21世紀COE「目的達成困難」が4件…補助金削減の方針

かつて在籍していた大学院の専攻が、21世紀COEに採択されているマイスターです。

もっとも、自分が在籍しているときはそんな制度はなかったので、直接の関わりはまったくありません。
研究内容的にも、COEに採択されたプログラムは、マイスターの専門分野とはあまり関係ありません。

それでも、母校が選ばれたとなると、やはりプロジェクトの進展が気になってしまうものですね。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「21世紀COEプログラム:「目的達成困難」が4件--03年度分・中間評価」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/archive/news/2005/10/12/20051012ddm003040010000c.html
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21世紀COEプログラムは、一種の競争的資金です。

“Center of Excellence” の名にふさわしい世界的な研究教育拠点を形成するために、優れたプロジェクトに対して重点的に資金支援を行うという、文部科学省の取り組みです。
審査などは、日本学術振興会を中心とした「21世紀COEプログラム委員会」が行うことになっています。

■日本学術振興会
http://www.jsps.go.jp/j-21coe/

-第三者評価に基づく競争原理により、世界的な研究教育拠点の形成を重点的に支援し、国際競争力のある世界最高水準の大学づくりを推進するために、「世界的研究教育拠点の形成のための重点的支援-21世紀COEプログラム-」を実施いたします。-文科省「『21世紀COEプログラム』の公募について」より)

研究や教育の内容を専門家が審査し、
採択された後も、ちゃんとプロジェクトが予定通り進んでいるか、
チェックすることになっています。

この、「チェック」が非常に大事なわけですね。
公的資金を重点的に配分するわけですから、結果を出すかどうか、きちんと監視するわけです。

で、

冒頭の報道は、このチェック(=中間審査)で、

「このままだと、当初の予定通りの結果が出そうにありませんよ」

と言われてしまった大学が4校あったという記事なのです。

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■千葉大学「日本文化型看護学の創出」
http://www.n.chiba-u.ac.jp/21coeplogram/21COEPlogram/index.html

○拠点形成の概要
-本学が中心となって切り開いてきた日本の看護学の歩みを踏まえ、大学院の教育研究を充実させて、実証的な看護方法論の開発や看護実践の質向上につなげる好機ととらえ、本拠点を形成する。
他の専門分野や千葉県下の保健医療福祉機関、海外協定校との協働により、分析視点の広がりや深まり、実践の評価の質・精度の向上、看護教育の質向上などを追求する。また、日本文化と異文化との対比のもとに日本独自の看護実践方法を研究開発し、文化に根ざした看護実践方法開発に役立つ情報を世界に向けて発信する。1) 既存の研究を幅広く収集・整理・分析し、統合する。2) 看護実践評価に有効な測定用具を開発し、1)の結果の臨床的検証により看護学の知識体系の実証性を高め、更なる発展につなげる。3) 国際的な学術交流を通じて日本文化型の看護実践を究明し、体系化する。4) 日本文化に根ざした看護学に精通し、異文化看護の実践に貢献できる人材を育成する。-

○採択理由
-看護学は人間の健康問題を対象とした学問であるが、欧米諸国の知見を範として発展してきた経緯がある。日本文化や生活習慣を基軸にしたわが国独自の看護学を体系化することは、時代の要請に沿った計画と評価できる。看護実践から得た知見を広く収集し、多角的な分析を通して新たな看護学の創出が期待される-

■関西医科大学「難病の革新的治療法の開発研究」
http://www2.kmu.ac.jp/coe/index2.html

○拠点形成の概要
-本学がこれまでプロジェクト研究として推進してきた「移植センター」および「再生医学難病治療センター」における画期的な研究成果である新しい骨髄移植の技術、“骨髄内骨髄移植法”と“灌流法”は、移植片対宿主病や生着不全等、ヒト同種骨髄移植の主要問題を解決する革新的技術であり、造血幹細胞の異常に基づく白血病や自己免疫疾患のみならず、間葉系幹細胞の加齢に伴って発症する多様な疾患(血管障害、アルツハイマー病、糖尿病等)の根治療法の開発に直結する。同技術をコアとすることにより、幅広い研究分野における基礎研究からヒトへの臨床応用に連続して展開する研究拠点を形成することが可能であり、医学分野でのトランスレーショナル・リサーチのひとつのモデルとなり得る。そのため、トランスレーショナル・リサーチ志向型専攻系の創設を含めた大学院の改組と、若手研究者支援体制を拡充することで、移植・再生医療を軸とした国際的研究に中心的な役割を担う研究者の育成を図る。-

