、
結局、どんな内容なのよ?
マイスター、考えてみたらこれまでこの科目のこと、よく知りませんでした。
ちなみに、マイスターの出た高校は、世間に先駆けて独自に「情報」という授業を設けていました。
マイスターが在学していた当時、既に「情報」の担当教員もいました。
が、内容は「パソコンでBASICプログラムを組み上げる」というものでした。
当時はまだ、<情報=プログラミング教育>という認識だったのですな。
(もちろん、現在全国で行われている「情報科」とは全然違う内容です)
まだWindows95すら発売されておらず、「インターネット」という言葉もほとんど知らなかった時代でした…。
実は現在勤務している大学でも「情報科」教員の教員免許を出しているのですが、恥ずかしながらよく内容は知りません。
そんなわけでちょうどいい機会ですから、「情報科教育」について簡単に調べてみました。
今回の記事は、教職関係のご担当者様や、入試関係の部門の方々、高校教員の皆様にとってはえらく基本的な内容になっているかと思いますが、その辺はなにとぞご容赦ください。
さて普段は、まずwebのリンクをズラッと並べるところですが、たまには参考文献を。
教科書はAmazonでもマニアックな商品なのか、いずれも画像がありません。
新しい教科ではありますが、大きな書店の教育関連コーナーに行けば、「情報科」について取り扱った本は山ほどあります。
マイスターの勤める大学の図書館だけでも、「情報科教育法」という、全く同じ名前の本が4種類見つかったくらいです。
で、たまたま図書館にあった本を6冊くらいざーっと見て、大学関係者が簡単に「情報科」のことを理解するにはこのへんかな、と思えた本が、上記の3冊です。
最初の2冊は、名前の通り、実習のプランが豊富に載っていますので、パラパラめくって概要を掴むのに向いています。
普通高校で学ぶ「情報科」では、授業時間の1/3以上(「情報A」では1/2以上)を実習に充てることとされていますので、実習計画がどんなものかわかると、授業全体をイメージしやすくなると思います。
さて、「情報科」の概要をまとめます。
○普通教科「情報」と、専門教科「情報」の2種類がある。
まずこれ重要。
普通科の高校で教えられているのは、前者の方だと考えていただいて結構です。
一方、従来からある「商業」「工業」という専門教科に加えて、
新たに設けられた専門教科としての「情報」が、後者です。
当然、カリキュラムが全然違います。
後者の専門教科の情報というのは、本当に高校から専門科で学ぶ生徒用ですから、
システム設計や管理・運営、アルゴリズムやネットワークシステム、
コンピュータデザイン、図形と画像の処理など、専門的な内容で構成されています。
いわゆる「情報科学」、コンピューターサイエンスと呼んでいい内容です。
課題研究を含め、11科目で構成されています。
今回の報道で入試科目にされると書かれているのは、
普通科高校の生徒達が学んでいる、普通教科としての「情報」の方です。
後述する、情報A、情報B、情報Cの3科目があります。
専門科の関係者の皆様には申し訳ないのですが、今回の主題に関わるのは普通教科の方ですので、
これ以降「情報」と言ったら、「普通科の情報」のことを指すとお考えください。
○普通教科「情報」 3つの目標
以下の3つが、「情報」の科目における、目標の要点とされています。
ア:日常生活や職業生活において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用し、主体的に情報を収集・処理・発信できる能力を育成。
イ:情報及び情報手段をより効果的に活用するための知識や技能を定着させ、情報に関する科学的な見方・考え方を育成。
ウ:情報化の進展が人間や社会に及ぼす影響を理解し、情報社会に参加する上での望ましい態度を育成。
ふむふむ、という感じです。
そして、これ。
○「情報」の授業には、
「情報A」
「情報B」
「情報C」
の3種類がある。
そうです。
普通科で教えられている「情報」には、3つの種類があるのですね。
数学も、「数学A」「数学B」「数学C」とか、「数学I」「数学II」「数学III」とか、種類がありましたね。
