高校生の頃、手塚治虫の『ブラック・ジャック』を読んで感動したマイスターです。
あれを読んで、医者になろうと思った方も、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
生命倫理や、生と死に関する哲学が満ちあふれた、とてもいい作品だと思います。
佐藤秀峰氏の『ブラックジャックによろしく』の方もすばらしいです。
これを両方読んだ上で医者を目指そうと思う方がいたら、ぜひ応援したいですね。
今日は、大学教育に関わる年数について書かせていただきたいと思います。
現在の日本では、大学の学部課程は、どれも4年制です。
おそらく、大卒のほとんどの皆様は、4年間キャンパスに通われているかと思います。
(ダブ…じゃなかった、人一倍強い愛校心で卒業をのばされた方々!は別です)
例外は、医学、歯学、および獣医学の分野ですね。
こちらは、6年制のカリキュラムになっております。
これらの分野だけが6年制である理由は色々考えられますが、最も大きなのは、
「臨床教育」
が特に大切な分野だからでしょう。
日本の大学医学部というのは、実質、医者の養成機関として位置づけられています。
(もちろん研究者になる方もいらっしゃいますが、そこは他の学問も同じね)
「医者」という以上は、現場で直接、医療にあたれる人間ですよね。
そうなると当然、知識だけでなく「技術(スキル)」や、ある程度の経験も問われるわけです。
知識だけで、実際に患者を診たことのない人が、医者を名乗っているなんて、こわいですからね。
歯学、獣医師も同様です。
そんなわけで学問的な素養にくわえ、臨床経験を十分に積んでいただくために、この3つの学問は6年制として設計されたカリキュラムになっているわけです。
4年間で臨床まで行うのは無理がある、というわけですね。
さて、大学関係者であればほとんどの方は既にご存じだと思いますが、今後、医学、歯学、獣医学にくわえ、6年制カリキュラムになる学問があるのです!
それは、
「薬学」
です。
2006年4月より、6年制薬学部が誕生します。
ご存じでしたか?
厳密に言うと、
「薬学部のカリキュラムはは6年制でも、4年制でもいい」
ということになるんです。
薬剤師を目指さない卒業生だって、いますからね。
そうした方はこれまで通り薬学の知識と、最低限の臨床を経験して4年で卒業し、他の職種で薬学の知識を活かしていただければいいわけです。
しかし国家資格である薬剤師の受験資格を得られるのは、今後、6年制薬学部の卒業生だけに限定される方針のようですから、実質的には、大部分の薬学部が、変わっていくことになるでしょう。
なぜ、薬学部が?
これは、簡単ですね。
薬剤師にも、もっと充実した臨床教育が必要だと考えられているからです。
薬剤師って、どういうイメージですか?
薬局にいる人?
それとも、病院でもらった処方箋をもとに、薬を出す人?
おそらく、そんなところでしょう。
どちらかというと、医療の現場で感じる薬剤師のイメージは、
「お医者様が書いた処方箋の通りに、薬を調合する人」
ではなかったでしょうか。
薬のプロではあっても、医療のプロというイメージでは、正直、なかったかもしれませんね。
しかしこれからの医療現場では、薬に関するプロの存在が、これまで以上に強く求められてくる見通しなのです。
「チーム医療」という言葉を、どこかで聞いたことがありませんか?
医者、看護士、薬剤師、栄養士などの専門家がチームをつくり、お互いの専門性を活かしあいながら進めていく高度な医療のことです。
今後はこうしたチーム医療の体制が、医療の現場に必要だと言われています。
もちろん実際には、まだまだ医者が一番上にいて、看護士や薬剤師はその指示を受けて働いていることが多いと思います。
それでも、優れた知識とスキルを持つ薬剤師が今後さらに必要になってくるということは確かです。
そんなわけで、
「薬剤師試験に合格させる」
だけではなくて、
「チーム医療の一端を担う薬剤スペシャリストとして活躍する専門家を育てる」
という目的のために、6年制のカリキュラムで臨床教育を充実させたいということなのです。
現在は2~3週程度、長くても4週間だけだった臨床が、今後は少なくとも半年間、義務づけられます。
薬学部と薬剤師の現状、今後については、以下の、河合塾の特設ページが詳しいです。
高校生でも読める内容になっています。
■「薬学部6年制化を検証する」(河合塾)
http://www.keinet.ne.jp/keinet/doc/keinet/jyohoshi/gl/toku0407-1/index.html
「法学部+ロースクール」のように学部4年、プラス専門大学院2年でもよかったじゃないか、という声もあると思います。
しかし、大学院にもそれなりの設置基準というのがあるわけです。
薬学部を持っていて、大学院の設置基準を満たせないかも知れない私立大学だって、世の中には少なからずあるのですね。
(ロースクールのスタート時も、わざわざ新校舎を建てたり、大学院専門で教えられる教員の獲得競争にお金を費やしたりした大学は多かったのです)
法学部だったら全員が法曹を目指すわけではありませんから、ロースクールがなくても学部は存続可能でしょう。
しかし薬学部はそうはいきません。
どんな地方の小規模大学でも、薬学部の入学生の大多数は、薬剤師資格を目指してやってくるのです。
ですから、
「大学院は無し、学部の6年制教育で受験資格を」
というのは、そうした私立大学からすれば、譲れない線だったはずです。
一方、「4年制」という選択肢を残したのにも、それなりの背景があると思います。
完全6年制に統一されると、修士課程で研究を行う学生は減少します。
そうなれば、古くからの研究重視の一部国立大学などからは、やはり不満が出るでしょう。
今回の薬学部改革からは、そんな思惑も見え隠れします。
(大学職員ならではの視点、かな?)
