最近、東京では6月らしい日々が続いています。
傘を持って歩くのは少々おっくうですが、これもいっときの風物詩だと思えば、楽しむ気持ちだって持てようというものです。
自然の移り変わりに関しては、わりと前向きに感じられる方だと思います。人生、ちょっとだけ得しているかも。
では今週も、ニュースクリップをお届けします。
招かれざる志願者。
■「国公立大だけ狙い1000万円!36大学から盗み行脚」()
http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200606/sha2006061602.html
東北大学に忍び込み現金を盗んだとして山形県警に逮捕された58歳の無職男が、「全国の国公立大ばかりを狙い盗みを繰り返していた」と供述していたことが15日、分かった。判明分だけでも、約5年間に29都道府県36大学で計190件敢行。“成果”は総額約1000万円に及んだ。「私大より警備が手薄だから」と“志望動機”を語り、日本列島をまたにかけていた。
(略)
侵入先は北海道大、東北大、埼玉大、名古屋大、九州大など、北から南まで津々浦々。手口は、深夜に建物の換気扇などを壊すなどの“裏口入学”だ。研究室の机などから現金や金券を盗んでいたが、中には研究室の引き出しから鍵を盗んで、同じ大学で十数回も盗みを繰り返していたケースもあったとか。
(略)
「中肉中背で見た目はどこにでもいそうな普通の人。大学に入っては、職員のように装ってとけ込み、ウロウロしてひと気がなくなるのを待って犯行に及んでいた。国公立大を狙うのはクセであり得意技ですな」(同署)。被害のほとんどがなぜか理系だった。
(上記記事より)
とんでもない泥棒もいたものです。しかし、記事を読むと、確かに国立理系キャンパスの研究室って、セキュリティゆるゆるなイメージがあります。けっこう古い研究室棟だと、簡単にとれそうな換気扇とか窓とかもありますよね……。皆様は、十分にお気を付けください。
ただ、もちろん警戒にも限界はありますが、同じ大学で十数回も犯行を行っていたなんて聞かされると、いくらなんでもセキュリティに穴がありすぎる気がします。誰も、盗まれていたことに気づいていなかったということでしょうからね。お金もそうですが、貴重な「研究成果」は、盗まれたら大変ですよ。
また、大学は個人情報の宝庫でもあります。こちらも、しっかり守ってくださいね。
(けど5年間で1千万円なら、素直に夜間警備のアルバイトでもしていた方が良かったのでは…)
その気のある学生しか受け入れられなくなるかも。
■「教育実習生を事前選別 中教審専門家会議が報告書」(共同通信社 東奥日報)
http://www.toonippo.co.jp/news_kyo/news/20060614010000671.asp
教員としての資質を欠いたり、免許取得だけが目的だったりする教育実習生について、中教審の専門家グループは14日までに、「実習に送り出す大学側が学生の適性や意欲を確認すべきだ」として、事前審査による選別を求める報告書をまとめた。
こうした学生は受け入れ校の大きな負担になり教育現場では「実習公害」とも言われる。報告書は大学側に実習生の絞り込みと“質”の管理を強く求める内容で、今年夏の答申に盛り込まれる見通しだ。
(上記記事より)
「実習公害」とはあんまりですが、しかし忙しい中、ハクを付けるためだけに免許を求めるやる気のない学生の相手をさせられる現場の気持ちもよくわかります。
本来、教育実習は大学の教育プログラムの一部のはずですが、一度送り出してしまえば学生の「質」には関与しない、という大学も少なくないと思います。確かにこれは、何か大学がバックアップの方法を考えないといけませんね。
事前審査で実習生を絞り込むこともそうですが、個人的には、教員免許更新制をまず普及させることが効果的だと思います。プロとしての能力を持つ教員しか免許が更新されない世の中になれば、ハンパな覚悟の学生は最初から教育実習を志願しません。
ただ、先日も書いたのですが、「学校での活動体験」自体は、現代の若者達にとってとても大切だと思います。免許のための実習とは切り離された形で、学生が小中学校に足を運ぶような仕組みは必要だと思います。
子供達の校外学習にアシスタントとして参加するとか、運動会のサポートスタッフとして働くとか、学級日誌を作るとか、現場にとっても助けになるような形で派遣できるようなシステムができるといいですよね。
夢をあきらめず、62歳で教育実習生に。
■「62歳 母校で教育実習/開陽高卒の浜田さん『若者指導を』夢に一歩」(南日本新聞)
http://www.373news.com/2000picup/2006/06/picup_20060616_7.htm
鹿児島市上福元町の開陽高校で、62歳の浜田節夫さん(日置市)が高校の教員免許取得を目指し、教育実習を行っている。14日には多くの生徒を前に初めて教壇に立ち「夢」への第一歩を踏み出した。「早く免状を取って、チャンスがあれば教員として若者たちの指導にあたりたい」と意欲を見せている。
浜田さんは同校出身。自動車学校の指導員を務めるかたわら定時制課程に通い、2001年、初の卒業生に。同時に東京の玉川大学通信教育部の学生となった。
(略)
教師だった父親を早くに亡くし、中学卒業後、進学をあきらめざるを得なかった。「心のどこかに父親のような教師になりたいという気持ちがあったのでは」と話す。その心が、50歳を過ぎての高校入学、大学進学の原動力になった。
教育実習の指導教官を務める肥後秀一郎教諭(56)は「取り組む姿勢が非常に熱心。最初の授業にしては上出来です」と評価。授業を受けた生徒の小柳慶輔君(17)は「夢をあきらめずに頑張っているのがかっこいいと思う。刺激になります」と、先輩の門出にエールを送った。
(上記記事より)
すばらしいです!
