個人情報を扱う上で大切なことって何だろう?

マイスターです。

前職(web広報プロデューサー)時代、「SSLサーバ証明」の取得という手続きをしたことがあります。
webサイトをあれこれまわっていると、こちらから情報を送るアンケートフォームなどで、「SSLで接続します」なんて文字を見かけることがありますでしょ?アレです。
送信すると、たいていは、
「https://www…」
というURLで始まるサイトにつながると思います。

インターネットで送受信される情報というのは、基本的に、傍受される可能性が高いものだと思ってください。
職場のメールアドレスは、管理者がその気になれば閲覧できてしまうし、webサイト上でアンケートを送信する時の情報も、ネットワークを流れるパケットをそのままそっくりとらえることで、盗み見ることができてしまうわけです。

しかしSSL接続を使うと、情報が暗号化されますので、万が一誰かに傍受されても内容が読みとられない、というわけですね。

大手の企業は普通、顧客からの情報の送受信にはSSLを使っています。

web業界では、個人情報というものは特に慎重に扱われています。
マイスターも、クライアント企業が集めた顧客からのアンケート結果を、実際に自社のパソコンで集計処理する作業をしたことがありますが、これが何かの理由で外部に漏れたら俺はクビだなぁ、と思ってヒヤヒヤしてました。
(ちょうどそのころ、そういうニュースが世間を騒がせていましたし…)

当然、そのパソコンを家に持ち帰って作業するのは厳禁。
作業が終わったら、データは完全削除でした。

そんな仕事をしていたからか、どちらかというと個人情報の扱いには慎重な方です、マイスター。

【教育お役立ちサイト】——————————————–

■「間違いだらけの個人情報保護」(インプレス)
http://internet.impress.co.jp/kojinjohoblog/
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「ひろの日記帳@International」の記事で教えていただいたサイトです。

弁護士の牧野二郎氏が、「行き過ぎた個人情報保護対策」について、様々な解説をしています。

具体的なQ&A方式なので興味を持ってどんどん読めてしまう上、
マイスターのように、法律に詳しくない人間にも、とってもよくわかります。

大学に関わりが深いのは、以下のようなQ&Aでしょうか。

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学籍番号、氏名を掲示板に張り出してはならない?

卒業生の進路先情報などを在校生に見せてはならない?

試験の答案を開示してはならない?

合格者情報を公表してはならない?

大学教員に学生の名簿を渡してはならない?

※以上、「間違いだらけの個人情報保護」に掲載されている質問。回答の詳細は、それぞれリンク先のページでご覧ください。
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結論だけ言うと、法律的な見解としては、上記はすべて「間違い」だとのことです。

どの大学でも同じように悩んでいると思われる、掲示板での告知に学生の実名を載せるか否か、という問題に対しては、以下のような解釈だそうです。

-大学構内は、大学そのものであって、大学での情報共有は当然に求められものです。大学において、学生同士が他人として、第三者提供になるのかという点ですが、学生はすべて大学の構成員であって、事業者としての大学の内部の構成員であることから、学内での情報共有は当然であって、学生間の利用は第三者には当たらない、とすべきでしょう。
(略)
 これに対して、学外での掲示、看板のように、大学関係者とは無関係な一般利用者、通行人に提供し、開示するのは個人情報保護法上の第三者提供に当たる可能性もありますので、注意が必要でしょう。-
(「学籍番号、氏名を掲示板に張り出してはならない?」より)

ということで、法律的には問題ないそうです。

マイスターは以前、本ブログの「個人情報保護 名前が消えたキャンパス」という記事で、

○個人情報はなるべく掲示板には出さないこと、
○特に実名の掲載は問題がある、

ということを、個人的な意見として述べさせていただきましたが、法律的には別にここまでする必要はないらしいです。

となると、
法律が定めるレベルを超えた上で、あとは大学それぞれが対応のレベルを考える問題、
だということになりますでしょうか。

例えばマイスターの勤務先は、人通りの多い学外の公道からすぐのところに大学の掲示板を設置していますので、今のままでは、学生の氏名を貼り出すのはやはりはばかられます。
氏名を伏せるか、掲示板の位置を、学内の人間しか見られないような奥に移すかしなければなりません。

学内の敷地とは言っても、容易に学外の人間がアクセスできてしまうこのようなケースの場合、法律が定める最低ラインを守るだけでは、大学として、おそらく十分な対策とは言えなさそうです。

マイスターの知っている範囲で言うと、これってなんだか、「建築基準法」に似てます。
建築基準法も、「建物に求められる最低限度のレベル」を規定しているだけですので、書かれている数字をそのまま図面に書くと、あんまり快適でない家やオフィスができあがります。
ですので設計者は、それを上回るスペックをどの程度盛り込むかを考えるわけです。
あまりゆとりのある設計をするとより多くの予算やより広い空間が必要になりますから、法律を超えた後のバランス取りが腕の見せ所なのです。