○採択理由
-実験病理学の課題等に基づいて、独創的な骨髄移植方法を開発して難病における治療の領域を生み出そうというユニークな構想であり、高く評価したい。難治自己免疫疾患の治療、移植治療などに寄与することが期待できる。-

■慶應義塾大学「知能化から生命化へのシステムデザイン」
http://www.coesys.keio.ac.jp/

○拠点形成の概要
-本拠点は、慶應義塾大学が提唱したシステムデザイン工学という新たな工学分野の実績の上に、20世紀の高性能化から知能化への工学の歴史的なパラダイムシフトをさらに展開させ、21世紀において生命化へのシステムデザインを探求し、機械・建築分野における先導的な役割を果たすべく、世界的な研究教育拠点を目指すものである。外部との相互作用のルールも含んだ設計情報そのものをシステムに埋め込み、ミクロレベルからマクロレベルまでのシステム内部間のインタラクション、そして周りの環境とのインタラクションが可能な機械・建物の設計を行うシステムの「生命化」のための工学の創造を目指す。システムデザインによるプロダクトイノベーションを図りつつ、バックボーンとしての広範なシステムデザイン工学分野の新展開を図ると同時に、Research Assistant(RA)と若手研究員の雇用プログラム、国際インターンシッププログラム、先端デザインスクールプログラムなどを通して人材育成を行う。-

○採択理由
-知能化から生命化という新コンセプトを提唱し、従来技術を新視点のもとに統合するとともに、新たなシステムデザイン学を確立するという構想は評価できる。人工物の科学技術を追及する世界的にもユニークなCOEとして組織が発展することを期待している。-

■北陸先端科学技術大学院大大学「知識科学に基づく科学技術の創造と実践」
http://www.jaist.ac.jp/coe/indexJ2.htm

○拠点形成の概要
-資源に乏しく科学技術創造立国を目指す日本にとって、科学技術を生み出す「知」こそが価値のある限りない資源であり、「知」を持続的かつ組織的に創造する方法の理論化と実践が必要である。
本プログラムでは、科学技術研究の戦略企画立案に関わる「知識創造理論研究」と、その理論を先端科学技術研究の現場で実践し理論研究にフィードバックする「知識創造実践研究」を各研究科から選抜された教官によって組織される研究科横断型新専攻「科学知識創造学専攻」において実施する。教育面では、幅広い見識を持ち創造研究活動を支援できる人材である「知のコーディネーター」と知識創造理論を理解した将来を見通せる先端科学技術研究者である「知のクリエーター」を学内の優秀な院生、企業等経験者から選抜した上で育成する。このシステムにより科学知識が持続的に創造されれば、重点研究領域の設定や推進方法についての先進的モデルを提供できると考えている。-

○採択理由
-これまで経営学系分野などにおいて実践によって成果を挙げてきた知識科学の知見を材料科学分野をはじめ多くの先端科学技術研究の場に適用し、「知」を組織的に創造する方法論へと発展させて、理論化に役立てるという研究はユニークであり、これからの人材育成の点で期待できる拠点計画である-

(以上、拠点形成の概要および採択理由は、日本学術振興会21世紀COEサイトより)
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上記の4プロジェクトが、それです。

