マイスターです。
総選挙が終わり、与野党が入れ替わる結果となりました。
テレビは、選挙一色でしたね。
ちなみに、TSUTAYAに来店するお客さんの数が年間で最も多かったのは総選挙の日だという話を、TSUTAYAの人から聞いたことがあります。選挙報道だらけで、テレビがつまらなくなるからだとか。
選挙報道、おもしろいのに。
さて、選挙前から色々なメディアが、各政党(特に自民党と民主党)の政策の違いを比較しておりました。
その中から、大学や、教育に関係する話題を、いくつかご紹介したいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「教育費、家計負担軽くなる? 〈総選挙〉政策・公約チェック(上)」(asahi.com)
■「教育の中身、充実できるか 〈総選挙〉政策・公約チェック(下)」(asahi.com)
↑選挙前のものですが、こちらのasahi.comの記事に、教育に関する政策がわかりやすくまとめられています。
自民は、返済しなくていい「給付型」の奨学金制度を高校生、大学生について設けることを目玉に掲げる。「今でも家計が苦しいのに、さらに借金が増えたら返済の負担に耐えられない」。そう考えて奨学金を利用せず進学をあきらめる学生は少なくない。ならば「給付型」で支援しようという考えだ。
(略)低所得層を重点的に支援するこうした与党側の政策に対し、「高校無償化」で全体を支援するというのが民主案だ。政権をとれば10年度から実施するとしている。
具体的には、公立高校生の家庭に、年間授業料に相当する12万円程度の就学支援金を出して実質的に無償化。私立の家庭にも同じく年間12万円程度を出し、低所得者には倍の24万円程度を支給する。大学生向けには希望者全員が受けられる奨学金制度を創設するとしている。
高校無償化は、民主、社民、国民新の3党が合意した「共通政策」にも盛り込まれた。共闘関係にある新党日本も高校無償化を掲げる。
(上記記事より)
誰もが気づいていることですが、選挙前に政党が掲げるマニフェストや公約には、妙に耳あたりの良い内容が少なくありません。
具体的な実現方法や数字は書かれていないし、その裏にある当然の負担などへの言及はゼロ。
上記の自民党の政策なんて、
「そう思っていたなら、どうして今までやらなかったの」
と、たいていのひとがツッコミたくなるのでは。
個人的には、「それが実現できなかった理由」の方を、詳しく語って欲しいです。
……なんてことを言っていると話が先に進みませんので、民主党の政策に注目してみます。
民主党が今回、マニフェストの目玉として掲げたのが、公立高校の実質無償化、および私立高校生の学費負担軽減。
民主党webサイトに掲載されているマニフェストには、以下のように記述されています。
【政策目的】
○家庭の状況にかかわらず、全ての意志ある高校生・大学生が安心して勉学に打ち込める社会をつくる。
【具体策】
○公立高校生のいる世帯に対し、授業料相当額を助成し、実質的に授業料を無料とする。
○私立高校生のいる世帯に対し、年額12万円(低所得世帯は24万円)の助成を行う。
○大学などの学生に、希望者全員が受けられる奨学金制度を創設する。
【所要額】
9000億円程度
(「民主党の政権政策Manifesto2009」(民主党)より)
大学生のための奨学金制度についても言及されていますが、具体的な数字もなく、極めてあいまいな内容。その点で民主党は、他の政党に比べると、高校生の学費に主張を絞っているという印象です。
高校の学費も、確かに大きなテーマです。
私立に比べれば安いとはいえ、公立高校だってそれなりに学費はかかりますから、授業料が無料になるというのなら、家庭からは歓迎されることでしょう。
(「授業料無料」ってことは、入学金やその他の諸費用は自己負担?)
