マイスターです。
■「読売調査「大学の実力」(1):大学の教育方針を知るには、卒業率や退学率の数字が必要」(読売オンライン)
■「読売調査「大学の実力」(2):今後は自主的な情報公開が望まれる」(読売オンライン)
↑先日、本ブログでもご紹介した読売新聞の調査「大学の実力」について、読売新聞の方に反響が届いているようです。
この「反響」からも、考えさせられることが多いです。
【今日の大学関連ニュース】
■「『大学の実力』調査反響」(読売オンライン)
先月20、21日に掲載した「大学の実力 教育力向上への取り組み」調査に対する反響が続いている。大学の自己評価に対して厳しい意見が多い。
調査結果について「大学のことを考えるいい機会になった」と志望校選びに悩む高校3年生からメールが届いた。
総合自己評価で「A」を付けた大学の学生は「正直に言って驚いている」。「大学からのテストの日程や補講の連絡が不足し、迷惑を被っている」という実態を知らせるとともに、「出席確認をすませば、すぐに教室を出てしまうような、モラルのない一部学生のため集中できない授業がほとんどだ」と訴えた。
(略)「大学名や偏差値だけの進路指導で大学を選ばせたことを大変後悔している」という保護者は「大学の在り方、若者の在り方で、これからの日本社会も生きるか死ぬかになると思う」と大学の自覚を求め、学生への指導に注文を付けた。
(上記記事より)
高校生や大学生、保護者などからの意見から。
こういった反響が届くというのは、まさに記事を担当された方々の思惑通りでしょう。
総合自己評価で「A」を付けた大学の学生が、「実態と違う」というメールを送ってきたというのは、興味深いです。
こういった評価をじっくり読むのは、どちらかというと受験生よりも、その大学に通っている学生や教職員かもしれないとマイスターは思うのですが、今後、こういった「本当はやっていない」という告発(?)が、ネット上で出てくるかも知れないと、ちょっと思いました。
当事者の大学からは、教育を見直す上で「刺激になった」とする声も多かった。非回答校を列挙すべきだと提案する私大の教員もいた。一方で、大学内の関係者から「誰が回答したか不明なので教えて」「これから回答できないか」といった、理解に苦しむ問い合わせも相次いだ。
(上記記事より)
「理解に苦しむ問い合わせ」と、思わず記者の方が感情的な記述をしてしまっていますが、マイスターも同感です。
おそらく読売新聞社からは、広報部などの然るべき窓口に対して、公式に調査依頼を送っているはずです。
「誰が回答したか不明なので教えて」というのは、普段から大学の広報体制が一本化されていない、あるいは公式に外部の取材や調査に対応するガバナンスが整っていないことの証明みたいなもの。
おそらく、「誰が回答したか不明なので教えて」という質問の実態としては、
「どこのどいつがこんな数字を出したんだ!? ケシカラン! 今度の教授会で突き上げるつもりだから、回答者の名前を教えろ」
……と、大学内の教員や職員(あるいは卒業生等)が、怒り口調で読売新聞社に抗議めいた電話でもしたのだろうとマイスターは想像したりするのですが、これはこれで、どうかと思います。
読売新聞は、大学が「公式に」寄せてきた結果をまとめて掲載しただけ。
報道云々にかかわらず、各大学の内部では、そういった数字は共有されているのが正常な状態のはずです。
普段からきちんとこういった数字を学内外で共有していれば、今さら報道一つで学内が揺れることもないのにというのが、マイスターの意見です。
「これから回答できないか」なんてのも、報道に携わる方から見たら、「理解に苦しむ」質問でしょう。
広報部がすぐに数字を調べられなかったのか、それとも担当部署の責任者が安易に「こんなの公表する必要はない」と判断し、報道後に学内で突き上げられて方針転換したのか。
いずれにしてもこうした対応を行う大学が、普段から、あまり良いマネジメントを行っているとは言い難いと思います。
報道後、学内で色々紛糾した大学が多かったんだろうなぁ……と思う理由は、他にもあります。
例えば↓こちら。
「大学の実力」調査の数値修正 「大学の実力 教育力向上への取り組み」調査で、個々の大学から数値の訂正がありました。この結果、平均2・6%とした昨年度1年間の退学率(先月20日朝刊1面掲載)は2・5%となります。訂正は以下の通り。
▽千葉工業大=退学率〈1〉27%→13・1%、退学率〈2〉11%→3・3%▽神戸松蔭女子学院大=退学率〈2〉10・16%→3・4%▽目白大=退学率〈2〉11・5%→5%▽神戸薬科大=退学率〈1〉8%→5・7%、退学率〈2〉3・5%→2・8%▽早稲田大=専任教員法定数290→791▽甲南大=定員数6820→7060
(上記記事より)
大学の「公式回答」だったにもかかわらず、報道後に大学からの訂正が相次ぐ、この異常事態。
先ほどマイスターが書いたように、「この数字を出したのは誰だ!?」という騒ぎが起きた大学も多かったのではないかと想像されます。
「退学率が間違っていた」という大学が多く、いくつかの大学では、公式サイトでも訂正を行っています。
■「読売新聞掲載の『大学の実力 教育力向上への取組み』調査に係る本学中途退学率の算出錯誤について」(目白大学)
■「『大学の実力調査』(読売新聞7月21日付朝刊)のデータの訂正について」(神戸松蔭女子学院大学 )
今回の調査で問われた退学率は2種類ですが、
※退学率〈1〉=2004年4月入学者のうち卒業時までの退学・除籍者
退学率〈2〉=07年4月入学者のうち今年5月1日までの退学・除籍者
……と、いずれも決して複雑な定義ではありません。
学年ごとに、誰が退学しているかという基本的なデータを持っていれば、難なく算出できるものです。
退学率(1)に至っては、聞かれる前に、大学内で調べて共有しておくべき数字です。
