大学には、「プロジェクト」を誤解している人が多い?

プロジェクト・マネジメントの仕事をしてたことがあるマイスターです。

以前勤めてた会社は、社員5名のweb広報プロダクションでした。
あまりに人が少ないので、プロデューサーとして営業、企画などを行うだけでなく、実際のwebサイト制作作業のマネジメントもせざるを得なかったのです。

マイスター自身がデザインをしたりコーディングを行ったりするわけではありませんが、スケジュールと制作コストを管理し、制作物の品質を保ちながら、全体の指揮をとるのが仕事でした。

企画の立案やプレゼンテーションは、ある意味、大学院までにやってきた作業の延長線上にあるような仕事ですから、ある程度、最初から自分のペースでコトを進められたのです。

でも、プロジェクト・マネジメントはそうもいきません。何しろ、卒業したばかりの若造は、どのくらいスケジュールの修正が許されるのか、プロジェクト内でどのくらいコストを自由に扱って良いのか、またどういう頼み方をしたらデザイナーがデザインをやり直してくれるのか、そういったことを全然知らないのです。

一応、大学院の講義でプロジェクト・マネジメントの考え方を学んだりはしましたが、実際にスケジュールを引いたことも、お客様と制作現場の間に立ったこともないのです。
しかも、企業の広報webサイトというのは、完全カスタムメイドの商品。その制作に、定石もマニュアルもありません。その場その場の判断でプロジェクトを進めなければなりません。これは、かなりの修行になったと思います。

そんなわけで、新卒で入社してしばらくの間は、正直言って企画よりも、プロジェクトをまわす作業の方が重荷でしたが、そのおかげで、「この先どんな仕事をしても、なんとかなるような気がする」という自信はついたと思います。

今日は、「プロジェクト」というものについて、考えます。

みなさまは、「プロジェクト」に関わったご経験はありますか?

「学生募集プロジェクト」
「学園再生プロジェクト」
「大学アピールプロジェクト」
「授業改善プロジェクト」
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大学では、様々な「○○プロジェクト」にお目にかかります。
モノによっては、所轄部署だけではなく、あらゆる部署から人手が集められて、部門の壁を越えた横の連携が試みられます。

みなさんもおそらく、毎年一つか二つは、こうした「○○プロジェクト」に招集されているのではないかと想像します。

でもちょっと待ってください。

それ、本当に、「プロジェクト」ですか?

大学事務の現場などでは、しばしばこの「プロジェクト」という言葉が誤解されて、安易に使われている気がします。

「プロジェクト」には、実は、定義があるんです。

■プロジェクトの定義

独自の製品やサービスを創造するために実施される有期的な業務

(PMBOK2000日本語版用語集より)

米国団体PMIが編纂しているPMBOK(Project Management Book Of Knowledge)では、上記のように定義されています。プロジェクトマネジメントに関する様々な団体がプロジェクトの定義を発表していますが、PMBOKにまとめられた知識体系が、事実上の世界標準で、他の団体もPMBOKの考え方を大体踏襲しています。

有期的というのは、明確な始まりと終わりがあることです。
独自というのはつまり、そのサービスや製品が、普段のルーチンワークで生み出されるサービスや製品と異なっているということです。

また、PMBOKでは、プロジェクトの位置づけとして、以下のようなことも示されています。

■プロジェクトの位置づけ

多くの組織にとって、その組織における通常の業務範囲内では対処できない要求にこたえるための手段

(PMBOK2000日本語版用語集より)

つまり、

○いつからいつまでに行われる活動かが明確に示されていること

○どんな成果が上がったら成功か、という目的・ミッションがはっきりしていること

○そのミッションが、継続的に行われる通常業務とは異なるということ

これが、プロジェクトの特徴なのです。
だからプロジェクトには、「成功」か「失敗」かがあるんですね。

上記のようなことは、私も、前の職場で知りました。

さて、みなさまの職場で行われる、「○○プロジェクト」は、いかがでしょうか?
上記のような条件を満たしていますか?

