「技術大国 『ドイツ』 危うし エンジニア不足が深刻化」

マイスターです。

・ニュースクリップ[-8/27] 「医学部定員を一時増員」ほか
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50237525.html

上記のニュースクリップの中で、中国の高等教育の動きを取り上げ、
「中国の04年の大卒・短大卒者に占める理工系の割合が45.1%に達した」
という事実をご紹介いたしました。

日本では、05年の大卒・短大卒者に占める理工系の割合は、22.4%。
先日の記事では、製造業を中心にした高度経済成長が今まさに進行中の中国と、既にそのフェーズが終わってしまった日本との違いなのでしょう、と書きました。

日本でも、現在の高い技術力を継承・発展させるためにエンジニアは絶対に必要です。がしかし、高度経済成長期ほどの需要があるかと言われると……ちょっと言葉に詰まってしまいます。
先日も、↓こんな報道を見つけてしまいました。

■「大学、原子力離れ 溶接・タービン工学など講座姿消す」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0828/010.html

日本ではエンジニアリング、それも社会のインフラを支える伝統的な分野の技術に対して、若者が興味をもたなくなりつつあります。昨今の受験における工学部の人気凋落は、皆様もよくよくご存じのことでしょう。

このままで日本は大丈夫なのだろうか…?
……なんて考えていたら、↓こんな記事が目にとまりました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「技術大国「ドイツ」危うし エンジニア不足が深刻化 若者育成・支援に全力」(FujiSankei Business i.)
http://www.business-i.jp/news/world-page/news/200608230019a.nwc
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技術大国のドイツで、エンジニア不足が深刻化している。独産業界が今年、最低限必要としているエンジニアの数は1万8000人。ドイツは技術や製品の輸出で世界1、2を争う「輸出王国」ながら、このままではその地位が奪われかねないとして、産業界は若年層の育成に必死だ。

≪低迷する人気≫
独エンジニア連盟(本部・ベルリン)が企業を対象に実施した調査によれば、2006年の求人枠に対し、企業が「不足している」と回答したエンジニアの数は、前年比で33%も増加した。
技術大国のドイツは19世紀、ゴットリープ・ダイムラーやカール・ベンツ、ウィルヘルム・シーメンスといった発明家や企業家らを次々と輩出。しかし今では、エンジニア離れが確実に進行し、1960年代に41%のドイツ人がエンジニアを「理想の職業」としたのに対し、01年は22%と落ち込んでいる。
独調査会社「アレンスバッハ・リサーチ研究所」が03年、若者を対象に「尊敬される職業」をアンケート調査したところ、エンジニアは聖職者や医者、大学教授などに続き7番目と低迷した。ドイツの大学では今、エンジニアリング専攻の学生が10年前の半分しかおらず、同分野の凋落ぶりは明らかとなっている。
(上記記事より)

ドイツ。かつては医学や工学技術などの分野で世界をリードし、現在は環境政策の先進国としても知られているこの国で、「エンジニア離れ」が進んでいるようなのです。
同じ「科学技術立国」を標榜し、(色々あって)国際社会でのポジションも似ているところの多い我が国としては、気になる報道です。

やっぱり、同じような悩みを抱えていたのですね?
……と、ドイツ人に声をかけたくなっちゃいますね。

記事を読む限り、ドイツでは元々、日本以上にエンジニアの地位が高かったようです。現在も人気が低迷していると言いつつ、「尊敬される職業」で聖職者や医者、大学教授などに続いて7番目だという話ですし(そのアンケートで他にどんな職業がリスとされたのかはわかりませんが、全職業で7番ならまだまだ人気では……なんて気も)。

でもそんなドイツだからこそ、「エンジニアリング専攻の大学生が10年前の半分しかいない」という急激な変化が、深刻に受け止められているのでしょうね。

ところで、大学のエンジニアリング専攻の学生は、高度な知識をもって技術の指導にあたったり、研究に従事したりといったことを期待されていますよね。その一方で、中堅技術者については、またちょっと違った教育ルートがあったりします。