普段、研究者以外はこうしたCOEの拠点の説明なんてあまり読む機会がないと思いますので、採択理由などもご紹介してみました。

上記は、いずれも非常に魅力的なプロジェクトであるように思いますが、進行度合いが予定より遅れてしまっているのだとか。

毎日新聞の記事には「06年度以降の補助金を削減する方針」とありますので、
COEのチェックシステムは、かなりしっかりと機能しているのだなと思います。

こうした対応がちゃんとされていると、現在採択されている他のプロジェクトにとっても、いい刺激になることでしょう。

ちょっと話はそれますが、

ベンチャー企業に投資をする機関を「ベンチャーキャピタル」なんて呼びます。
アメリカには様々なベンチャーキャピタルがあり、ベンチャー起業家の将来を専門家の目で判断しながら、これは!と思う企業に投資を行っています。

こうしたベンチャーキャピタルは、お金を出しますが、口も出します
投資前の審査はもちろんのこと、
投資してからも、企業がちゃんと予定通り経営されているかどうか、成長できているかどうか、
あれこれと、細かいところまでつっこみを入れるわけです。
その企業を成長させるために、コンサルティングをしているわけですね。

結果的に投資した企業が成功すれば、お金を出したキャピタルも投資金額以上の利益を上げられるというわけです。

期待される成果が「利益」ではなく「学術上の成果」であるという点を除けば、
この21世紀COEも、こうした「モノ言う投資機関」と在り方は似ているように思います。

国民の税金を投資するベンチャーキャピタルが、文科省や日本学術会議であり、
投資に見合った成果をきちんと出すか、途中途中でチェックするということですね。

当然、今回警告を受けた4プロジェクトについては、具体的にどこが進んでいないのか、その理由も審査チームから指摘されていると思います。
研究の進行具合について、途中で第三者からあれこれ口を出されるというのは、いい機会だと思います。

(研究成果の具体的な内容については、学会などで意見をやりとりすることもあるでしょうが、「進行が遅いぞ!」とか、「研究の能率が悪い!」とか言われるのは、あまり研究者のみなさまも慣れていないのでは?)

COEに関しては、ぜひ、コストに見合った成果を上げられるよう、努力して欲しいと思います。

なお、今回はありませんでしたが、ひどい場合には計画を中止させたり、大幅に規模を縮小させたり、ということもあるとのこと。

研究を進める側のプレッシャーも相当だと思います。

大変だと思いますが、COEは社会から期待される拠点。
審査される方も、する方も、ここはひとつ「成果主義」でがんばってください。

採択されたCOE拠点はいずれも等しく応援したいマイスターでした。

2 件のコメント

  • 上記の制度、とても社会主義的な制度であるように思われますが、如何でしょうか?市場原理が働くためにには事業の未来収益を予測する多数の投資家が存在しなくてはなりません。そこで織り込まれてできる配分が最適配分です。そこではいろいろな予想が織り込まれることでリスクが分散されています。ところが上の記述された現在の制度では、一部の審査員のもとで投資判断が一元的に決められてしまいます。これではリスクを最大化しているように思われるのですが。このままで選挙で大勝した小泉内閣の改革とは正に正反対の方向のものですので、自民党はできるだけ早くこのような制度を市場原理に任せるような制度に改めるべきだと思います。

  • マイスターです。
    コメント、ありがとうございます。
    確かに、ごくごく一部の審査員の見解(それも、評価は密室で下される)だけで採択の可否が行われることには、リスクもあると思います。
    アカデミックの世界では、競争的資金という言葉に対して、「産学連携しやすい研究だけが選ばれるようになる」「基礎研究が軽視される」という批判を寄せる方が多いようで、そうした声を避けるために、完全な市場原理ではなく、学者が審査をするような仕組みにしているのではないかと思われます。
    私自身としては、研究者による審査については、より審査途中の議論をオープンにするような仕組みが必要ではないかと思います。もしくは、もっと審査結果の内訳、詳細を社会に開示するべきです。
    なお、産業界の声をどこまで反映させるかについては議論の余地があると思いますが、「研究の内容」は研究者が中心となって審査し、「研究の進行度」などについては民間の厳しい意見を入れる、といったあり方も考えられるのではないかと考えます。
    いずれにしてもまだCOEは、大学も国も、試行錯誤の段階のようですね。