「中退」について考えよう

マイスターです。

大学業界で盛んに取り上げられているトピックは、いくつかあります。

最近は学士教育、特に「初年次教育」や、「リメディアル教育」などが注目されています。
AO入試、推薦入試が早期化したいま、「入学前教育」も、熱いトピックですね。
いずれも日本の教育システム全体が関わるトピックで、大学だけで完結した話ではありません。

そんな熱いトピックのひとつに、「中退問題」があります。

日本の高等教育関係者の間で、「中退」というテーマが積極的に話されるようになってきたのは、つい最近のことです。

大学が入試を多様化させる中、せっかく入学しても授業の内容が理解できず、そのまま中退してしまう学生が増えていると言われています。

入学後も友人が出来ず、居場所がつくれないままキャンパスを去る大学生の話も、よく耳にするようになりました。昼食を食べる友人がおらず、一人で食事をする姿を見られたくないという理由から、「便所飯」をする学生のことが、しばしばメディアなどでも取り上げられていますね。

入学した後、選んだ専攻が「本当にやりたいことではない」と気づいた。大学の授業や周囲の人間達に失望した……といった理由から、退学という選択をする学生もいます。
実際、日本私立学校振興・共済事業団が、平成17 年度の私立大学の中退者5万5,500人を調査した結果があるのですが、中退理由の上位は、

・「他大学への再入学や編入学などの進路変更」 21.0%
・「経済的困窮」 18.6%
・「就学意欲の低下」 14.2%

……で、「進路変更」が非常に目立ちます。

大学では、こうした中退者を減少させることが課題になっています。
少子化によって定員割れの大学・学部学科も増えている中、せっかく入学した学生が出て行くのを見過ごせる余裕は、大学の経営陣にはありません。

それなら最初から、自校の教育ミッションにマッチする受験生を集めるような広報・学生募集活動を行えば、ミスマッチも減って、学生・大学双方ともに良いと思われるのですが、意外にも、そうした観点での取り組みはありません。

なぜなら大学経営陣がもっとも関心を寄せるのが、「受験者数」だからです。
受験者が多ければ多いほど一般入試の競争率が上がり、「偏差値」が上昇します。

今でも多くの予備校が、大学名を偏差値順に上から並べたような表を作成し、「偏差値が高い大学ほど、良い大学だ」という受験指導を行っているようです。
本当は、単に「受験生が多かった大学」という意味合いしかないのですが、いつの間にかそれが逆転し、見かけの競争率を上げて偏差値が上昇すれば、大学の評価が上がるという仕組みになってしまいました。
結果、「ライバル校より一人でも多くの受験者を集めろ」というのは、大学組織、特に入試広報部門の至上命題となっています。

ミスマッチを減らすというのは、究極的に言えば

「受験までに大学の教育ミッションを誤解なく伝え、良い部分も悪い部分も理解してもらう。
 合わないと思ったら受験しないでもらう」

……ということなのですが、上述したような受験者数至上の中では、このように自ら数を絞るような広報活動が行われるはずもありません。
大学のパンフレットやwebサイトを見てみれば、それはわかります。総花的なPRばかりで、「世の中に生きるすべての18歳にぴったり合う大学」くらいの情報しか掲載されておりません。

ミスマッチをなくして中退者を減少させるよりも、受験者数を増やす施策を選ばざるを得ないのが、大学の現状なのです。
しかしその結果が、大学経営のプラスになっているようには、客観的に見てもあまり思えない。
大学にとっても、学生にとっても、あまりハッピーではない状況です。

(過去の関連記事)
■読売調査「大学の実力」(1):大学の教育方針を知るには、卒業率や退学率の数字が必要
■読売調査「大学の実力」(2):今後は自主的な情報公開が望まれる
■読売調査「大学の実力」(3):報道の後、大学内で何が起きたか?

↑「退学率」のデータ自体、大学は長く、公表してきませんでした。読売新聞という「外圧」があって、ここしばらくになり、初めて公表したのです。

そこには「退学者が多いとわかったら、学生が集まらなくなるのでは」という考えがあったに違いありません。でも、いま行っている教育や、自分たちが作っている教育環境に自信があるなら、胸を張って公表すればいいのにと、私などは思います。

読売新聞「大学の実力」調査によれば、東京外国語大学では、4年間で卒業する学生は半分以下。これは、多くの学生が積極的に留学した結果です。
東京理科大学では、1割が卒業できずに大学を去ります。4年で卒業できない学生も、3割います。これは同校の厳しい教育の結果で、これが社会からの信頼に結びついているのです。

むしろ堂々と数字をアピールすれば、他にまねできない大学の教育力を伝える何よりの広報になると思うのですが、こうしたことは、社会に語ってはいけないことのように大学関係者は思われているのかもしれません。

以上、「退学」について、大学の広報や経営の視点で考えましたが、当の「中退者」はどう考えているのでしょうか。

これについて最近、非常に興味深い活動があります。

■日本中退予防研究所

「日本中退予防研究所」は、NEWVERYというNPO法人を中心に立ち上げられた、非営利団体です。
中退に関するデータや、中退者の声を収集してまとめられた「中退白書」も発行されています。

■『中退白書2010 高等教育機関からの中退』

この中退白書は、私も見つけてすぐ取り寄せました。
大学に限らず、中退に関する様々なデータが掲載されていますので、教育関係の方には参考になるのではと思います。

また今週末に、シンポジウムも開催されるそうです。

■『中退白書』発刊記念シンポジウム開催のお知らせ

↑まだ申込みできるようですので、こちらもよろしければどうぞ。
「大学の実力」調査を担当された読売新聞の松本美奈記者も登壇者に名を連ねているなど、興味深い内容です。

「中退者」の側は何を考え、どのような理由で中退を選択したのか。
大学を始め、教育関係者にとっては、非常に参考になる話が聞けると思います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • まぁ 合わないんですね とにかく大学が 大人数というか 

  • 退学については昔にほんの少しだけ研究したことがあります。「やめたい」という気持ちは誰しも持つものだと思います。それを克服するのは、本人の努力や学校の努力もありますが、人間関係が大きく影響しているようです。友人や家族など。人間関係を作っていくことができる仕掛けをいかに作っていくかが実は大学に課せられた課題なのでしょう。
    また、ミスマッチですが、これは何も大学の広報の問題だけでも高校の進路指導のせいだけでもないと思います。入学、卒業後の進路が大学よりもはっきりしている(と思われる)専門学校でも起こっている問題です。
    自分が高校生のときよりも大学の情報発信は比べ物にならないくらい多いですし、オープンキャンパスもガンガンやってます。
    ミスマッチとは何がマッチしていないのか。自分のイメージとぴったり一致していることのほうがおかしいと思います。教育は中身を十二分に知った上での買い物とは異なるものなので、絶えずミスマッチは生じるからです。ミスマッチも由々しき問題ですが、どのように学問に興味関心を持たせるかも仕掛けていかないといけない時代になっているのではないでしょうか。