あれと同じです。
この「情報A」、「情報B」、「情報C」、それぞれ2単位。
で、このうちどれか1科目は、必修としてすべての生徒に履修させることになっています。
2科目以上を履修することも可能で、その際には、上述した専門科目の「情報」を取り入れることも認められています。
さてこの「情報A」「情報B」「情報C」ですが、それぞれ
上述した「普通教科『情報』 3つの目標」のうち、どれを重点的に教えるかが違うのです。
ざっと以下に、それぞれの目標と内容をまとめました。
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<情報A>
上述したア、イ、ウの3つの視点を盛り込んでいるが、特に「ア:日常生活や職業生活において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用し、主体的に情報を収集・処理・発信できる能力を育成。」に重点を置いた内容の構成。
コンピュータや情報通信ネットワークなどの活用を通して、情報を適切に収集・処理・発信するための基礎的な知識と技能を習得させるとともに、情報を主体的に活用しようとする態度を育てる。
内容→
(1) 情報を活用するための工夫と情報機器
(2) 情報の収集・発信と情報機器の活用
(3) 情報の統合的な処理とコンピュータの活用
(4) 情報機器の発達と生活の変化
※授業時間の1/2以上を実習に充てることとされている
<情報B>
上述したア、イ、ウの3つの視点を盛り込んでいるが、特に「イ:情報及び情報手段をより効果的に活用するための知識や技能を定着させ、情報に関する科学的な見方・考え方を育成。」に重点を置いた内容の構成。
コンピュータにおける情報の表し方や処理の仕組み、情報社会を支える情報技術の役割や影響を理解させ、問題解決においてコンピュータを効果的に活用するための科学的な考え方や方法を習得させる。
内容→
(1) 問題解決とコンピュータの活用
(2) コンピュータの仕組みと働き
(3) 問題のモデル化とコンピュータを活用した解決
(4) 情報社会を支える情報技術
※授業時間の1/3以上を実習に充てることとされている
<情報C>
上述したア、イ、ウの3つの視点を盛り込んでいるが、特に「ウ:情報化の進展が人間や社会に及ぼす影響を理解し,情報社会に参加する上での望ましい態度を育成。」に重点を置いた内容の構成。
情報のディジタル化や情報通信ネットワークの特性を理解させ、表現やコミュニケーションにおいてコンピュータなどを効果的に活用する能力を養うとともに、情報科の進展が社会に及ぼす影響を理解させ、情報社会に参加する上での望ましい態度を育てる。
内容→
(1) 情報のディジタル化
(2) 情報通信ネットワークとコミュニケーション
(3) 情報の収集・発信と個人の責任
(4) 情報化進展と社会への影響
※授業時間の1/3以上を実習に充てることとされている
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以上です。
A、B、C、なかなかうまい分け方だなと思います。
これなら、情報教育に対する各校の考え方が、ある程度反映できそうですね。
本学はやはり基本的な情報機器の活用法を一通り教えたい、と思えばAを選ぶでしょう。
関連法の整備状況や社会的な情報システムなどまでをしっかり教え、総合学習との関連で情報社会についての問題を深く議論させたい、といった考えのある学校なら、Aに加えてCを学べるようにするかも知れません。
理数系に重点を置く高校なら、Bを選択科目として開講するのもいいでしょう。
以上、教科「情報」の概要でした。
上記をふまえて頂いた上で、以下のような、情報科教員の皆様が運営しておられるサイトをご覧になると、いっそう具体的なイメージがわくかと思います。
■「情報科.net」
http://www.johoka.net/
■「情報科の先生になります」
http://www.hi-ho.ne.jp/yoshi-sato/joho/
■「普通科高等学校 初めての『情報科』授業の記録」
http://kminami373.hp.infoseek.co.jp/
