滞納者が増加 「日本学生支援機構」の奨学金

マイスターです。

「格差社会」という言葉が当たり前のように使われる時代となりました。
お金のある家庭の子供はより恵まれた教育を受け、そうでない家庭の子はそこそこの教育しか受けられないといった「格差の再生産」が起きているという指摘もよく耳にします。

こんなときに大事になってくるのが、奨学金のような制度。
残念ながら日本の奨学金の多くは給付ではなく貸与ですが、それでもこのシステムのおかげで進学できたという人は少なくないはずです。

さて、最も多くの方が利用しているであろう日本学生支援機構の奨学金が、以前からピンチです。

【今日の大学関連ニュース】
■「新教育の森:延滞増える奨学金 生ぬるい回収策 『日本学生支援機構』に高まる批判」(毎日jp)

独立行政法人「日本学生支援機構」が大学生に貸与した奨学金の返済が滞るケースが増え、延滞債権額は2000億円を突破した。背景には、長期延滞者への強制執行を見送るなど、機構の回収の甘さがある。
貸し倒れに向け注意が必要な3カ月以上の延滞債権額は年々増え、07年度は2253億円と、この10年間で倍以上に膨らんだ=グラフ。進学率の上昇による貸与者増や、ニート増加のほか、資力があるのに払わない者もいる。
(上記記事より)

詳しくはリンク元の記事をどうぞ。

かつて日本育英会が行っていた奨学金事業を引き継いでいる、日本学生支援機構。
その機構が貸し出した貸与奨学金の延滞者が、増加しています。

上記のように、3カ月以上の延滞債権額は年々増え、2007年度は2,253億円。
この10年間で倍以上になっているとのこと。

■「奨学金の返還にあたって」(日本学生支援機構)

先輩の返還したお金が、後輩の奨学金になります。
奨学金を借り終えた後は、必ず返還しなければなりません。
本機構の奨学金は、その貸与終了後返還するものであり、また、先輩からの返還金を直ちに後輩の奨学金として貸与する仕組みとなっており、返還が円滑に行われないと、次の貸与に重大な支障を来すこととなります。
一人ひとりが奨学生としての責任を果たすことによりはじめて成り立つこの制度の仕組みを理解していただき、約束どおり必ず返還してください。
(上記ページより)

↑日本学生支援機構のサイトを見てみると、大きな文字で悲痛な叫びが。
説明用の動画も用意されているので、見てみましたが、説明役の女性が

「借りたものは返す、というごく当たり前のことが守られることで、奨学金制度は成り立っているのです」

と、笑顔で語りかけていました。

さて、日本学生支援機構によれば、延滞した場合は、以下のような流れで回収が実行されます。

○延滞した翌月から督促通知を本人に対して送付
 ↓
○日本学生支援機構が委託した債権回収会社から、電話による督促を実施
 ↓
○連帯保証人、保証人への請求
 ↓
○勤務先への電話
 ↓
○自宅や勤務先への訪問

さらに悪質な滞納者の場合は、以下のようなことが行われると説明されています。

○一括返還の請求(法的処理によって、延滞金も含め、残額を一括で支払う請求を行う)
○給料・財産の差し押さえ

ちなみに奨学金を申し込む際には、当然のことながら連帯保証人の実印なども求められます。

また以前、機構が1年以上の滞納者達に対して「支払い督促の申し立て」の予告書を送ったところ、3割以上が先方に届かずに送り返されてきたということがあり、現在は、住民票の写しも提出することになっています。(日本学生支援機構も、色々と工夫はしてきているのです)

こういった機構側の説明を読んでいると、「これだけやって、どうして延滞できるんだろう?」と不思議になるのですが、冒頭の記事では、こうした各種の執行手続きが実際には機能していない現状が紹介されています。

