大学職員、出世に有利な部署はここだ!

授業も試験も終わって、キャンパスの学生がめっきり少なくなりました。
それはそれで、大学のいち風景っぽくて好きなマイスターです。

マイスター、いまの大学に転職して以来、何度か

「○○課に配属される人は、期待されているってことだよ~」

とか、

「××課を経験すると、出世できるよ~」

とか、人事に関する色々な噂を周囲から聞きました。
やはり大学人とは言ってもサラリーマン、こうした人事に関する話は大好きです。
マイスターも、ついつい、聞き耳を立ててしまいます。

ところが、結局どの課に配属されると、出世に有利なのか、よくわかりません。
どの噂も、「所詮は噂」という程度の話で、いまひとつ信憑性に欠けるのです。
(出世の定義自体も微妙ではありますが)

それにどうも、大学によっても、どの部署に配属されるのが出世の花道なのか、違いがあるみたいです。

そこで、「実際のところ、どの部署が出世に有利なのよ?」というデータを、探してみました!

こんな調査をしている人が…なんと、いました!

それは筑波大学大学研究センター長、山本眞一氏です。

氏は2001年に、大学職員についての実態調査を行われておりました。
その中に、

「事務局長が、現職に就くまでの間、主にやってきた大学の仕事の分野は?」

という調査項目があるのです。

「事務局長」というのは、大学事務組織のトップです。

その役割や権限は、大学によって異なるところもあると思います。
「理事兼事務局長」「法人事務局長」「大学事務局長」など、呼び名や位置づけに関してもバリエーションはあります。

が、国立と公立の大多数、私立でも過半数が「事務局長」という名の事務トップをおいているとのことですので、事務局長の出自を調査すれば、大学事務職員の出世についてヒントは得られるんじゃないかと思います。

具体的には、現職の事務局長に、
「大学職員として仕事をしてきた主な分野、3つ以内」
を選んでもらうというアンケート調査でした。

その選択肢は、以下の通り。

 企画・広報
 人事・労務
 総務(上記の業務以外)
 財務・経理
 教務(入試を含む)
 学生(就職を含む)
 図書館
 国際交流(留学生を含む)
 病院
 施設
 附属学校
 その他

さぁ、この中で、どれが事務局長になるのに有利だったのでしょう?

なんと、国立、公立、私立でまったく異なる傾向が見られたのです。

ドキドキの調査結果は、以下の通り!

(以下、アンケートの順位および数字は、『新時代の大学経営人材―アドミニストレーター養成を考える』に掲載された、「大学職員の役割と今後の養成方策に関するアンケート調査(2001年)」より抜粋)

国立大学では、

 1:その他総務 24%
 2:財務・経理 22%
 3:その他   17%
 4:企画・広報 14%
   人事・労務 14%
 6:教務・入試  6%
 7:学生・就職  3%

という結果だったと、報告されています。
(数字は、回答数のパーセントです。なお色分けは、マイスターによるものです。法人系を青、大学系をオレンジで表しています)

これに対し、私立大学の事務局長が経験してきた業務は、以下の通りです。

 1:その他総務 23%
 2:人事・労務 21%
 3:財務・経理 14%
 4:教務・入試 12%
   企画・広報 12%
 6:学生・就職  9%
 7:その他    9%

いかがですか?

まず国立、私立ともに
事務局長になるには、総務系のことを経験しておいた方がいい、と、考えられているようですね。

総務は、組織運営の要。
事務局長というポストにその経験が求められるのも、なるほどもっともです。

差が出ているのは、教学部門の扱われ方です。

私立大学は公立に比べると、教務や入試、就職といった部門での経験を重要視していることがわかります。

対学生サービスを充実させないことには、私立大学は生き残れません。
そうした意識から、こうした教学部門での経験も、評価の対象にしているのでしょう。

逆に国立では、教学部門が冷遇されていることがわかります。
学生課、就職課なんて、全回答の中のたった3%です。
教務・入試も6%…。

学生の相手をする部門は、どうやら国立大学ではあまり重視されていないらしいということが、数字に表れてますね。

最終的な人事権を司る理事達が、身近な法人部門の人材から事務局長を出そうとするから?
とか、あれこれ想像をしますが、はっきりした理由はわかりません。

事務職員は大学の中で、組織の存続に関する事務処理(だけ?)を主に期待されていますから、組織内部のことに詳しい人材がそのトップになる方が、しっくりくるということかも知れません。

