ニュースクリップ[-6/25] 「『信じられない』大学関係者に衝撃 集団暴行学生不明」ほか

マイスターです。

日曜日恒例、ニュースクリップをお届けします。
本日最初にご紹介したいのは……この事件です。

人命のかかった緊急事態が発生。そのとき大学は……
■「『信じられない』大学関係者に衝撃 集団暴行学生不明」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200606240085.html

「まだ、見つからないんですか」。行方の分からない大学生(21)の友人ら4人は、重苦しい表情で記者に尋ねた。
大学側に安否を聞きたくても職員は出勤していなかった。「なんでやねん」。友人の一人は、指名手配された主犯格の男が「2人を殺した」と話したと報じる夕刊を手にしゃがみ込んだ。
(略)
「詳しい情報が分からないので週明けにも対応を考えたい」。東大阪大学の小川清彦学長はショックを隠しきれない様子で語った。
(上記記事より)

学生の大学名がはっきり報道された凶悪事件です。

■東大阪大学 webサイト
http://www.higashiosaka.ac.jp/

この事件、暴行現場から逃亡できた男性が「もしかしたら仲間が殺されたかも知れない」と警察に連絡したタイミングで、各メディアが報道を流していました。それは言うまでもなく、「何か情報を持っている人は、すぐに連絡して欲しい」という意味です。

にもかかわらず、大学の職員が出勤していないというのは驚きです。
警察が緊急捜査のために、大学の持つ学生情報を必要とする場面もあると思います。また、何らかの情報を知っている関係者(特に在学生)が、報道を見て、警察ではなく大学に連絡をする可能性だって十分にあるでしょう。

そもそも、事件報道で大学名が報じられれば、メディアの報道陣は大学キャンパスにまず向かうはずです。そのとき、誰もそれに対応する人間がいなかったのでしょうか。
いくつかのニュースを見る限り、明らかに各メディアの報道陣は、大学のキャンパス内もしくはその付近で、在学生に対して独自にインタビュー活動を行っているではありませんか。これに対し、何らかの対応をしなくていいのですか。いや、それ以上になぜ、キャンパスの事務室前で友人の安否を祈る学生達に、何一つ情報がもたらされないのですか。なぜ、彼らが無人の事務室の前で、放置されているのですか。

学生が事件を起こしたこと自体については、大学は予測もできないし、責任も取れません。また、大学生が起こしたすべての事件に対して、大学当局が説明責任を追っているとは言えません。しかし今回は、報道後も緊急捜査が進行しているケースでした。大学としても警察やメディア、そして心配する大学の関係者達への対応は、とても重要だったはずです。なのに大学の管理スタッフ達がキャンパスに駆けつけなかったのは、マイスターには信じられません。特に広報スタッフ達は、一体何をしているのでしょう。

「広報」=「決められたスケジュール通りに、つつがなく学内の媒体手配をすること」
だと思っているスタッフは、事件が起きても大学に向かわないでしょうし、上から招集がかからない限り、自分からは何も行動を起こさないでしょう。自分の仕事ではないのだから、いつも通り週明けに出勤するだけです。
しかし、「広報」=「組織が社会に対してコミュニケートするための窓」だと考え、自分はそのためのプロだと普段から思っている人は、こんな事態を放っておかないはずです。上から指示が無くてもキャンパスに向かいますし、必要に応じて適切なメディア対応をしようとするでしょう。それが、プロフェッショナルの姿だとマイスターは思います。

それができないから、日本の大学職員はいつまで経っても、プロフェッショナルじゃないと言われてしまうのではないですか。
これじゃ、本当にただの「ジム」です。

今現在、既にこの事件に関して多くの報道がなされていますが、その中に、大学が公式に出した声明は一つもありません。週明けから少しずつ大学の見解が発表されていくでしょうが、今回は、それでは遅かったのです。

「何か情報を持っている学生は、ただちに警察の○○課に連絡をして欲しい。連絡先は以下の通りである……」
といった告知を、キャンパス内およびwebサイト上に掲載するだけでも、全く違っていたと思います(この記事を書いている25日現在、大学のwebサイトにはプレスリリース等も一切出ていません)。

学長さんが、(どこで報道陣のインタビューに応じたかはわかりませんが)「週明けに対応を」と言っているのは、つまりこの事件は、大学にとっては他人事なんだということを意味していると思います。「こども学部こども学科」だけの単科大学で、「自他敬愛」を学園訓に掲げているとのことですが、今回の事件対応の仕方は、そんな学園のコンセプトを傷つけてしまったと思います。

そして、合議制で物事を決める大学のガバナンスが、緊急時の広報にとても弱いということを示す事例が、残念ながらまたひとつ増えてしまいました。

(事件の報道は、今現在、残念ながら最悪の展開に向かいつつあります。しかしマイスター個人の心情としては、最後まで、二人がどうか無事でいることを祈りたいと思います)

