「経営難の私大をフランチャイズ化 NPO法人を設立へ」

この大学冬の時代、何があっても驚かない…つもりのマイスターです。

例えば、これまで順調に経営されているように見えた大学が、突然30校くらいバッタバッタつぶれていったとしても、「まぁそんなこともあるだろう」ってなもんです。

なにしろ、あの山一証券が倒れた時に学生だった世代です。
バブル崩壊以降に就職活動をした人間は、たいてい、こんなクール&ドライな視点を持っているんじゃないかな、と勝手に推測してます。

そもそも、大企業に限らず、自分の暮らす街の商店街を見れば、経済が厳しいのは一目瞭然ですよね。

マイスターの実家がある街の商店街なんて、ほれぼれするほど見事な「シャッター通り」と化しています。
郊外に超デカイショッピングセンターができた結果、中央市街地が寂れるという、よくあるパターンをたどってしまいました。

食料品も家財道具も、みんなショッピングセンターの方が豊富に揃っているのだから、みんながそちらに行くのは無理もないこと。
地方都市に住んでいる人なんて、普通はクルマを所有しているんですから、何も品揃えの悪い近所の店で買う必要なんてありませんよね。
つぶれたお店は、商売で負けたのです。

そこでしか手に入らない商品があったり、
低価格で高品質だったり、
サービスが行き届いていたりしたら、つぶれなかったかも知れません。

ところで、お店をつぶしてしまったオーナーは、どうすると思いますか?

「どうやら俺には商才がなかったらしい。
 扱っている商品も、ショッピングセンターに比べりゃ少ないし、第一高い。
 その上、世間の流行には遅れて、お客さんの欲しい物もよくわからないとなりゃ、
 店がつぶれるのも無理はねぇ…。

 でも、この歳で会社勤めを始めるのも厳しいだろう。
 せっかく、オヤジの代から守ってきたこの店と土地があるってのに、
 俺が不甲斐ないばっかりに…。あぁ、どうしたものか…」

なんて悩んでいる人が、例えばいたとしましょう。
さて、みなさんがこんなオーナーと同じ立場だったとしたら、どうしますか?

一から商売を勉強し直して自主再建をはかる、なんて方法もありますが、
世の中には、様々な事情で、そういう選択肢をとれない人もいます。

(そもそも、店がつぶれるまで効果的な対策を打てなかったオーナーですから、自主再建は難しそうです。周囲もあんまり期待しないでしょうし)

そんな人が、それでも商売をなんとかやっていくための、
もっともリスクの低い方法があります。

それは、どこかの系列の、フランチャイズになることです。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「経営難の私大をフランチャイズ化 NPO法人を設立へ」(Asahi.com)
http://arch.asahi.com/kansai/news/OSK200512130053.html
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というわけで、今日はこんなニュースをご紹介します。

しかし、毎日毎日、よくもまぁ色んなニュースが出てくるものだと思います。
激動の時代に生まれて来てよかったです。とりあえず、退屈はしません。

「フランチャイズ」というのは、みなさんご存じですよね?

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フランチャイズとは、ある事業者(フランチャイザーという)が、他の事業者(フランチャイジーという)に対し、定型的な契約により継続的に付与するライセンスであり、次の要素を含むものをいう。

(1)フランチャイザーはフランチャイジーに対して事業の象徴となる標識と経営のノウハウを提供して、対象となる事業につき指導.援助を行い
(2)フランチャイジーは事業に必要な資金を投下して、フランチャイザーの統制下に入り
(3)フランチャイジーはフランチャイザーに対価を支払い
(4)両当事者は独立した事業者である。

以上、「フランチャイズの定義を考える」(フランチャイズ研究所)http://www.franchise-ken.co.jp/comment/0309.htmlより。
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早い話が、

「あなたは商売が下手ですから、私達の言うとおりにお店を動かしなさい。
 あなたは特にアタマを使う必要はありません。私達の商品を、私達の用意するマニュアルに従って売りなさい。
 ただし、そうした商売に必要な資金は自分で用意しなさい。
 で、売り上げの何パーセントかは、私達に上納してね。」

ってことです。

典型的な例が、コンビニです。コンビニは、ズバリ上の例の通りの商売です。
オーナーがオリジナリティを発揮しているコンビニなんて、ありません。

セブンイレブンなら、全国どの店も、商品やサービスはほとんどすべて同じ、セブンイレブンのものです。
商品の種類や接客法、製品の広告など、商売の大事なところはすべてセブンイレブンの本部が用意してくれますので、オーナーはその通りに経営していればいいわけです。
これなら、よっぽどひどいオーナーでない限り、大きくコケることはないでしょう。
自分で商売を考えるのに比べたら、「商才」の部分をあんまり求められませんから、リスクは減らせます。

実際、近所のパッとしない酒屋がつぶれて、その後にコンビニができたなんて例、ありますよね。

なんだか、操り人形になっちゃった気分は味わうかも知れませんが、商売としては実に良くできているのです。
フランジャイザー側も、フランチャイジー側も、お互いに売り上げアップを目指して共生するというわけです。

