大学職員.net -Blog/News-の記事で、国民生活金融公庫のアンケート調査結果が紹介されていました。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「家計における教育費負担の実態調査 アンケート結果の概要(PDF)」(国民生活金融公庫総合研究所)
http://www.kokukin.go.jp/pfcj/pdf/kyouikuhi_h17.pdf
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国民生活金融公庫総合研究所の調査結果です。
世帯の年収に対する在学費用の割合は35.0%。
年収が「200万円以上400万円未満」の世帯では、57.3%に達しているとのこと。
年収の半分以上が教育費!
これは、世界的に見て、どうなのでしょうか?
この教育費の捻出のために、教育費以外の支出を削ったり、預貯金や保険などを取り崩したり。
節約している支出としては、「旅行・レジャー費」、「衣類の購入費」、「食費」などが多いそうです。
子供の教育のためを思えば、旅行になんて行ってられるか!ということなのかもしれませんが、これは、なんだか厳しい話です。
現在、教育費用というのは、「絶対にかかってしまうお金」といっていいと思います。
「お金がないという理由で子供を学校に行かせない」という選択肢は、ほとんどの親ならなんとか回避しようとするのではないでしょうか。
で、その教育費が、こんなに高い。これでは、日本人はいつまでたっても欧米人並みのレジャーを謳歌できません。
(※一時期、大学がレジャーランドと揶揄された時期がありましたが、するってえとつまり、
親がレジャーをガマンして捻出したお金で、子供を4年間レジャーに行かせてたってことになるのかいな…?)
教育に関して、誰がどのくらいお金を支払っているか、って大事ですよね。
というわけでこれを含め、今日はお金について考えてみたいと思います。今日の記事は、ここからが本題です。
世界の国々では、教育にかかる費用は、どうなっているんだろう?
という視点で調べたら、興味深い資料を見つけました。
OECDが毎年調査し、発表している「Education at a Glance 2005」です。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「Education at a Glance 2005 図表データ一覧」(OECD)
http://www.oecd.org/document/11/0,2340,en_2825_495609_35321099_1_1_1_1,00.html
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あいにくまだ詳細については、日本語訳の資料が公表されていないので、英文のリンクで失礼します。
(各図表データは、Excel形式で配布されています。ご自身でデータを検証される方は、各自ダウンロードしてください)
今日は、これらの図表データからわかった「お金に関すること」を、いくつかトピックとしてご紹介します。
○日本の教育投資は、GDPに占める割合で見ると、他のOECD諸国に比べて低い水準にある
「Table B2.1a. Expenditure on educational institutions as a percentage of GDP for all levels of education (1990, 1995 and 2002) : From public and private sources, by source of fund and year」
http://www.oecd.org/dataoecd/2/11/35286380.xls
※Excelのシート「Table B2.1a.」です。
上記は、OECD各国の、GDPにおける教育投資の割合を示すデータです。
この資料を見ると、日本の教育投資は、GDPの4.7%。
OECDの平均は6.1%ですから、大幅に下回っています。
教育に出し惜しみする国…なのでしょうかね。
「Table B4.1. Total public expenditure on education (1995, 2002)
Direct public expenditure on educational institutions plus public subsidies to households (which include subsidies for living costs, and other private entities) as a percentage of GDP and as a percentage of total public expenditure, by level of education and year」
http://www.oecd.org/dataoecd/2/9/35286445.xls
※Excelのシート「Table B4.1.」です。
上記は、公的支出における、教育分野の占める割合を示すデータです。
ここでも、日本はぱっとしません。
初等~中等後教育 8.0%(OECD平均 8.9%)
高等教育 1.6%(OECD平均 3.0%)
教育全体 10.6%(OECD平均 12.9%)
特に、高等教育に対する支出の割合の低さが気になりますね。
○高い水準にある教員給与額
「Chart D3.3. Salary per hour of net teaching time, by level of education (2003)
Annual statutory teachers’ salaries after 15 years of experience in public institutions, in equivalent US dollars:converted using PPPs divided by net teaching time in hours per」
http://www.oecd.org/dataoecd/0/59/35287577.xls
※Excelのシート「Chart D3.3.」です。
上記は、「指導時間1時間あたりの教員給与」の国際比較データです。
こちらをご覧ください。
指導時間1時間あたりの教員給与では、日本はルクセンブルグについて非常に高い水準にあります。
アメリカの教員の、2倍くらいですかね。
これは公立機関に勤めていて、15年の経験を持っている教員での比較です。
ちょっと意外な結果ですか?
