「北陸大:国内の全高校、推薦指定校に 『誰でもいいのか』戸惑う声も」

最近、入試について考えることが多いマイスターです。

来る大学全入時代には、どのように大学は求める人材を集めるべきか。
受験産業の常識や伝統にとらわれない、理想的なマッチングのモデルを考える日々です。

でも、まさか今、こんなことを考える大学が出てくるとは、マイスターも予想付きませんでした。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「北陸大:国内の全高校、推薦指定校に 『誰でもいいのか』戸惑う声も」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/wadai/archive/news/2006/09/20060917ddn001040002000c.html

■「指定校推薦選抜:秘伝のタレ」(北陸大学)
http://www.hokuriku-u.ac.jp/entrance/tare/index.html
————————————————————

◇07年度2学部で 一般入試廃止も検討

金沢市の北陸大(河島進学長)は、07年度入試の指定校推薦で国内のすべての全日制高校を指定校にする。高等専門学校を含む5238校が対象になる。指定校推薦は高校側との信頼関係の上に成り立つ制度で、一般推薦と異なり、高校から推薦されればほぼ合格する。文部科学省は「日本中の高校を指定校にするのは聞いたことがない」としており、高校側からも戸惑う声が出ているが、北陸大は「学生に意欲があり、教育の中身がしっかりしていれば能力はついてくる」とし、志願者増を期待している。
(略)
河島学長は「学力不足で大学にいけないと思う人たちもいる。機会を均等に多くの人に与えたい。偏差値教育を見直し、入試制度に一石を投じたい」としており、将来は一般入試の廃止も検討しているという。大学の教職員約90人が一部の高校に出向き、単なる学生集めではないことなどを説明しており、実際の出願数については「募集定員前後で落ち着くのでは」と想定している。
一方、高校側からは「高校の特色も調べず、一方的に指定するのはおかしい」という声もあり、案内状を受け取った東京都立高の男性教諭は「『高校生なら誰でもいいよ』としか聞こえない。生徒に配布する指定校の一覧表には載せなかった」と冷ややかだ。
(上記記事より)

記事中にもありますが、指定校推薦入試というのはAO入試などとは異なり、「志望すればほぼ確実に合格する」という前提で行われる入試です。

これまで、優秀な生徒を何人も進学させてくれた高校に対する、
「あなた方が自信を持って推薦するのであれば、きっと今回も優秀な生徒なんだろう」
という信頼をもとに、実質ほぼ無条件に生徒を受け入れる
という、ある意味、究極の入試スタイルの一つです。

例えが適切かどうかはわかりませんが、「仲人を仲介してのお見合いみたいなもの」とマイスターは理解しています。
日本では、AO入試よりも長い歴史を持っています。

さて、今回の北陸大学の提案は、大胆です。

「学生に意欲があり、教育の中身がしっかりしていれば能力はついてくる」という説明は、よくAO入試の説明で使われる言葉です。AO入試は、大学が実施する教育内容に見合った生徒を探す入試ですし、実際に選考でも学生の意欲を非常に重視しますよね。
でも、今回の北陸大学は、AO入試ではなく「指定校推薦」なのです。全高校を対象にしている時点で既に「指定」じゃないじゃん、というつっこみはさて置き、指定校推薦なのです。
意欲で学生を選考するなら、指定校推薦という形をとらずとも、AO入試で済むのではないかと思いますが、大学側にも色々と思惑があるのでしょう。

この大胆な制度については、様々な疑問も浮かびます。

○志願すれば合格できるの?

指定校の言葉を従来通りの意味に受け取ると、「推薦を受けてきた生徒であればほぼ確実に入れる」という内容であるように思えます。

でも、全国5,200校に指定校推薦枠をばらまくのですから、仮に520校が1名ずつ推薦してきたとしても、すでにそれだけで定員の2倍以上です。指定校推薦とはいえ、何らかの選抜を行わなければ入試として成り立ちません。
指定校と言いつつ、志願者の動向次第では選抜を行うのですから、実態はただの公募式AO入試みたいなものになる気がしなくもありません。

また、出願した生徒と高校からすれば、「指定校推薦」という形である以上、ほぼ合格するというのが前提です。あまりにも不合格者が多いようなら、世間はそれを「指定校推薦」だとは思わなくなるでしょう。かえって大学の信頼を損ねる結果になりかねません。リスクも大きい制度です。
(逆に志願者が定員に満たなかったら、それは文字通りの「全入」状態になります。
これはこれで、あまりいい状態だとは思えません)

大学の教職員約90人が一部の高校に出向き、単なる学生集めではないことなどを説明しており、実際の出願数については「募集定員前後で落ち着くのでは」と想定している。

…と記事にはありますが、本当に大丈夫なのでしょうか。ちょっと心配です。

仮に本年度の入試で受験生が定員以上に押し寄せたら、来年度はさらに多くの受験生が集まる可能性もあります。そして人気が高まれば、いつか「指定校推薦=ほぼ確実に合格」の前提が崩れるときが来るかも知れません。
全員入学を前提とした指定校推薦で、受験者数の読み間違いは許されないのです。

一歩読み間違えれば、大学の信頼が失われるという、かなりセンシティブな制度。
「将来は一般入試の廃止も検討している」と記事にはありますが、受験者数が固まるまでは数年間様子を見て、慎重を期した方が良さそうに思えます。

(なお北陸大学のサイトには、指定校推薦を受ける条件として、「調査書全教科評定平均値が3.0以上」と明示されています。
でも、学校によってこの「3.0」のレベルがまるで異なるということは、受験のプロでなくたって容易に想像できますよね。この条件は、学力レベルを保証するものではなさそうです)

○指定校の枠はなくならないの?