問題として指摘されているのは、機構が法的手段に訴える案件が少ないこと。給与を差し押さえる強制執行は皆無といっていいほどだ。
裁判所への提訴や支払い督促申し立てなどで、強制執行を認める「債務名義」(判決など)を得たケースは07年度に1715件あった。だが、実際に執行したのは1件。06年度は925件中0件、05年度も321件中4件だった。
これについて機構は「差し押さえの前に入金を約束する人がいる。また、住所が変わって連絡不能になることもある」と説明する。一方、回収に携わった元職員は「差し押さえのノウハウもなく、騒がれると面倒なのでしないだけ。住所変更のケースは聞いたことがない」と証言する。
(略)機構は強制執行の対象を給与に限っており、「大きい家に住んでいても外車を乗り回していても、勤め先が判明しなければ差し押さえできない」(元職員)という苦しい実態もある。「長時間どなる人には延滞金を減免したケースもある」(同)という。
内外からは厳しい指摘が相次ぐ。機構を監査した財政制度審議会は7月、「債務名義を取得した債権で、その後の手続きが行われていない。証明書なしで返還猶予を認めている例がある」と指摘。財務省主計局も「回収努力が足りないのは明らか」と非難する。高まる批判に、機構を所管する文部科学省学生支援課も「返さないと厳しい取り立てがあることを広く知ってもらう必要がある。厳正な対処が必要」と述べ、機構に改善を指示したことを明らかにした。今後は預金も強制執行の対象とする。
長い間督促を怠ったため、時効で回収不能となる例も表面化している。
機構が延滞者に奨学金返還を求めた訴訟で、延滞者が「返済期限から10年たち時効が成立しているので、返す必要がない」と主張し、機構が回収をあきらめるケースだ。
機構によると、昨年度は5件の裁判で時効成立が認定された。兵庫県の男性に、奨学金と延滞金計約320万円の返還を求めた訴訟では、返還期日から10年以上過ぎた分の債権の時効成立を認めざるを得ず、請求額を150万円減らし、約170万円の返済で和解した。

「新教育の森:延滞増える奨学金 生ぬるい回収策 『日本学生支援機構』に高まる批判」(毎日jp)より)

このように、様々な執行手続きがあるぞと言ってはいるものの、実際には機構側がそれを実行していないのですね。
ノウハウがないとのことですが、確かに上記のような現状を知ると、「もっと厳しく取り立てても良いのでは」と思ってしまいます。

もっとも、機構のやり方以前に

「長時間どなる人には延滞金を減免したケースもある」
延滞者が「返済期限から10年たち時効が成立しているので、返す必要がない」と主張

……なんて聞くと、借りた方の常識を疑ってしまいますけれど。

ちなみに6月に報じられたところによると、機構は延滞率の高い学校の名前を、これから公表する方針です。

■「奨学金、延滞率高い学校 公表」(読売オンライン)

奨学金の貸与事業を行う独立行政法人の「日本学生支援機構」は10日、奨学金の返済が滞っている卒業生の割合が高い大学などの学校名を公表する方針を決めた。
近く、公表の基準などの検討に着手する。2007年度に奨学金の返済を延滞した卒業生の割合が20%以上の大学は7校を数え、中には30%を超える学校もあり、学校も奨学金の返還を学生に促す責任があると判断した。
(略)報告書は「学校の教員や奨学金の担当者に返還の意識を持ってもらうことが重要」と学校側の責任を指摘。その上で、「大学など学校の指導のあり方が延滞率に影響を与えていることを考慮し、延滞率が高く、改善が進まない学校名を公表することを検討する」として、同機構に学校名の公表を求めた。
(上記記事より)

大学によって、延滞率に顕著な差があるのだとしたら、それは興味深いです。

日本学生支援機構の奨学金は通常、大学を通じて申し込むものですから、当然、大学側は誰がいつ借りたかを把握しています。何らかのアクションを起こして延滞をさせないようにしている大学があるとしたら、それはどのようなものなのか、気になりますね。
校名の公表もいいですが、機構側はまずそういったノウハウを、「優良校」から聞き取り、他の大学にも実施するよう促してみてはいかがでしょうか。

ちなみに日本学生支援機構の奨学金には、「機関保証人」という仕組みがあります。

■「機関保証制度について」(日本学生支援機構)

この制度を使うと、本人が連帯保証人を用意する必要はありません。
もし本人が奨学金を返さなかった場合、保証機関(日本国際教育支援協会)が代わりに返済を行い、その後、この保証機関が本人に請求を行う、という流れになります。

そのうち、「在籍する大学」が学生の保証機関になるという仕組みができたりしないでしょうか。
現在の奨学金滞納者の増加を見ていると、いずれそんなことになる可能性もあるような気がします。

