日本の大学の人材獲得活動 韓国紙の報道から

マイスターです。

留学生30万人計画を掲げる日本。
優秀な留学生の獲得に力を入れるいくつかの大学が、個別に取り組みを行っています。

高校まわりを行ったり、他大学と合同あるいは単独で大学説明会を開催したり。
現地に事務所を設けるなど、海外展開に力を入れる大学もあります。

では、現地のメディアは、そのことをどう取り上げているのでしょうか。

【今日の大学関連ニュース】
■「日本の大学へ向う韓国の学生たち(上)」(朝鮮日報)
■「日本の大学へ向う韓国の学生たち(中)」(朝鮮日報)
■「日本の大学へ向う韓国の学生たち(下)」(朝鮮日報)

韓国・朝鮮日報の報道から。

マイスターは韓国語が読めないので日本語版の記事しか目を通していないのですが、自国の国際競争力を論じる記事や、海外の優れた事例を紹介する記事など、韓国のメディアは、教育に関する国内外の話題をいつも熱心に取り上げていると感じます。
読んでいて参考になるものも多く、朝鮮日報や中央日報がネットで、日本語で読めるというのは良い時代だなといつも思います。

そんな韓国紙がしばしば、自国の教育と比較して取り上げるのが、アメリカと日本。
特に高等教育の話題では、日本の大学の取り組みがよく引き合いに出されてます。
日本のメディアは、「日本に比べ、アメリカでは……」と、欧米、特にアメリカを優れた「先行事例」として紹介することが好きですが、韓国では、日本がそういう位置づけになっているのかもしれません。

3回にわたる上記の特集では、早稲田大学や立命館アジア太平洋大学(APU)といった大学の取り組みと、その背景にある日本の社会状況に対する同紙の分析が紹介されています。

早稲田大は07年、東山高との間で、毎年二人の生徒の推薦枠を付与する協定も締結した。キム教頭は「韓国に事務所すらない早稲田大の職員たちが、日本と韓国を行き来しながら、韓国の優秀な高校生たちを集める様子を見て驚いた」と話している。
「日本の大学へ向う韓国の学生たち(上)」(朝鮮日報)記事より)

「済州外国語高・大静女子高(6日)、釜山外国語高(7日)、浦項製鉄高(8日)、大邱外国語高(14日)、釜山国際外国語高・釜山国際高(15 日)、麗水忠武高(18日)…」。ソウル・江南駅近くのビルにある、立命館アジア太平洋大(APU)のソウル事務所の壁には、全国の高校14校の名前がぎっしりと書かれた「5月の予定表」が掲げられていた。APUソウル事務所のユン・チャンボム部長(40)は、「韓国の優秀な学生たちを獲得するため、全国の高校を回って説明会を開いている。先月は20校を回った。1年間では200校の高校を回っている」と話した。
「日本の大学へ向う韓国の学生たち(中)」(朝鮮日報)記事より)

APUソウル事務所のユン部長は「大学内外から支給される奨学金を目当てに日本の大学へ進学する韓国の学生のうち、65%は奨学金を受け取っている。日本の大学へ進学しようという学生たちのレベルも毎年上場の一途をたどり、出願する学生たちのTOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)の成績は850点に達している」と話す。さらにユン部長は「今年APUを卒業した韓国人学生約100人のうち、大学院に進学した学生(約40人)を除き、残る60人中57人が、パナソニックや富士通などの大企業に就職した」と付け加えた。
「日本の大学へ向う韓国の学生たち(下)」(朝鮮日報)記事より)

このように3回に渡る記事の中では、両大学の関係者が熱心に韓国の高校をまわって、入学説明会を開いたり、生徒の推薦に関する協定を結んだりといった人材獲得活動を展開している様子が取り上げられています。
よければぜひ、リンク元の記事をご覧ください。

こうした取り組みは韓国の大学関係者にとってはある種の脅威だが、参考にすべき部分も多い。
そんなトーンで記事は書かれています。

ソウル大入学管理本部のキム・ギョンボム研究教授(44)は「昨年、早稲田大を訪問したとき、韓国人の学生が500人を超えるという話を聞いて驚いた」と語った。その上でキム教授は「留学生たちが卒業後に韓国へ帰ってくれば、韓国経済の活力の源になり得るだけに、海外の大学への進学について、一方的に“人材の流出だ”と批判することはできない。各国が優秀な人材をより多く獲得しようと競争を繰り広げている今、韓国も海外の優秀な人材を呼び込む取り組みをしていくべきだ」と話している。
「日本の大学へ向う韓国の学生たち(下)」(朝鮮日報)記事より)

ちなみに、日本の大学の取り組みを持ち上げる一方、自国の現状について厳しめに書いているのが、↓こちらの記事。

■「中身のない韓国の『海外人材受け入れ』」(朝鮮日報)

マイスターが思うに、実際には日本の大学にもまだまだ課題はありますし、韓国にも優れた取り組みはあると思うのですが、そういう書き方にならないのは日本の新聞も、韓国の新聞も同じみたいです。