私学も同様です。
以前の記事でもご紹介させていただきましたが、昨今では、高校での学費滞納者の増加が問題になっています。
日本私立中学高等学校連合会が、私立高校の学費滞納状況を調査した結果では、913,830人の回答者の内、滞納者は24,490人。割合で言うと2.7%で、これは前年の3倍にあたります。
首都圏などでは、公立中学校ではなく、私立の中高一貫校に進学させる家庭も増えていますから、私学でも学費負担が軽減されるという内容は、注目を集めるかもしれません。
マイスターはこれを見て、「教育バウチャー制度」という政策を思い出しました。
これは、学費として使えるクーポン券(バウチャー)を家庭に配付するというもので、アメリカをはじめ、各国で議論、あるいは導入されている仕組み。
家庭は、そのバウチャーを公立学校に使っても、私立学校に使ってもいいのです。
公立学校に進学すれば、バウチャーによって学費負担はほとんどなくなります。私立に進学した場合は、学費の一部分をバウチャーで支払い、残りを自己負担すればいいわけです。
私立学校と公立学校の学費負担の格差を減らし、学校選択の幅を拡げることで、教育全体の競争力を上げようという政策です。
翻って日本の公立学校の学費の内訳を見ると、「授業料」に相当するのはだいたい年間で12万円ほど。ですから今回の民主党の政策は、諸外国の教育バウチャー制度と、実質的にはほとんど同じことをやっているわけです。
「バウチャー」という言葉を使わなかったのは、わかりやすさを優先した結果でしょうか。
■「大阪府、高校生支援協議を当面停止…民主政権発足で様子見」(読売オンライン)
↑さっそく、こんなところに影響が出ているようです。
そして民主党マニフェストの、もうひとつの目玉が、年額31万2000円の「子ども手当」創設。
民主党webサイトでは、以下のように説明されています。
【政策目的】
○次代の社会を担う子ども1人ひとりの育ちを社会全体で応援する。
○子育ての経済的負担を軽減し、安心して出産し、子どもが育てられる社会をつくる。
【具体策】
○中学卒業までの子ども1人当たり年31万2000円(月額2万6000円)の「子ども手当」を創設する(平成22年度は半額)。
○相対的に高所得者に有利な所得控除から、中・低所得者に有利な手当などへ切り替える。
【所要額】
5.3兆円程度
(「民主党の政権政策Manifesto2009」(民主党)より)
結構な大盤振る舞いで、かかる予算もかなりのもの。
これこそ、教育や保育・育児目的に限定したバウチャーにするという手もあったような気はしますが、敢えて現金にした理由も、きっとあるのでしょう。
どの程度の効果があがるのか、他にもっと効果的な使い方は無いのか、といった疑問もあるとは思いますが、結局のところは「やってみないとわからない」のかも。
あるいは諸外国に、似たような事例があるのでしょうか。
■「子ども手当はいつから? 役所に問い合わせ」(苫小牧民法社)
↑こちらの政策については、既にこんな問い合わせが各地で寄せられているそうです。
教育に対する日本の公費支出は他の先進国より格段に低く、その分を家庭が負わされている――。こんな指摘は言われて久しい。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の国内総生産(GDP)比の教育予算は先進国の最低レベル。05年のデータは3.4%と、資料がある28カ国で最低だ。
今回の総選挙では、ほとんどの政党がこれをOECDの平均レベル(5%)に引き上げるとうたっている。自民、公明、共産は数値を入れずに「OECD諸国並み」とし、民主や社民は「5%」と明記している。
(「教育費、家計負担軽くなる? 〈総選挙〉政策・公約チェック(上)」(asahi.com)記事より)
教育に対する公費支出の低さ、これもよく言及されますね。
民主党は、OECDの平均レベルである「GDP比5%」にこれを引き上げると明記しているそうです。
また国立大学の運営費交付金に関しても、実は言及されています。
大学を運営する基盤的な経費として国から各国立大学に交付される「運営費交付金」は政府の財政再建路線のもとで削減が続いており、小泉政権が閣議決定した経済財政運営の基本方針「骨太06」で対前年度比1%削減を07年度から11年度まで続けることが決まっている。
04年度に総額1兆2415億円だった交付金は、09年度は1兆1695億円。5年で720億円が削られた。国立大からは削減方針の撤廃を求める声が繰り返し上がっている。
自民は公約で運営費交付金を「充実」させると表現しているが、同党の幹部の一人は「増やすのは財政的に困難。従来の削減方針を変えるということではない」。
これに対し、民主は「自公政権の削減方針を見直す」と訴え、共産は「削減された720億円を直ちに復活させる」、社民は削減方針を「転換」するとしている。
そもそも、大学などの高等教育機関に対する日本の公財政支出は、対国内総生産(GDP)比0.5%で、OECD加盟国では最下位だ。
しかも、支出の変化をみると、00年の額を100とした場合、05年はイギリス148、アメリカ132、韓国136、OECD平均は127でいずれも100を超えているのに対し、日本は93。加盟国で100を切ったのは日本だけだ。
政権交代すれば、大学への予算配分が手厚くなるかもしれない――。文科省にはほのかな期待感が漂うが、運営費交付金は1%削減するだけで100億円が浮くことから、省内には「他の政策を実現するため、引き続き削減のターゲットにされる可能性がある」との見方もある。
(「教育の中身、充実できるか 〈総選挙〉政策・公約チェック(下)」(asahi.com)記事より)
