留学生を入学させると、国立大学の運営費交付金が増額に?

マイスターです。

福田前首相が打ちだした「留学生30万人計画」。
具体的な数字をあげての政策ですから、それなりのインパクトがあります。

実現できたかどうかが明快なので、政府の成功/失敗もわかりやすい。
それ故、「絶対に達成させる」という姿勢なんだなと、決意の強さが伝わってくるわけです。

そんな「30万人」という数値目標をにらんででしょう、こんな報道がありました。

【今日の大学関連ニュース】
■「留学生増で予算増 文科省が交付金に新ルール」(Asahi.com)

留学生を増やせば、使える予算も増えます――。文部科学省は、国立大学が私費留学生を増やした人数に応じて国の運営費交付金を多くもらえる仕組みを作り、各大学に通知した。09年度から実施する。条件を良くすることで福田前首相が提唱した「留学生30万人計画」の実現につなげたい考えだ。
交付金のうち、各大学の意欲的な取り組みに応じて算定される「特別教育研究経費」の一つに、「留学生受け入れ促進等経費」を設けた。国が奨学金を出す国費留学生は、従来も受け入れ人数をもとに交付金を出していたが、私費留学生についても交付金措置によって教育面などの支援を促すようにした。
文科省の担当者は「私費についてはこれまで各大学の努力でやってもらっていた。支援は、留学生の受け入れを増やすインセンティブと考えている」と話す。
(上記記事より)

留学生を増やした国立大学には、国の運営費交付金を増やす。
非常に明快な方針です。

「こういうことを、こちらの決めたルール通りに実践したら、補助金を出すよ」

……という呼びかけによって、組織の行動をある程度、政策に沿って誘導するというのは、文部科学省に限らず、様々な行政の場で行われること。
今回の場合は、「留学生30万人の達成」が、誘導したい「結果」でしょう。

具体的な目標数字があがっているだけあって、文部科学省もただキャッチフレーズを掲げるだけではなく、かなり具体的な、実行力のある政策手段を講じているようです。

交付金の出し方からも、目標達成に向かう姿勢の強さが読み取れます。

09年度の場合、07年度の留学生数や過去の平均増加率を基に、これだけ増えるだろうという「想定値」を文科省が各大学に提示。あらかじめ想定値分の交付金を措置しておき、達成できないと頭数に応じて返納してもらう。
例えば東京大は、学部や大学院への私費留学生が07年度の1345人より、138人増えると想定。学部正規生は4万2千円、大学院博士課程正規生は16万8千円といった単価で計算し、約1600万円を措置する。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

有無を言わさずに「このくらい増えるよね?」と、増加分の交付金を渡してしまうという方式。
文部科学省側が算出した「想定値」をもとにしているというあたり、かなり文部科学省主導という感じです。

この施策、評価される点と心配な点がありそうです。

国として、全体的に「留学生をもっと増やした方が良い」というのは明らかで、これには、あまり異論はないと思います。
財政的な補助を絡めて、各大学の取り組みを補助する具体的な施策を用意することで、目標の実現がより具体的に進められる、というのも、事実だと思います。
交付金の増額により、ある程度の結果は出るでしょう。これは、評価される点です。

ただ、こういった補助金政策にはどうしても、

<「留学生を入学させる」ことが目的化する>

……というリスクがつきまといます。

つまり、どんな形でも良いから留学生を増やせばいいかというと、そうではないはずで、大学によって達成すべきミッションや、独自の方針などがあるわけです。
でも、「留学生を入学させればさせただけ得する」仕組みがあることで、そういった方針が二の次、三の次になってしまうのではないか、ということです。

私立大学や公立大学の中には、世界基準の学生を育てようと、他にないミッションを掲げ、様々な国から優秀な International Student を集めて教育している大学がいくつか存在します。
また、刺激的な教育研究の環境をつくるために、留学生を親身にバックアップする体制を構築して、あらゆる点でキャンパスを豊かに国際化しようとしている大学もあります。
そのように、明確なミッションを持って留学生を集めている大学ならいいのですが、もともとそうでない大学が、交付金目当てで留学生を増やしても、あまり良い結果は得られないでしょう。

極端な話、少子化や大学の経営危機が叫ばれているいま、中国や韓国などから安易に留学生を呼び込むことが流行するおそれもないとは言えません。

(つい最近も、大手新聞社の記事で、ある私立大学の留学生担当責任者にあたる方が、「日本人の入学者が少なくなりそうな時、留学生を採ってきた」というコメントを出されていて、マイスターは仰天しました。「日本人のかわり」として留学生を集めるという発想には、大学が目指す理想も何もありません)

金銭的な補助を出す以上、ある程度は成果が出るかもしれません。
でも、「その先」までちゃんと考えた上での受け入れでしょうか。

交付金の増額は良いのですが、せめてそれは、大学主導のものであって欲しいと個人的には思います。
文部科学省が算出した「想定値」をもとにまず交付し、実現しなかったら返還してもらうという交付方法には、各大学の教育ミッションを置き去りにした危うさを、少し感じます。

とはいえ、多くの大学にとって留学生を増やすことは明確な課題の一つなのですから、この交付金をひとつのきっかけにして色々と学内の議論を進めるというのは、悪い話ではありません。

留学生を本気で増やし、かつ入学後もサポートしようと思ったら、かなり本腰を入れたスタッフ体制や教育システム、それに施設・設備が必要になってくると思います。おそらく今回の交付金の増額だけでは、全然足りないでしょう。
でも、結局いつか着手しなければならないのであれば、交付金をもらえるうちに進める方が少しは得です。

その場合でも、

「そもそも、なんで本学は留学生を増やしたいのか?」
「留学生を増やして、どんな教育をしたいのか?」
「社会に対してどんな貢献をしたいのか?」

……といった議論が先に必要。
「交付金の増額」という発表は、その議論のきっかけにはなるのではないでしょうか。

いずれにしても、交付金はきっかけや手段のひとつに過ぎず、「目的」ではない……という点は、大事なポイントだろうと思います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。