プロジェクト学習: 鉄は熱いうちに打て


深夜の港区からこんばんは、マイスターです。

以前、

・「学校紹介:ミネソタ・ニューカントリースクール」
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50029534.html

という記事でご紹介したアメリカのチャータースクール、
「ミネソタ・ニューカントリースクール」で行われている
「プロジェクト学習」を紹介する書籍がありましたので、ご紹介します。

学びの情熱を呼び覚ますプロジェクト・ベース学習

ズバリ「ミネソタ・ニュー・カントリー・スクール」の「プロジェクト学習」について、理論と実践を紹介する本です。

原題はPassion for Learning: How Project-Based Learning Meets the Needs of 21st Century Students (Innovations in Education)
という本。

プロジェクト・ベース学習で育つ子どもたち―日米18人の学びの履歴

2冊目のこちらは、日本の教員向けの手引き書、といったところ。

上記の「学びの情熱を呼び覚ますプロジェクト・ベース学習」の和訳者が書いています。

ところで、

大学でもプロジェクト学習、Project based Learningなどのコンセプトが流行っているようです。

■プロジェクト学習を取り入れている大学の例:「研究プロジェクト」(慶應義塾大学SFC)
http://www.sfc.keio.ac.jp/prospective/aboutsoukan/researchprojects.html

「プロジェクト学習」と呼ばれるものでも、大学によって内容は様々ですが、

実際に、何かの問題解決に取り組みながら学ぶ

というのが、基本のようです。

プロジェクト学習のいいところは、2つあります。

第一に、「考える力」「問題解決のための力」がつくということ。

世の中、特定の学問だけで解決できる問題ばかりではありません。

例えば、河川の環境汚染をどうにかしようと思ったら、

・法律
・化学
・生物学
・土木工学
・行政学
・NPOなど市民組織に関する知識
 :

などなど、様々な分野の知識が必要になるのが、普通ですよね。

法学部や理学部、政治学部など、特定の学問分野を一通り学んでも、こうした具体的な問題を、実際に解決する方法が身に付くわけではありません。
法学部の学生が、土木工学や生物学について考えをめぐらすなんて、あまりないのではと思います。

しかしプロジェクト学習の場合、問題に応じて、

「この問題は、何が原因となって起きているのか?」
「この問題を解決するには、どんな知識が必要なのか?」

というところから、自分で考えなければなりません。
こうした作業の中で、普段の座学だけでは得られない、問題の分析力や、判断力が身に付きます。

チームで問題解決に取り組む場合は、当然、自分の考えを論理的に相手に伝え、理解を得るためのコミュニケーション・スキルが身に付きます。
最も重要な「論理性」が鍛えられるはずです。

こうした力をつけるには、プロジェクト学習は非常に効果的です。

第二に、「興味を持って主体的に学ぶ姿勢」が身につくということ。

大昔の学生がどうだったか知りませんが、現在では、

「学習意欲をいかに持続させるか」

というのが、教育の重要なテーマのひとつとなっていると思います。

プロジェクト学習は、基本的に自分の興味や関心からプロジェクトを選びますので、その点、有利なわけです。
実際に自分で手を動かす作業が求められる(ことが多い)のも、意欲を持続させるには好都合です。

何より大きいのが、プロジェクトに取り組んでいることが、他の学習に与える影響。

たとえばクルマの好きな学生が、機械工学科に入学したとします。

いくら機械に興味を持っているとは言え、機械工学科のカリキュラムの中には、

自分は、あまり興味を持てない授業、
自分の苦手な授業、
何の役に立つか、意義がよくわからない授業、

なんてのが、少しは混じっていてもおかしくありません。

でも、

「乾電池10本で1km走れる電気自動車を制作せよ!」

なんてプロジェクトに取り組み始めたら、きっと、他の基礎的な授業だって、関心を持って受けるようになるのではないでしょうか。

乾電池10本で1km走れる電気自動車をつくるために、あらゆるところから「使える知識」を見つけようと思うはずです。

もともと、日本の大学カリキュラムは、基礎積み上げ式が普通でした。

 1年:基礎
    ↓
 2年:専門の基礎
    ↓
 3年:専門
    ↓
 4年:卒業論文

…のように、一番興味を持って取り組める「卒業論文」が、一番最後に配置されていたわけです。
それまでは、卒論に取り組めるだけの知識を、積み上げる時間なわけです。
今でも、ほとんどの大学、学部学科が、このようなカリキュラムを持っています。

