進化論を教えないアメリカ

■「学校での『進化論』の教え方を巡ってカンサス州で行なわれている論争:もう1つのアメリカの保守化現象」(中岡望の目からウロコのアメリカ)
http://www.redcruise.com/nakaoka/index.php?p=109

■「『進化論には科学的根拠がある』と理解するアメリカ人は僅か35%」(暗いニュースリンク)
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2004/12/35.html

上記2つのブログ記事から、さらに多くの記事を辿ることができます。

アメリカで、進化論を教えることを禁じる法律が議会を通過した、という話を以前どこかで聞いたのですが、うろ覚えだったので検索してみました。

ダーウィンの進化論の「不完全さ」を指摘し、
「進化論とは違う、他の考え方も教えるべきだ!」という運動がある、
というのが、大体の状況のようです。

「これは科学VS宗教という論争ではない、科学VS科学の論争なのだ」とも。

でも、科学各種の記事を読む限りではどう考えても、キリスト教の宗教観を学校教育に持ち込もうとする運動ですよねー。
科学に基づいた進化論VSキリスト教の教義に基づいた創世論という、不毛っぽい論争です。

日中韓の歴史教育論争はやっかいですが、理性や対話、時間、それに各国の政治交渉が解決してくれるような望みがないわけではありません。
でも、このアメリカの問題は、どうでしょうか。

現職のブッシュ大統領は、かなり保守的なキリスト教関連団体から支援を受けているようですし、実際にES細胞研究や同性同士の結婚、中絶など、保守的なキリスト教主義者が眉をひそめそうな政策にはすべて反対しています。はっきりと創世論を否定するようなことは言えないのではないでしょうか。

これも、アメリカの一面です。
教育も政治の一環である以上、こうした政治力学に影響を受けてしまうのが悲しい。

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もうひとつ、アメリカでの教育と宗教とに関連した問題の例を。

私立学校の学費を税金で補助する「バウチャー制度」。
この制度は、経済的負担で質の良い教育を選択できない子どもに、私立学校進学の道を拓く画期的な制度で、アメリカでブッシュ大統領がテキサス州知事の際に導入したことでも知られています。

アメリカの学校は、大きく公立学校、私立学校、宗教立学校に分類されます。
日本と同じく、公立学校は税金で運営されるので学費がかかりませんが、学区によっては、荒廃した学校に通わざるを得ないこともあります。

一方私立、宗教立学校は、生徒から学費を集めて運営されます。
各校によって特色はあるでしょうが、おおむね質の高い教育を選択することができます。

教育バウチャー制度は、貧しい家庭にとっては教育の選択権を得ることにつながりますので、大きな希望になりますね。

しかし、ここでひとつ問題が起きます。

公立学校では一切の宗教教育が禁じられています。
公的な税金を、特定宗教の教育のために使うのはおかしい、という理由です。
もっともですね。

しかし私立学校、宗教立学校では、特定の宗教の教義を教えたり、信仰に関わる内容を学校教育に取り入れてもいいことになっています。

つまりバウチャー制度は、結果的に「税金を使った宗教教育」を助成してしまう可能性があるのです。

バウチャー制度はすばらしい仕組みなのですが、こうした点で問題がないわけでもありません。

個人的には、画期的な成果をあげる制度なので支持したいのですが、あの「人種のるつぼ」の国アメリカの税金が、学校で(例えば)キリスト教を教えることに使われるのには不安を感じます。
そのうち、「わが国はキリスト教の国なのだから、税金をキリスト教教育にあてることは公共の福祉に反しない」なんて論理が出てきそうでこわいです。