公務員や一般職が人気 安定志向の学生が増えている?

マイスターです。

大学入試は終盤戦ですが、大学生の就職活動は、現在が佳境のようです。

学生の就職活動には、世相が表れますよね。
そういえばバブルが崩壊し、大企業の権威が失墜した頃、ベンチャー企業が注目された時代もありました。
「どんな大企業だってつぶれるときはつぶれる。 だから、組織がつぶれてもちゃんと生き残れるくらい、早くから自立した仕事ができるところが良い」
……というのが、その発想のもとだったと思います。

一方、昨今では、すっかり安定志向が復活した様子。
「寄らば大樹の陰」という、一時期は格好悪いとされた価値観が、再び公然と叫ばれるようになったようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「公務員になりたい就活生 民間の採用鈍化で志願者急増中」(Asahi.com)

厳しい財政事情の夕張を見ればわかる。公務員も順風満帆ではないはずだと。でも、学生がほしいのは安定。公務員は地味どころか、いまは花形職種らしい。
(略)好景気のときは昇給率やボーナスが気になる学生が、不況になると「安定」を重視――。バブル崩壊後にもみられた傾向だが、今回の不況は大手企業でさえも人員削減や赤字転落など暗い話ばかりで安定感に乏しい。これまでより一層、公務員の人気が高まっているようなのだ。
(略)就職情報会社エン・ジャパンの調査で、「就職できなかった際の進路」として「公務員受験をする」を挙げた学生は09年卒では0.6%にとどまったが、現在、就職活動中の10年卒では5%に増えた。同社の〔en〕学生の就職情報の深井幹雄編集長は、学生たちの公務員に抱くイメージに注目する。
「公務員の安定性に魅力を感じることはもちろんのこと、『利益を追求しない』『地域に貢献できる』といった安定以外のイメージを持っている。もはや公務員イコール地味ではなく、『競争より共感・協働』という最近の学生のライフスタイル志向にマッチしているのでしょう」
(上記記事より)

不況になると公務員の人気が高まるというのは、以前から見られる傾向であり、当然の流れ。
厳しい財政下で、仕事に関してあまり明るい話題も増えない中、この記事にあるような動きは、なんとなく誰もが予測していたと思います。
記事によると、保護者の方が公務員を勧めるケースも多いとのこと。

公務員は法の施行者であり、社会の中で重要な役割を担っています。

人によって、公務員的な仕事に向いている人と、向いていない人がいると思いますから、やりがいがあるかどうかは一概には言えません。
ただ、「安定」という点に惹かれて公務員に関心を持つ方は、きっと少なくないのだろうと思います。

実際、記事でも、

『利益を追求しない』
『競争より共感・協働』

……といった点に魅力を感じている学生が多い、と紹介されています。

悪いとは思いませんが、これがもし、「競争したくないから」という理由から発せられている意見なのだとしたら、ちょっと心配。

確かに公務員の仕事は、民間企業と比較すると、他の組織と競争する要素は少ないかもしれません。
ただ現在は、公務員の仕事にも様々な改革や刷新、各種の効率化などが求められています。
様々な問題を解決するにあたって、色々な人や組織とケンカをすることも必要になりますし、多くの人に反対されるような取り組みを、自ら矢面に立って進めなければならない機会もあるでしょう。
全体的には「協働」ですが、その中には様々な競争や衝突などが含まれているはず。そのあたりは、民間企業とあまり変わりません。

あと、「利益を追求しない」というのも、誤解を招きそう。
金銭的な利潤の拡大を求めないというだけで、実際には、公務員には「限られた予算の中で、社会的な価値の拡大を追求する」という、ある意味、企業よりも困難なミッションが課せられているからです。

こうした点で、高いレベルでの問題発見・解決能力が今後の公務員には求められています。
これらが損なわれると、市民から見放されたり、自治体が財政破綻したりします。

公務員的な安定も、悪いことではありません。
ただ、「どうして公務員になりたいのか」ということを、学生さん達にはよくよく考えてみて欲しいです。

さて、学生の安定志向は、公務員だけにとどまりません。
民間企業でも、大手が人気の様子。

銀行などは、今回のサブプライム・ローン不況で最も大きな影響を受けた業界であり、今年は例年に比べてかなり採用が抑えられる見込み。採用人数の発表も遅れています。
ただ、大手・安定・終身雇用のイメージが強いのか、既に就活生の熱い視線が集まっている模様です。

