FDの取り組み 「手段」と「目的」が入れ替わらないように気をつけよう

マイスターです。

もはや業界人にとってはおなじみの言葉になった、「FD(Faculty Development)」。
大学の教育力を強化するための取り組み全般を意味する言葉です。

いまやほとんどの大学でおこなわれているであろう、学生による「授業アンケート」などもそのひとつですね。

ただこの「FD」、必要だという認識は広まっているのですが、その具体的な実践方法については、各大学で色々と試行錯誤を行っている段階なのかな、と思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「研究中心から教育充実へ 岡山県内の大学 FDの取り組み進む」(さんようタウンナビ)

大学の教育内容を改善する「ファカルティ・ディベロップメント(FD)」と呼ばれる組織的な取り組みが、岡山県内で進んでいる。本年度から義務化されたこともあり、各大学は研究中心から教育の充実へとシフトを図る。18歳人口の減少で大学間競争が激化する中、学生発案型の授業や独自の教員評価制度の導入などの新しい試みを通じ、学生確保にも知恵を絞っている。
7月中旬、岡山大(岡山市津島中)の創立50周年記念館で、現役のコンビニエンスストアチェーン幹部に学生6人が自由に意見をぶつけた。「環境に配慮し24時間営業を自粛したらどうか」「通路の幅を広げお年寄りに優しい店舗に」―。
同大が2003年から始めた「学生発案型授業」の1つだ。コンビニの経営学や社会との関係を学ぶこの「知ってるつもり?コンビニ」などこれまでに計7授業が生まれた。中には教授に面と向かって授業の在り方をただす「大学授業改善論」というユニークなものもある。
同大教育開発センターの橋本勝FD部門長は「難しい理論解説をして1人悦に入るような授業ではだめ。学生だけでなく、教える教員も楽しむ観点が必要だ」と強調する。
FDは大学改革の一環で文部科学省が推進する。1999年に努力義務が課せられ、07年度から大学院で義務化。同省の05年度の調査では、実施率は全国の約8割に上る。
岡山大は本年度、教員の評価システムにもFDの考え方を導入。教員に自分の授業や研究についてリポートを提出させ、採点。大学側の人事評価と合わせ賞与や昇給の判断材料にし、「給与にまで踏み込んだのは全国の国立大で初めてではないか」(同大評価センター)と言う。
(上記記事より)

■「教員にも通信簿」(Asahi.com)

「1年分記入するだけで一日仕事。印刷すると100ページ以上だよ……」
岡山大(岡山市)のある研究室。パソコンに向かう40代男性教授の口調は愚痴めいている。
同大が04年度から本格実施した個人評価制度は、教授から助手までの全専任教員約1300人が対象だ。教育、研究、社会貢献、管理・運営の4領域ごとに、学部長や研究所長が前年度や過去数年の活動を3段階評価。4段階の総合評価も行う。基になる自己評価の提出期限が9月末のため、夏季休暇中の今が記入の追い込み期。項目は膨大だ。
教育方法や達成度、論文や著作の内容のほか、研究資金の獲得、審議会への参加、などを400字以内で埋めていく。それら「業績」の配点は細かく決まっていて、授業は1コマ1点、論文指導は修士1人が1点、博士1.5点。さらに、学会発表1点、公開講座2点……。学生の評価や医学部付属病院での診療活動も点数化される。
それぞれを学部長が加点・減点し、各教員ごとの最終的な総合点が積み上げられる。学部長の手元には全員の「順位」が入ることになるが、本人に通知されるのは段階評価だけ。「1」の「改善を要する・問題あり」と評価された教員は改善計画書の提出を求められる。
(上記記事より)

同じ岡山大学のFD活動が、たまたま他のメディアでほぼ同時に取り上げられていました。

学内での批判や課題もありそうですが、「FD活動=授業アンケート」と安易に考える大学が多い中で、学生発案型の授業や独自の教員評価制度の導入など、色々と試行錯誤をしている様子には、個人的には好感が持てます。

ところで上記の2つの記事ですが、それぞれのトーンが若干異なるあたりが、興味深いです。

さんようタウンナビの記事は、

「難しい理論解説をして1人悦に入るような授業ではだめ」

……という問題意識のもと、教員評価のシステムも絡めて岡山大学が全学的にFDを進めている点を、肯定的に紹介しています。

余談ですが、大学教員の方には、「自分は研究を本業としている、研究者だ」という意識を強く持っておられる方もいるようです。
大学の教員が研究者であるというのは事実ですし、研究活動が極めて重要であることも確か。
ただそこから、「授業は副業のようなものだ」「研究をさせてもらうために仕方なく行っているおつとめだ」という意識を持つ人もたまにいらっしゃるようです。

