履歴書やアンケートで「趣味:演劇鑑賞」と書くけど、実際にはあまり演劇を観にいけていないマイスターです。
「趣味:読書」と書いておいて、実際には活字の本を半年に一回しか読まない人に似ているかも。
たまには観に行きたいなぁ。
先日書いた、
・芸術教育の死角: 演劇を、国立大では学べないワケ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50042003.html
という記事で、日本にも国立の演劇学校が必要だ!と述べました。
その理由は、大きく分けて、以下の2点でした。
・初等、中等教育の場に、演技や身体表現を教えられる人材を供給するため
・演技の基盤となる基礎技術を構築するため
→プロ俳優達がそうした共通の技術を身につけられるようにするため
このうち、後者については、一歩前進です。
なんと、2005年4月から、
国立の演劇学校が開校していました。
初台にある、新国立劇場の組織のようです。
記事を書いた後で、知人に教えてもらいました。
(こないだ、新国立劇場のことをちらっと書いたばっかりですが、知りませんでした。
たいへん失礼いたしました!)
■「新国立劇場 演劇研修所 NNTドラマ・スタジオ」
http://www.nntt.jac.go.jp/training/drama/index.html
大学ではありませんが、国立の演技スクールには間違いありません。
もちろん、初めての試みです。
■目的:明晰な日本語を使いこなし、柔軟で強度のある身体をそなえた次代の演劇を担う舞台俳優の育成
■研修期間 :3年間
■授業料(予定 ) :年額18万9千円(消費税込み)
■奨学金 :月額6万円支給(ただし、3年次は奨学金の支給はありません。)
実技が非常に多いのですが、学費は安いです。
さすが国立!
奨学金制度もちゃんと用意されています。
カリキュラムが公開されていますが、非常にバランスのとれた内容だと思います。
・カリキュラム
http://www.nntt.jac.go.jp/training/drama/curriculum/index.html
-国内外を問わず現役で活躍している演出人や俳優教育の専門家による講師陣の指導によって行われ、3年制、週5日の全日制フルタイム(午前10時から午後6時)を基本とします。
1年次は、「声と演技」、「身体と演技」、「歌唱と演技」、「即興」など、身体と言語をつなぐ基礎的な俳優訓練に力点をおきます。
2年次には、それに加え、緻密なテキスト分析・解釈を前提とした第一線の演出家や、俳優指導の専門家を軸とすつ講師陣の指導による「シーンスタディ」を中心的な課題とし、日本の伝統芸能を含むさまざまな演劇メソッドに触れる機会を設けます。
さらに3年次は、実習の公演を通じて、俳優としてスタートを切るための舞台経験を積んでいきます。また修了後の進路をサポートするための特別講義を用意します。
1年次、2年次に共通して、演劇史や理論の学習を行い、劇作家、批評家、舞台技術者によるレクチャーによって、演劇の本質についての思考能力を鍛えます。芸術表現としての演劇を、主体的に実践し、組織していく俳優を育てることを中心としたカリキュラム編成です。-(新国立劇場演劇研修所webサイトより)
非常にすばらしいと思います。
基本的な身体表現技術から、各種メソッド、シーンスタディ、実際の公演まで、実技がバランスよく学べることもさることながら、
演劇史や理論などの座学も充実しているところです。
考えてみれば、音楽でも美術でも、プロになるにはかならず「理論に裏打ちされた実技」を学ぶようになっています。
(のだめカンタービレを読んだだけなんですが、音楽の理論って難解なんですね)
本当の芸術家は、技術だけでなく、知識も吸い込もうとするものなんですよね、たぶん。
演技に関しては、日本ではそれが軽視されていたと思いますので、この研修所の存在が業界に一石を投じることになるといいな、と思います。
日本で「役者」を名乗る人間のほとんどは、
このような体系だったカリキュラムで演技を学んだことがありません。
あの13歳のハローワークにも、「俳優になりたい人は、演技学校へ行こう」なんて書いてありませんし。
ちなみにこの13歳のハローワークでは、
「舞台俳優」
と、
「劇団員」
が、明確に区別されています。違う職業の扱いになってます。
「劇団員」の記述は、こんな感じ。
「一つの公演をやり遂げれば、とりあえずの充実感があるだろう。だが、ほとんどの場合外部からの批判がなく金銭が絡む興行的なリスクも無いため、文化祭や学園祭やお祭りなどをやり終えたときの充実感として大して変わりが無い」
「劇団員のリスクは報酬がもらえないことではない。アルバイトをしながら、劇団員を続けるリスクとは、現実の社会で生きていくための、
知識やスキルや人的ネットワークを得ることが非常に難しいということだ。閉鎖的な集団における自己満足には、警戒が必要である。」(以上、『13歳のハローワーク』より)
業界に詳しい方が書いているんだな、という感じですが…
う、うーむ…。
そこまで言うか。
さて、はたしてこの記述から、「劇団員は演技のプロ」という印象を受ける方がいるでしょうか?
胸を張って「職業は舞台俳優です」と言える方は、自信を裏打ちする技術がある方だと思います。
そういう方は、常日頃から様々な演技理論を学び、知識でも技術でもたゆまぬ研鑽を積まれていると思います。すばらしい。
でも実際には、特定の劇団で仕込まれた限定的な演技力しか持っていない「劇団員」みたいな方が多いみたいです。
新国立劇場演劇研修所のカリキュラムは、
そんな状態になる危険を回避するための方法として、
バランスよく考えられているなぁ、と思ったのです。

この鴻上尚史氏の『ロンドン・デイズ』は、プロの演出家・劇作家である鴻上氏が、俳優指導の技術を学ぶためにロンドンの市立演劇学校(ギルドホール)に通ったときの経験をまとめたものです。
マイスターもこれを読んだのですが、国立演劇研修所のカリキュラム構成は、この本に出てくるギルドホールのカリキュラムに、非常によく似ている!
授業の組み方や、その内容まで、そっくりです。
webサイトに、調査のため旧東独にある州立の高等演劇学校や、ベルリンのスタジオを見学した、とありましたので、ドイツのモデルが参考になっているのかも知れません。
イギリスもドイツも、もしかすると他の国も、演技教育のベースは共有しているのかもしれません。
だから、他の国のステージに立てるのかな。
かつて明治時代の日本は、ヨーロッパの技術を、その教授法ごと移植しました。
「お雇い外国人」という言葉がありますね。
演劇でも、先進国のカリキュラム構成をから学んだのかも知れません。
違うのは、講師が「お雇い外国人」ではないというところです。
世界的に活躍している演劇人はいるわけですから、
これをベースに改良を重ね、日本版・国立演技教育のシステムを構築していって欲しいですね。
というわけで、国立の演技スクール、できました。
もちろん、これはまだ、はじめの一歩です。
それに、
「初等、中等教育の場に、演技や身体表現を教えられる人材を供給する」
という目標の方を達成するためには、
国立の大学で舞台芸術教育を推進することがやはり望まれますので、
そちらは、引き続きこのブログでひっそりと主張していきたいと思います。
でも、芸術教育って、考えていくと、深いな。
演劇をテーマに文章を書きながら、そう思ったマイスターでした。
ここの1期生、それから2期生が
卒業後どういう進路をとっていくのかに
わたしは注目しているわけです。
2期生募集の際は、ぜひ募集要項でも取り寄せてみてください。