毎日新聞が週一回のペースで連載しているコンテンツに、「日本のスイッチ」というものがあります。
■「日本のスイッチ」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/etc/switch.html
「ドンタコス」「湖池屋スコーン」「ポリンキー」「バザールでござーる」などのCMから、「だんご三兄弟」、NHK「ピタゴラスイッチ」、ゲーム「I.Q.」などのデザインまで幅広い仕事を手がけるメディアクリエイター、佐藤雅彦氏によるコンテンツです。
この人は、ちょっとしたシンプルな工夫や仕掛けを使って、面白い表現や心地よい表現を生み出すのが得意のようで、クリエイター志望者にはファンも多いようですね。
現在佐藤氏は大学の教員なので、「佐藤雅彦研修室」という名前で活動をすることが多いようです。
さて、上記の「日本のスイッチ」は、
○毎週設定された8つの質問に対して、読者が携帯ンターネットで回答を送る
→○回答の結果を新聞およびサイトで公表
という、仕組みとしてはシンプルこの上ない企画(携帯サイトでは、自分と全く同じ回答をした人が全国で何人いるかを表示してくれます)。これだけなら、世の中には、似たような企画がいくつもあると思うのですが、この「日本のスイッチ」質問および回答の選択肢がなかなかうまくできているので、つい毎週、回答してしまうんです。
例えば、
「フランスのように学生のデモで施策が変わる国って…」
□うらやましい
□何かおかしい(「日本のスイッチ」4/24結果より)
…のような時事的な質問。こんなの、新聞やテレビ局がいちいちアンケートで調査しないことなんですよね。でも、このニュースを日本人がどう感じたかって、結構知りたくありませんか?
ちなみに上記の回答結果は、
——————————
・うらやましい…68%(29979人)
・何かおかしい…32%(13951人)
——————————
でした。「何かおかしい」と思う方も結構いたわけですが、やはり「うらやましい」と感じた方の方が多かったようです。
このように、ごくごく簡単なアンケートではあるけれど、普段、メディアがわざわざ聞かないような、それでいて結構重要なことを質問してくるので、その結果にどきっとさせられることもしばしば。ここでの集計結果を、セミナーや記事などで引用する方も、ちらほら見かけるようになってきました。
この「日本のスイッチ」は、これまで聞かれてこなかった声を聞き出す、ニッチな新メディアなのかもしれません。
もちろん、携帯サイトで回答を送るというのは(少なくともこの「日本のスイッチ」のケースは)、必ずしも学術的に厳密な調査方法であるとは言えません。
一応、同じ端末からは毎週一回しか投票できないようになってはいますが、この結果を論文に使えるかといったら、ちょっと微妙です。
この「日本のスイッチ」は、あくまでエンターテイメント・コンテンツです。
でも、エンターテイメントだからといって、バカにできません。楽しめるコンテンツだからこそ、大勢の人間が、気軽にそのときの気分をありのままに送信してくれるのです。上記で紹介した4/24分の質問の場合、44,136人もの参加者が回答しています。
回答期間は毎週、月~水の3日間ですから、
<わずか3日の間の、日本中の44,136人の『なんとなくの気分』をざっくり集計してしまった>
と考えれば、これはわりとすごいことではないでしょうか。学術調査でこんな真似はなかなかできませんよね。
調査方法としてはあまり厳密ではありませんが、参加のハードルが低い分、回答者が偏らないという特性は見逃せません(携帯電話を持っていない人はもちろんアウトですが)。
話はちょっとそれますが、以前、義務教育費国庫負担制度の在り方を巡って内閣、中央教育審議会、および文部科学省がもめたことがありましたよね。
あのとき文部科学省は、「国民の皆様からのご意見概要」と題された報告書をwebサイト上で公開しました。ご覧になった方もおられるかと思います。
義務教育費国庫負担制度の在り方について、「ほぼ100%が『堅持』の結果となっている。」
…というのが報告書の結論だったのですが、よく見てみると、なんと回答者の69%が教員、19%が公務員という内訳だったのです。3番目に多かったのは「団体職員」でした。回答者のうち、会社員は、なんとたったの0.4%だったのです。そりゃあ、制度を堅持せよっていう結論が出ますよね。
でも文科省は、そうしたことは表向き目立たないようにして、あくまで「国民の皆様からのご意見」という部分だけを強調して公開していたわけです。
確かに学術的に正しいプロセスで集められた回答ではあるけれど、でもこれを「国民の皆様からのご意見」として扱っていいのかと問えば、答えはNOでしょう。
学術的に計画された調査結果も、時と場合によっては、ウソをつきます。本当は実態を正しく表していないのに、「これが世論だ!」と押し通してしまうのですね。
研究者の方々や官公庁の皆様は、調査の方法論さえ間違っていなければそれでもいいのかも知れませんが、マイスターはこういうのを、気持ち悪く思うタイプです。
世の中の多くの人は違うことを望んでいるかも知れないのに、社会のごく一部の人達が、自分達の声を「世論」にしてしまう。これは、恐ろしいことではないでしょうか。
話を戻します。
実は、4/24日付で発表された「日本のスイッチ」の集計結果には、以下のような質問項目があったのです。
「教育基本法改正案、『愛国心』めぐる自公の議論は…」
□重要なことだ…26%(11643人)
□論点ずれてる…73%(32228人)(「日本のスイッチ」4/24結果より)
上述したように「日本のスイッチ」は、多くの一般生活者のホンネを短期間で集計するコンテンツです。何しろ、そこの部分に特化している企画ですからね。
上記の「論点ずれてる」の回答も、世の中の人々の感覚と、それほどかけ離れているとは思えません。
新聞も中央教育審議会も、あらたまってちゃんと調査しようとしていないけれど、
本当は世の一般生活者達は、「愛国心」とは違う教育のテーマについて、もっと議論して欲しいと思っているのではないでしょうか?