しかし、改革の必要性が叫ばれる国立大学。

試しに、就職一筋!とか、教務一筋!みたいな職員から事務局長を起用してみることがあってもいいんじゃないかな、と思います。

なお、選択肢にはあったのに、回答には入っていない

 図書館
 国際交流(留学生を含む)
 病院
 施設
 附属学校

での経験は、残念ながら事務局長というポストに就くには、ほとんど評価されないということなのでしょう。

国際交流に精通した人が事務局長、なんて、とても戦略的でいいと思うのですが。

総務もいいんですが、これぞという優秀な「幹部候補生」にはそういう内向きのキャリアだけではなくて、教学、就職、国際交流など、対外的な経験も積ませるといいんじゃないかな、と、マイスターなんかは考えます。

ちなみに公立学校はまた国立とも私立とも違った結果を示しており、非常に興味深いものとなっています。
すべてをこちらでご紹介することはできませんので、ご興味がある方は『新時代の大学経営人材―アドミニストレーター養成を考える』を読んでみてください。

なお、参考までに一般企業のことを。

かつての日本では、企業においても、総務畑の社長は非常に多くいました。
主に、社内の調整能力を期待された結果だと思います。

バブル以前の時代、
「抜本的な改革」とか、
「組織の大胆なリストラクチャリング」とか、
「ブランド戦略の徹底」とかが、
企業の運営にあまり求められていなかったときは、総務系出身の社長というのは、主流のひとつでした。

(昔からある大メーカーに関しては、今も昔も技術者上がりの社長が多いです)

一方海外では、社長というのは大抵、営業出身です。
売り上げを増やすのが、社長に期待される役目だからです。

(数少ない例外が、Microsoftのビル・ゲイツと、Apple Computerのスティーブ・ジョブズですが、その他では、IT企業でも社長はたいてい営業畑出身の人です)

日本でも、社内の調整能力だけで会社が存続できる時代は終わりました。
内部に詳しい人よりも、組織の外との関係をうまくデザインできる人が、求められるようになりました。

実際、開発や営業で売り上げに直結する成果を積み上げてきた人材が、社長として迎えられるケースが多くなっているように思います。

大学でもその発想を取り入れて、入試改革を大成功させた人材がトップになったりしていいような気はします。

総務の経験はとっても大事なんですが、こうした「攻めの人材」を起用することによる効用も、それはそれできっとあるんじゃないでしょうか。

4 件のコメント

  •  初めまして、マイスターさん。いち大学職員です。
     国立大学が重視するトップの経歴(結果としての出世)を考えるときは、文部科学省の人事も反映される事務局長ではなく、生え抜きが就くことのできるトップのポストを調査することが必要ではないでしょうか。
     「国立大学の事務局長」というポストは、まず生え抜きの職員がなることはありません(現在の人事制度が続く限り)。どんな人が国立大学の事務局長になるかというと、文部科学省の職員で、国立大学の課長、部長ポストを経験した人がなるようです(大学側の望む人材がどれ程派遣されているのでしょう)。 
     

  • マイスターです。
    ご意見、ありがとうございます。
    たしかに、おっしゃること、もっともだと思います。
    その点の問題にも、記事で触れておくべきでした。
    とても重要なことですから、国立の人事制度については、別個に、記事を書くことにします!
    公立は公立で、また地方自治体の人事と絡んだ独特の問題があるみたいですし。
    非常に参考になるご意見、ありがとうございました!
    ときに、国立では、生え抜き職員でのトップはどういったポストになるのでしょうか?そのあたり、あまり詳しくないのですが、Youさんの周りではいかがでしょうか?
    教学系の部門のトップは生え抜き組が多い、とかあるんでしょうかね?

  •  Youです。まず先に、昨日文字制限の関係で削った文章を。
     『ある仕事がきっかけとなって、これからの大学職員が目指す方向を描き出そうとしていた矢先、このブログに出会いました。今では毎日欠かさずチェックさせていただいており、読むたびにモチベーションを上げています。これからも豊富な話題と分析で、時に社会からブラックボックス視される大学の実態を世に問い、大学の存在意義を見出して行ってください。』
     さて、私の周りですが、生え抜き職員でのトップは○○学部の課長(その学部の総務系、会計系、学務系を取りまとめ)です。大学を運営する本部の主要な課の長は、文部科学省の職員ですね。ただ国立大学の法人化とともに、生え抜き職員が、今までならば文部科学省の職員が就くポストへ昇進する例も出てきています。本部の教学系の課長職でも生え抜き職員が就き始めました。
     

  • お褒めのお言葉、ありがとうございます!
    今のところ私なんかができることは、こんなブログで問題提起をしてみることくらいですが、こうしたお言葉をいただけると、モチベーションが上がります!
    これからも、がんばって更新しますね!
    生え抜き職員は学部の課長、
    文科省職員は本部の主要な課長。
    なるほど!そういう棲み分け方もあったのですね。
    思いつきませんでした…勉強になります。
    Youさんの大学のように、今後は法人化にともなって国立大学でもたたき上げの幹部が少しずつ増えてくるのでしょうね。楽しみです。