国際教養大学 「グローバル・セミナー入試」と「特別科目等履修生」について

マイスターです。

今は、4月からの入学者を固める時期であると同時に、「次年度以降の入試」について、戦略を打ち出す時期でもあったりします。

最近も、こんな話題を見かけました。

【今日の大学関連ニュース】
■「国際教養大で『AO入試』実施へ セミナー参加とリポートで選抜」(さきがけonTheWeb)

国際教養大は来春卒業見込みの県内高校生を対象に、2泊3日のセミナー参加とリポート、面接により2010年度の新入学生数人を選抜する「グローバル・セミナー入試」を行う。5、8月に行うセミナーに参加して提出したリポートを重視し、9月の面接を経て合否を決める。同大によると、米国では普及している手法だが、国内では事例は少ない。同大は「セミナーは高校生には自分に合う大学かどうかを確かめる場になり、大学としても高校生の探究心をみる機会になる」としている。
(略)出願はセミナー参加が前提。参加者は1回のセミナーで同大教員から5分野の講義を受け、2つについて日本語でリポートを提出。同大はこれを選考資料とする。2回参加の場合、提出するリポート4通のうち内容の優れた2通で選考。セミナー期間中は同大の学生寮に宿泊するため、同大は「模擬的にキャンパスライフを体験できる」としている。
(上記記事より)

国際教養大学の、新しい入試システムに関する報道です。

大学が高校3年生向けに、大学での学びに関係するセミナーを実施する。
そしてセミナー参加者のうち、国際教養大学への入学を希望する者は、セミナーで提出したレポートと面接で合否を判定してもらえる。
……という仕組み。

同種の入試システムとしては、首都大学東京が実施している「東京未来塾特別推薦入学」があります。こちらは、東京都教育委員会が実施している「東京未来塾」の参加者を対象にしたものですね。

●大学で行われている学びに近い内容を、まず高校生に体験してもらう
●合否判定時には、体験した学びについて本人がどのように理解し、どのような発信を返したかという点が関わってくる

……という点が、両者に共通しています。

入試を通じて学びを知り、大学を知ることができる、という点は大きなポイント。
受かってから学問の内容を初めて体験する、なんて受験生も多いとされている昨今、こういった機会を持てるのは非常に貴重です。
それが進学という入口に直結しているのであれば、高校生達にとって、参加する意味はなお大きいです。

大学にとっても、何かとメリットがある入試です。
直接大学の環境や教員に触れ、レポートを書いたり、プレゼンテーションを行ったりといった主体的な学びを体験すれば、受講生の、大学への印象はそれなりに変わるでしょう。もともとは第一志望でなかった受験生の志望度が高くなることもあると思います。
極端な話、AO入試で不合格になった後も、一般入試で再度チャレンジしようと思うでしょう。

ただ、こうした特性ゆえ、日本では、こうした取り組みにはしばしば「青田買い」という批判も寄せられます。
形式的には「大学を事前に知るためのセミナー」であっても、実際にはその大学を第一志望とする高校生が集中し、結果的に、早期に実施する入試制度という面だけがクローズアップされてしまう可能性も、確かにあります。

もっとも個人的には、こうした取り組みはもっと様々な大学が実践しても良いのでは、と思っています。
上記2大学の真似をするという意味ではなく、
「大学での学びをちゃんと知った人だけを対象にする選抜システム」
……を、それぞれの大学なりの方法で、色々試してみてはどうでしょうか、という意味です。

なんだかこのあたりの発想には、色々な可能性がまだまだ隠されている気がするのです。

ところで国際教養大学は、以下のようなシステムも持っています。

■「特別科目等履修生とは?」(国際教養大学)

国際教養大学には、一般選抜試験において合格に至らなかった受験者のうち、成績優秀者で、学習意欲に満ち、本学への入学を強く希望する方を「特別科目等履修生」として登録し、1年間の履修成績によって、次年度、正規学生(2年次)になれる暫定(ざんてい)入学制度があります。
(上記ページより)

この特別科目等履修生の仕組み、非常に興味深いです。
詳細は上記のページに書かれていますが、実質的にはほとんど正規の1年生と変わらない学びが受けられる上、

【特別科目等履修生が正規学生(2年次)となるための条件】
1. EAPを修了すること
2. EAPIIIを含む21単位を取得すること
3. GPA2.5以上を取得すること
(上記ページより)

……といった、GPAと連動した編入条件など、細かく制度設計されているのが目を引きます。
この特別科目等履修生の間に取得した成績や単位は、編入後に認定されるので、うまくすれば特別科目等履修生1年間+3年間の、計4年で卒業することも可能だそうです。

対象こそ1年ずれていますが、実際の学びを通じて大学の潜在的な顧客をつくるという発想は、先ほどの「グローバル・セミナー入試」と似ているように思います。

そして上記のページによると、これまでの実績では少ない年でで2人、多い年で14人ほどが正規学生として実際に2年次に編入している模様。

読売新聞社「大学の実力」調査によると、国際教養大学では、定員の1.3%程度の学生が、入学から1年で既に退学しています。こうして「初年度の退学者」が抜けて定員から不足した分の人数が、この特別科目等履修生の編入によってある程度、充当されている……のかも知れません。
だとしたら、これは大学経営的にも、かなりメリットが大きい制度だと言えそうです。

しかし特別科目等履修生になったからといって、2年目に必ず正規学生になれるとは限りません。
もし編入できなかったら……というリスクを学生が背負うという面はあります。
アメリカでは、単位を取得しながら編入を繰り返して大学を渡り歩く学び方は珍しくありませんし、日本のようにきっちり4年で卒業することにこだわる人も、あまり多くないと聞きますから、こうしたシステムも広く活用されるのかも知れませんね。

そんなわけで日本で行うには色々と、運用上、難しい面もありそうですが、何かと気になる仕組みではあります。

色々な面でメリット、リスクの両面がありそうですが、一番大事なのは、高校生や受験生にとって、あるいはその制度を活用して入学した大学生にとって、良い影響があるかどうか。
学びを知り、大学を知り、納得して入学審査を受ける。
やはり第一には、そんな目的を実現させるための制度として、運用して欲しいと個人的には思います。

以上、報道を見ながら、そんなことを思ったりしたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。