でも、やる気のない「おつとめ」に付き合わさせる方はたまらないでしょう。これではせっかく入学してきた優秀な学生も、伸びません。

もともと大学教員は、主として研究成果で仕事ぶりを評価される側面が強いとされています。
授業やゼミで学生を鍛え上げて大学の教育に貢献するよりも、優れた論文を1本発表する方が評価に繋がる、という大学も、少なくないでしょう。
ですから極端な言い方をすれば、仮に評判の悪い授業、「一人悦に入る授業」を行っても、教員本人は痛くもかゆくもないわけです。
(もちろん、教育者としての良識とプロ意識を持ち、素晴らしい授業を行っている方の方が、実際には多いと信じてはおりますが)

それに日本の大学では一般的に、お互いの講義を見学し合うこともほとんど行われていません。
講義室は絶対不可侵な「聖域」であり、同僚はもちろん、学部長でも学長でも、自分が行っている授業の様子を見学しに来ることは許されない、それは「学問の自由」の侵害だ、と考える人が、案外、いらっしゃるのです。
確かに過去、大学の講義がそのような形で弾圧された歴史もありますので、心配されるのも分かりますが、そうした環境が、「一人悦に入る授業」を行っている大学教員を増やしているのも事実でしょう。

そんな反省に基づき、多くの大学で、FD活動が進められているのです。

●授業の質を向上させる仕組みを作る
●教育で優れた成果を上げている教員が、その点で評価される仕組みを作る

……というのが、FD活動の主な意図になるでしょうか。

さんようタウンナビの記事は、そんなFD活動に取り組み岡山大学の様子を取り上げています。
この記事を読み、「うんうん、大学のセンセイ達もこれからはきちんと教え方を鍛えなきゃ」なんて感想を持たれる方も多いことでしょう。

一方、Asahi.comの記事では、FD活動のために、膨大な書類の準備に追われる岡山大学教員の姿が紹介されています。

この教員の方の事例だけでは、実際の負担がどの程度なのかはよくわかりません。
ただ、授業や研究に追われる中、「印刷すると100ページ以上」の書類を用意するのは、確かにそれだけでも大変そうです。

それでなくても大学内の業務は増えています(何しろ、それまではやらなくても良かったイベントや改革を行わないと、いまや大学が成り立たないのですから)。
大学教員が、授業や研究以外に使う業務の時間も、相当に増えていることと思います。

評価を受けるのが目的なのではなく、教育力を向上させるのが目的なのですし。
FD活動は大事ですが、もしも評価を受けるために、授業や研究の時間が過度に失われてしまったら、本末転倒ですよね。

米国の大学を参考に当時副学長だった千葉喬三学長が音頭を取ったが、教員有志は度々「公平な評価は困難」「大学の自由や多様性を失わせる」などと懸念を表明した。
(上記記事より)

……なんてことも紹介されています。

これもよく言われることですが、教員それぞれによって果たす役割は違うはずです。
統一の評価軸で、すべての教員を評価して良いのかどうか。

例えば研究に比重を置いて貢献したい教員と、教育に比重を置いて貢献したい教員がいるとしたら、それぞれがきちんと評価され、活躍できるような仕組みがベストではないでしょうか。
大学の多様性を失わせず、魅力を高めるような幸福なFDというのは、そういった方向にあるのではないかとマイスターも思います。
(岡山大学がどうかはわかりませんが、その辺りで試行錯誤を行っている大学は少なくないように思います)

FD活動にはそういった難しさがつきものですが、Asahi.comの記事では、その辺りの課題も紹介されています。

冒頭の記事2本、たまたま同じ大学の取り組みでしたので、FDが必要な理由と、そうはいっても課題は多いという現実がわかって興味深いと思い、ご紹介させていただきました。

個人的には、FDの取り組みは非常に大事だと思います。
FDを進める過程では、トップによるリーダーシップのもと、多少強引に説得してでも物事を徹底する場面が出てくると思いますが、それも必要だと思います。

ただ、油断をすると、目的と手段が入れ替わり、教員評価や授業アンケートの実施自体が最終目的になってしまうことも起こりそう。
「本末転倒」になっていないかどうか、取り組みを冷静に振り返ってみることも重要かもしれませんね。

以上、そんなことを考えたマイスターでした。

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(おまけ)

たまたま、↓こんな記事も見かけました。

■「大学の講義をどのように改善するか」(科学技術振興機構:ディリーウォッチャー)

ドイツでは国を挙げて、「講義がもたらす効果を科学的に分析する」プロジェクトに取り組むそうです。
「講義を成功させる要素の摘出が期待されている。」とのこと。どんな要素が出てくるのでしょうね。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。