大学関係者の3月

マイスターです。

受験シーズンもそろそろ終盤戦。
立場上、受験生側の応援をする側であるマイスターですが、同時に、

「あの大学はちゃんと定員を集められたのかな」

……ということも、頭をよぎったりします。

ユニークな教育、オンリーワンな教育をしている大学は世の中にたくさんあります。
しかし、必ずしも、「良い教育をしている大学に受験生が集まる」……わけではないのが、難しいところ。
これは大学に限らず、ビジネスでも、非営利のサービスでも、なんでもそうなのですが、大学の場合、「合格を出せるのは1年に1回だけ」なところが、色々と難しさを生んでいる気もします。

大学業界の方には、既に読まれた方も多いであろう、『下流大学に入ろう!』。
昨年に発売され、マイスターもすぐに読みました。
「全国47都道府県700大学を歩いて確かめた」山内大地氏の著書です。

ネットなど各所で多くの方が指摘されているように、このタイトルはどうかとマイスターも思いますが、内容には参考になる部分も多く、大学業界の方には一読をオススメしたいです。

(上記の本を読むと、三浦 展氏の『下流大学が日本を滅ぼす! 』を意識したタイトルだということがわかります。
『下流大学が日本を滅ぼす! 』の方は、好き勝手に大学や大学生の悪口を言いっぱなしただけの本。
おそらくこの本への怒りが、山内氏に、このタイトルを付けさせたものと想像されます。個人的に、その意気には大いに賛同)

この本の中で紹介されており、個人的に印象に残ったのが、福岡県みやま市にある、保健医療経営大学です。

■保健医療経営大学

その名の通り、保健・医療・福祉分野の経営を担う人材の育成をミッションに掲げた単科大学。
詳細は、以下のページをご覧ください。

■「設置の趣旨」(保健医療経営大学)

医師などの専門職が自分で経営を担っている保健・医療・福祉分野において、各種の問題解決を行うマネジメントのプロを育てるという狙いは、非常に明快。
大学業界における、「大学アドミニストレーター育成」と共通のアプローチですね。

こういった人材は必要でしょうし、ニーズもあるところにはありそう。
個人的には、面白い市場に目を付けた大学だと思います。
今度、セミナーでご一緒する石渡嶺司氏と言い、多くの大学に取材をしている方だからこそ、こういう大学を紹介できるのだと思います。こうした情報はありがたいです)

しかし開学第1期生を迎える2008年度入試は、定員150人に対し受験者数44人、合格者数42人、入学者数27人という結果に終わってしまったのです。

そして先日、↓こんな報道がありました。

【今日の大学関連ニュース】
■「2年連続大幅定員割れ危機、保健医療経営大がPR強化」(読売オンライン)

2年連続で大幅な定員割れとなる可能性が高まり、3月29日に追加入試を実施するみやま市の保健医療経営大。学生確保に向けて18日、就職見通しの明るさや奨学金の大幅拡充などをPRし、「不況に強い大学」と訴えるチラシとポスターの配布を始めた。
同大は保健と医療に特化した経営を学ぶ4年制単科大で、昨年4月に開学。チラシとポスターでは、対象者を「若干名」から「成績上位3分の1」へと拡充した奨学金を活用すれば、国立大より安い学費で済むことなどを説明している。
橋爪章学長は出願者数が低迷している理由について「難しそうな分野と思われがち。高校生との距離を縮められなかった」と分析。一方で、「社会で必要とされるにもかかわらず高等教育機関が少ない分野。少子化の時代でも生き残れる」と述べ、「魅力が伝われば学生は集まる」との見通しを示した。
(上記記事より)

このように、2年連続で定員割れになる可能性が高い、と報じられています。
依然、学生集めに苦労されている様子。

橋爪学長らは18日、同市の商工会を訪問して協力を要請。商工会の中原巌会長は、会員の事業所約1050か所でポスターを掲示し、筑後地区の22の商工会にも学生確保の協力を働きかけることを約束した。
1月末には西原親市長が近隣の公立高を回って同大をPRするなど、市も積極的に支援している。
(上記記事より)

……といった手も打たれていますし、「成績上位3分の1」が対象という奨学金も充実。
やれることはやっている、という様子ですが、なかなか成果につながりません。

webサイトを見てみると、目立つものではありませんが、説明がわかりやすく、情報の出し方も適切。
個人的には、とても良くつくられているサイトだと思います。

例えば、大学に関するQ&Aページ。

「多くの大学が定員割れなのに、新しく大学を設置する意義はあるのですか?」
「医療が大変なことになっているということは教科書には載っていませんが、本当でしょうか?」
「保健医療の経営は、他大学の経営系の学部学科で学べるのではないですか?」
「保健医療の経営に特化したカリキュラムでは、保健医療分野以外への進路が閉ざされるのではないでしょうか?」
「施設経営コースの就職先は大病院しか想定できないのではないでしょうか。小さな病院では病院長(医師)が経営をしています。」
「法的に病院長は医師でなくてはならないので、事務職では経営者としてトップを目指すことができず、先が暗いのではないでしょうか。」
「医療事務を身につけるのだったら専門学校で十分だと思うのですが。」
「保健医療経営大学Q&A」(保健医療経営大学)ページより抜粋)