さてさて、今回ご紹介する記事は、なんと私立大学の経営について、こんなフランチャイズの手法を導入するというニュースなのです。
さすがのマイスターも、うおっと思いました。
こういう商売が出てくるとしても、あと5~10年くらいは先のことだと思っていたのですが。

-経営難に陥った地方の私立大学をフランチャイズ化し、再生を図る産学官のメンバーによるNPO法人が近く、設立される見通しとなった。地元企業から投資を受け、大学側に融資などして経営を担う株式会社も設立。NPO法人はこの会社から事業委託を受け、大学側にコンテンツを提供する。早ければ07年4月にも「フランチャイズ大学」が誕生することになる。-

-この構想を資金的に裏づけるのが、13日に登記申請した株式会社「夢育(ゆめいく)ファイナンスカンパニー」(東京都、横山征次社長)。OIJの役員らが出資し設立、学校債の購入といった方法で、学校法人に役員を送り込むなどして経営に参加する。-

-OIJでは全国を11ブロックに分け、各ブロックに1校ずつ、「フランチャイズ大学」を募る計画。大学の名称を「産業創出大学」と変更し、地域産業の担い手を育成する全国共通の「ビジネスプロデューサー学部」のほか、地元産業に密着した2学部を置く。-(以上、Asahi.comの記事より)

「地元企業から投資を受ける」のあたりがコンビニなどとは異なる部分ですが、それでも確かにこれは、れっきとしたフランチャイズの手法であるように思われますね。

一見、

「つぶれそうな大学を、地域や産学官の工夫で救う」

という、イイ話のように思えます。
ついに、大学産業もこんな事業が成立するようになったんだなー、近代産業だなー、なんて感じちゃいます。

がしかし、よくよく考えると、「待てよ?」と思えるところが多数。

<フランチャイズ大学で提供されるコンテンツって?>

フランチャイズって、そもそも、
「本部が考えた商売を、全国津々浦々で一律に提供する」
っていうビジネスモデルなんですよ。
効率よく、高品質で安価なサービスを提供するための工夫です。

じゃあ、フランチャイズ大学が、フランチャイズ先に提供する「教育コンテンツ」って、誰が作るんでしょうか?

今回の記事を読むと、「プロジェクトOIJ」というNPO法人が、フランチャイズ大学にコンテンツを提供すると書いてありますよね。

でね、このNPO法人の設立を主導しているのはどうも、
↓この会社みたいなんです。

■デジタル・トウキョー株式会社
http://www.ditokyo.co.jp/

 *大学公開講座・単位講座の企画・プロデュース
 *企業人向け講座の企画・プロデュース
 *企業研修の企画・開発・プロデュース
 *e-ラーニング事業
 *デジタル・コンテンツの企画開発

などなど、既に大学に関する様々な事業を核にしている企業です。

大阪経済大学や駒沢大学、多摩大学などで、キャリアに関する講義を請け負っているほか、大学生や社会人に対して、ビジネスマネージメントや、プロデュース、企画立案などの講座を提供する事業を行っているようです。

で、思う。

「プロジェクトOIJ」が設立するフランチャイズ大学「産業創出大学」は、
「ビジネスプロデューサー学部」のほか、地元産業に密着した2学部を置く、

とされていますが、どうもフランチャイズになった結果、NPOを通じて提供されるのは、このデジタル・トウキョー株式会社のコンテンツなのかな、と。

ということは…

このフランチャイズ大学になるってのはもしかして、
このデジタル・トウキョー株式会社さんの営業所になるってことなのでは?

よく見ると、「プロジェクトOIJ」の理事長は、大阪大大学院経済学研究科の浅田孝幸教授が就任する見通しとありますが、この浅田教授は、デジタル・トウキョー株式会社さんと共同研究をいくつか行われていますね。
デジタル・トウキョーのトップページ、「トピックス欄」をご覧ください。

どうも、「産学官のメンバーによるNPO法人」と朝日の記事で紹介されていたのはダテではないようで、かなり企業主導のプロジェクトであるような気がします。

<フランチャイズされた大学の研究者達は?>

次にマイスターが考えたのは、これです。

フランチャイズって、提供するコンテンツは本部が考えるわけですから、
極端に言うと、各フランチャイジーにはそのコンテンツをうまく流す人がいればいいわけなのですよ。

で、「フランチャイズ大学」って、一体、何をどこまでフランチャイズするんですかね?

今回の「プロジェクトOIJ」は、「経営難に陥った地方の私立大学をフランチャイズ化し、再生を図る」ためのNPOと紹介されています。

でも、もし、一つの大学を丸ごとフランチャイズ化するんだとしたら、元々の大学の研究者や、研究成果は不要ですよね。
だって、本部の方針に従って、本部から提供されるコンテンツを流していれば良いんですから。

となると、一体何が「再生」されているのでしょうか?

