職員やポスドクを、産学官連携の専門家に養成するプログラム

マイスターです。

大学組織の問題点として、職員が専門キャリアを積み上げにくいことがしばしばあげられます。

市役所などに勤める公務員の方々と同じで、大学職員は学内の部署を数年で異動するのが一般的です。
その際、関連のある分野でキャリアを積み上げていくのならいいのですが、実際にはかなり畑違いの領域を転々とすることも少なくありません。

図書館管理の知識を持つスタッフが、異動で附属病院の管理部門にまわったり。
企業にネットワークを張り、長くキャリアセンターを支えてきたスタッフが、経理課に異動したりします。
付属校を持っている私立の学園などでは、中学や高校に異動することもあり得ます。

組織全体のことを知るゼネラリストを増やすことには一役買っているのですが、大学の機能が高度化の一途を辿っている現在、果たしてこのままでいいのかという指摘もあります。
大学にとっても業務の高度化を阻む原因になっていますし、スタッフ一人一人にとっても、学外でも活躍できるようなキャリアを磨くことができない理由になっているというわけです。

そもそも、「教員と職員」という2種類の分け方が適切なのか、という問題提起もあります。
今後の大学のあり方を考える上で、非常に重要なテーマです。

さて今日は、興味深い事例をひとつ、ご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「北陸先端大、学内職員・ポスドクを産学官連携の専門人材に育成」(日刊工業新聞)

北陸先端科学技術大学院大学は事務職員、技術職員、博士研究員(ポスドク)を、産学官連携の専門人材に育成するプログラムを始める。教員と派遣スタッフ以外でも中心になる人材が必要と判断し、特許事務所でのインターンシップや学内のオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を実施。外部研究所での先端計測技術の習得も後押しし、より企業ニーズに応えられる人員体制を整備する。
(上記記事より)

北陸先端科学技術大学院大学は、産学官連携に力を入れている大学の一つです。

■「産学官連携戦略本部:産学官連携の組織と方針」(北陸先端科学技術大学院大学)

IPオペレーションセンター(知的財産本部)や先端科学技術研究調査センター、ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーなどを学内に持ち、そこに外部の技術アドバイザー(技術士など)や特許アドバイザー(弁理士)、契約アドバイザー(弁護士)、産学官連携コーディネーターといった専門家が加わって、産学官連携を推進していくという体制になっています。

今回の報道で紹介されているのは、事務職員、技術職員、博士研究員(ポスドク)といった学内の人材を、産学官連携の専門人材に育成するというプログラム。

外部のスペシャリスト達の知識や能力を借りるのはいいけれど、学内の方でも、こういった連携のコアとなれる人材を育成していこう……というのがおそらく主旨なのでしょう。

中堅国立大学の産学官連携は、教員に加え年長の派遣コーディネーターとで進めるケースが多いが、派遣終了後は学内にノウハウが残らない問題がある。これに対し北陸先端科学技術大学院大学は、産学官連携を手がける先端科学技術研究調査センターのメンバーが、講義のほかOJT、インターンシップなどからなる2年間の実践プログラムを実施する。学内職員と、研究者以外のキャリアを思案するポスドクの合計10人を、専門人材に育て上げる。
(上記記事より)

……というわけで、学内にノウハウを蓄積させていく仕組みを、大学としてしっかり作っていこうということのようです。

そのために大学で、講義やOJT、インターンシップなどからなる2年間の実践プログラムを構築するということですから、本気度がうかがえます。
こうした取り組みで育成した人材の厚さはいずれ、北陸先端科学技術大学院大学のウリの一つになっていくのではないでしょうか。

研究を主体とする大学院大学の長所を生かす、効果的な取り組みだと思います。

ちなみに、北陸先端科学技術大学院大学は、今年の6月に文部科学省の「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)」に採択されています。

■「『産学官連携戦略展開事業』の実施について」(文部科学省)

ここで採択された内容には、まさに今回の、学内の人材育成に関する取り組みが含まれています。

■「ニュース[リリース] 文部科学省『産学官連携戦略展開事業』に採択」(北陸先端科学技術大学院大学)

本学が文部科学省「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)(注)」に提案していました「特色ある優れた産学官連携活動の推進」構想について、推進機関として採択されたことが、6月23日に文部科学省より発表されました。
(略)
1.実施内容
以下の2つのタイプの人材育成を目的とするプログラムを計画的、継続的に実施することによって、本学における産学官連携活動にブレークスルーをもたらします。
1)産学官連携に関する情報収集・分析能力(及びその活用に関する実践的能力)にたけた者
2)「産」のニーズのわかる計測機器のスペシャリスト、
具体的には、上記1)、2)にそれぞれ対応する2コースを設け、ポスドクのほか、事務及び技術職員を対象として、次の三本立ての内容で若手人材の専門能力を高めていきます。
① 研修等による知識修得
② 学内における実務研修
③ 外部連携機関・企業におけるインターンシップ

2.期待される効果
本プログラムの実施によって、本学における産学官連携活動にもたらされる効果として、産学官連携に関わる実践的人材の育成が期待されます。
3.実施期間:平成20年度~平成24年度の5年間
(上記リンクより。強調部分はマイスターによる)

外部の資金を有効に使って、職員やポスドクのキャリアを構築していくという取り組みは、あまり聞きません。
大学組織のキャリア構築の取り組みとしても、今後の成果が注目される事例だと思います。

こういった取り組みを立ち上げる以上、このプログラムを修了した「後」のことも、セットで考えていかないといけません。

せっかく学内で育てた人材を、どのような戦略で活用していくのか。
従来と同じキャリアモデルで良いのか。
「職員」という括りになるのか、あるいは教員でも職員でもない、第3の専門職種となるのか。

人材の可能性を広げていくような構想になるといいですね。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。