こんな熱意にあふれた実習生なら、学校も生徒達も、大歓迎なのでしょうね。
キャンパス目を向けてもらうために、どこも必死です。
■「京都など受験生集め奇手妙手 『大学全入時代』前に特色アピール」(京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2006061600103&genre=F1&area=K10
京都産業大(京都市北区)は今夏のオープンキャンパスで学内のバスツアーを計画する。校地が山の斜面にあるため「猛暑のなか、親子連れでも快適に見学してもらえるように」と、来学者が自由に乗れる貸し切りバス4台を運行。在学生がバスガイドを務め大学の歴史や各学部の特色などを紹介していく趣向だ。校地外にあるグラウンドや学生寮なども巡回する。
京都工芸繊維大(左京区)は8月、オープンキャンパスに訪れた保護者向けに体験教室を用意。藍(あい)染めや七宝焼、繭玉を利用した美肌液づくりなど、大学の研究を生かしつつ中高年の好みも反映した企画を検討する。
携帯電話向けゲームの無料配信を始めたのは大阪産業大(大阪府大東市)。全国初の試みといい、受験情報を記載した携帯用の大学ホームページで4月から毎月パズルゲームなどの新作を配信、「受験生だけでなく若者に絶えず本学に目を向けてもらいたい」とする。
京都精華大(左京区)は今夏、若者に人気のお笑いコンビ「笑い飯」と放送作家の倉本美津留氏が出題する新たな入試を実施。受験生はホームページから笑い飯が出演する10分程度の映像を取り込み、映像の問いかけに答える形で、後日大学で1人3分の発表を行う。新設のデジタルクリエイションコースが対象で「新しいタイプのクリエーターを発掘したい」を狙いを話す。
(上記記事より)
これまでは、大学は主として高校3年生をあいてに広報を行っていれば良かったわけです。でも今後は、高校1、2年生や、その保護者の方々にもアピールをしていくことが必要だと考えられているのですね。
マイスターが考える理想のエンロール・マネジメントのあり方とは若干違っていますが、各校とも、工夫を凝らして試行錯誤を繰り広げているようです。
研究費の不正処理が横行しています。
■「早大教授が国の研究費を不正受理か」(nikkansports.com)
http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20060614-45889.html
■「研究費不正対策、全国の大学を調査へ 文科省」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200606140844.html
研究の不正防止に関する文部科学省の委員会で主査代理を務めていた早大理工学部の教授が、国の研究費を不正に受け取った疑いがあるとして、早大は14日までに内部調査委員会を設置、本人から事情を聴くなどの調査に乗り出した。
(nikkansports.com記事より)
研究費不正処理に関する報道が続いていますが、今回のは特にいけません。文部科学省の委員会で研究の不正防止対策に関わっていた研究者について、国が支給する(つまり元は税金だった)研究費を自分名義の口座に振り込ませていた疑いがあるらしいのです。
本当だったら、大変な問題で、厳しい処分を下されるべきです。それとも「運が悪かったね」という見方をする同僚もいるのでしょうか。
国の研究費を使う研究に対する不正防止策が整備されているか、全国の国公私立大などを対象に文部科学省は初めて実態調査に乗り出す。告発窓口の設置、不正行為に対応する方針や基準の有無などを調べ、8月には集計結果を公表する。
(Asahi.com記事より)
相次ぐ不正報道に対し、このような方針を文科省も打ち出しています。残念なことですが、お金に対する研究者のモラルは、規則で守らせることになりそうです。(もっとも、どの職業にもお金に関する意識の低い人はいるものなので、研究者全体が非難されるのは気の毒ですけれど)
特許料、やっぱり際だつ名古屋大学。
■「国立大、特許で稼ぐ 1000万円以上、8大学に」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200606130401.html
先週のニュースクリップでもご紹介したばかりですが、やっぱり名大の2億円は際だっていますね。2位の岩手大が4,800万円、3位の筑波大が3,500万円ですからね。
・50年前から変わらない国立大学の序列
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50037992.html
・文科省、大学院選別し助成へ 研究指導型と教育型に
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50192991.html
↑科研費の順位もCOEの採択件数も、基本的には50年前から固定化されている大学序列の通り。でも特許料に関しては、まだ今のところ、この序列に従っていないようです。
研究者の人事あれこれ、学費に影響しないか心配です。