耳あたりは非常にいいのですが、各メディアは、こうした公約やマニフェストについて
「財源はどうなっているのか」
「本当に実現可能なのか」
……といった指摘をしています。そりゃあ、そうですよね。
現在の無駄をなくせば大丈夫とか、色々と各政党とも主張してはいるのですが、実際のところ曖昧な部分も多く、実現可能性が疑わしい部分があるように思えます。
実際、上の記事にも、
自民は公約で運営費交付金を「充実」させると表現しているが、同党の幹部の一人は「増やすのは財政的に困難。従来の削減方針を変えるということではない」。
……という記述。
なんじゃそりゃ、と思ったのはマイスターだけではないはず。
政治家って……。
民主党は、国立大学の運営費交付金の削減路線を見直す、と主張しているそうですが、こちらも「見直す」の内容を、あまりアテにしない方がいいかもしれません。
民主党も自民党も、「選挙対策のために打ち出した公約」、という印象はやはり残ります。
「財政再建」もまた、先延ばしにし続けるわけにはいかない、重要な課題には違いありません。
それと、上記のようなお金のかかる政策をどう両立させるのかが、やはり気になるところです。
ここからは、選挙を受けて個人的に感じたことを。
上記のような分析って、選挙のたびに、誰かが必ずやっているのですよね。
今回は、50年以上続いた体制が変わるということで、従来以上に政策の中身が注目されているのだと思います。
でも、これも多くのメディアが既に指摘していることですが、そう簡単には、そして急激には、物事は変えられません。
もちろん、政治に対する期待は大きくて当然ですし、強い期待がかかって然るべきだと思います。
ただ、特効薬のように、政権が変わっただけですべてが自動的に良くなるというものでもありません。
そんな都合の良い方法があったら、ほとんど魔法です。
日本のマスメディアや私たち国民は、政治を短いスパンで評価しがちです。
しかし、50年続いた体制を本気で変えようと思うのなら、どんなことでも数年はかかるでしょう。分野によっては、10年以上かかるかもしれません。
新政府に対する監視や評価は大事ですが、「すぐに行動に移したか」と、「すぐに効果が現れたか」を分けて考えるくらいがちょうど良いかもしれません。
もうひとつ。
マイスターはいつも思うのですが、政治家の仕事って、国民のために国を良くしてくれるのではないのですよね。
国を良くするのは私たち国民一人一人なのであって、政治家は、国民一人一人が力を発揮できるよう、最高の環境を用意するのが仕事なのではないでしょうか。
(外交など特殊な例外分野もありますが)
今回の選挙では、一般視聴者のコメントを紹介するテレビやネットメディアが少なくありませんでした。
その中には、
「自分たちが民主党を選んでやったのだから、自分の生活が良くならなかったら、ただじゃおかないぞ」
……という、上から目線の「受益者」、「消費者」としてのコメントが、少なからず混じっていたように思います。
気持ちとしてはわかります。
ただ個人的には、これではどんな素晴らしい政治家が首相になろうとも、日本という国は良くならないと感じます。
ケネディ大統領の有名な演説に、「あなたの国家があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたがあなたの国家のために何ができるかを考えて欲しい」というものがありますが、今の日本が置かれている状況と、今後の国の行く末を考えるなら、必要なのはこちらの精神ではないでしょうか。
大学をはじめとする教育政策も同じ。
特に大学教育を取り巻く議論では、「国が悪いから、政治家や官僚はどうにかしろ」という意見がフォーカスされがちです。今回の政権交代を受けて、きっと今後もしばらく、こういった意見が様々なところで出るでしょう。
確かに制度的な問題を解決するのは政府の仕事ですし、それが極めて大事であることも事実。
でもだからといって、都合の悪いことをすべて「お上」のせいにしてしまうのは極端です。
「自分たちがすべきこと」と、「どうしても国にやってもらわなければならないこと」とを議論するのは、自分も含め、業界で働いている人間の責任ではないでしょうか。
結論として、個人的には、政治には「期待はするけど、アテにはしない」くらいのスタンスがちょうど良いのではないかと思います。
日本のマスメディアは、話題的に「頭を使わなくてもわかりやすく盛り上がれる」報道の仕方をしますので、半月も経てば、きっと新政権のあら探しばかりになるでしょう。
でも個人的には、期待はすれどもアテにはせず、自分にできることを粛々とし続けようかなと思うのです。
以上、選挙報道を見ながら、そんなことを考えていたマイスターでした。
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(おまけ)
今回、色々な政党のCMなどが話題になっています。
一方、あまり話題になっていませんが、各政党が用意しているパンフレットも実はすごいです。
■「政策パンフレット」(自民党)
↑たとえばこちら。
いわゆる「ネガティブキャンペーン」ですが、それにしてもライバル政党批判のパンフレット内容が過激です……。ご興味のある方はのぞいてみてください。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
最近、テレビが盛んに「脱官僚」というのに悪い予感がします。
しかし、政治家が官僚に対して教育(特に高等教育)を理解しているとは思えません。
政治家の政策で学校をあらぬ方向に転換しないよう願っています。