マイスターです。
「大学webサイトの考え方」というテーマを、気が向いたときに「ブログ内連載」として書かせていただいています。
と言いながら前回の記事を探したら、なんと1月9日でした。もはや連載といっていいかどうか怪しいレベルです。
さて、今回は、「大学にとって一番大事なwebコンテンツって何?」というお話です。
「皆が一番求めているコンテンツって何?」という言い方もできると思います。
皆様は、何を大学のwebサイトに求めますか?
……とその前に、「実際に今、大学が最も力を入れているコンテンツは何?」と考えてみましょう。
おそらくおおかたの大学では、これは入試コンテンツではないでしょうか。
つまり、入試の日程や区分の紹介、出願書類の取り寄せ、競争率などの入試関連情報、場合によってはインターネット出願システムなどを備えた、受験生のためのコンテンツあれこれです。
このコンテンツがない大学は、おそらく世の中に存在しません。
受験生はこうした入試コンテンツを見て大学を選べる……って、ちょっと待ってください。ほんとに今、大学選びに役立つ情報を発信していますか?
多くの大学は、自分達にとっての核である「学びの内容」についての情報をほとんどwebサイトに掲載していません。マイスターは、いつも疑問に思っています。
大学にとって一番大切なのは、「教育・研究紹介」ではないでしょうか。
例えば教育について。
その大学でどんな教育を展開し、どんな能力を身につけたか。それを受験生や社会は最も知りたがっているはずだと皆様は思いませんか。
「そんなことはない、受験生へのアンケートによれば、彼等はキャンパスの雰囲気や就職実績を最重要視している」とおっしゃる方もいるでしょう。でもマイスターの考えは違います。「大学は教育や研究の内容で選ぶものだ」ということを、これまでどこも実践してこなかったから、顧客である受験生の側もそこに思い至らないだけだと考えます。顧客だって万能ではないのです。
大学に進学する以上は、どうせなら興味深い内容を学びたいと思っているはずです。すべての学生が、「半信半疑で履修してみたけど、けっこう面白いじゃないか!」という体験を望んでいる、マイスターはそう思っています。
ですから、教育のレベルの高さや授業のおもしろさに自信があるのなら、率先してそれを受験生に向けてみればいいとマイスターは考えるのです。受験生や保護者の皆様だって、そういったコンテンツを求めているはずです。
現在では、入試コンテンツに、本当に表層的な紹介しか掲載されていないようなケースが多いです。また、大学の教育レベルの質を比較するための情報は「就職先一覧」くらいです。これはあまりにも悲しい状況」です(しかもこれって、教育の成果とは若干違う要素を含んでいるような気がしますよね)。
そんな反省からか、最近はwebムービーが普及したことにより、模擬講義やガイダンスの様子をwebで配信するような大学も増えてきました。
ただ、そこまで大事にしなくても、教育内容を表現する方法はいくらだってあります。
例えば、マイスターが最近見つけたのは↓こちらです。
■「ユニーク卒論2006-文・社会・法学部 編」(関西学院大学)
http://www.kwansei.ac.jp/Contents?cnid=5480&ax1=0&ax2=0&ax3=0&cdid=0
この大学では、web上で出来が良かった卒業論文を公開しているのです。
卒論は大学での学びの総仕上げとして位置づけられており、多くの大学の学科が、卒業時に卒論の提出を求めていると思います。だったら、それを閲覧できるようにすればいいのです。
上記のページは残念ながら「要旨」のみの公開ですが、受験生が見るにはちょうどいいかもしれません。「おぉ、この大学に入るとこんな論文が書けるようになるのか」と、見る人をすこーしだけびびらせてあげましょう。
芸術系だと、さらにわかりやすいです。
例えば建築学科を持つ大学の中には、↓このように卒業設計の優秀作品をweb上で公開しているところがあります。
■「2006年度三重大学工学部建築学科:建築企画設計優秀作品」(三重大学工学部建築学科)
http://www.arch.mie-u.ac.jp/sotukei2006list.htm
■「日本大学生産工学部建築工学科優秀作品2002-2004」(日本大学生産工学部建築工学科)
http://www.arch.cit.nihon-u.ac.jp/design02-04/index.htm
↓変わったところでは、こんな見せ方もあります。
■「新潟大学工学部建築学科:激闘の記録07」(新潟大学工学部建築学科)
http://design.eng.niigata-u.ac.jp/GD/
アートやデザインを学ぶ学科ではたいてい卒業制作展を開催したり、優秀作品集を冊子にまとめたりするのですが、いっそ上記のように優秀なものはweb上で公開してはいかがでしょうか。
こういうのを見て、目を輝かせない受験生はいないとマイスターなどは思うのです。受験生向けコンテンツに本来載せるべきは、このような情報ではないでしょうか。
受験生だけにとどまらず、在学中の1~3年生にとっても、こういったコンテンツは刺激になると思います。また作品が掲載された卒業生にとっては、閲覧され続ける自分の作品は大きな誉れになることでしょう。