■「京大、ノーベル賞有力候補の阪大教授引き抜きへ(6月12日)」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/33722.html
■「研究者昇進『ガラス張り』に 9大学」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200606110315.html
ノーベル賞の有力候補である大阪大学教授を京都大学がスカウトに乗り出した。大阪大も引き留めようと躍起になっている。法人化で研究成果を競う国立大学だが、第一線で活躍する著名教授を引き抜くのは異例だ。
(略)
京都大大学院医学研究科の教授会がこのほど、分子生物学分野の新任教授に迎える方針を決めた。大阪大をしのぐ広さの施設を提供するなど、研究環境を厚遇することを打診した模様だ。
一方の大阪大側も「阪大が感染・免疫学を発展させるのに審良教授は欠かせない人物。京大に引けをとらない研究環境を整える」(木下タロウ微研所長)と慰留に努める。
(NIKKEI NET記事より)
これ、AERAの記事にもなってましたね。研究者の引き抜きが過熱化しているようです。
「研究環境を厚遇する」ということですが、給与はどうなのでしょうね。いずれにしても、今後こういった教員引き抜き競争が常態化すると、そのコスト負担は学費に反映されることになります。
(参考)
■「学費が上がる理由」(アメリカの大学事情)
http://ameblo.jp/yanatake/entry-10003825466.html
■「学費上昇をくいとめるために -連邦政府の思惑-」(アメリカの大学事情)
http://ameblo.jp/yanatake/entry-10003845201.html
今はまだ日本はアメリカほどの事態になっていませんが、今後の大学同士の競争の仕方次第では、学費が高騰していく可能性も否定できません。
二つ目のテニュアトラックの記事は、これまでのあいまいな昇進システムに比べれば前進と言えますね。これで若手研究者の方々が、意欲を持って研究できるようになればと思います。
ただアメリカにおいては、このテニュアもちょっと物議を醸しているようです。テニュアは「終身在職権」などと訳されますが、アメリカの場合、テニュアを得られると本当に70歳になっても80歳になっても辞める必要がないそうです。定年がないのですね。その結果、かえって若手の研究者が参入しづらくなる……という、皮肉な結果になっているのだとか。
今回の記事にある日本の「テニュア」は、アメリカのテニュアとは違う意味なんじゃないかと思いますが、そのあたり、明確に定義を説明しておく必要がありそうです。
最後に、海外のニュースを3つほどご紹介。
インテリ家庭の子供ほどストレスに悩まされる国。
■(中国)「児童心理障害の7割はインテリ家庭」(人民日報)
http://www.people.ne.jp/2006/06/13/jp20060613_60544.html
今年8歳になる涛涛の両親は、二人とも海外留学して帰国した会社の高級管理職であり、家庭条件はかなり恵まれている。しかし、涛涛は小学校3年生になったとき、友達と遊ばずに一人でぼんやりする孤独癖が顕著となった。ひどい時には「生きているのは面白くない、死んだほうがましだ」と言うようになった。
涛涛の余暇生活は、両親の手配でピアノ、絵画、サッカーなどでビッシリ詰まっていた。こうした余暇活動が涛涛にストレスを与えていたのだが、両親はまったく理解していなかった。(上記記事より)
成長著しいかの国では、エリート層は子弟に熱心な教育を施しているそうですが、それがこのような皮肉な結果になっています。
韓国メディアの鋭い推理。
■(韓国)「[社説]米国が教育、医療市場の開放を求めない理由」(東亜日報)
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2006061355828
日本にとっても、ちょっと気になる分析をしてます。なるほど、こういう考え方もあるなぁ。
俳優から大学へのプレゼント。
■(アメリカ)「ロバート・デ・ニーロ、撮影小物を大学へ寄付」(FLIX movie site)
http://www.flix.co.jp/page/N0008503
ロバート・デ・ニーロが、出演作の中で使用した小物を、テキサス大学へ寄付したそうです。映画制作を学ぶ際の参考資料として、ということでしょうかね。
資料その物もさることながら、学生にとっては「あの有名人が、大学で学んでいる自分達のことを気にかけてくれているんだ」と思えるってことが大きいんじゃないかと思います。
以上、今週のニュースクリップでした。
マイスターの部屋は和室なのですが、座椅子に座って窓際で雨音を聞いていると、落ち着きます。日本語は雨を表現する語彙がとても豊かであると言いますが、多様な雨の表情を読みとって短歌などに残した祖先の気持ちが、この季節には、ちょっとわかる気もしませんか?
この季節が過ぎれば、やってくるのは夏。
雨を楽しみながら、夏がやってくるのも待ち遠しい、そんな気分のマイスターでした。