個人の寄付を元に、特定のミッションを持った研究科を設立。
■「医療過誤に強い法律家育成 南山大、両親からの寄付で」(山陽新聞)
http://www.sanyo.oni.co.jp/newspack/20060622/20060622010027751.html

医療過誤で22年余り療養生活を送り、43歳で死亡した愛知県春日井市の稲垣克彦さんの両親が、克彦さんの母校南山大(名古屋市)に1000万円を寄付。大学側は22日、両親に感謝状を贈り、医療過誤に詳しい法律家を育てる研究所を来春、法科大学院に設置すると発表した。
(略)
大学側は寄付で「稲垣克彦基金」を創設。法曹実務教育研究センター(仮称)では、弁護士に必要な面接や交渉の技術など実践的な教育や研究を行う。弁護士会と連携し、医療事故などの法律相談にも応じる。
(上記記事より)

個人の寄付を受けて、その人の遺志を受け継ぐ教育・研究機関が設立されたという事例です。

質の高い教育・研究を行いたいけれど資金がない大学側と、
自分の代わりに新しい世代の教育を担ってくれることを大学に期待する人々。

今後は日本の大学でもこういった関係がもっと形になっていいのではないかと、マイスターは思います。「稲垣克彦基金」も創設されるそうで、すばらしい。

※個人的には「ケネディ・ガバメント・スクール」などのように、「稲垣法科大学院(稲垣・ロー・スクール)」等のような、個人名を冠した研究科になったら、なお故人の遺志が後世に引き継がれると思うのですが、なかなかそこまでは難しいでしょうか。先例も聞きませんし……文科省が許してくれないかな? それが許されたなら、もっと日本でも、大学に寄付する人が増えると思うのですけれど。

宇宙を教育に活用。
■「『宇宙を教育に利用するためのワークショップ』参加者及び発表者募集のお知らせ」(JAXA)
http://www.jaxa.jp/press/2006/06/20060620_seec_j.html

本ワークショップは、教育関係者を対象とし、宇宙開発を題材とした指導方法・事例について研修、意見交換及び情報提供等を行うものです。また、宇宙開発の教育利用が活発な米国の教育者と交流することによって、新たな視点の発見や参加者間のネットワークの拡大も図ることができます。
なお、本ワークショップのプログラムにはNASAの施設見学も含まれています。
(上記リンクより)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)のワークショップです。詳細は上記リンクをご覧ください。応募条件の内、「英語でコミュニケーションができる方」というのが、ちょっと参加のハードルを高くしていますが、米国の教育者とこの分野の取り組みについて意見交換できるというのは魅力だと思います。
ご興味のある方は、ぜひ。

悪印象の名前を捨てる、浅井学園大学。
■「イメチェン図る浅井学園大、新校名「北翔大」に絞る(北海道)」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news2/20060619wm03.htm

前理事長らによる乱脈経営事件を受け、校名変更を検討していた北海道江別市の浅井学園大・短大の新名称が、「北翔(ほくしょう)大学」となる見通しとなった。大学・短大の大学名称変更委員会が、15日までに新名称候補を一本化した。文部科学省の了解や理事会の了承を経て、正式決定する。
学園の名称変更には、事件で傷ついた大学・短大のイメージ一新を図るため、浅井幹夫前理事長(57)の名前を冠した校名と決別し、学園再生の象徴とする狙いがある。
(上記記事より)

浅井学園事件の内容に関しては、以下の「大学職員.net -Blog/News-」さんの記事が充実していますので、そちらをご覧ください。

「浅井学園 2005年からの一連の報道」(大学職員.net -Blog/News-)
http://blog.university-staff.net/archives/2006/0331/0803post_16.html
「浅井学園 2005年からの一連の報道(2)」(大学職員.net -Blog/News-)
http://blog.university-staff.net/archives/2006/0331/0903post_117.html

広報的見地で申し上げますと、不祥事や事故が起きた時、組織名や商品名、パッケージデザインなどを変えるというのは、企業もよく採る手段です。事件後、頃合いを見て、謝罪広告で新しい名称を告知するのですね。
この謝罪広告で、組織が生まれ変わったことを印象づけられるかどうかが、担当者にとっては勝負の分かれ目なのです。(謝罪を宣伝に使うとは不謹慎な、と思われる方もおられるでしょうが、これも広報の仕事です)

浅井学園はイメチェンのために名前を変えるとのこと。
これがうまく行くかどうかは、名称変更をどのように社会に伝えるか、にかかっています。

ただし当然のことながら、問われているのは名称それ自体ではなく、組織がちゃんと健全になったかという点ですので、そこは勘違いされないようにしてください。
「こんなに真摯に取り組んで、学園は生まれ変わりました」ということを伝えるのが目的なのであって、名称はそれを伝えるためのキッカケに過ぎないのですから。

あのワタミが、専門大学院を設立するかも知れません。
■「居酒屋のワタミ、介護の専門大学院を設立へ」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0624/005.html

