マイスターです。
最近、大学が移転したり、キャンパスごと廃止されたりといった話題が少なくありません。
(過去の関連記事)
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■「キャンパス移転にともない、周囲の不動産事情にも変化が?」
■「ニュースクリップ[-11/16] 「学部の一部を青山に移転へ/青学大相模原キャンパス」ほか」
■「定員割れ打開のためキャンパスを移転 志學館大学」
■「千葉大学園芸学部 どうなる移転問題」
■「新設大学に、地元が過剰な期待?」
振り返ってみると、1年の間によくもこれだけと思うくらい、こうした話題ばかりでした。
こんなところからも、大学経営が安泰でないという事実を実感します。
さて、またひとつ、そんな事例が増えるようです。
【今日の大学関連ニュース】
■「皇学館大:社会福祉学部、名張から撤退 『地元に貢献』関係者驚き /三重」(毎日jp)
学生募集停止と、名張市からの撤退が判明した皇学館大社会福祉学部(同市春日丘7)。伊賀地域唯一の大学として期待を集めたが、開学からわずか10年での撤退表明となった。有為な人材を輩出し、多くの学生がボランティアとして福祉やまちづくりなど、さまざまな分野で地元に貢献してきただけに、関係者からは驚きと落胆の声が聞かれた。また、大学周辺の集合住宅や飲食店などは撤退による打撃は避けられず、地域経済への影響に不安の声も上がった。
伴五十嗣郎学長は16日、名張学舎で記者会見し、「10年で新しい展開を図らなければならないことを申し訳なく思う」と陳謝。11年度からの伊勢学舎への移動で、下宿が必要になったり、通学距離が長くなる学生に対しては、家賃や交通費の現在との差額全額を補償する意向を明らかにした。推薦入試で新年度の入学が決まっている高校生には週明けから説明するという。
(上記記事より)
日本では二校しかない神道学科を持つことで知られる皇學館大学。
文学部のほか、1998年に社会福祉学部、2008年に教育学部を新設し、現在は3学部体制です。
文学部、教育学部がある伊勢キャンパスに加え、社会福祉学部を新設する際、地元の協力を得て名張市に新キャンパスを開設しました。
それがわずか10年で、上記のような撤退判断を迎えるに至ってしまいました。
以下が、大学による公式発表です。
■「 1月17日 本学のキャンパス統合等の問題について」(皇學館大学)
平成21年1月16日名張市が議会において、本学が社会福祉学部の平成22年度からの入学生の募集を停止し、同時に新学部(仮称 現代日本学部)を伊勢キャンパスに設置することを報告しました。
これに伴い、本学でも名張キャンパスにおいて、記者会見を行いました。
学校法人の正式決定は平成21年1月27日の理事会・評議員会で行われますが、現時点での予定を以下のとおり、示します。
1,社会福祉学部は、新聞報道のとおり、平成21年度入試(平成21年4月入学生の選抜)をもって、学生募集を停止いたします。
2,平成22年度入試(平成22年4月入学生の選抜)からは、社会福祉学部を改組した新学部(仮称 現代日本学部)での学生募集となります。なお、新学部の教育は、伊勢キャンパスで行ないます。
3,伊勢キャンパスへの統合は、平成23年度を予定しています。 以上
(上記リリースより)
社会福祉学部を募集停止し、名張キャンパスを撤退する旨が書かれています。
さらに社会福祉学部を改組して伊勢キャンパスにつくる新学部は、「現代日本学部(仮称)」であるとも。
なんと、社会福祉とは直接関係がなさそうな学部になってしまいました。
福祉では学生が集められないという経営判断であることがわかるだけに、他大学の福祉系学部関係者にはショックを与えるかもしれません。
市が用意した資料によると、07年の入学募集で、同学部は初の定員割れとなり、08年の定員を50人減の168人に見直した。しかし、入学者は定員を大幅に下回り、105人にとどまった。 同学部の在籍者は大学院生を含め710人(09年1月1日現在)、名張キャンパスに勤務する教職員は64人(同)。卒業生は08年9月末現在で1657人。
市企画財政部の説明では昨年4月、上杉千郷理事長(当時)や伴五十嗣郎学長ら3人が亀井利克市長と面会。名張学舎の入学生減少により、経営が困難であることを伝えたという。
市は同11月、同大学に対して学生確保への取り組みや効率的な運営を提案したが、1月8日に大学側から名張学舎撤退の意向が示されたと説明。議員からは「大学側の意向は変わらないのか」と質疑があり、亀井市長は「大学側の意思は堅い。今後は市として対応を検討し、2月中に再度報告したい」と答えた。
(「議会・行政 : 皇學館大学社会福祉学部 名張市から撤退へ 2010年度から募集停止」(伊賀タウン情報YOU)記事より)
↑このように、定員を割り込む状況が続いていた模様。
07年が初の定員割れで、すぐに翌08年の定員を減らし、それでも定員割れ。その1年後に、こうして募集停止を決定ということですから、大学業界の中ではかなり迅速な判断であるように思えます。
無理をして定員割れの状況が長引けば、社会福祉学部はもちろん、他学部にも影響を与えたでしょう。
経営判断としては、自然な選択だったかもしれません。
ただ、誘致をした市の方は、困っているようです。
上記のように、市の側から大学経営改善策を出すなど、キャンパスの維持に積極的。
