数日前のニュースですが、こんな記事が話題になっていました。
■「東大合格者7割、入学辞退 日本最難関『滑り止め』に」(47NEWS)
主に外国人留学生を対象に、受験も授業も英語で行う東京大教養学部英語コース(PEAK)への合格者の入学辞退率が年々高まり、2014年度合格者(同年10月入学)の7割近くが東大を蹴って外国の有力大に進学したことが28日分かった。文部科学省が日本の主要大学の国際化を急ぐ中、最難関大が「滑り止め」にされる現実は、優秀な留学生獲得を目指す世界の大学間競争の厳しさを示しており、関係者は危機感を募らせている。
(上記記事より)
この記事の書かれ方に、ふたつのことを感じました。
今後、東大が世界中から優秀な学生を集めるグローバル大学になろうというのなら、この気づきは避けて通れなかったでしょうから、今わかって良かったのではないでしょうか、というのが第一です。
第二に。以前ブログにも書いたのですが、アメリカの難関大学だって、それなりに合格者を逃がしています。
<アメリカ名門大学の合格者の「歩留まり率」>
ハーバード大学:76.5%
プリンストン大学:58.9%
カリフォルニア工科大学:37.5%
(以上、2009年のデータ)
ハーバード大学でも、合格者のおよそ4人に1人は、他大学へ進学しています。カリフォルニア工科大学は、Times Higher Educationで2年連続「世界1位」になった大学ですが、やはり合格者の6割以上は他大学を選んでいます。スタンフォードも3割近く、ペンシルバニアやブラウン、ダートマスなどの名門大学も毎年、4〜5割が入学を辞退しているそうです。
こんな名門大学に受かったのになぜ他大学を選ぶかと言えば、「他の人はハーバードが良いと言っているけれど、自分にとってはこちらの方が成長できそうだと判断した」ってことです。ハーバードに受かるレベルの人が、小規模のリベラルアーツ・カレッジを選ぶといった例は、しばしば耳にします。
モノサシはひとつじゃないんです。合格した大学の中で、自分が求める成長を、一番得られそうな大学はどこだろうか? これを、授業の方法や寮の充実度、大学教職員がどれだけ自分の成長を考えてくれているか……といった質的な情報、そして各種スコアの数値や奨学金の充実度、卒業後の進路など、入学後の成長度合いを示す様々な量的データなどから検討しているわけです。
「滑り止め」なんていう表現が使われているあたり、高等教育の論じられ方が、まだまだドメスティックだと感じます。論じられるべきは、東大がどのような教育ミッションを打ち出しているかであり、そのミッションに共感した、あるいは東大の教育価値を評価してくれた学生が入学手続者の中にどのくらいいたのか、ではないでしょうか。
もちろん、他大学を蹴って自校を選んでくれるというのは評価の一つでしょうから、辞退率は低いにこしたことはありません。でも、だからといって「あそこには常に勝つ!」みたいな、ひとつのモノサシでの勝負を想定するのは建設的ではないように思います。
学ぶ側からすれば、自分の期待に一番応えてくれる大学が、自分にとってのベストな大学です。東大は、アメリカの有名大とは違う何かを提供してくれるのか。そのあたりがいまひとつ見えにくい……という点こそ、「危機感を募らせる」べきポイントだと個人的には思うのです。
アメリカなどの有名大学に比べ、奨学金が見劣りするのも事実でしょう。しかし、上記のような議論がないまま、単に奨学金を拡充しようとしても、効果は限られると思います。
そもそも、どのくらい奨学金を拡充すれば良いのでしょうか。「辞退率が1割を切るまで」などでしょうか? そんな目標を掲げたら、おそらく奨学金がいくらあっても足りません。
奨学金の適切な目標値を定める上でも、まずは「どんな教育ミッションを掲げるか」が大事だと私は思います。
皆さんは、どう思われますか?