マイスターです。
大学には通常、学生からの相談を受け付ける部署があります。
「学生相談室」や「カウンセリング室」など、その名称は様々。産業カウンセラーなどの資格を持った方が常駐し、学業から進路、友人との関係などなど、あらゆる相談を聞く窓口になっていることが多いと思います。
悩みを聞いた上で、解決法を一緒に考えたり、あるいは学内外の各担当部署や機関と連携して問題の解決を図ったりする部署です。
大抵の大学では、この相談室に寄せられた質問を集計し、資料としてまとめています。希望者が閲覧できるようにしている大学もあり、マイスターもこれまでに、いくつかの大学の資料を拝見しました。
大学によって違いはあると思いますが、学業や進路もさることながら、人間関係で悩んでいる学生も多いなぁ、というのが、資料を見たマイスターの印象。
相談室の担当者がまとめたレポートに、保護者との関係に悩む学生についての報告が複数寄せられており、なるほどなと思った記憶があります。
さて、こうした学生相談室は、「プロのカウンセラー」によって運営されている点が特徴。
必要に応じて学内外のスタッフと連携することはありますが、基本的には守秘義務があり、学生のプライバシーに関わる情報をむやみに公表することはありません。
(人によってレベルには差があると思いますが)カウンセリングに対する専門的知識を持っている、という点も、プロならではでしょうか。
もうひとつ、「学生個人のために最大限の動きを行う」という点も大事なポイント。
本人の利益を第一に考え、ときには休学や転学などの選択肢を示すこともあるわけです。
ひとくちに「相談」といっても、大学生活全体のことはもちろん、その後のことまで考えられる視野を持っていなければ、なかなかできることではありません。
……といったことは、今さらマイスターが言うまでもないことで、教育に関わる方々なら誰もがご存じかと思います。
それをわざわざ書かせていただいたのは、こんな報道を目にしたからです。
【今日の大学関連ニュース】
■「掘り出しニュース:京大が『恋愛』も支援 『課外活動にも強い大学に』」(毎日jp)
京都大が各種イベントやボランティアなど学生の幅広い課外活動を支援するため、元ミス日本の現役京大生らをスタッフとする「学生コンサルティング室」を発足させた。学生イベントは企業の協賛の対象にもなっており、今や社会を知る有効な術(すべ)。「企画を実行するノウハウがない」と悩む後輩のアドバイスが目的だが、恋愛相談にも乗るという。大学当局は「学業だけでなく、課外活動にも強い京大を目指す」としている。
コンサルティング室は10月中旬に設置。07年1月にミス日本「空の日」に選ばれた医学部保健学科2年の島村実希さん(22)=写真・奈良県香芝市=ら学生3人をスタッフに任命した。学生が学生を支援する仕組みは全国的にも珍しいという。
(略)「企業へはいきなり電話をかけていいのか」「チラシ以外の広報方法は?」。スタッフは、学生たちが企画を前に直面するこうした悩みに応じ、培ったノウハウを伝授する。島村さんは「学生には社会人になる準備が必要。私もミスに選ばれ、突然社会に出て戸惑った。社会と学生の懸け橋になれるようサポートをしたい」と意気込んでいる。
(上記記事より)
京都大学が「学生コンサルティング室」を発足させるということを報じる記事です。
「学生が学生を支援する仕組みは全国的にも珍しい」とのこと。
「恋愛相談にも乗る」とのことで、「元ミス日本」の在学生を大きく取り上げ、タイトルに「『恋愛』も支援」と打ち出しています。
おそらく一般読者の方々へのインパクトを考慮されたタイトルなのだろうと思いますが、個人的には、誤解を招きそうな、少し危ういタイトルという印象を受けました。
マイスターが想像するに、この「学生コンサルティング室」というのは、あくまでも「学生が各種のイベントやボランティアに取り組む際のノウハウを伝授する」ための相談窓口に過ぎないのではないでしょうか。
実際、記事を良く読んでみると、そういう内容になっています。
(だからこそ、多くのイベントに関わった経験を持つ「元ミス日本」の方のキャリアが活かされるわけです。別に、「元ミス日本だから恋愛相談も受けられます」というわけではないでしょう)
「企画を実行するノウハウがない」と悩む後輩のアドバイスが目的だが、恋愛相談にも乗るという。
……という部分だけが内容的に浮いており、これが誤解のもとになっているような。
「恋愛相談」というのは、学生スタッフの方が軽い気持でそう発言されたのか、あるいは取材した記者の方がそう言わせたのかわかりませんが、大学がそういう主旨・目的でこの学生コンサルティング室を立ち上げたわけではないように思われます。
そもそも、一口に「恋愛相談」といっても、単に「ステキな人がいるんだけど、どうすればいいかなぁ?」なのか、それとも学業や学生生活に支障が出るくらいのものだったり、あるいは周囲を巻き込んでしまうようなものなのかで、ずいぶん話が違ってきます。
後者の場合は、学生相談室によるプロのカウンセラーが対応すべき仕事です。
そのあたりを混同させる記事タイトルのようにマイスターには思えるのですが、大丈夫だろうかと部外者ながら心配に思いました。
記事を書かれた記者の方も、インパクトを狙うのは良いのですが、もう少し配慮された方が良かったのではないでしょうか。
この記事を見て、本来の大学側の思惑とは異なる相談が寄せられたら大変です。
ちなみにもっと怖いのは、本当にこの学生コンサルティング室の学生さん達が、深刻な相談内容への対応も含めて、気軽に恋愛相談を受けてしまうことです。
学生相談室と、この学生コンサルティング室の役割がそれぞれ明確に位置づけられ、それが在学生にもちゃんとわかるように伝わることを祈ります。
以上、記事を読んでそんなことを考えた、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。