(移転反対の署名を集めたりするだけの市が少なくない中、こうした改善案を持ち寄る姿勢は評価されると思います)
それくらい、市の側としては、移転して欲しくない経緯があるのです。
同学部は市が誘致、市の補助金約35億円など総事業費約62億円で98年に開学した。市と大学は、05年に市が駐車場用地を貸与したり、旧町(名張地区)での空き店舗活用などまちづくりの分野で協力してきた。誘致を巡っては96年、反対派による富永英輔前市長のリコール運動が起きた。
亀井利克市長はこの日開かれた市議会全員協議会で撤退を報告した。市の補助金35億円のうち6億6000万円が07年度末で未償還金として残っていることから、議員からは批判が相次いだ。また、名張学舎の用地4万5000平方メートルのうち2万5000平方メートルは市が無償譲渡しており、亀井市長は報道陣に対し、「撤退は残念無念。更地にして返還されることになっているが、跡地利用や補助金など、あらゆることについて大学側と協議したい」と話した。
在任中に大学を誘致した富永前市長は毎日新聞の取材に対し、「大学と共存できるよう、行政はもっと頑張らなければいけなかった」と話した。
(略)
◇市の見通しの甘さが原因--市民団体批判
皇学館大の誘致を巡っては、市民団体「大学誘致問題連絡協議会」(田郷誠之助会長)が富永前市長のリコール運動を展開するなど、撤回を求めた。同会は「大学より中学校新設や震災対策を優先すべきだ」と主張。さらに、「少子化で学生数が減ることは目に見えており、財政負担は将来の名張市に負担となる」と指摘していた。
撤退表明について、同会事務局を担当した佐山和子さん(73)=緑が丘中=は「予想通りの展開だ。市の見通しの甘さの結果であり、誘致した富永前市長と、お墨付きを与えた市議会の責任は重い」と批判。「市は皇学館に対し、税金である補助金の返還を求めるべきで、対応を注視していく」と話した。
(「皇学館大:社会福祉学部、名張から撤退 『地元に貢献』関係者驚き /三重」(毎日jp)記事より)
上記のように税金を元にした多額の補助金を出していますし、大学の誘致を巡って、市長のリコール運動が起きたこともあるようです。
コストをかけ、多くの方々を巻き込んで誘致した大学がたった10年でなくなるわけですから、責任問題になるのは免れません。
地域の活性化、経済効果の波及などを見込んで、大学を誘致しようとする自治体は常にあります。
実際、大学を呼ぶことで街が活性化した、成功例と呼べるモデルも少なからずあると思います。
だからこそ、大学誘致を目指す自治体や政治家は、そのために多額の予算を計上し、リスクを負ってでも大学を呼ぶわけです。
ちなみに地方自治体では、他の自治体で成功したモデルを参考にして自分達の政策を構築することが少なくありません(この点、大学業界と少し似ています)。
中には安易な横並びに終始している例もありますが、成功や失敗の例をきちんと調べ、効果を見越した上で動くという意味では、必ずしも悪いことではないでしょう。
まして自治体の場合、使われる予算は公的な税金であり、市民や議会を説得できるだけのデータや成功モデルを用意するのは大切なことです。
それだけに、今回の皇學館大学のような事例が出てくると、それだけ他の自治体でも、大学を誘致しにくくなってくると思います。
例え市長が「○○大学が街に来てくれれば、街は活性化する」と訴えても、議会が「皇學館大学と名張市の事例を見てみろ」と反論するようになるでしょう。
社会福祉系の学部は、一時期、ブームでした。
超高齢化社会の到来とともに、学生の増加が見込めると期待されていた流行の学部が、わずか10年で撤退するというのは、行政の側から見れば悪夢のようなシナリオです。
大学の誘致を選挙公約にする政治家も、今後は減るかもしれません。
これは大学業界の側から見れば、「今後は、他の土地に進出しにくくなるかもしれない」ということです。
こうした事例が積み重なることで、全国の大学が受ける影響は、少しずつ大きくなってくることと思います。
同学部誘致の総事業費は61億7392万2千円。市では用地取得費13億円を含む約35億円を補助しており、そのうちの19億2870万円の起債分については、13年度の返済期限までに6億5976万6千円(07年度末現在)が残っているという。
また、市は名張キャンパスの敷地の約4割を占める約2万平方㍍の土地を保有。同大学と年間800万円で貸付協定を結んでいるが、貸付期間となる25年までの見通しは立っておらず、今後、支払い期間など大学側と協議する方針。
(「議会・行政 : 皇學館大学社会福祉学部 名張市から撤退へ 2010年度から募集停止」(伊賀タウン情報YOU)
記事より)
↑こういった問題がキレイに片付けば、まだ少しは影響が緩和されると思いますが……果たしてどうなのでしょうか。
今後は、自治体と大学との関係は、今以上に緊張感を伴うものになってくると思います。
しかし考えてみれば、これまでが甘かったのかもしれません。
今後は進出する側の大学にも、誘致する側の自治体にも、経営的な成功を判断するための厳しい目が求められてくるでしょう。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
http://www.iga-younet.co.jp/news1/2009/08/post-203.html
にある様に、次に入居する施設(近大高専)との交渉が始まる模様です。この種の跡地活用話としては順調に推移したほうではないでしょうか。