日本の大学の多くが自前で用意している奨学金は、成績優秀者にしか与えられなかったり、数が極めて少なかったりして、実質的には一般の学生が利用できるものではなかったりします。
結果、大学公式webサイトの「奨学金」の欄には、日本学生支援機構の奨学金制度くらいしか、利用できそうな奨学金が掲載されていなかったりします。
そんな状況なのだから、大学側も、もう少し日本学生支援機構に協力してもいいのではないかな、なんて気はしないでもありません。

給付奨学金がもっと増えていけば、問題は少し解決するのですが、今のところそれは現実的ではないので、せめて貸与奨学金の仕組みだけでも維持できるようにしていかなければなりません。
日本学生支援機構の方でも、工夫が必要だと思いますが、借りた人は必ず自己責任で返しましょう。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

11 件のコメント

  • そもそも、貸与するものを「奨学金」と呼んでいることが問題でしょう。「教育ローン」として、借金であることを明白に認識させるべきです。日本の奨学金制度がお寒い状況であることをごまかすための制度ですから、踏み倒されても自業自得では。

  • 意見ではありませんが、以下の取組の前段として、機構側は全大学へアンケート調査を行なっております。ご参考までに。

    何らかのアクションを起こして延滞をさせないようにしている大学があるとしたら(略)「優良校」から聞き取り、他の大学にも実施するよう促してみてはいかがでしょうか。

  • 私は以前、日本育英会から奨学金を得て、大学を卒業する事ができ、社会人になってから、なんとか返還してまいりましたが、昨今の社会情勢の急激な変化に伴い、いくら大学を卒業しても終身雇用はなくなり平気でリストラされる世の中であります。そのような状況で毎年返還を続けていくとなると人によっては返還が難しい状況に陥る方も少なくないのではないでしょうか? また毎年大学の費用は上昇する一方で一般家庭の収入は横ばい状態です。そのような状況で大学に通うとなると非常に困難でしょうし、奨学金以外にも他の金融機関から借り入れをしなければならないこともあるでしょう。だとすれば社会人になってから借入金の延滞に陥る事はある程度止むを得ないのではないですか? 少なくても私は元奨学生で借入金はすべて返済しましたが、今回の奨学生の返還金延滞については昨今の社会情勢を考えれば多少認めてあげてもいいし、最悪返還不能になったとしても国が国民に援助してあげたと思えば安いものだと思っています。他人がとやかく言うことではない。

  • 元奨学生 さん
    マイスターです。コメントありがとうございます。
    元奨学生さんと同じで私も、一時的に返済が滞ることがあっても、それはやむを得ないと思います。
    今回ご紹介した記事で問題にされているのは、返済が滞っていることではなく、返済がストップしたまま連絡がつかなくなったり、あるいは返せる資力があるのに返さない人がいたりすることです。「やむを得ず返せない人」のことではありませんので、そこはご了解ください。
    ちなみに学生支援機構の場合、返還期限の猶予という制度があります。例えば失業した場合、届け出れば最大5年間は返済を猶予してもらえます。これは「延滞」にはあたりません。
    私も民間の金融機関から利子付きの教育ローンを借りて学んでいた身で、今でも生活費の中から返済を続けています。ですので感覚としては、おっしゃることはとてもよくわかります。
    「一言 」さんも書かれていますが、日本の奨学金は、給付が多い諸外国に比べれば「教育ローン」に近いものです。本当は給付にできればいいと私も思いますが、残念ながら現在の日本の財政状況では、すぐにそれを行うことは難しいでしょう。給付を増やせば、その分、他に奨学金を利用できる人が減ります。
    さらに貸与事業で滞納が増えるとなれば、現在のレベルの事業すら成立しなくなるように思います。
    (日本学生支援機構で貸し出される奨学金の原資の7割は、先輩が返済した奨学金です。つまり現在は、奨学金利用者の人数が増える一方、原資が減っているという状況です)
    先に述べた財政状況から言っても、国に補填してもらうということは考えにくいでしょう。となれば、現時点でまず行うべきは「どうやったら返しやすくなるか」を考えることなのかなと、私は思います。
    また色々とご意見いただければと思います。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