個人情報保護法も、同じように考えればいいのかも知れません。
学生や教職員が求める利便性と、情報保護の水準をどこでとるか、それぞれの組織が考えるべきことなのでしょう。

法が定める最低ラインに情報保護のレベルを設定して利便性をするか、それとも手厚い個人情報保護を独自のレベルで実施するか。
大学職員の、腕の見せ所というわけです。

「大学職員.net -Blog/News-」さんの記事では、こんなサイトを教えていただきました。

■「教員のための個人情報活用ガイドライン」(社団法人私立大学情報教育協会)
http://www.juce.jp/kojin_joho/index.html

こちらは、教員が個人情報を扱い場合の注意事項をまとめたものです。
ガイドラインはPDF形式でまとめられているので、そのままプリントして学内に配布もできる親切設計です。

こちらは、個人情報保護法をベースにした上で、もう少し手厚い個人情報保護を求めているように思われます。
情報を守りつつ、活用するためのガイドラインということで、なかなか実践的です。

というわけで、今日は、個人情報保護を考えてみました。

ところで、そもそも私達は、どうして個人情報を掲示するのでしょうかね?

江戸時代に、町中に「おふれ」の掲示していた理由は、わかります。
住民すべてに、個別にお上の政策を伝えることが、実質不可能だったからでしょう。
もちろん実際には、文字が読めない人がいたり、掲示に気づかない人がいたりしたと思いますが、それでもこの方法がベストだったのだと思います。

大学のキャンパス内に、休講の掲示を出す理由もわかります。
キャンパスに来た学生に、いち早くその情報を提供する必要があるからです。
携帯を持ってない学生でも、その日の講義があるかないかは、知ってないと困りますよね。

大学の合格発表を掲示で行う理由は、そろそろあいまいになってきていると思います。
マイスターも、自分が受験生の時は、その掲示を見るためだけに遠いキャンパスに足を運びました。
大学院などは、家から片道3時間もかかったので、往復の交通費だけで\5,000以上かかって大変でした。
郵送での通知は、掲示よりタイミングが遅れるから、結局行ったわけです。

しかし、休講の掲示はともかく、
「それぞれだけが見られればいい情報」を、この高度ネットワーク社会に、なぜ掲示板で周知…?

考えてみると、かなり謎の行為が多いです。大学の都合がかなりあるような気もします。

だって、イマドキの大学は、学生全員にメールアドレスを配って、こまめにチェックするように言っているわけです。
企業からきた求人情報をそれで学生に周知させたりもしているわけです。
なら、学生の呼び出しもそれでええやん。

似たような例は、他の業界にもあります。
例えば飛行機事故が起きた時に、乗客の名簿を新聞に掲載するのは、日本だけといいます。
あれも、誰のために掲載しているのか、考えてみるとあいまいだと思いませんか?
事故が起きたら、情報をもっとも必要としている家族には、警察や航空会社からまっ先に情報が行くのです。

で、遺族が悲しみにうちひしがれているその夜のうちに、新聞社から「犠牲者の方のお名前の正確な漢字と、登場していた理由を教えてください」と電話がかかってくるのです。
「明日の朝刊には掲載しなければならない」という新聞社の都合です。
そこまでして乗客名簿を作り、遺族の都合にかまわず全員分を維持でも公開する理由は一体何なのでしょうか?
思考停止し、「知りたい人がいるから、とにかく知らせる義務があるんだ」と言うのは簡単ですが、そもそも誰のための情報公開かと、考えてみる必要がある行為は多いように思います。

以前にもご紹介した「世間の目」では、事故の乗客名簿が公開される理由を、遺族の「世間」に属する人たちが適切な行動をとるため(お悔やみを申し上げたり、年賀状を控えたり)、と分析しています。つまり、本人ではなく周囲の人たちが礼を失しないためです。

本人より周囲の人の都合を優先させるような、大昔と同じ施策を実行し続けるのは、
情報を扱う様々な業界の担当者達が、思考停止しているからかも知れません。
もしくは、「他もやっているから」「これまでもそうしてきたから」という圧力に屈した結果かも知れません。

大学の情報公開行為にも、もしかすると、そんな危険をはらんでいるものがあるかもしれません。

「なぜ俺は、この掲示を貼り出すんだろう?
 誰のために掲示しているんだろう?
 他にベストな方法はなかったんだろうか?」

と、常に自問自答しながら仕事をすることが、これからの大学職員には求められそうです。

そんなことを考え、身を引き締めたマイスターでした。