居酒屋大手のワタミは24日の株主総会で、自社展開の有料老人ホーム向けも含めた介護スタッフ養成のために、2011年にも介護や医療の専門大学院を設立する、と発表した。実務経験者を対象にしたケアマネジャー養成講座は今年8月に開始し、通信教育や資格テキストの販売も手がける。
(略)
09年3月期に介護・医療教育で売上高3億~5億円を達成し、大学院設立につなげる考えだ。(上記記事より)

この報道を読んだ方は、「あぁ、また民間企業の大学院か」と思う方と、「おぉ、あのワタミがついに!」と思う方とに分かれるのではないでしょうか。

このブログを書き始めた頃、ワタミ社長、渡邉美樹氏の本をご紹介したことがありました。詳細は、↓こちらをご覧ください。

・『さあ、学校をはじめよう―子どもを幸福にする青年社長の教育改革600日』
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/25081586.html

教育に携わっている方の間で、渡邉氏のお名前はよく聞きます。マイスターも、上記で紹介している本を読んで、強く共感しました。
「民間企業の社長が学校理事長になる」ということを聞いて、「利益第一の経営をするんじゃないか」とすぐ想像してしまう方には、『さあ、学校をはじめよう―子どもを幸福にする青年社長の教育改革600日』をオススメします。

そんなワタミが、大学院設立を目指して動いているとのことです。どのような教育を、どのような方々に、どのように提供していくのか、個人的にはとても気になります。

博士号の取得期間いろいろ。
■「79歳で博士号:草木に魅せられ分類研究…大川ち津るさん」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/news/20060613k0000e040075000c.html
■「最短1年間で博士号を取得 筑波大に社会人向け課程」(中日新聞)
http://www.chunichi.co.jp/00/ibg/20060623/lcl_____ibg_____000.shtml

草木を愛し、79歳で博士号を取得したひとがいる。東京都文京区の元生物教師、大川ち津るさん(80)。初心者でも植物の名前を簡単に調べられる教材を開発し、学位(教育学博士)を受けた。今も教壇に立ち、若い人々に自然の奥深さを伝えている。
大川さんは1947年、東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大)を卒業して都立高校の教師になった。教職の傍ら、国立科学博物館が主催する観察会に参加し、植物の世界に魅せられた。54歳の時、東京都教員研究生として1年間、同博物館に「内地留学」したことが転機となり、植物分類の研究に没頭した。
テーマは「種子植物の検索(名前調べ)教材の開発」。大川さんは25年間かけて、2172種類の草木から166の特徴を選び出し、検索用のデータベースを手作りし、これをもとに野外用の教材を開発した。
毎日新聞記事より)

足かけ25年。79歳で博士号を取得した方を紹介する記事です。
研究を始めたのは54歳だそうですから、団塊の世代の皆様にとっても、まだ博士号は可能性のあるチャレンジだと言えましょう。学び続けようという方々にとっては、勇気づけられるニュースですね。

一方、筑波大学は、能力があれば最短一年間で博士号をとれる制度を創設。

博士号取得には通常、三年間かかるが、仕事との両立が必要な社会人にとっては時間的、経済的に負担が大きい。研究業績や能力があるにもかかわらず、取得に踏み切れない人のためにプログラムをつくった。
中日新聞記事より)

おそらく、最もこの制度の恩恵を受けるのは、筑波研究学園都市に勤務する研究者の皆様でしょう。筑波大学の講師や助教授の皆様も、含まれているんじゃないかと思います。
ちゃんと客観的な審査を行う仕組みもあるようですから、相応の能力がある方に学位取得の機会を与えるのは、良いことだと個人的には思うのですが、いかがでしょうか。

報われるエンジニア。
■「UC-Santa Barbara Professor Wins $1.3-Million Prize in Technology」(The Chronicle of Higher Education)
http://chronicle.com/daily/2006/06/2006061906n.htm
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おなじみ「The Chronicle of Higher Education」の記事。有料記事ゆえ、記事内容はご紹介できませんが、内容は記事タイトルの通り。青色発光ダイオードの発明、およびその特許裁判で知られる、中村修二サンタバーバラ大学教授の快挙です。しっかし、この賞金額もまたスゴイです。
青色発光ダイオードに至るまでの研究成果については「彼一人の成果と言えるのか」など、異論も色々あるようですが、中村氏が突出した才能を持っているのは確かなのでしょう。それをこういう形で褒賞するという文化は、われわれも見習っていいのではないかな、と思います。

以上、今週のニュースクリップでした。

最近、気が重くなるような事件が続きます。学校が絡むものも、残念ながらとても多いです。
何か起きてしまった時の緊急対応体制を、改めて見直してみたいところです。

今週も一週間、本ブログをご覧いただき、ありがとうございました。
来週も、どうぞよろしくお願い致します。
マイスターでした。