マイスターも、実は「論点ずれてる」の方に投票しました。
今、教育基本法が改正されるかも知れないという動きがありますが、相変わらず大手メディアが報じる争点は、「愛国心」問題のことばかり。それも、あまり本質的でないレベルでの議論しか行われていないように、マイスターは思うのです。
↓マイスターと同じことを指摘している記事、見つけました。
■「教育基本法改正案国会提出 拙速審議の恐れ 論戦は1カ月程度か」(西日本新聞社)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/politics/20060429/20060429_002.shtml
政府は28日、教育基本法改正案を閣議決定して国会へ提出、戦後教育の根幹を成した現行法の全面改正へ大きくかじを切った。ただ、6月18日の会期末まで、残された時間は多くない。「教育の憲法」と位置付けられる重要法案が、スケジュールをにらみつつ、極めて短期間で処理される恐れが強い。
(略)
同法の改正論議は2000年、当時の森喜朗首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」が提言したのを機に始まった。当初から「復古色」を指摘する声が強く、与党検討会が発足して以降、この3年間の法案協議は、教育現場の荒廃や子どものモラル低下などの現実に向き合った本質的論議より、「愛国心」教育をめぐる語句の表現問題に代表される駆け引き、折衷に終始したのが実情だ。
その上、国会審議まで政局絡みとなれば、理念の深化は期待できず、教育現場の混乱も招きかねない。
(上記記事より)
「教育の憲法」である教育基本法が、このように政局の都合や、一部の人達の考えだけで決められて良いものでしょうか。
特に、教職員以外の人達、世の中で働いている世間一般の人達の意見が置き去りにされたままでいるのが、気がかりです。
人の「教育」って、学校の関係者だけで行うものではないはず。
普段は、学校の教職員も政治家も、そういうことを主張しているはずなのに、こうして法案が議論されるような場面になると、途端にそれぞれ「自分達の声が、教育の声だ」という態度になってしまうのが、悲しいです。
学校に関わりのない仕事に就いている方々こそ、この機会に今一度、教育について考えていただきたいと、マイスターは思います。
↓こちらに最新の教育基本法改正案が掲載されていましたので、最後にご紹介させてください。
■「教育基本法改正案全文」(中国新聞)
http://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2006042801000354_Detail.html
本文を携帯メールに転送して、通勤途中の電車で見るも良し、
プリントアウトして、家庭で話し合うも良し。
すみからすみまで、じっくりと読んでみてください。
そして、これが「教育の憲法」として今後の社会で使われるのに適しているかどうか、それぞれで考えてみてください。
教育改革って、まずはそういうことから始めるものだろうと思う、マイスターでした。
「ポリンキー」と「ピタゴラスイッチ」が同じ方のものだとは気付いていませんでした。
「教育基本法改正案」は、産経新聞でさえ(苦笑)、「全文」は掲載されていなかったので、中国新聞のこの記事はたいへんありがたいです。
今日、大阪読売テレビの『たかじんのそこまで言っていいんかい委員会』という番組で、この「愛国心」を取り上げていて、田嶋女子がいたので、グチャグチャになってしまったのですが、橋下弁護士の「年寄りがみんな死んでしまってから議論した方がいいんじゃないか」という発言に、けっこう納得したりして。
「改正案」というのは、国が“手取り足取り”というか“丸抱え”で国民を教育してあげましょう・・・という雰囲気ですね。
これって、ほんとうに民主主義国家の法律なんでしょうか?