  • マイスターさんのおっしゃる事は正論です。ただ私の言わんとすることは他にあるということをおわかりいただきたいのです。つまり「借りたものは返す」という、その常識的なことが昨今の世の中ではできなくなってしまっているという事です。それはこの日本全体でいえることですが、例えば今回問題になっている日本学生支援機構というのは国家の行政機関の外郭団体ですよね、その国の行政機関で働く職員が組織ぐるみで平気で国民の税金を毎年何十億、何百億と浴びるように無駄遣いをし、また着服しています。それでも罰せられる事もなくのうのうと生きています。それであるならば我々国民も真面目に返済していくなんて馬鹿馬鹿しいと思われませんでしょうか? それどころか税金すら納めたくありません。私も半分やけくそになってしまっいるのですが、それならば国家が貸し付けた奨学金など全部踏み倒しても別に言いと思っていますし、それで奨学金制度がなくなってしまっても仕方がないと思うようになってしまっています。だって日本国民はどんなにひどい目にあっても影で愚痴をこぼすだけで自分の生活を守るために死んだ振りをしてなんの行動もとらないでしょ?であるならばなるようにしかならないでしょうし、マイスターさんのおっしゃる「どうやれぱ返しやすくなるか」という問題以前に根本的に国家がいつ本来の正しい方向に向く事ができるかという事と我々国民一人一人がいつ意識改革できるかが問題であると私は考えます。そうでなければ今回問題になっている日本学生支援機構という組織および奨学金制度そのものが崩壊するのは時間の問題でしょう。なんと嘆かわしい事でしょう。

  • 奨学金の返済は大変です。
    笑わないで聞いてください。
    国家公務員になったら国から借りた奨学金はある程度免除され、地方自治体から借りた奨学金は、地方公務員になったらある程度免除されると聞きましたが、本当でしょうか。
    よく聞く話なのです。

  • 育英会に関しては本当です。育英会からの奨学金は、卒業後何年か以内に公立学校の教師や国公
    立教育機関の教員になれば全額免除されるはずです。(浪人しすぎると無効になってしまうらしいです。)実際に友人がぎりぎりセーフで免除になりとて
    も喜んでいました。もちろん本人の努力もありますが運もありますし、なんだか不公平な感じがします。その友人などラッキーな人は幸
    運にも国庫から給与を十分もらい失業の不安もなくすごしているにも関わらず、返還の
    義務が一切ないのですから。社会に貢献しているからというの
    が理由だったように聞きましたが、それではより条件の厳しい中で働かざるを得なかっ
    た人たちは社会に貢献していないのか、と思ってしまいます。どうせなら平等に返還義務を課すべきではないでしょうか。

  • 今月(09年1月)からの希望で返還猶予の手続き中ですが、昨年8月に問い合わせてまだ早いから10月に手続きするようにと言われ、10月に再度問い合わせて必要書類を確認し提出、12月に入っても音沙汰がなく再度問い合わせたらじつは追加書類が必要と言われすぐに対応したにも関わらず、1月半ばの今になっても何も言ってきません。ナビダイアルに電話しても1時間待ってもつながりません。こうした機構側の対応の遅さも延滞に一部つながっていると思います。実際12月に電話で対応された方は1月の引き落としまでに審査が間に合わなければ、引き落とし口座をカラにして引き落としができないようにすればいい、と言われました。形としては「延滞」になるのでそのようにしたくはありませんが、職員が実際にそう「助言」してくださったのです。それってどうなのか・・・。何よりも最初の問い合わせの時点で必要書類をすべて把握し、教えてくれなかった対応の悪さに憤りを感じています。

  • 返せません。本当は返したいですが、返せないのです。
    どうやったら返せるようになるのか分かりません。生活が苦しいです。
    たまに1万円くらい払い込んだりしていますが、督促が来るたびみじめな気持ちになります。
    人よりも努力していわゆる「良い学校」を出たと思います。
    家が貧しかっただけで、ここまでつらい人生を送らないといけないのでしょうか。
    時々何もかもいやになって投げ出したくなります。

  • 日本学生支援機構で借りたお金を1年前に全額返済したのですが大阪府育英会から昨日催促が来ました。どうしてですか?誰か心あたりがある人お返事ください

  • 親が連帯保証人でしょ。借りた本人が返せなければ、親が返すのが当たり前、これは借りる手続きの時に分かっているはずで*す。