大学でも、「軍事スパイ」防止策?

マイスターです。

物々しい報道を見つけました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「大学でも『軍事スパイ』防止策、留学生審査を厳格化へ」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071225i206.htm
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政府は25日、核兵器などの大量破壊兵器開発に転用できる技術の海外流出を防ぐため、研究機関や大学を対象にした情報管理の指針「安全保障貿易に関する技術管理ガイダンス」をまとめた。

技術の内容に応じた公開基準の設定や留学生受け入れ審査の厳格化などを求めている。関係機関に年明けに通知する。

指針は、経済産業省と文部科学省が策定した。公開基準の設定について、「どんな情報でも自由に公開していいわけではない。基準に安全保障の観点が抜けていないかを確認すべきだ」として、「極秘」「秘」「対外秘」など3〜4分類して公開基準を定めるよう求めている。

また、大量破壊兵器等の開発を行っている「懸念国」としてイラン、イラク、北朝鮮の3か国を例示し、これら懸念国からの留学生受け入れについて「将来、本国に帰国し、軍事関連部門や軍需産業に就職する可能性のある留学生は、受け入れ部署の保有する技術との関係を慎重に検討することが必要」と記している。

(略)このほかの留意点として〈1〉職員には退職までに保管している技術情報すべてを大学等に提出させる〈2〉特許出願、論文発表による情報の公開も注意する〈3〉外国人の施設見学は事前に内容を吟味する――等を挙げている。

(上記記事より)

年明けに、「関係機関」に通知されるとのことですので、まだ詳細な内容は不明です。

しかしなんていうか、考え出すと、きりがないトピックですよね。

安全保障上の機密に相当する研究成果は非常に重要で、慎重に扱わなければならないということは、重々分かります。

ただ、安全保障に関係しそうな技術の線引きが、けっこう難しそうです。

情報通信技術や暗号化技術を始め、深く考え出したらほとんどが該当してしまいそうな学問分野も、少なからずあるような気がします。

(なにしろ、「日本で市販されているゲーム機の演算装置は非常に高性能なので、これがテロ組織などの手に渡ったら問題だ」という脅威論すら、しばしば耳にするくらいですから……)

少しのリスクも残さないという姿勢で考えていくと、「研究している内容のほとんどが公開不可能に」みたいな研究者も出てきちゃうのでは……。

「職員には退職までに保管している技術情報すべてを大学等に提出させる」

というのも、徹底するとなるとなかなか大変そうです。

また、記事では

イラン、イラク、北朝鮮の3か国を例示し、これら懸念国からの留学生受け入れについて「将来、本国に帰国し、軍事関連部門や軍需産業に就職する可能性のある留学生は、受け入れ部署の保有する技術との関係を慎重に検討することが必要」と記している

とありますが、この三か国だけ情報をシャットアウトするというのにも、限界はあるでしょう。

「特許出願、論文発表による情報の公開も注意する」とも書かれています。
確かに、研究プロジェクトから上記国の関係者を外して、かつ論文発表なども行わないようにすれば、情報は限りなくクローズになります。しかしその場合、日本国内の方々含め、この三か国以外の研究者にも、研究成果は伝わりません。

「どう考えても重要」といった、安全保障政策に関わる重要なプロジェクトについては、研究成果をクローズにして、関わったすべての研究者に守秘義務契約のようなものを結んでもらうということもできるでしょう。

でも、情報通信技術のように、「直接、安全保障に直結したプロジェクトというわけではないけれど、広い意味ではそういう分野に使われる可能性もある」なんて場合だと、徹底は難しそうです。
(できることなら、研究成果は広く発表したいでしょうし)

また、逆に

「イラン、イラク、北朝鮮以外からの留学生なら、どんな機密も公開していいのか?」

とか

「機密研究に関わった日本人研究者が、海外に流出するというケースはどう考えるんだろう?」

といった疑問も浮かびます。

そもそも「大量破壊兵器等の開発を行っている懸念国」とありますが、じゃあ既に核兵器を保有している国からの留学生が、高度な先端的技術を持って帰るのはいいのか、なんてことも、考えてみるとなんだか複雑です。

このように、考え出すと、何だかきりがありません。

安全保障上、非常に重要なテーマであって、何らかのガイドラインが必要だということは、マイスターにもわかります。
政策のコストパフォーマンスを度外視してでも、できることをやっておくべきだとも思います。

ただし、こういったガイドラインを実際に運用する場合、クリアしなければならない問題が多そうだなぁということも、容易に想像されます。

「いちおう施策を打ってはいるんですよ」という、省庁の関係者達がメンツを保つためだけにつくったような、穴だらけのザルのようなガイドラインだったら、簡単に作れると思いますが、そうでないものを作ろうとすると大変です。

一体、どういう体制で、どのような対策を実施すればいいんでしょうね。

冒頭の記事を読みつつ、そんなことを思ったマイスターでした。