だって本来、こういった数字を理解していないと、自分達の教育の実態が判断できないのですから。
マイスターが思うに、少なからぬ大学では、今回の調査が行われるまで、こういった数値をきちんと調査・管理していなかったのではないでしょうか。
ここまで単純な数字の算出方法を間違えるというのは、「こういったことを管理している担当者がいない」ということ以外の何物でもないと思います。
(それでも、「自分達のミスでした」と訂正を行っている大学は、対応姿勢として評価できます)
ただ、敢えて申し上げておくと、「専任教員法定数」を290から791に訂正した早稲田大学は、さすがにどうかと思いました。
これほど重要な数字を、誤差とか計算漏れとかいう範囲を超えて間違い、しかもこの間違った数字を、一度は大学の公式回答として外部に発信してしまったわけです。大学のマネジメント体制に、見直すべき部分がないでしょうか。
ついでに申し上げると、今回の調査では、早稲田大学の「退学率」が公表されておりません。数字の善し悪しにかかわらず主要な大学がほとんど情報を公開している中で、非常に目立っておりました。
卒業生数、在学生数共に日本トップクラスの規模を誇り、多くの受験生を集め、社会のリーダーを数多く送り出し「私学の雄」を自称している大学としては、自信を持って堂々と公開していただきたかったというのが、マイスターを含め、世の多くの方々の感想だと思うのですが、いかがでしょうか。
どうして公開しなかったのか、理由を知りたいところです。
最後に。
情報公開を控える大学がある一方で、今回の調査の結果を大学としてPRするところもありました。
■「読売新聞社が実施した『大学の実力』調査において愛媛大学が西日本1位に」(愛媛大学)
普段から大学が自分で語っている特色や長所を裏付ける証拠として、調査の結果が使われるというのが、こういった調査の一番良いあり方なのではないかと思います。
以上、マイスターでした。
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※前回、書き忘れましたが、読売新聞の調査でマイスターが感心したのは、「退学率」や「標準年限卒業率」順のランキング形式で、結果を並べなかったというところです。
もし退学率順の表にしていたら、その数字が一人歩きをし、「退学や留年をさせる大学=良くない大学」という印象が読者に残ったでしょう。
実際には、厳しく鍛え上げることにこだわる結果として、退学率が高くなったり、標準年限卒業率が低くなっている大学もあるはず。
総合的に大学を評価する材料として数字を見てもらうには、今回のような地域別の表で正解だったと思います。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
基本的に、このような調査の場合には、学年制で通年授業を行っている大学を想定して行われます。画一的な質問で、無理やり数字を押し込んだ感じでアンケートに答えました。例えば、退学の日付を3月31日付け退学としている大学もあれば、4月1日付け退学としている大学もあります。学生が退学を希望した場合、前者の大学であれば、4月の新学期始めに(例えばガイダンス時)退学を申し出ると『うちの大学は、3月31日付け退学でなければ退学として処理できないので、4月になって年度も替わったので、このまま何も手続きを行わなければ除籍になりますよ。』となります。この場合には、退学者数には含まれない事になります。逆に4月1日付け退学制度の大学では、4月の10日前後にガイダンスがあり(どの大学も一般的に)ガイダンス時などに退学を申し出ると、『4月中に退学届けを提出すれば、退学を4月1日付けで処理して受理しますよ。』となるでしょう。確かに、このような細かなことを差し引いても興味深い調査ではありますが。秋学期(10月)入試を行っていたり、秋卒業を行っていたり、学年制を行っていないがために、誰を1年生と規程していいのか不明であったり、編入学生を受け入れていたり、飛び級制度で大学院入学を認めていたり、大学によって学則も違い、一つの物差しで集計することに矛盾を感じながら、読売新聞からのアンケートに答えました(担当者として)。文部科学省から在籍者に関する調査依頼が全国の大学を対象に行われますが、それは5月1日現在の在籍人数の調査です。この在籍者数によって、私学助成金額が決定することは、マイスターさんもご存知でしょうが社会的にも周知の事実です。学費が未納で除籍となってしまっても、学費納入期限を過ぎて入金した学生は、除籍から復籍となります。退学と除籍は違うのですが・・・。勿論、大学によって、退学や休学以外にも除籍や再入学などもルール(学則)が違います。調査結果を公表して、社会全体で考える良い機会ですが、何かしらの数字で比較する場合には、ルール統一のうえで、行うべきなのではないでしょうか。ちなみに、休学をして海外へ留学を希望する学生には、退学して再入学するように指導しています。休学中は、在籍期間に含まれず、かつ学費が係るためです(休学期間中は、学費の半額)。退学し再入学する場合には、退学には費用が係りませんし、再入学は再入学金(入学金の半額)のみで退学時の元の学科に戻れるため、本学では退学を推奨しています。編入学者数の調査はありますが、再入学に関しては調査を依頼された記憶がありません。調査に関する反響でも、きっとアンケーロに応えた担当者は、学則が違う大学同士を比較したって・・・、規模もルールも違うものを比較したって・・・、と、諦めているから大学内部から(担当者として)反響にすらならないんでしょうね。
こんにちは。
数字の訂正には、各大学で色々な理由があると思いますが、読売新聞の調査用紙に一部誤りがあったために、間違った数字を出した大学もあったみたいです。
つまり、大学側だけの責任ではないのですが、読売新聞は、自社の誤りについては何も触れていません。