競争的研究資金の増加と、大学間の格差拡大

マイスターです。

「研究費」の確保は、大学にとって大きなテーマの一つでしょう。

教員の皆様にとっては毎年の恒例行事である、「科学研究費補助金(科研費)」の申請。
さらに昨今では、大学が総力を挙げて獲得に挑む、巨額の競争的研究資金が増えています。

平成14年度からスタートした「21世紀COEプログラム」では、平成16年度までの3年間で、計274拠点の研究拠点が採択されました。
実際に採択された拠点に、どのくらいの補助金が交付されているかというと、だいたい以下のような感じです。

■「<21世紀COEプログラム> 平成19年度補助金交付決定額一覧(PDF)」(文部科学省)

学問分野などによって交付額に差はありますが、年間およそ数千万円~2億円台くらいでしょうか。これが5年間交付されます。

そして、21世紀COEに続いて平成19~23年度までに進められている「グローバルCOEプログラム」。
第1回となる平成19年度は28大学から63件、平成20年度は29大学から68件の拠点が採択されています。
こちらの交付額は、以下のような感じ。

■「平成19年度研究拠点形成費等補助金『グローバルCOEプログラム』交付決定額一覧」(文部科学省)

全体的に、「21世紀COE」より交付額が上がり、年間5億円前後の補助金を交付されている拠点もちらほら。
こちらも、事業期間は5年間です。

さらに、上記とは別に平成19年度からスタートした「世界トップレベル研究拠点プログラム」。
優れた研究環境と極めて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目的とするもので、たったの5拠点しか採択されない狭き門。
その分、交付される資金も巨額です。

■「WPIプログラム:採択拠点(概要・リンク)」(日本学術振興会)

2年目となる平成20年度の補助金交付決定額を見ると、10~15億円ほどが各拠点に配分されています。
しかも交付期間は10年間で、「特に優れた成果をあげているものについては更に5年間の延長を認める」という但し書きつき。

このように「選択と集中」を地で行くような競争的研究資金が次々に打ち出されているわけですが、先月に報道された計画は、さらに破格でした。

【今日の大学関連ニュース】
■「政府 科学技術に2700億円 最先端研究の強化に基金創設」(読売オンライン 2009.4.11)

政府・与党は、科学技術分野での国際競争力を強化するため、総額2700億円に上る研究強化基金の創設を決めた。
世界最先端の研究チームを最大で30件選定し、それぞれに3~5年間で90億円の資金を提供する。1チームあたりの研究費補助金としては、かつてない規模になる。しかも、年度をまたぐ繰り越しなど、一般的な研究費補助金では難しい柔軟な運用を認める方針で、ノーベル賞級の飛躍的な成果の創出を狙う。
この基金創設は、政府・与党の追加景気対策に盛り込まれた。新たな産業や技術分野を切り開くような有望な研究に重点投資して、数年後に世界をリードする領域へと育てる狙い。研究の進展に応じて必要となる人件費や研究費を自由にまかなえるよう、大きな裁量を研究者に与えるほか、独立行政法人などに事務手続きを代行させる仕組みも設け、研究者が研究に没頭できる環境作りを目指す。
現在、1件あたりの規模が最も大きいのは、科学技術振興機構の「創造科学技術推進事業」で、5年間で計15億円。新型万能細胞を作った京都大の山中伸弥教授を支援した同機構の別事業も5年で6億円どまり。これらに比べ、90億円は破格の規模となる。
(上記記事より)

30件程度の研究チームを選定し、3~5年で90億円程度の資金をそれぞれに提供する。
総額2,700億円の計画です。

「研究チーム」を選ぶということですから、単体の研究機関に配分されるというよりは、いくつもの大学や機関で連携して進める研究活動に対して出されるという感じなのかもしれませんが、それにしても大変な額です。

「追加景気対策」として予算に盛り込まれた、と記事にはあります。
景気対策として、果たして割に合うかはわかりませんが、ポスドクと呼ばれる方々の雇用は生み出されそう。
ただ基本的には「莫大なお金を、ごく一部のチームに投入する」という発想の計画ですから、どこまで「裾野」が拡がるかはわかりません。

というか、これだけの研究費を使う研究テーマが、既に限られてきそうな気もしますが、実際のところはどうなのでしょうか。
アメリカあたりでは、日本とはケタ違いの研究費が様々な最先端研究に投入されていると聞きますし、案外、色々な研究が選ばれるのでしょうか。

国として、最先端の研究に資金を投入し、科学技術分野で日本の国際競争力を高めようという姿勢は悪くないと思いますが、これだけ額が大きいと、逆に議論を呼びそうな気も。
実際、マイスターも様々なところで、この計画に対する批判な意見を目にしました。

いずれにしても、これまで以上に、厳格な成果の検証が求められることになりそうです。

それに、大変な金額ですから、有効な「使い方」を計画することが必要ですよね。
研究費の扱い方について、これまでとは違った発想が求められるのではないでしょうか。
研究費を有効に使うための適確なマネジメントを行える人材が、今後はこうした研究チームに対して必要になってくるかもしれません。

ちなみに、こうした計画が発表される一方で、↓こんな事実も明らかになっています。

■「国立大の格差拡大 化学系研究費2倍→4倍」(Asahi.com)

強いところはより強く、弱いところはより弱く――。法人化された国立大学で「格差」が広がっている。日本化学会(会員数約3万2千人)が調べたところ、旧帝大など一部の有力大と地方大で、化学系の教員1人あたりの教育研究費の差が、この5年間で約2倍から4倍近くに拡大していた。地方大は金額自体、5年間で約2割減っていた。
文部科学省は04年度の法人化とともに「護送船団方式」を見直し、より魅力的な研究計画を出すところ、より実績があるところに多く資金を配分するようになった。化学系の格差拡大は国立大全体の縮図といえ、当初からあった「弱肉強食」の不安は現実になってきている。地方大の教授らは「机や棚も買えない」「機器が古びて研究ができない」と悲鳴を上げている。
(略)教授、准教授ら教員1人あたりの教育研究費の平均は、有力大グループは法人化前年度の03年度に1240万円だったのが、08年度は5割強増えて1910万円に。一方、地方大グループは03年度の640万円から08年度は510万円と約2割減少した。両グループの格差は、03年度の1.94倍から08年度は3.75倍に拡大した。
(上記記事より)

「30拠点に2700億円」の記事と合わせて読むと、色々と考えさせられます。

「競争的」な資金配分は、ある程度は必要なのでしょう。
一方、国全体での研究活動や、それにともなう人材育成の「裾野」が小さくなっていくことは誰も望んでいない、というのも事実だと思います。

このように、矛盾に思える課題は、今後もたくさん出てくるでしょう。
それらに対し、どのように折り合いを付けていくかを、国全体でもっと議論していかなければならないのかもしれませんね。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。