先日も日本では、「新入生の4割が留学生」の聖トマス大学が募集停止に追い込まれた、というニュースがあったばかりなのですが。

ともあれ、海外のメディアによる分析は、日本の私達とは異なる見方を提示してくれるので、私達にとっても非常に参考になるように思います。

例えば、↓こんな記述もありました。

日本政府は2008年、「外国人留学生を30万人誘致する」をいう計画を発表した。現在は11万8000人程度となっている日本国内の外国人留学生を、20年までに30万人まで増やすという計画で、文部科学省、外務省、経済産業省、厚生労働省などが共同で発表した。
出生率が低下し、就学年齢の人口が減少しているため、海外から若いエリートを呼び込み、日本経済の再生に向けた原動力にしていこうというわけだ。計画では▲外国人留学生が日本に入国していなくても、母国で入学手続きを行うことができるよう、出入国制度を見直す▲入国後1年間、留学生たちが住む場所を提供する▲留学生たちが学業を終えた後、日本企業に就職したり、日本で起業できるよう支援していく-といった案が盛り込まれている。
「日本の大学へ向う韓国の学生たち(上)」(朝鮮日報)記事より)

現代経済研究院のイ・ブヨン実体経済室長(40)は「1990年代、“失われた10年”といわれる長期不況とそれに伴う賃上げの凍結で、人材の流出が深刻化した日本が、再起をかけて海外の人材の獲得に乗り出している。理工系離れの深刻化や学齢人口の減少に悩んでいる日本では、数学や物理、化学といった分野で日本よりも学力が高い韓国の人材は魅力的に感じられるようだ」と指摘した。
「日本の大学へ向う韓国の学生たち(中)」(朝鮮日報)記事より)

「留学生30万人計画」は、海外から若いエリートを呼び込み、日本経済の再生に向けた原動力にしていくための計画である。

確かにその通りだと思います。
でも日本のメディアは、あまりこういう書き方をしませんよね。

少子化に困った大学が、学生確保のために海外に目を向けた……のように、あくまでも「留学生30万人計画」は、大学教育の問題として語られています。
日本経済を引っ張るための存在として、海外のエリートを呼び込む、なんていう書き方はまずしません。

おそらく早稲田大学やAPUで学んでいるのは、韓国でもトップクラスの優秀な学生達でしょう。
両大学の関係者は、そういう学生を獲得するために、学校まわりなどの活動をされているのだと思います。今後、日本で学ばれた方の中には、日本の中でリーダーとして活躍される方も出てくるでしょう。

でも日本のマスメディアは、「留学生30万人計画」を、あまりそういう文脈では紹介していません。
(そういう書き方が嫌いなのかな、とか、読者の方があまり良い反応をされないのかな、とか、色々と考えてしまいます)
でも国を挙げて留学生を急激に増やすという計画は、普通に考えても、労働人口の減少に見舞われる日本の経済活動と、絶対につながっているはずなのですよね。

海外の報道から、そんな自明の事実に改めて気づかされたりします。

最後に2本、これも韓国の報道から。

■「高校生100人、日本の理工系大学へ国費留学」(朝鮮日報)

韓国政府は、学費・生活費など全額の支援を受け、日本の理工系大学で学ぶ韓国人高校生を選抜する。教育科学技術部と国立国際教育院は7日、「2009年度韓日共同理工系学部留学生選抜計画」を発表した。選ばれた学生は日本語研修1年間と、日本の国立大学(東京大学・東京工業大学・京都大学など)の理工系学部課程4年間、計5年間の航空機代・学費・生活費など全額が韓日両国政府から支援される。
(略)韓日両国の友好促進と理工系人材養成のため99年から始まった同事業は、この10年間で498人の卒業生を輩出している。LG電子をはじめとする韓国企業各社は、この中から優秀な学生を選抜、修士課程奨学金を支援し、兵役代替専門研究要員として採用する制度を実施している。
(上記記事より)

■「ロシア国立社会大学、韓国語副専攻の履修を義務化」(中央日報)

欧州で最大の規模を持つロシアの国立社会大学が国費奨学生を対象に韓国語履修を義務づけた。大学関係者が7日に明らかにしたところによると、学校運営会は9月にロシア国費奨学生として入学する学生500人に韓国語を副専攻として履修するよう決定した。法学・経済・新聞放送・行政学・教育・情報科学などを第1専攻に選んだ奨学生は韓国語を必須で学び、一定の単位を取らなければ卒業できなくなる。
国立社会大学は姉妹提携している韓国の大学10校と学生交流を推進するため韓国語履修を制度化した。韓国語を履修すれば韓国の提携大学への留学を支援するという構想だ。同大学はまた、韓国語を第2専攻から第1専攻に格上げし、9月からは学年別の募集人数も10人から30人に増やすことにした。1991年に設立された国立社会大学は在籍者10万人に達する欧州最大の大学だ。2000年に韓国語学科が開設された。韓国人教授6人とロシア人教授1人が50人ほどの学生を指導している。
(上記記事より)

最近読んだニュースの中にあったものですが、どちらも日本の私達にとって参考になりそうな、興味深い取り組みだなぁとマイスターは思いました。

このように日本のメディアでは紹介しきれない取り組みを知ることができるのも、海外メディアの良いところでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。