転職で、労働時間が減って給料が増えたマイスターです。
文句なしの転職だね!とたまに言われますが、仕事に対する満足度はそれだけでは測れない。
「どういう状況が一番望ましいのか」
を決めるのって、一筋縄ではいかない問題です。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「『人間の豊かさ』指数、日本はベスト10から転落」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0907/004.html
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国連開発計画(UNDP)が毎年発表している、「人間開発指数」のランキングで、日本が9位から11位に順位を落とした、という報道。
-日本は他の先進国に比べ、社会人が大学に戻る例が少ないなど生涯教育で得点が少ないことが順位を下げる要因になった。ただ、大学院に相当する教育を企業が社内訓練で補っていることや、就学率に反映されていない海外留学の数字などが不利に働いた事情もある。-(上記の報道記事より)
ほぉ、日本のランクを下げた原因は、大学教育なのか、
人間の豊かさが指数が低下、って、おだやかでないなぁ。
こりゃ大学関係者としては見過ごせないなぁ、
と思い、実際に原文資料を見てみました。
■「Human Development Report 2005(英語)」(United Nations Development Programme)
http://hdr.undp.org/reports/global/2005/
上記は、世界各国の開発の現状をまとめた2005年版「人間開発報告書(Human Development Report)」。
この中に、各国の
「人間開発指数(HRI)」
のポイントが掲載されています。
日本は、この人間開発指数が、世界で11番目に高い国なのです。
上記のページから、PDFで報告書の全文を入手することができます。
さて、この人間開発指数、いったいどのように計算されているのでしょうか?
報告書の341ページ目に、計算式が掲載されています。
人間開発指数(HDI)
=1/3 (life expectancy index)
+ 1/3 (education index)
+ 1/3 (GDP index)
です。
<life expectancy index(平均余命指数)>、
<education index(教育指数)>、
<GDP index(GDP指数)>
という、3つの独自の指数の合算値なんだとわかります。
簡単に言えば、この数値はそれぞれ
(1)長寿で健康な生活、(2)知識、(3)人間らしい生活水準
を測ろうとしているのかな、と思います。
この計算結果をランキングにすると、いわゆる「先進国」が上位に来るのです。
こうして計算された人間開発指数(HDI)が、経済だけではわからない国の豊かさを示す一つの指標として使われているわけですな。
で、われらが日本は?
・日本についての数字をまとめたレポート
http://hdr.undp.org/statistics/data/country_fact_sheets/cty_fs_JPN.html
まず、life expectancy index(平均余命指数)が、堂々の1位です。
長寿大国はダテじゃない。
世界一、長生きできる国、日本。
これは、誇れることです。
GDP index(GDP指数)は、13位。
上位国では、まぁまぁです。
経済大国日本ですが、「一人当たりのGDP」に直すと、ルクセンブルクやベルギーなどの方が、上なのですね。
でも、悪くありません。
そして。
な、なんと、
education index(教育指数)が、46位!
教育が、総合ランクの足を引っ張っているのでした!
ウクライナやカザフスタンより低い!
日本の教育水準は高い、というイメージからは考えられない数字。
「いったいどーなってるの!?」という感じです。
では、このeducation indexは、どのように算出されているのでしょうか?
これまた、計算式があります。
教育指数(Education index)
=2/3 (adult literacy index)
+ 1/3 (gross enrolment index)
です!
成人の識字率と、国の総就学率を、2:1の割合で足し合わせた数字だとわかります。
日本人の識字率は、人間開発報告書にもありますが、
“For purposes of calculating the HDI, a value of 99.0% was applied.”
つまり、99%として計算されていますから、
ようするに、
「総就学率」が低いってこと!?
えぇ~!?
日本の就学率って、ほぼ100%(みたいなイメージ)じゃなかったっけ!?