指定校推薦とは、その高校の教育を信頼しているから行える入試なのです。
この「信頼」というのは、なんでも無条件に信じたり頼ったりするという意味ではありません。

例えば、送ってきた生徒が優秀であれば、次年度にはその高校に割り当てた指定校の人数枠を増やすでしょう。
逆に、意欲もなく、最低限の学力も持ち合わせていない生徒ばかりを何度も推薦してくるのであれば、その高校の指定校枠を縮小するか、枠を無くすということになります。
高校側にとってもそれは同じ。指定校推薦で進学した生徒が生き生きとがんばっているなら、「優秀な生徒には、またあの大学を勧めようかな」と思うでしょうし、せっかくの自慢の生徒が大学で伸び悩んでいるなら、もう指定校枠を使うのは止めようと考えるでしょう。
こうした相互の「質の保証」の上に成り立っているのが、指定校推薦における「信頼関係」なんだとマイスターは思っています。

でも今回の北陸大学の報道では、同大は「全国のすべての高校に指定校を与える」と書かれています。
これって、「ひどい生徒ばかりを送り込んでくる高校についても、指定校枠を設け続ける」という意味でもあるのではないでしょうか。

言い方は悪いかも知れませんが、つまり高校の教育を根拠もなくただ信頼しているか、もしくはまったく信じていないかのどちらかなのでは。
(だって、高校のカリキュラムや教育方針、学力レベルなどには関係なく、ただただ「高校」でさえあれば、推薦した生徒は入学させるってことでしょう。それって言い換えると、高校の教育は一切アテにしてないってことなのではないでしょうか)

将来、大学がユニバーサルアクセスの段階に入ったら(つまり、希望すれば誰でも入れるという時代になったら)、学力のない学生を大学で鍛えることも考えなければならないわけです……が、しかし「どこの高校からでも指定校推薦を受け付けます」というやり方が果たしてベストなのかどうか。正直、疑問も感じます。
指定校推薦も使い方次第だと思いますが、北陸大学のシステムには、まだまだ改善の余地が多いように思われます。

……と、これまでいくつかの疑問を呈してきました。
しかし、果たして私たちに、北陸大学の制度を批判する資格があるかどうか。

実質的には、指定校推薦という仕組みは既に、全国の多くの大学で破綻し始めていると思うのです。

冒頭の記事でも、

大手予備校「代々木ゼミナール」入試情報センターの坂口幸世(ゆきとし)本部長は「一部の大学は、入試が選考ではなく、単なる募集になっている」と指摘している。

という記述がありますが、これは事実だと思います。

マイスターは以前、高校訪問をしていて、高校の進路指導の教員から

「本学の生徒達は、一般入試をくぐり抜けられる学力も、受験を乗り越える意欲も持ち合わせていません。
ですから指定校推薦枠をくれなければ、お宅への進学はありえません。
現に、あなた方のライバル校である○○大学は、本校から一人の進学者も出していないにも関わらず、指定校推薦枠をくださっていますよ」

……という、実にダイレクトなお言葉をいただいたことがあります。
直訳すれば、「指定校枠をよこさないあんたらは、やる気がない。受験生が欲しけりゃまず先に枠をよこせ」という意味でした。
理想的な高大連携のあり方って多分こういうのじゃないよなぁ、と思いながら帰り道を歩きました。

・高校の進路指導教員に聞く、「指定校」「AO」の認識
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50227868.html

でも実際、信頼関係云々に関係なく、指定校推薦を乱発している大学はあると思います。

その結果、優秀な学生を確保するという指定校推薦の本来の意味合いは薄まり、単に

「一刻も早く推薦合格者を出して、定員通りの入学生を確保したい」

という大学の思惑が前面に出る形になってしまってはいないでしょうか?

これまでは指定校推薦枠が1人分だったのに、ある年突然大学の関係者がやってきて、「おめでとうございます、御校に対する本学の指定校推薦枠を、3人に拡大することになりました」と一方的に宣言していく。
はぁそうですか、でも、OBが良い成績を取っているわけではないのに何故? ははぁ、受験生集めが厳しいんだな。この大学は落ち目だな……と、対応した高校教員は推測する。
そんなやりとりが、全国津々浦々で行われているんじゃないかとマイスターは想像するのですが、いかがでしょうか?

指定校推薦の制度は、おそらく今後いっそう、理念と実態がかけ離れていく気がします。

北陸大学のように、「教育内容に自信があるから、入学のチャンスは拡大する」という方針は、悪くはないと思います。遅かれ早かれ、高等教育がユニバーサルアクセス状態になる日はやってくるわけですから。

ただ、その方針に、「指定校推薦」という手法が合っているかどうかは、正直言ってわかりません。少なくとも、現状の指定校推薦制度のまま対象を拡大させていくだけでは、いけないように思います。
試行錯誤をしながら、少しずつ理想的な入試のあり方に近づけていく姿勢が必要なのでしょうね、きっと。

定員を確実に集めつつ、受験生や高校からの信頼も維持できる入試制度……って、そう簡単には実現できないよなぁ、と思ったマイスターでした。