さて、冒頭の記事に戻ります。
-「情報」はIT時代を担う生徒たちに欠かせないとして新しい学習指導要領で導入され、2003年度に授業が始まった。情報やITを学びたい生徒、適性のある学生を選抜するため、大学入試に「情報」を設けるべきだという意見が、情報系教育の専門家、高校教員、産業界から上がっている。-(以上、冒頭、毎日新聞の記事より)
「情報」を受験科目にすることは、大変意義のあることだと思います。
「情報」の科目に含まれる知識やスキルは、いずれも大学での学びの根幹に関わる内容で、これを真剣に高校時代に身につけておくことは、大学入学後のあらゆる学びに役立つと考えられるからです。
それと、マイスターが思うに、「情報」の重要性は、理工系学部だけに限るものではありません。
むしろ文系学部こそ、こうした「情報化時代の学びの基盤」を高校できちんと身につけたかどうか、受験のときに確かめた方がいいかもしれません。
理工系の学科に行けば、入学後、嫌でもコンピュータと向き合うことになりますからね。
ただ、冒頭の毎日新聞の記事で指摘されている通り、
「情報A」「情報B」「情報C」のどれを学んでいるかが高校によって異なるという状況は、受験科目とするにはやや問題であるのかも知れません。
大学入試センターも、センター試験に「情報」を加えるのには二の足を踏んでいるようです。
現状では、7割以上の学校が実習の多い「A」を選択しているとのことですが、だからといってほとんどの大学が「情報A」を入試科目に設定するようになると、「情報B」「情報C」を学ぶ高校生がいっそう減ってしまいそうで、それはそれでもったいない気もします。
というか、
そもそも「情報A」の学習内容は、入試向きなのかどうか?
「情報A」は、「日常生活や職業生活において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用し、主体的に情報を収集・処理・発信できる能力を育成」することを目的としています。
つまりぶっちゃけていうと、「情報ツールの活用法をマスターする」というのが授業の大半の内容なんじゃないかと思います。
授業の半分以上が実習なわけですし。
加えて、この「情報」という授業、教える教員ごとの差がすっごく大きく出る科目だと思われます。
その点では、英語や数学の比ではありません、たぶん。
コンピュータ室で、基本的なソフトの活用法をなんとかかんとかマスターさせて終わりの教員もいれば、
それプラス、メディアリテラシーに関する学習まで行う教員もいると思います。
大学側が「情報A」の領域で入試問題を作ったとして、その要求に応えられる授業をしていた高校がどのくらいあるのかは、やってみないとわからないでしょう。
逆に、あまりに基本的なレベルの問題になってしまうと、受験の「選択科目」として使えません。
なかなか、多くのジレンマを抱えている教科でありますね、情報。
そんな数々の問題をはらんではおりますが、
「情報」、はたして受験科目として定着するのでしょうか。
これは、大学関係者も、高校関係者も、気になるところですよね。
今後が楽しみです。
以上、
入試で使われるかどうかはともかく、
もし今から教員免許をとるとしたら、情報科の教員もいいなと思ったマイスターでした。
はじめまして。いつも楽しく拝見しております。元SEで、現在は情報系の専門学校で教員をしている者です。
普通教科情報が導入されるということで、情報系に興味を持つ高校生が少しでも増えればと期待していました。
今年、その普通教科情報を履修してきた学生を受け持ったのですが、内容を聞いて愕然としました。Word、Excelの使い方を教える学校はまだいいほうで、情報の時間に数学や理科をやっていたとか。(拡大解釈というか、いわゆる履修漏れですね)
結局、受験科目じゃなきゃ高校は本腰入ないし、そもそも教えられる教員も少ないんでしょうね。ほとんどの学校が「情報A」を選択していることからもわかります。
情報に携わっている者の実感としては、数学や物理の先生が片手間に教えられるほど浅い内容でもないと思うのですが・・。「ソフトの使い方=情報」じゃない!!と声を大にして言いたいです。