マイスターです。
「緑豊かなキャンパス」を自慢にしている大学は、結構あります。
一方、「自然に囲まれたキャンパス」なんていう表現も見かけますね。
一般的にはあまり区別されていないケースもありますが、「緑」と「自然」は、厳密に言えば違います。
緑というのは、そのものずばり、植物のことです。
人が恣意的に計画をして植樹を行い、防虫剤をまいて余計な生き物が寄らないようにしても、緑は緑。ですから、「緑豊かなキャンパス」をつくるのは、その気になれば実現は難しくありません。
それに対し「自然」というのは、生物の多様性が保たれているような、文字通りの自然状態を表す言葉。例えば、落ち葉が堆積して地面が柔らかく、虫がわんさか棲んでいる雑木林とかが、まさにそれです。
ある程度の工夫によってコントロールを加えることはできますが、人工的に大きな「自然」をつくりだすのは極めて困難。可能だとしても非常に長い年月を要します。
もちろん、どちらが良いというのではなく、「緑」も「自然」も大事であることは間違いありません。
ただ現代社会、特に都市部においては、どちらかと言えば「自然」に触れる時間をつくる方が難しいとされています。
(そこで昨今ではビオトープなど、生物の多様性を感じるちょっとした仕掛けを、人工的に都市の中に埋め込む取り組みが行われていたりします)
マイスターも大学院生の時は、夜中に研究棟に向かう途中でアオダイショウに遭遇するなど、「自然」を感じる機会に恵まれていましたが、そう言えば最近は、せいぜい人工的な「緑」くらいです。
さて今日は、こんな取り組みをご紹介したいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「キャンパスまるごと里山化…名古屋の金城学院大が保全計画」(読売オンライン)
金城学院大学(名古屋市守山区)が、キャンパス全体を里山のようにしようと、総事業費約10億円をかけて、新年度から3~4年がかりで大規模整備に乗り出すことがわかった。
生い茂る樹木を伐採して、キャンパス内の森を回遊できる散策路などを設け、体験的環境学習の場とするとともに、花や実をつける植物をたくさん植え、野鳥やチョウ類の飛来を促す計画だ。同大では「キャンパス全体を里山化して保全・活用するケースは全国的にも珍しいのではないか」と話している。
(上記記事より)
金城学院大学は、名古屋市守山区にある女子大学です。
上記のように、森に囲まれるようにキャンパスが存在しており、四季を通じて変化を見せる文字通りの「自然」が身近に存在する環境。
↓公式サイトには、このようなコンテンツも用意されています。
■「金城台の自然」(金城学院大学)
校地の中に湿地が存在し、その中に遊歩道が整備されていたり、様々なチョウが見られたりと、豊かな生態系を維持しています。
普段過ごしている校舎からちょっと歩いただけで、こうした環境に触れられる学生さん達は、非常に恵まれていますね。
さて、このようにもともと自然を感じられる環境だった同大が今回、キャンパス全体を「里山」化するという計画を発表しました。
里山というのはわかりやすく言うと、大自然と人工的な街との中間にある、人の手が入った森林や山などのこと。人がある程度のコントロールをしたりしながら、人の生活に密接に関わっている自然、といった感じです。
日本人の生活の原風景、と言ってもいいかもしれません。
では、具体的にはどのような計画なのでしょうか。
まだ大学の公式サイトにはリリースなどが掲載されていませんので、冒頭の記事から具体的な記述を拾ってみたいと思います。
「森の中にある大学構想」(仮称)と名付けられた計画によると、大学構内を「里山林再生活動ゾーン」「森と水辺を楽しむゾーン」など六つのゾーンに分けて整備する。初年度は放置されて荒れ放題になったアカマツやアベマキ、コナラなどの伐採や下刈り、散策路の整備を中心に行う。同大の東側に隣接する「八竜湿地」(約2万4000平方メートル)へのルートも整備して、自然観察や野外授業に活用するほか、伐採木を利用して炭焼きの体験もできるようにする。
また、クラブハウスの建物を取り壊した跡地(約400平方メートル)を「里山モデル地区」とし、光の当たる明るい環境の下で、どんな植物がどのような順序で生え、草地から樹林に移り変わっていくかを観察してもらう。さらに、オリーブやオオムギなど聖書に登場する植物を植えて、キリスト教系の大学にふさわしい中庭も造る計画だ。
2010年度には、大学敷地内にあるため池と水路で結ぶ人工池を造って水を循環させ、小川のせせらぎを演出することも検討している。水辺には水生植物を植え、地域の子供やお年寄りにも憩いの場として開放する。
里山構想は今年、同大が設立60周年、経営母体の金城学院も創立120周年を迎えることから、記念事業のアイデアを教職員や学生から募る中で浮上した。
柏木哲夫学長は「日本から里山がどんどん姿を消している中、単なる緑化ではなく、キャンパスを里山として残していくのが、我々の使命。学生や地域の人にも整備に協力してもらいたい」と話している。
(上記記事より)
もともとの豊かな「自然」をより身近に感じられるよう、様々な工夫を行うとともに、様々な緑も整備。
キャンパス全体の生態系がより豊かになりそう。
あたかもキャンパス内が、一体的な里山のように感じられる空間になるという計画のようです。
これは、非常に興味深い構想です。
直接的なメリットで言っても、金城学院大学には、「環境デザイン学科」がありますので、こちらの学生さんにとっては日常から様々な事を学べる、最高の環境になるでしょう。
また、同じ敷地内に学園の幼稚園があり、大学には「現代子ども学科」なんて学科もありますから、こうした里山環境を活用した教育のあり方なんてものも学べそうです。
でもそれだけではなく、他の専攻で学んでいる学生の皆さんにとっても、こういった環境は非常に魅力的なものになると思います。
快適な環境を享受できる、というだけの意味ではありません。
逆説的ですが、こういった自然を取り入れた環境を維持するためには、人が、継続的に手を入れていかなければならないのです。
人工物だけのキャンパスをメンテナンスするのとは訳が違い、これには、大変な手間がかかります。
ちゃんと生物の多様性を意識しながら、かつ、人間にとっての快適性も考えながら、互いが共生できるようにしなければならないのですから。
こういったキャンパスの維持活動に、学生が関わる仕組みができたら、それ自体が非常に貴重な学びの体験になるとマイスターは思うのです。
それでこそ、本当の意味での「里山キャンパス」です。
正規の授業科目や、課外のサークル活動など、学生や教職員がキャンパスに関わる様々な仕掛けが生まれたら素敵です。いっそ、金城学院大学全員の必修科目にしたっていいのでは。
単なる技術や知識だけではなく、「自然とのつきあい方」が学べます。きっと卒業後、様々なところで、この体験は活かされることでしょう。
必然的に、エコロジーやサスティナビリティといった概念を実感できる場も出てくるはずです。
以上、勝手な個人的要望(?)も書いてしまいました。
でも実現したら、金城学院大学でしか体験できない学びになると思うのですが、いかがでしょうか。
この構想について、より詳細な計画を知りたいなと思います。
このキャンパスができたら、ぜひ一度、訪れてみたいですね。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。