デジタル・トウキョー株式会社がこれまでそうしてきたように、「特定の授業を大学に提供する」というレベルの話なら、まだわかるんですよ。
この場合、受け入れる大学側は、単に講座の一コマを任せるだけですから、大学組織自体に影響はほとんどありませんよね。
大学が、外部の講義を、都合良く利用しているという範囲の話ですよね。

でも、今回の「フランチャイズ大学」の場合は、そうじゃないですよね。
大学丸ごとをフランチャイズする計画なわけです。
フランチャイジーになるってことは、「プロジェクトOIJ」のフランチャイズ・プランを受け入れ、

「地域産業の担い手を育成する全国共通の『ビジネスプロデューサー学部』のほか、地元産業に密着した2学部」

という学部構成になるってことなのです。

あれれ?
じゃあ、元々その大学にあった研究資産とか、研究者達は一体どこへ?

これじゃ、言葉は悪いのですが、なんだか「大学を再生している」というよりも、

「キャンパスや職員、学生を、プロジェクトOIJ(デジタル・トウキョー株式会社)が乗っ取っている」

というのに近い気がするのですが…。
「専門学校に土地と職員をそっくり引き取ってもらった」というのと、何が違うのですかね?

<非営利組織としての大学経営は保たれるのか?>

最後が、これ。

朝日の記事には、

-この構想を資金的に裏づけるのが、13日に登記申請した株式会社「夢育(ゆめいく)ファイナンスカンパニー」(東京都、横山征次社長)。OIJの役員らが出資し設立、学校債の購入といった方法で、学校法人に役員を送り込むなどして経営に参加する。-(以上、Asahi.comの記事より)

とあります。

で、この横山征次社長というのが、
実は先ほどからお名前を何度も挙げさせていただいている、デジタル・トウキョー株式会社の社長でもあったりするのですよ。

■「会社概要」(デジタル・トウキョー株式会社)
http://www.ditokyo.co.jp/gaiyou.html

ね?
なんだか、いよいよ「ん?」って感じでしょ?

「つぶれそうな私立大学に、役員を送り込んで、経営を握る。
 で、フランチャイズ化したら、デジタル・トウキョー株式会社のコンテンツをそこで販売する」

という構図に見えてしまうではありませんか。

で、ですね。

マイスターは、何も、このプロジェクト自体が悪いとは思わないのです。
というか、むしろ、こうした動きが起きることはやむを得ないし、やり方によっては歓迎なんです。

だって、民間の力で大学の経営を立て直すのは、事実なんですからね。
地域の活性化にも、まちがいなく、貢献すると思います。
それに、社会が求める教育サービスを、全国で安価に提供してくれるのなら、それはすばらしいことです。

ただし、「商売と割り切ってやるなら」という前置きが必要だと思うのです。

このプロジェクトは正直言って、営利組織の、ビジネス上の思惑がかなり大きな部分を占めているように思われます。
それなら、フランチャイズ化された後の大学は、学校法人としては消滅させ、「株式会社立大学」として再スタートを切らせるのが道理でしょう。

記事を読む限り、

「学校法人に役員を送り込むなどして経営に参加する」

と、あくまで学校法人のまま存続させるかのような印象を受けますが、それはやはり、おかしい。

事実上、民間営利企業のフランチャイジーなのですから、非営利組織として扱うわけにはいきません。
他の私立大学のように、税金から助成金を受け取ったり、税制上の優遇を受けたりするのは、どうかと思います。
民間企業の関係者を大学の理事にする例は他にもありますが、このフランチャイズ大学の場合は、そうした事例とは区別して考えるべきです。

だからいっそ、胸を張って

「フランチャイズ大学は新しい教育ビジネスであり、株式会社による大学経営のモデルとして立ち上げます」

と、「商売として」行っていただいた方が、様々な点ですっきりするというのが、マイスターの意見です。

当然その場合、株式会社立大学として経営されることになりますので、助成金は受け取れないし、税も優遇されません。
そうした上でプロジェクトを行われるのなら、それは非常に優れた取り組みだと思います。

以上、いかがでしたでしょうか?
他にも、疑問に思うところはいくつかあるのですが、この辺にします。
みなさんからのご意見もお待ちしておりますので、「私はこう思う」というコメントなどお寄せいただけると幸いです。

大学の倒産は、今後、珍しくなくなるかも知れません。
ですので、大学のフランチャイズ化というのも、身近で起きるかも知れません。

その場合、上記で申し上げたような問題も起きるでしょう。
で、こうした問題を解決するコンサルタントなんてのも、生まれるかもわかりませんね。
新たな「大学再生ビジネス」です。

従来からの大学関係者にとっては、あまり考えたくないことかも知れませんが、つぶれた大学をどう再生するか、というのは、今後真剣に議論されなければならないテーマなんだと思います。

今回のフランチャイズの記事から、そんなことを考えたマイスターでした。