大学職員の採用試験に、「卒業生枠」

マイスターです。

今年は、学生さん達の就職活動が長引いているそうです。
例年に比べ、4月アタマの内定獲得率は半分くらいだったとか。
内定をもらった方も、活動を継続されることが多いそうで、就職活動は長期化する傾向にあります。

マイスターもいち社員として、自社の会社説明会にときどき参加します。
(これは今に限らず、昔からの傾向だと思いますが)話を聞いているとやはり、教育業界を志望する学生さん達には、教員採用試験との併願組が結構、いらっしゃるようですね。

他にも、同じ業界の競合他社はもちろん、人材系、出版、ホテル業界などなど、説明会で出会う学生さん達の併願先は実に多様。
色々なタイプの人材が、教育産業で働くのは、悪いことではないと思います。

さて、そんな「併願先」の中で、しばしば登場するのが、「大学職員」。
自分がその出身であるだけに、どうしても目にとまります。
確かに、同じ「教育」であり、「若い人の支援」であるという点で、働く場所としての共通点は少なくありません。
どちらに行くにせよ、教育に関心を持ってくれる学生さんが増えるというのは、喜ばしいことだなぁ……なんて思っています。

さて、今日はこんな話題をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「母校三重大を『職場』に 採用試験に卒業生枠」(中日新聞)

母校愛を仕事に生かして-。三重大が卒業生を対象にした事務職員の採用試験を実施している。背景には優秀な人材を早く、確実に採りたい大学側の狙いがあるようだ。
これまで、国立大学は国家公務員採用試験で職員を採用。2004年の国立大学の法人化後は、各校が独自の試験をできるようになったが、現在も共通の試験を全国7地区に分けて行っている。
三重大では、昨年10月から独自試験を導入。卒業生枠で3人を採用した。ことしは、多くの学生が就職活動を行う春に試験を合わせた。他大学でも卒業生や非常勤職員からの登用試験が広がっているという。
志願者は例年、他の公務員試験との“併願組”が多い。そのため、せっかく内定を出しても、他の合否が分かる秋になって、逃げられてしまう可能性もある。そこで、大学側が「確実に三重大に来てくれる」人材に狙いを定めた面もある。
(上記記事より)

大学職員という職業の人気が、近年、高まっています。

2006年には、大阪府立大学が公立大学法人になって初めて事務職員の新規採用をしたところ、「5名程度」の募集に対して1,747人から申し込みがあり、競争率が約349倍になったということがありました。
その後も東京大学を始め、国立大学の卒業生が母校の職員を目指す動きが何度か報じられるなど、話題になっています。

(過去の関連記事)
■東大、阪大、九大など、母校に就職する国立大学生が急増

(参考)
■「教育ルネサンス:東大解剖(13) 就職先は『母校の職員』」(読売オンライン)

従来、国立大学の職員は、統一の採用試験に合格した方から採用されるのが原則でした。
現在でも、この方法によって採用される方が大半だと思います。

(例)
■「国立大学法人グループ」(リクナビ)

しかし法人化にともない、独自の採用を行う大学が増加。
それが、上記のような、「母校への就職」を増加させた要因の一つになっていると思われます。

「母校で働きたい」という想いを直接的に受け止める組みは、法人化によって初めて実現されました。
「どこかの大学職員になりたい」ではなく、「○○大学の職員になりたい」。
採用する側にとっても、応募する側にとっても、この違いは小さくないと思います。

今回、報道されている三重大学も、そんな独自採用を行う大学の一つ。
さらに、採用予定人数の中に、明確な「卒業生枠」を設けているというのがポイントです。
記事によれば、「卒業生枠」を用意する大学が増えているとのこと。

優秀な人材を確保するため。
そして、公務員試験の併願組に逃げられてしまうのを防ぐため。
記事ではそう解説されています。

能力的に優秀なだけではなく、母校のことを知り、誰よりもその魅力や欠点を実感しているという点でも、自校出身者を採用する意味はあります。
「卒業生枠」にはそんな狙いもあるのではないかと、個人的には思います。

例えば私立大学では昔から、母校に就職する学生は少なからずいました。
「基本的に卒業生からしか採用する」といった慣習が続いており、実質的に、卒業生枠のような扱いになっていたケースもあると思います。

■週刊朝日MOOK『大学ランキング』 2010年度版が発売 今回の特集は大学の「職員力」!

↑こちらでご紹介した週刊朝日『大学ランキング』の2010年度版には、「新規採用者のうち自校出身者の割合」が大学ごとに掲載されていますが、「100%」という大学も2校ありました。
自然科学系の単科大学などでは、もともと大学職員を目指す方が少ないこともあり、自校出身者は少なめかもしれませんが、人文・社会科学系の学部を持つ大学では、自校出身者だらけというのは珍しくないと思います。
強い思い入れや愛校心を持つ人材が、大学の将来を支えるスタッフの中には必要。そんな考え方を持つ私学は、少なくないでしょう。

国立大学も、法人化によってこうした考えを実行に移せるようになってきたのかも知れません。
私学以上に、様々な大学改革戦略を実現させている国立大学も今ではたくさんありますが、「採用戦略」も大きなテーマになっているのでしょう。
今後の、全国の動きが気になります。

ただ、そうは言っても国立大学法人は、私学とは存在意義からして異なります。投入されている税金の額も大きく違います。
公的な資金によって教育を受けた国立大生が、そのまま「卒業生枠」により、多額の税金によって働く国立大学法人職員になるというのは、人によっては気になるポイントかもしれません。
「卒業生枠」が大きくなりすぎたら、それはそれで議論を呼びそうな気もしますが、どうなのでしょうか。

以上、大学の人事に関するニュースをご紹介しました。

ちなみにマイスターは、母校出身のスタッフは、必要だと思っています。
それは、彼らにしかできないことや、彼らだからこそ説得力を持って語れる言葉があると思うからです。

(過去の関連記事)
■母校を語れる広報スタッフを増やそう

大学の戦略として、こうした人材を採用し、活躍の場を用意するというのは、結構大事だと思います。他の職員達に与える影響も無視できません。
これからの大学は、「想い」を持っている人によってつくられていくと思います。自校出身のスタッフは、その中心になることが期待されます。

ただ逆に、他大学の出身者や、別の業界で働いていた中途採用者も、同じように大事だと思います。
彼らにしか見えない長所や短所もありますし、違った発想の風を入れることは組織の硬直化を防くことにもつながります。

「ダイバーシティ・マネジメント」という言葉もありますが、大学のように強固な規則や運営ルールを持つ大きな組織にこそ、多様性が必要。
卒業生の視点がまったくない組織も、行き過ぎた純血主義の組織も、変革のエネルギーに欠けるという点では同じです。

大事なのはバランス。
ただ、「同じような人をたくさん集める」のではなく、違ったタイプの人間をバランス良く集めることが大事なのであり、「卒業生枠」も、「中途採用枠」も、そんな考えを実現させるための方法として活用すればいいのかな、と思います。

記事を読んで、そんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。