マイスターです。
産学連携の取り組みが拡大しています。
大学と企業が共同で研究を進めたり、大学の研究成果を企業が導入したり、あるいは企業の社員が大学に出向いて、講義などを担当したり。
大学と企業、それぞれの得意分野を持ち寄ることで新たなメリットを生み出すのが、産学連携のねらいです。
そんな中、「産学融合」という新しい事例が出てきました。
【今日の大学関連ニュース】
■「立命館大 社員のまま教授になれる新制度『産学融合ラボ』導入へ」(MSN産経ニュース)
大学と契約した企業が学内に社名を冠した研究室を設置し、教授にも社員を送り込むことができるシステムを、立命館大(京都市)が国内で初めて導入することが分かった。
(略)立命館大が導入するシステムの名称は「産学融合ラボ」。現行の各大学の制度では、企業に籍を置く研究者が大学の教授になろうとすれば、本業に支障が生じない範囲でのみ講義を受け持つ客員教授となるか、退職する必要がある。これに対し産学融合ラボでは、社員としての研究を行いながら教授にもなる道を開くことになる。
(上記記事より)
社員としての研究を行いながら教授にもなる?
どういうことなのか、記事の内容から、具体的な条件などをまとめてみました。
【大学側が企業に提供するもの】
○実験室(122平方メートル)と教授室(20平方メートル)がセットになった「企業ラボラトリー」
※有料(光熱費と機器利用費込みで年間1200万円)
※学内に研究拠点を置くことで、他の研究室との連携を深めやすくなる、とのこと
○研究室のスタッフとして、生命科学、薬学、理工、情報理工の4学部の学生や院生15~20人を配属
○「教授」という肩書き
【企業側が大学に提供するもの】
○「教授(社員)」による研究活動
※研究テーマはエネルギーや環境、食糧など社会問題に関係するテーマが望ましいが、企業利益だけを追う研究でも構わないとのこと
○「教授(社員)」による教育活動
※一般の教授と同様に、学生や院生の指導、学部での講義を担当しなければならない
(研究室のスタッフとして配属された学生や院生15~20人の指導も含まれると思われる)
○企業ラボラトリーの利用料(光熱費と機器利用費込みで年間1200万円)
「誘致する企業は5社で、企業の規模は問わないが、5年以上の契約が条件となる見込み」、とのこと。
双方のメリットについて、記事では以下のように説明されています。
企業側のメリットは、研究スタッフが大学側から提供されるため人件費を気にせず、目先の収益にとらわれない長期的なプロジェクトに打ち込めること。大学内に研究拠点を置くことで他の研究室との連携が深まり、新たな事業分野の開拓につながる効果も期待できる。
これに対し、大学側は社会のニーズに直結した研究の促進や、製品開発力の高い人材を育成できるメリットを期待。開発マインドの高い40~50歳代の比較的若い優秀な研究者を教授に迎え、研究と教育の両輪で活躍してもらう考えだ。
産学連携ラボの準備を進めている生命科学部の久保幹副学部長は「大学が企業の下請けになるという批判もあるかもしれないが、基礎研究から製品開発に至る過程を目の当たりにすることは、学生にとって大いに勉強になる。企業マインドを直接伝授してもらいたい」と話している。
(上記記事より)
取り組み自体は、ユニークだと思います。
基礎研究から製品開発へのプロセスに学生が参画できる環境が、大学の中にあるというのは刺激的です。大学全体の研究活動にも良い影響を与えるかも知れません。
事業化可能な研究が、大学の中から生まれる可能性も高まるでしょう。
大学を、様々な企業研究が集まる場所にすることができるかもしれません。
企業側にとっても、大学の環境から得られるメリットはあるでしょう。
「産学連携」では、それぞれのコストや作業量などのバランスがしばしば問題になります。また、投資した分だけの研究成果を大学から得られるか、という点で足踏みをする企業もあります。
しかしこの「産学融合」の場合、投資の対価として得られるのは研究成果ではなく「研究環境」そのものですから、明快です。
学生や他の研究者と交流する機会も増えるでしょうし、「大学で教えたい!」と考えている社内人材にとっては、良い刺激になるはずです。
色々な点で、企業と大学とのネットワークが強化されるでしょう。
ただ、大学にとってはメリットの方が大きそうですが、企業の側には様々な負担もかかるので、組織によって判断が分かれるような気もします。
「企業側のメリットは、研究スタッフが大学側から提供されるため人件費を気にせず、目先の収益にとらわれない長期的なプロジェクトに打ち込めること」
……とありますが、記事を読む限り、この研究スタッフというのは学部生や大学院生です。
学生達は、研究スタッフとして機能する一面もあるかも知れませんが、どちらかといえば教授から指導を受ける側ではないでしょうか。
教授が指導に充てる手間と時間を考えれば、人件費を気にしないどころか、むしろコストがかかるようにも思えます。
(もちろん負担だけではなく、指導を通じて得られるものもたくさんあるわけですが)
また、この産学融合ラボで行われる研究は、「企業利益だけを追う研究でも構わない」そうです。
企業利益だけを追う研究のために、人件費を気にせずに研究スタッフとして使える、とありますが、実際に配属される学生一人一人が、企業から来た教授の思惑通りの研究を進めたいかどうかは、わかりません。学生個人個人の希望と、企業側の研究テーマがぴったり一致していないと、どこかでミスマッチが起こりそうな気もします。
大きな研究所を持ち研究者をたくさん抱えている企業にとっては、こういった負担はさほど重くないかも知れませんが、そうした企業にとっては企業ラボラトリーなどの設備はそれほど魅力的ではないかもしれません。一方、小さな研究ベンチャーなどにとっては設備は魅力ですが、学生の指導や講義が大きな負担となります。
どのような規模の企業がこの環境を最も魅力と感じるのか、気になります。
通常なら、研究か教育かのどちらかを重点的に受け持つということで「特別研究員」や「客員教授」、「講師」などと位置づけるところですが、通常の「教授」とまったく同じ教育指導も担うという設定にしたところがこのシステムのポイント。
それが企業からどのように評価されるのか、興味深いです。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
こういう教授の元に配属される学生も不憫です。
教育機関としての責務を放棄していますね、この学校。