ここには、ちょっとしたカラクリがあります。
実際に、報告書に掲載されている各国の総就学率の数字を見てみましょう。
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■初等教育、中等教育、高等教育の総就学率(2002/03)
Combined gross enrolment ratio for primary, secondary and tertiary schools
Norway————101
Iceland———–96
Australia———116
Luxembourg——–88
Canada————94
Sweden————114
Switzerland——-90
Ireland———–93
Belgium———–114
United States—–93
Japan————-84
Netherlands——-99
Finland———–108
Denmark———–102
United Kingdom—-123
France————92
Austria———–89
Italy————-87
New Zealand——-106
Germany———–89
(”Human Development Report 2005″から抜粋。HDIの上位20ヶ国を、HDIの値の高い順に並べた)
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「総就学率」、と書いてありますが、
これには、「高等教育」が含まれているのですね。
日本の、2003年度の大学&短大の進学率は、だいたい45%前後。
だとすると確かに、小学校から大学までをあわせた総就学率は、84~85%程度になるでしょう。
えっ!?
じゃあ何、他の国は、ほとんどの国民が大学とか短大に行ってるの!?
っていうか、ノルウェーの「101%」って何よ!?
イギリスの「123%」って何なんだよおぉぉぉ~…。
…と、疑問に思いますよね、当然。
はい、カラクリは、こうです。
総就学率、粗就学率(gross enrollment ratio)というのは、
「就学年齢児童総数に対する実際の就学者数の割合」を表わしており、
実際の就学者が就学年齢か否かを問わない
のです。
したがって中退者の再入学や留年者、22歳以上の社会人大学生などが多い場合、総就学率は 100%を上回ることになるのですよ。
総就学率が100%を大きく超える国は、学齢に達せずに、または学齢を超えて在籍している生徒がいっぱいいる国、ってことなのです。
どんな国でも、18歳が全員大学に行く、なんてことはありえません。
その点では、どの国も同じなんです。
(むしろ「全入時代」なんていうように、18歳から大学に行く割合は、日本は高いほうなのではないでしょうかね?)
つまり日本は他の先進各国と比べて、17歳以下、23歳以上の人が、大学にあまり進学しない!
だから、他の国に比べて、高等教育レベルの就学率が、とっても低くなっている!
これが、日本の「人間開発指数」を下げている大きな要因だ!
…という予測がつくわけなのです。
以上、冒頭の朝日新聞の説明を、マイスターなりに考えてみました。
社会人になった後も、大学や短大で学ぶ人が多い。
それは確かに、とっても大事ですばらしいことだなぁとマイスターも考えます。
胸を張って「私の国は、大人になっても学べる、とても豊かな国です」と言えると思います。
日本の豊かさを世界に示す、その責任の一端を、大学人は担っているのですね。
若者からおじいちゃん、おばあちゃんまでが通う、
世界にうらやまれるようなキャンパスを日本中に作りたいと、改めて思いました。
今回は、数字が多かったですね。
現在は、この「人間開発報告書2005」は、英語のものしかありません。
日本語に訳されたものは、後に公開されるようです。
現在は、報告書の概要だけ、日本語で読めます。
興味のある方は、どうぞ。
■「人間開発報告書2005年版 ─ 岐路に立つ国際協力:不平等な世界での援助、貿易、安全保障」(国連開発計画)
http://www.undp.or.jp/HDR/prhdr2005j.htm
最後に、Asahi.comの記事で、ちょっと気になったことを。
-国連開発計画(UNDP)は7日、世界各国の開発の現状をまとめた05年版「人間開発報告書」を発表した。日本は健康、教育など「人間の豊かさ」を測る人間開発指数で177カ国・地域中11位(前年は9位)と、初めてベスト10から転落した。女性の政治・経済分野への進出度を示すジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)は43位と、先進国では極端に低かった。-(冒頭、Asahi.comの報道記事より)
女性の進出度を示すGEMは、確かに日本は、相当低いです。
ただ、このGEMは今回の「ランキング11位」とは関係がありません。
先述したように、人間開発指数の計算式には、GEMの値は影響しませんので。
朝日の記事だと、
「女性の進出度が低いから、日本は人間開発指数のランクを落とした」
というようにも受け取れますが、それは、違います。この二つは、別の指標です。
ちょっと印象操作のようにも感じ、気になりましたので、念のため。
あ、もちろんマイスターも、女性が政治・経済分野で活躍できていない現状は、大変な問題だと思っておりますよ~。
このことに関して、日本は先進国として、非常にはずかしいレベルだと思います。
世界中でどれだけの人が学校に行けないのだろう、と、
英文の報告書を眺めながら考えていた、今日のマイスターでした。