ただ、いろいろあるにしても、個人的には薬学部6年制、大賛成です。
高度なチーム医療が日本で根付くことを、望んでます。
ぜひ、医者に対してモノ言える、優れた薬剤師を多く育成していただきたいです!
いずれ看護学、栄養学の分野も、5~6年制が当たり前になったりするんでしょうかね?
そういえば、「臨床心理士」の資格は、専門の認定大学院を出ないと、受験資格が得られませんよね。
「心理」という名前ならどの大学院でもいい、というわけではなくて、認定校でないとダメなんです。
実質的に、6年間の教育を受けた人だけが「臨床心理士」の基礎があると認められるシステムですから、薬剤師と立場は似てますね。
以上が、医療分野に関する、6年制教育の話でした。
ところで、国の制度は4年制でも、実際には6年制の教育を行っている特定の学科って、実は他にもあります。
たとえば、↓こちら。
■「早稲田大学理工学部建築学科: 6年一貫教育の新しいカリキュラムの内容(2000年度より実施)」
http://www.arch.waseda.ac.jp/cal.html
早稲田大学の建築学科では、2000年度から6年一貫教育を実施されています。
(他の大学は、4年間)
たまたまマイスター自身が建築学を学んでいたので知っているのですが、元々、建築学の教育者の間では、
「建築教育は、6年制にしろ」
「いや、途中で現場に4年くらい送って、計8年制くらいがちょうどいい」
みたいな議論が盛んなのです。
理由は、医学や薬学と同じで、「演習教育」がとても重要視されているからです。
実際、海外では、5年間以上のカリキュラムを持つ建築学校があります。
だって、実際に建物の建設に関わったことのないヤツが、
「ども、建築家です」
なんていって、あなたの家を設計する…これ、こわくないですか?
でも今の制度では、それに近いことが起きうるんですよ…。
マイスターだってちょっと試験のコツをつかめば、建築士資格をとれちゃいます。
どえらい設計になるのは確実です。
そんなわけで、早稲田大学では、設計などを充実させた6年間カリキュラムを基本としているのですね。
もともと大学院進学率が非常に高い学科だったからできた改革、とも言えますが、ひとつの参考としてご紹介させていただきました。
きっと、他にも臨床や演習を充実させたい学問分野があるのではないでしょうかね?
社会が専門家を必要とする限り、より長期に渡る教育は今後も望まれていくのだろうなと思ったマイスター(いちおう、某専門職大学院卒)でした。
■参考:過去の学制(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A6%E5%88%B6%E6%94%B9%E9%9D%A9
(Wikipediaに掲載された情報は、誰でも編集可能です。
必ずしも情報の正確性が保証されているわけではないことにご注意ください)
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※余談ですが、先日、薬学部を持つ大学の関係者にお話をうかがう機会がありました。
「薬学部が6年制になったら、女子学生に敬遠されませんか?」
と質問したところ、
「いや、逆に社会の中でより専門性を認められてくるということですから、
『薬剤師なら、手に職がつくし、結婚しても長く働ける』
と考える傾向がもともと強い女子の受験生は、あまり減らないと私達は予測しています。
逆に、応用化学やバイオ関係と併願して受験してくることの多い男子学生の方が、減ってしまうんじゃないかと不安です」
ということでした。
なるほど、そういう見方もあったか!!と、目からウロコ。