マイスターの職場もそうなのですが、いくつかの大学の職員さんから話を聞いた限りでは、どうも、プロジェクトと呼べない活動が、プロジェクトと称されている例が多いような気がします。

例えば、受験生募集プロジェクトと称して、他部署から入試説明会運営のためのスタッフを招集する例。招集はいいのですが、そのために発生する時間やコストを見定め、それに見合う成果が出たかどうかを検証していますか? そもそも、プロジェクトの独自の目標を、その都度明確に定義していますか?
なんだか、毎年のルーチンワークになってしまっていることも少なくないのでは。

入試説明会の運営って、大学全体にとっては、これから毎年行われる業務の一つでしょう。思い切った戦略を実行するのならともかく、前年度のやり方を踏襲しているのなら、これって、プロジェクトじゃないですよね。
「有限の期間内に、設定された成果をあげる」という前提があるからプロジェクトは緊張感を持つわけですが、毎年、淡々と前年どおりに行われる業務では、目標管理も甘くなってしまう恐れがあります。
前年と同じことをやるのなら、プロジェクト・マネジメントはいらないのです。

また「学園再生プロジェクト」なんていって、立派な改革案を打ち出す例。
場合によっては、学内からアイディアを集め、教職員達にプレゼンさせたりするところもあります。
でも待ってください。改革案を打ち出すのはいいのですが、本当にその案、実行するんですよね?

案を出しただけで満足、という大学、とても多い気がします。
本来、改革案を出すというのは、

 ・現状把握のための客観的な調査分析を行う
・改革のための全体像を描く
→・具体的なミッションを個別に策定する
→・ミッションを達成するために行動する
→・ミッションがきちんと予定通りに達成されてるか、チェックする
→・受験生を増加させる、就職率を上げる、OBおよび保護者からの評価を上げるetc.
→・学園を再生する

…という、大きなプロジェクトの入り口部分にあたる工程ではないかと思うのですが、大抵の大学では、その先の部分に行かずに、ここで満足して終わっています。目標を立てることが、目的になってしまっているのですね。
つまり、はなっから誰も、実現するつもりで目標を立てていないのです。

ですから、具体的なミッションにブレイクダウンできないような、現状を無視した無茶な目標が立てられていたり、
「これまで以上に、日本の産業に貢献できる人材を育成する」みたいな、あいまいでほとんど意味のない目標しか設定されていなかったりする結果に終わるのです。

普段まったく勉強していない受験生が立てる、無茶な夏休み学習計画みたいなものですね。「○○大 絶対合格!」「1日10時間勉強する!」と大書して壁に貼れば、それだけで志望校に受かった気になるという(^_^;)

上記のような例は、プロジェクトではないわけです。
「なんとなくプロジェクトって言ってみた」というレベルなのです。

「○○プロジェクト」を名乗るなら、どれくらいの人材とコストと時間を投入して、どのくらいの成果があがったかという、プロジェクトマネジメントがきちんとされているかを管理すべきだと個人的には思うのですが、そんなことをやっている大学組織は非常に希です。

どうしてこういうことが起きてしまうのか、その理由は色々でしょうが、やはり大学を構成する人々の資質によるところが大きいのではないかと、マイスターは思います。

大学を構成する教員(研究者)や、職員の多くは、大学でしか働いた経験がありません。しかしこれまでの日本の大学では、プロジェクトを達成するためにスタッフ達が本気で追いつめられるということが、正直言ってあまりありませんでした。
多くの場合、成果を上げるためにミッションを追究するというのではなく、ルーチン化された業務を例年通りに間違いなくこなすことの方が重視されてきたのだと思います。

しかし残念ながらこうしたルーチンワークをいくらこなしても、プロジェクト達成のための能力はほとんど身に付きません。

適切なプロジェクト・マネジメントの手だてを打たず、ただ名前だけ「○○プロジェクト」と称して、例年と同じことをやっている大学が多いということが、この1年くらいでなんとなくわかりました。

多くの大学が次々と改革案を打ち出している、まさに改革ラッシュな世の中ですが、こんな現状を知ってしまうと、そのうちの何パーセントが、ちゃんと「プロジェクト」として実現されているのだろうかと、マイスターはちょっと懐疑的になってしまうのです。

それ、本当に、「プロジェクト」ですか?

……という問いかけを、大学業界全体に送りたい、マイスターでした。

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(参考)
プロジェクトマネジメント標準 PMBOK入門
日本語で、わかりやすくPMBOKの考え方を解説している本です。入門書としていいと思います。

A Guide To The Project Management Body Of Knowledge (PMBOK Guides)
PMBOKの最新版です(ただし、洋書ですのでご注意を)。
PMBOKに準拠するPMP試験を受験される方は、必読です。