体系だった学問を学ぶためには、仕方がない部分もありますが、
これでは、4年生までに意欲をなくす者も出てくるでしょう。

その意味では、プロジェクト学習は、

 1年:基礎
    ↓
 2年:卒論&専門の基礎
    ↓
 3年:卒論&専門
    ↓
 4年:卒論&専門

…のように、卒論をいきなり2年生くらいに持ってきたようなシロモノと理解してもいいかも知れません。
うむ、我ながら、わかりやすい例え。

鉄は熱いうちに打て。

学問への興味が冷めやらぬ間に、具体的なプロジェクトに取り組み始めれば、その後の学習にも好ましい影響が出るというものです。

考えてみれば、社会に出てから求められる仕事の多くは、プロジェクト。

問題を解決して対価をもらうのが、社会人です。

プロジェクト学習をカリキュラムの中心に据える学部学科が、今後はより増えてくると思います。

ぜひ学生さんには、専門積み上げ式の学びに加えて、
問題解決プロジェクトのおもしろさも体験していただきたいなぁ。

そんなことを思ったマイスター(机の上の書類ナダレを止めるプロジェクト実施中)でした。

3 件のコメント

  • マイスター様
     上杉賢士と申します。プロジェクト・ベース学習関連の自著に注目してくださってありがとうございます。ここのところPBLの名称で露出度が高くなり、わが意を得たりといったところです。目下のところ、「Project-based Learning with young children(邦題:「幼児期からのプロジェクト・ベース学習」を予定)の翻訳本の出版交渉中です。また、本意ではないのですが、PBLの普及のために「スキル本」の出版も予定しています。この9月にアメリカでプロジェクト・ベース校7校の視察を敢行します。よろしければお返事をください。

  • 上杉賢士さま:
    こんにちは、マイスターです。
    コメント、ありがとうございます!
    「PBL」は、大学教育でも盛んに取り入れられるようになってきました。学生の「学ぶ意欲」をどう刺激するか、教育効果をどうやって向上させるかといった問題に対して、プロジェクト・ベースの学習スタイルがドンピシャリだったのでしょうね。
    学びの目的、学びに対する動機付けなどが変化していく現代において、プロジェクト・ベース学習の効果にいち早く注目されていたのは、すごいです!
    アメリカのチャータースクール視察、いいですね。ミネソタ・ニューカントリースクールなどもやはり含まれるのでしょうか。ぜひ、素晴らしいプロジェクト・ベース学習の取り組みを、日本の教育関係者の皆様に紹介してあげてください。
    私も、楽しみに待っております!

  •  どなたか縁のある方だなと思っていたら、やはりそうでした。お久しぶりです。本日、これから旭市の全中学生の代表によるPBLを活用した政策提言のプレゼンに立ち会ってきます。2月からのしかけが、ようやく形になったところです。ついでに、市長の賛同も得て、「旭3S(俗称:子ども科研費)」の立ち上げもロータリークラブと共同で立ち上げる予定です。それから、ブログで「学校をつくるよ」を検索してみてください。やはりアメリカに同行した仲間が、いろいろなことをしています。今回のアメリカ視察の件はあらためて報告します。デボラ・マイヤーの後援も聴いてきます。この名前も記憶しておいてください。ウイスコンシンからミネソタまで、レンタカーの旅です。