……等々、気になる質問がちゃんとリストアップされています。
Q&Aに全然力を入れていない大学が多い中で、この丁寧さには好感が持てます。

■「本学指定学生マンション」(保健医療経営大学)
■「施設案内」(保健医療経営大学)

寮はないけれど、大学からの家賃補助制度を設けるなどの対応も、この規模の大学としては申し分ないでしょう。各種の施設も充実しています。

■「学生数」(保健医療経営大学)

↑このように、他大学なら隠しそうな学生数の現状も、ちゃんと明快に公開しています。
こういった姿勢は信頼を生むでしょう。

これだけやっていて、受験生が増えない。
大学関係者の方々は、やきもきされていることかと思います。

報道の中で、「難しそうな分野と思われがち。高校生との距離を縮められなかった」という大学側の分析が紹介されていますが、確かにそれはあるかもしれません。

進路指導をする立場の方々がこの大学を生徒に紹介できていない、という問題もありそうです。

(過去の関連記事)
■高校の教員が「進路指導」で抱いている悩み
■高校生の周りにある「進路選択のための情報」は偏っている?

この保健医療経営大学のように、大学名やパンフレットなどだけでは魅力や意義が分かりにくい大学こそ、進路指導の場でわかりやすく説明されるべきだと思うのですが。

もっとも、もともと、世の中にない取り組みを行おうとしているわけですから、時間をかけないと理解されない部分もあるかと思います。
ただ、関係者にとっては、そんな悠長な話ではないでしょう。
何しろ、4月から入学する学生を集められるかどうかの瀬戸際なのですから。

このキャンパスの内容に27人では、大変な赤字なのではないか……と勝手に心配してしまいますが、2期生もピンチのようですし、大丈夫でしょうか。

医師会などを通じて、病院の子弟などのニーズに訴えてみるのはどうか。
行政・自治体などを通じて、既に医療や保健の現場で働いているスタッフの方々に、専門教育だけを提供するプログラムはどうか。
学部よりも、社会人向けの大学院教育の方がこの内容には向いているのでは。
いや、いっそ通信教育では……
……などなど、色々と思い浮かぶことはありますが(おそらく、関係者の方は既にそんな話もされていると思いますが)、いずれにしても、今から4月までに出来ることは限られています。

個人的には、なんとか大学を存続させて欲しいと思います。

この記事を読んでいると、

「全国には他にもきっと、この保健医療経営大学と同様の課題を、まさに今現在抱えている大学が少なくないのだろう」

……と、思ったりもします。

ギリギリまで受験生を集める手段を試みるのか。
社会人向け有料プログラムの準備など、「受験生が集まらなくても1年間、乗り切れる」という方法を考えるのか。
2010年度入試に向け、学部学科の新設・改編を議論するのか。
銀行からの融資など、外部に頼る方法を探すのか……。

マイスターがこうしてブログを書いている今この瞬間にも、どこかの大学ではそんな議論がされているのだろうと思います。
この一ヶ月間の時間を、どう使うのか。それが問題です。
大学に限った話ではありませんが、こんなときこそ、経営者をはじめ、組織の構成員の力量が問われるのかもしれません。

あと、そもそも、こうして1年にたった1回の受験シーズン次第で、次年度の経営計画が大きく左右されてしまうという経営の仕方にも、改めて大きなリスクを感じてしまいます。
アメリカの大学ではありませんが、学費以外の収入源を開拓したり、あるいは他大学などから編入してくる学生の受け入れに力を入れるなど、経営リスクを少しでも減らす工夫が今後ますます求められるのかな……という気はします。

以上、記事を読んで、そんな色々なことを思ったマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • はじめまして。
    いつも参考にさせて頂いています。
    今回の事例、非常に興味深いものでしたので、一点質問させてください。
    “個人的には、なんとか大学を存続させて欲しいと思う”大学との事ですが、
    実際に受験指導の場にいるお立場として、接している受験生に当該大学を薦める事はできますか?
    私は以前受験生を指導する立場にいた経験がありますが、
    その経験から言えば、どんなに良い大学(実際には良さそうに見える大学)でも
    受験生に薦められない大学もあると思います。
    今回の事例はまさにその典型です。
    当時に比べれば受験生を取り巻く環境も変化していると推測されますので、
    実際の受験指導の感覚をご教示頂ければと存じます。
    よろしくお願い致します。

  • 大学の意義とは何でしょうか。学生をしっかり育てて、社会のために活躍していただくこと。学生本人が何か得意な分野を探して、一人前の仕事が出来るようになること。これからは医療に関する知識はもちろん、基礎学力がますます必要になるでしょう。この大学に進学する学生は、先見性があると思います。しっかりとしたマンツーマン教育をしているようで、地元の方々から高い評価を受けているようです。