ドイツは世界的に見ても珍しい教育システムを持っています。
それは、「職業訓練校に行き、職人などを目指す」か、「大学に進学する」かといった選択を、非常に早い段階でしなければならないというものです。

・10歳で進路が決まるドイツ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/21844563.html

アビトゥーアと呼ばれる大学入学資格試験を通って大学に通う若者の他、職業教育を施す学校に通う道を選ぶ若者も多いのです。職業教育と言っても、日本のそれとはかなり内容が違っています。学校で理論を学びつつ、並行して企業で実務を身につけるというシステムです。

■「二元制職業教育システム」(ドイツの実情)
http://www.tatsachen-ueber-deutschland.de/jp/education-and-research/content/background/two-track-vocational-training.html?type=1

ドイツでは職人(「マイスター」です)の社会的地位が高いので、こうした学校に行くという選択をすることも普通です(日本だと、専門学校とか職業訓練校とかに通うことは、大学進学と比べて低く見られがちですよね)。

こうした課程を通って世の中に出る方の中には、エンジニアも大勢います。
日本でも技術系の専門学校や工業高校などはありますが、ドイツの場合、それがもうちょっとメジャーな選択肢になっているというイメージでしょうか。

で、こういった、専門の職業教育を経てエンジニアになる若者達も、やはり現在のドイツでは減っているのでしょうか。それとも、大学のエンジニアリング課程の学生は減っていても、職業教育を受けて技術者になろうとしている若者は減っていなかったりするのでしょうか。
そのあたりの事情がわからないと、どうしてドイツでエンジニアリング専攻の人気が落ちているのかが、推測できないと思うので、気になります。
(どなたかご存じの方がいらしたら、教えてください)

「尊敬される職業」のランクが下がっていることなどから、おそらく中堅技術者層も減ってきているんじゃないか、となんとなく思います。

いずれにしても、大学で工学技術を学ぼうという学生は減少の一途を辿っているようです。
やはり、記事にあるように、「環境に悪い」などのイメージが影響してしまったのでしょうか。日本でも、耐震設計などいくつかの分野で技術者が不祥事をし、それが工学部の人気をさらに下げてしまったという指摘があります。「イメージ悪化」で学生が減って悩んでいるという点では似ているような気もします。
かつて工業化が急速に進められていたころは、技術者として働くということが、「国家や地域社会に貢献する」というイメージとぴったり重なっていたと思います。それが、今は弱まってしまったのかも知れませんね。

進路選択は学生本人の自由ですから、仕方がないと言えばそれまでです。でも、このまま手をこまねいているだけでは、ドイツの産業や国際的な科学技術競争力にとって、マイナスです。
大学で高度な知識を身につけた人材が、企業や研究機関にとってはどうしても必要。すでに企業は、エンジニアが足りないと悲鳴を上げているのです。やはり、どうにかして若者達を工学部に連れてこなければなりません。そうしないと、ドイツの危機です。

ドイツの産業、大学、研究所などの80組織は今年初め、有志団体「ドゥ・シングス」を設立、今後は少年少女向けの科学イベントを資金援助したり、学生に奨学金を与えたりするほか、学生の企業インターンを積極的に仲介するなど、若者支援に全力を挙げている。
(FujiSankei Business i.記事より)

このように、若者が科学に関心を持つようなイベントを積極的に行うなど、国を挙げて努力しているようです。なんだか、このあたりも日本と似ていますね。

ドイツでどのような試みが行われ、どのような成果があがるのか。日本の我々も、注目していきたいところですね。
というか、日本でも「理科離れ」を食い止めようと様々な取り組みが行われていますから、こちらがドイツのモデルになれるかもしれません。

個人的に、同じ科学技術国としてドイツにはがんばってほしいなぁと思う、マイスターでした。

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(過去の関連記事)
・10歳で進路が決まるドイツ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/21844563.html

・ドイツは苦悩する
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/22852922.html