↓これらの結果、当然のことながら
○教育投資において、スタッフの人件費が占める割合が非常に高い
という状態が発生しています。
「Chart B6.1. Distribution of current expenditure on educational institutions for primary, secondary and post-secondary non-tertiary education (2002)」
http://www.oecd.org/dataoecd/1/30/35286501.xls
※Excelのシート「Chart B6.1.」です。
上記は、教育投資額の使用内訳を比較するデータです。
日本は、9割近くが人件費であり、これは、OECDの平均水準から見て、かなり高いです。
ただ、残念ながらこの数字、初等教育から、高等教育までの合算値であるようです。
元表を見ても、日本のデータは、個別の数字が入っておらず、いまひとつ詳細がわかりません。
「教員と、それ以外の支援職員」という分け方のデータも見たいのですが、残念ながらこの調査ではわからず、です。
さらに様々なデータをご紹介していきます。
「Table D3.2c. Adjustments to base salary for teachers in public institutions made by the local or regional authority (2003)
Types of criteria to adjust base salary awarded to teachers in public institutions where the local or regional authority has the res」
http://www.oecd.org/dataoecd/0/59/35287577.xls
※Excelのシート「Table D3.2c.」です。
上記は、教員の給与の算出に影響を与える諸制度(残業代が出るか、管理手当が出るか等)の有無を比較したデータです。
まず、残業代が出ないというのは、日本だけではないようです。
アメリカやオーストラリア、スイス、イスラエルなどでも、残業代は出さないようです。
「Special tasks (career guidance or counselling)」といって、進路指導などの業務に関する手当ですが、これも、出さない国が結構ありますね。
教員の研修やトレーニングに関するお金の補助については、
補助の制度があるかないかという面だけ見る限り、日本は実は結構、恵まれた水準にあるようです。
アメリカは意外にケチで、ほとんどの研修は、教員が自費で行っているものと思われます。
(他にも、様々な項目があります。興味のある方、ぜひ、自力で見てみてください。)
で、次は気になる労働時間。
○教育にかける時間は標準以下だが、総労働時間はぶっちぎりで長い日本
「Table D4.2. Number of teaching hours per year (1996 and 2003)
Net contact time in hours per year in public institutions by level of education, and index of change from 1996 to 2003
http://www.oecd.org/dataoecd/1/17/35287608.xls
※Excelのシート「Table D4.2.」です。
上記は、各国の教員の、教育時間と、総労働時間をまとめたデータです。
「校務に時間を費やさざるを得ない」という、教員の皆様の主張を裏付けるデータになっています。
例えば、初等教育を見てみましょう。
日本では、教員が教育に費やす時間は、年間に648時間。
OECDでこれを下回るのは、ポーランドとトルコだけですから、かなり少ない水準です。
ところが「総労働時間」となると、日本は年間、1960時間で、ダントツのトップ。
これだけ、授業以外に教員が時間をとられている国は、他にありません。
しかもこの1960というのは、「法定の」総労働時間です。
サービス残業状態で働いている分は、どうやら含まれていません。
どうやら残業代が出ないことをさっ引いたとしても、
日本は授業以外に割り当てられている労働が、もともと長く設定されているようですね。
はなっから、「教育以外のこともやる労働者」という位置づけで制度設計されているのがわかります。
そりゃあ他の国の教員もちょっとは雑用や校務をするでしょうが、国際的に見て、日本はその割合が極端だということです。
その結果、教育にかける時間がかなり少ない水準に追いやられているということですから、子供達が心配です。
教員のモチベーションも、心配です。
そのくせ、初等中等教育のレベルでは、日本はトップクラスの成績を誇っているわけですよね。
あらためて、なんだか、どこか不健全でアンバランスだと思います。
結局、OECD各国の分析からわかることは、
○日本が教育に対して公的に支出する投資額は、GDPに対する率でみるとかなり低い水準にある
○日本の教員が教育にかける時間はOECD各国の最低水準であるが、それ以外に働いている時間をあわせるとぶっちぎりの1位である
○日本の教員の給与水準は高いが、そのほとんどは、教育以外の校務に対して支払われている
ですね。
おかげでかなり整理できましたが…なんだかなぁ、っていう結果になりましたねー。
学力の上で成果を出していると言いますが、お金のことを考えてみるに、
日本の教育は、非常にきわどいバランスの上に成り立っていて、
いつ崩壊するかわからないような状態なのではないでしょうか。
国はこうした事態を是正してくれるのでしょうか。
いや、そもそも、問題だと考えていないのでしょうか。
おそらく複雑でやっかいな諸々の制度関係がすっかり定着してしまい、「手を打てない」状態なんじゃないかと思いますが、
もし国が何も手を打たないのなら、これはなおさら、国に期待しないでなんとかする方法を一刻も早く考えないといけませんね。
そうでもしないと、子供と教員が倒れてしまいます。
学校内だけでなく、市民全員で考えるべき問題だと思います。
今回ご紹介した資料「Education at a Glance 2005」は、そのうち日本語訳が出版されるそうですので、
興味のある方はぜひ、ご自身で読んで、世界の中の日本の状態をイメージしてみてください。
他の様々な国の学校を訪れて、自分の目で見てみたいと思ったマイスターでした。
よくぞここまでという感じで読みました。
個人的に情報リソースとしてブックマークをしました。
私自身ももう少し情報収集に時間をかける必要を感じました。
>○日本の教員の給与水準は高いが、そのほとんどは、教育以外の校務に対して支払われている
この点が気にかかります。
個人的には、給与を下げてでも、この点はなんとかならないのかなと思います。
私は、講師の経験ですが、私立学校に所属していたことがあり、その時の感覚と公立の感覚が大きくことなるのが、ここいら辺にあると思っています。
マイスターです。
コメントありがとうございます。お返事が遅くなってすみません。
国際比較のデータからは今まで知らなかった事実を教えてもらえることも多く、私も大変勉強になっています。
やはり皆様のご指摘の通り、校務が多い実態が浮かび上がってきました。
yoさんは、私立学校の経験がおありということで、大変貴重なご体験をお持ちだと思います。
ぜひ今度、そのあたりの違いについて、詳しく教えていただければと思います。