ただしこのように卒業論文や卒業制作を掲載するとなると、著作権の問題はクリアしておかなければなりません。必ず学生本人の了解を取りましょう。
というかそれ以前に、公開できるレベルの作品がどのくらいあるのかという問題もあります。教育のレベルを示そうとするなら、まずは自信を持って公開できるレベルを維持し続けなければなりません(「諸般の事情につき、本年度の卒業論文は非公開となりました」なんて案内を出すのはかえってかっこ悪いですよね)。
これをやるのなら、教える側も必死にならざるを得ません。その意味でも(荒療治ではありますが)メリットが多いように思います。
上記は「教育成果を見せる」ことのほんの一例に過ぎません。他にも方法はいっぱいあるはずです。
大学のコンテンツは、表層的な飾り付けだけではいけないと個人的には考えています。
大学の最も大事な使命は教育と研究だと自分達でも言っているのだから、その教育と研究が発信されていない現状は、いかにも不自然です。
高等教育というだけあって、大学での学びは、受験生から見れば圧倒的な高さと厚さを持っているように感じられるはずです。申し訳程度に併設された表面的な「学部学科紹介」ではなく、その高さと厚さをそのまま見せつけるような方法をとれないものでしょうか。
企業の広報担当者は、しょっちゅう各地の事業所や工場を訪問し、
「なんか面白いネタないですか~?」
「最近、新しい技術を開発中だそうですね。どんなのですか?」
なんて感じでネタの発掘を行っています。開発している本人達にはあまり自覚がないけれど、実は世間をあっといわせるような素材が見つかったりするのです。
大学は、膨大な情報を日々蓄積している機関です。それらの情報を掘り出し、仕分けし、公開に持って行く役割の人があまりいないのかも知れません。
入試の方法に関する情報はどの大学も熱心にアピールするのに、入学後の教育について深く立ち入っているところがあまりないのは、職員の集団である入試や広報セクションが、教員の世界に踏み込むことを恐れているからなんじゃないか、そんな気もします。
「教育・研究の領域は教員の聖域であり、絶対不可侵」という意識を、職員の側は抱きがちです。ある部分では確かにそうなのですが、広報素材を集める作業は別でしょう。おかしな遠慮をしていたら、大学の本質を社会に伝えることはできません。研究室をまわってネタを集められるような人材が広報セクションに一人もいないような大学はピンチです。
広報部に美大出身の担当者がひとりもいない美大や、体育系がいない体育大、文系しかいない工科系大学なんていうのが、全国に山ほどありそうな気がします。でも、扱う商品の価値がわからなかったら、その商品の魅力を伝えられるはずがないのです。
全員がその分野の出身者である必要はありませんが、一人もいない場合、その部署はかなり根本的なところに問題を抱えているように思います。
教育だけでなく、これは研究の紹介についても言えることです。
様々な大学のプレスリリースを見ていると、「○○教授が○○賞を受賞しました!」なんて案内がどっさり乗っている大学を見かけますが、どんな研究であるかの説明がどこにも載っていなかったりします。一体何のためのリリースなのか、マイスターには理解できません。
広報担当者は、その教授から根掘り葉掘り聞き出して、わかる範囲でいいから研究の意義や概要を紹介すべきなのです(詳細な解説は本人に書いてもらいます)。誰にもそれができないというのなら、それは広報の人選に問題があるのです。
メーカーの広報担当者は、例え文系出身であっても技術のことを勉強して説明できるようにします。そうしないと、仕事にならないからです。大学関係者でそういう人を見かけることがあまりないのが、マイスターは気がかりです。もちろん中には企業顔負けの方もいらっしゃいますが、そういう方に話を聞くと普段周囲から「へぇ~、君勉強好きなんだねぇ、エライねぇ」という、ちょっとずれたコメントをいただいているようです。これではいけませんね。
大学にはたいてい「○○学概論」という、学科の名前を冠した1年生生向け授業がありますから、手始めにそれを職員全員が受講してみるのもいいかもしれません。これは企業ではなかなかできない、大学ならではの方法です。
というわけで今日は、「大学サイトにとって一番大事な、教育と研究の紹介を行うコンテンツを設けよう!」という話でした。
以上、マイスターでした。
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(参考)
■「ムサビ日記 -広報の手羽-(カテゴリー:入試について)」
http://www.musabi.com/ichiro/archives/cat243/
母校出身の広報担当者の方が書かれているブログです。マイスターは美大についてほとんど何も知らなかったのですが、このブログを読んでいると、「へぇ~、そうなのか」と、なんだか美大が分かってきたような気分になります。上記は「入試について」の記事ですが、他のカテゴリーの記事も興味深いです。卒業制作ってそんな感じなんだ、とか、美大生ってこんなことを勉強してるんだ、とかいった情報を伝えられるのは、やはりご本人が美大出身だからという点によるところも大きいのではないでしょうか。
大学の公式コンテンツとは少々違うかも知れませんが、こういう方が広報にいないと伝えられないことがあるように思います。