マイスターです。
読売新聞の「教育ルネサンス」で、「中国 大学事情」という連載が始まっています。
2本の記事がサイトにアップされていますが、なかなか興味深い内容です。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「中国 大学事情(1):あこがれの上海、就職難 大卒集う『求職小屋』」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20070807us41.htm
■「中国 大学事情(2):マンモス化 借金も莫大」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20070808us41.htm
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一本目の記事は、中国の大学卒業生達が就職難に陥っている現状を取材したものです。
日本でも少し前に、バブル崩壊による経済の冷え込みを主な理由とした「就職氷河期」がありました。
中国の就職難は、それとは少々、事情が異なります。
「就職難」とは言っても、「選ばなければ職はある。ただ、大卒者に見合う職が不足している」と王さん。「世界の工場」として発展した中国では、ブルーカラーの求人が拡大して人材難に陥る一方、ホワイトカラーを受け入れる産業の発展が遅れ、大学の拡大に追いついていない。これが大学生の就職難を大きな問題にしている。
就職難で初任給も下がった。10年ほど前に月3000~1万元だった学部卒の初任給は、今では1000~3000元、中にはさらに低くても満足せざるを得ない。試用期間と称してただ働きさせ、就職はさせない例まであるという。
(略)大学生の就職難には、中国の大学が急増したことが背景にある。大学と、日本の短大や専門学校に相当する専科学校・職業技術学院は1998年の1022校から、2006年には1876校に増えた。社会人向けの高等教育機関も含めると2311校に上る。
入学者数も98年の108万人から06年には546万人と5倍以上に。日本の高等教育機関進学者(約72万人)の7倍以上になった。
それでも18歳から22歳までの人口に占める高等教育機関への進学率は約2割だが、中国政府は2020年に3000万人に増やす目標も持っている。
(「中国 大学事情(1):あこがれの上海、就職難 大卒集う『求職小屋』」(読売オンライン)より。強調部分はマイスターによる)
ご存じの通り中国経済は急成長中。仕事もそれなりにありそうなものですが、上記の通り、需要と供給が、内容・量ともに、マッチしていないのです。
中国で好調なのは、ブルーカラーを中心とする工場生産。
で、高等教育が急拡大した結果、大卒の人材が大量に世の中に出回っても、それだけの人材を吸収できるだけのホワイトカラー産業が、まだできあがっていないのです。
「将来のために」と苦労して大学に行った結果、かえって選択肢を狭めているという、このジレンマ。
日本でも、大卒、大学院卒が職を得られず長年フリーターをやっていたり、本当は大卒なのに偽って高卒枠で市役所の職を得ていた方々が大量に発覚し問題になったりしていますが、中国でも同様の事例が出てくるかも知れません。
どの国でもあることですが、職に就けない若者を放置していると、街中で暴動を起こしたりします。
中国の場合、いま暴動を起こされると困る理由がたくさんありそうですし、指導者の方々も頭を悩ませているのではないかと思われます。
二つめの記事は、中国の大学経営に関するものです。
国内でそれなりの地位を占める吉林大学が、日本円にして約500億円もの債務を抱えていた、という事実を紹介しています。
1946年設立の東北行政学院を前身とする吉林大学は、「211工程(プロジェクト)」や「985工程」といった、中国政府がエリート大学育成のために始めた競争的資金を獲得できる地位を占める。
その地位を固めたのが、大規模な合併だ。2000年に、エンジンやトラクターの開発に実績を持つ吉林工業大学をはじめ、白求恩医科大学、長春科技大学、長春郵電学院と合併。04年には中国人民解放軍軍需大学も加わった。その結果、総敷地面積は計611万平方メートル(東京ドーム130個分)、教員数6200人、学生数6万3300人のマンモス大学ができあがった。
中国の大学は激しい競争下にある。95年に多くの大学が国家管理から地方管理へと、いわば分権化、自由化され、99年からは高等教育機関を増やす政策がとられた。予算は実績や評価で決まり、規模や学生数、就職率も対象になる。質はもちろんだが、「規模は力」なのだ。
拡大・合併の資金を提供する銀行にとっても、大学は安心できる貸付先となる。地方政府の官僚にとっても地域の発展が実績ともなる。「官・学・銀行」の3者が組んで無軌道な貸借が繰り返されたとみられている。
しかし、自らの大学の窮状に無関心な教員が多いようだ。契約にあったボーナスは一度も払われたことがないし、残業代も出ないというが「中国では、給料もあいまいな部分があるものだ。働けるだけマシ」という教員もいる。「自力ではどうしようもない。でも大学はつぶせないから、いずれ国が何とかする。中国では、いつもそうだ」と予想する教員もいる。
中国国内では同様に借金を抱えた大学も多いとされるが、キャンパスから危機感は感じられなかった。
(「中国 大学事情(2):マンモス化 借金も莫大」(読売オンライン)より。強調部分はマイスターによる)
様々な国際大学ランキングを見てみると、この数年、アジアの大学の伸びが著しいことが分かります。
特に理工系の研究分野では、あと50年もしたら、ランキング上位100校の半数はアジアの大学になるのではないか、という人もいます。
中でも成長が予想されるのが、中国の大学です。
現在は日本がアジアの科学技術をリードしているようですが、今や中国は「世界の工場」に加え、「世界の研究所」としての地歩も固めつつあります。
50年後は科学技術の研究・開発において、質・量ともに、日本は中国に追い抜かれているかもしれない、なんていう声も、しばしば耳にします。
……が、現在のところ、上記の記事にあるように中国の大学は、かなり危ういバランスの上に成り立っているのかもしれません。
(中国の場合、やはり大学スタッフは、「ザ・官僚!」みたいな方々なのでしょうか……? だとしたら、中国にこそ「大学アドミニストレーター養成学校」みたいなものが必要なのかも)
というわけで、中国の大学について、各種のランキングやニュースで伝わってくるのとはとは違った面が見られる特集のようです。
今後の記事にも、注目したいところです。
以上、マイスターでした。