さらに目を引く記事も目にします。

2009.2.23付けの『AERA』には、

憧れは専業主婦
それでいいの?
不況で増える女子学生の主婦願望

というタイトルの記事が載っていました。

内容は、「いずれは専業主婦」と考える(ときには公言する)女子学生達について紹介するもの。
実際に女子学生達にアンケート調査をした結果や、女子学生および彼女たちに接している大学教授へのインタビューなどが掲載されていて、興味深いです。

また、立教大学大学院・小島貴子准教授(ビジネスデザイン)による、

先輩たちの姿が魅力的に見えず、途中で討ち死にするくらいなら、最初から一般職でという空気が伝承されている。
(『憧れは専業主婦 それでいいの?』(AERA 09.2.23)より)

……といった指摘も。
色々な大学で、女子学生達の「あきらめ」を感じているとのこと。
安定志向が、積極的に望んだ結果ではなく、何かの「あきらめ」から来ているのだとしたら、ちょっと考えものです。

女子だけではありません。
↓こんな報道もありました。

■「安定志向の男子学生が急増!?総合商社が苦慮する一般職志望のオトコたち」(ダイヤモンドオンライン)

学生からダントツの人気を誇る総合商社には、今年も応募が殺到しており、採用担当者はさぞご満悦かと思いきや、予期せぬ現象の対応に苦慮しているらしい。これまで女性社員が担ってきた事務作業など補助的な業務を行う「一般職」に男子学生が応募してくるというのだ。
(略)2007年に一般職の採用活動を再開した丸紅には、採用枠約30人に約5000人もの応募があり、そのなかに「数%の割合で男子学生がいた」と同社人事部は明かす。
他の総合商社も同様で、2002年にいち早く再開していた住友商事には毎年10人程度、ここ1、2年で復活させた三井物産、伊藤忠商事、双日にも割合こそ多くないが、男子学生からの応募が一定数あるという。「今年になってさらに男子の応募が増えた」という商社もあった。
(上記記事より)

2007年に施行された改正・男女雇用機会均等法により、男性・女性という制限をかけた採用ができなくなったことで、商社の「一般職」も男性に開かれました。
その結果、男子学生の応募が少しずつ出てきたとのことです。

これまでにない動きなので、ひと昔の男女観や、社会での男女の役割分担といったイメージを強く持っておられる方にとっては、驚きの話題かもしれません。

ただ、個人的にはこれも、悪いことではないと思います。

男女ともに、望む仕事や、望む暮らしのあり方は多様化していますから、補助的な業務を希望する男性がいたって良いはず。
「一般職」というポストのあり方に対する議論は色々あると思いますが、少なくとも、「男女それぞれから応募がある」ということに問題はないと思います。

過度の競争にもまれず、大企業の傘の下で安定して、家庭も大事にしながら……といった価値観が、男性・女性に限らず浸透してきているという結果なのでしょう。
そういう意味では、問題は何もないと思います。多様な方が、多様な働き方を選べる時代というのは、悪くありません。

ただ、こうした安定志向が生み出されている経緯については、色々と考える部分があります。
時代背景もそうですし、学生の方々の、仕事に対するイメージや情報がどのように形成されているかとう点も、気になるところ。
真剣に検討した結果なら良いのですが、例えば、メディアなどの偏った情報をもとに、安易に安定志向に流れているのだとしたら、ちょっと心配です。
(これって普段、大学選びをする高校生達に対して言っていることと同じです)

大学の就職課、キャリアセンターの皆様にはぜひ、こうした多様なキャリア観・人生観を受け止めつつ、一方で、安易な流され方はしないようにご指導いただきたいと、個人的には思います。

以上、いくつかの報道を見て、そんなことを思ったマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。