駒澤大学 資産運用失敗で154億円の損失

マイスターです。

アメリカの大学に倣い、日本の大学も積極的に資産運用を行うべきだ……そんな意見がここ数年、大学関係者の間で広まっています。
実際、

大学が資産運用に力を入れている。日本経済新聞社が全国の大学を対象に実施した資産運用調査によると、回答した私立大学の30%がデリバティブ(金融派生商品)を用いた仕組み債の買い増しを検討。国公立大学では地方債や政府保証債に資金を振り向ける動きが強まっている。少子化で経営財源の確保が求められ、運用の重要性が高まっていることが背景にある。
回答した176校の私大のうち、現預金や国債以外の「リスク性資産」に投資している大学は65%にのぼった。外債投資が中心だが、株式運用の経験があるところも24%あった。
(「大学、資産運用を積極化・日経調査」(NIKKEI NET 2008.1.31)記事より)

……と、大学による投資は拡大している様子。

ハーバード大学を初めとするアメリカの有力大学では、資産運用によって巨額の利益を出し、それを研究や教育への投資に振り分けるなどして、大学運営に役立てています。
アメリカの大学の強さの裏に、こうした資産運用体制があることは確かでしょう。
日本でも、そんなアメリカ式の財務体質を参考にしようということなのかと思います。

ただ、大きな利益を生む投資には、大きなリスクもつきもの。
もともとの資産が目減りする、あるいは完全に失ってしまうほどの損が出てしまう可能性だって、ゼロではありません。

【今日の大学関連ニュース】
■「駒大、資産運用損失154億円 キャンパス担保で穴埋め」(asahi.com)

駒沢大学(東京都世田谷区)が資産運用で始めたデリバティブ取引で、150億円を超える損失を出していたことが18日分かった。損失穴埋めのため今月、キャンパスの土地建物やグラウンドを担保に多額の銀行融資も受けている。大学側は事態を重く見て、17日付で調査委員会を設置。文部科学省も報告書の提出を求めた。
世界を覆う金融危機の影響が、大学経営にまで広がった。大学の説明によると、問題のデリバティブ取引は、主に金利などを交換する「金利スワップ」と「通貨スワップ」の2種で、昨年度、外資系金融機関2社と契約したという。契約額は、日本円で約100億円だった。少子化で学費などの収入減が見込まれるため、「実のある資産運用をするべきだ」と始めたという。経理担当者が窓口となり、大学理事会も了承した。
ところが、昨年後半以来の金融危機などで時価が一気に値下がり。今年3月末の昨年度決算時点で、評価損は53億円を超えた。その後も含み損は増え続けたため、結局、先月で取引を解約、損切りすることに決めたという。確定した損失額は約154億円。
穴埋めのため、大学は今月2日の臨時理事会で、みずほ銀行から110億円の融資を受けることを決定。不動産登記簿によると、大学本部にほど近い深沢キャンパスのほか、世田谷区内にある野球部グラウンドなど複数の土地建物を共同担保に、4日付で120億円の根抵当権が設定されている。
さらに、17日の臨時理事会で、経理担当者の責任が議論されたが、まず、契約のいきさつや商品の詳しい内容などを調べるため、調査委員会を設置。「損失額があまりに大きく、説明責任がある」と判断したという。委員長には、外部の弁護士が就く予定だ。
(上記記事より)

駒澤大学が、デリバティブ取引によって約154億円にわたる損失を出したとのこと。
さらにその損失を穴埋めするため、銀行から多額の融資を受けることになり、深沢キャンパスやグラウンドなどの土地建物が担保に入ったとのことです。
残念ながら、大学による投資のあり方としては「悪い見本」と言える例となってしまいました。

この一連の問題については、曹洞宗の住職の方のブログ「曹洞宗にもの申す」が詳しいです。

■「曹洞宗にもの申す」

実は大学が投資によって巨額の損失を出したということは、すでに上記ブログの11月10日のエントリーにて指摘されています。

■「驚愕の事件 ――千代川宗圓」(曹洞宗にもの申す)

その後も、常任理事(事務局長)と経理部長のお二人が、9月の段階で資金運用の失敗を予測し、すでに辞表を提出していたなどの状況をレポートされています。
曹洞宗関係者への緊急アンケートなども実施されています。ご興味のある方はご覧下さい。

なお上記ブログを受けて、J-CAST ニュースも一週間ほど前に記事をアップしています。

■「駒澤大が金融先物取引に失敗 110億円の損失を出す?」(J-CAST ニュース)

今回の問題に関しては、「そもそも公益性の高い組織である大学が、リスクの高い投資を行うべきではない」とか、「リスクも含め、投資の仕組みや内容を判断できる専門家が大学にいたのか」などなど、様々な意見が出てくるでしょう。
どれも事実だと思いますが、個人的には、リスクを含む投資を行うのであれば、そのリスクを判断できるだけのノウハウや体制を、大学側も十分に持っておく必要があるのではないか、と思います。

例えば、アメリカ型投資のモデルとしてよく引き合いに出されるハーバード大学の場合、投資の行い方は↓こんな感じです。

■目からウロコのポートフォリオ設計塾:第4回 ハーバードのポートフォリオ

彼らの基金運用は、日本の大学のそれとはまったくイメージが異なります。運用資産が、なんと、2兆4000億円。ちょうど北朝鮮のGDPと同じ金額です。総勢170人のスタッフたちが、机の上に積み上げられたいくつものディスプレイに神経を尖らせて運用業務を行う有様は、まさに投資銀行そのものであり、とても大学の事務室とは思えません。
(上記記事より)

1~2人の経理担当者が他の業務と兼任で金融機関とのやりとりをしている日本の大学とは、まるで規模感が異なります。
ちなみに、90年代はじめから2005年までハーバード大学基金の運用を担当していたジャック・メイヤー氏のチームは、この間に1兆円以上の超過リターンを稼ぎ出したプロ中のプロ。
基金の運用を担当する責任者数人の年収は、なんと数十億円にも達していたそうです。

日本の大学は、ここまで行う必要はないかもしれません。
ハーバードと違い、大学のスタッフが運用業務を直接行うわけでもないでしょうし。

ただそれでも、大事な学園の資産をリスクにさらす以上、運用に関する十分な知識を持った「プロ」が大学の中にいなければならないという点は、同じではないでしょうか。

冒頭の記事には、↓こうあります。

同大の関係者は「資産規模に対し投資額が多すぎた。大学の経営陣には金融商品に詳しい知識を持った人がおらず、認識の甘さがあった面は否めない」と話している。
「駒大、資産運用損失154億円 キャンパス担保で穴埋め」(asahi.com)記事より)

実際のところは存じ上げませんが、記事を読む限り、十分な知識を持たない大学側が、金融機関の担当者の言うがままに資産を預けてしまったのかな、という印象を受けます。
今となっては後の祭りですが、金融関係から優秀な方を引き抜いて資産運用関係の担当者にしていれば、(リスクの高い投資を行わない、という判断も含め)リスクをある程度、回避できたかも知れません。

最後に、冒頭の記事には、

日本私立学校振興・共済事業団によると、05年度の集計では、全国約650の大学・短期大学のうち、少なくとも75大学がデリバティブ取引を行っていた。
「駒大、資産運用損失154億円 キャンパス担保で穴埋め」(asahi.com)記事より)

……という記述もあります。
今回の金融ショックで、これらの大学も少なからずダメージを受けていることは、想像に難くありません。
駒澤大学の事例は、氷山の一角でしょう。
明快な情報開示が求められるところです。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。