「さらば工学部」 工学関係者へのインタビュー

マイスターです。

日経ビジネスの「さらば工学部」という特集が、一部で話題を呼んでいるようです。

ネット版でも、大学関係者などに対する、興味深いインタビュー記事を読むことができます。

【今日の大学関連ニュース】

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■「『工学部を解体せよ』~さらば工学部(1)
東レ・前田勝之助名誉会長に聞く」(NBOnline)

産業界の立場からのご意見。
基礎科学教育は理系でも文系でも必要で、大学2年までは全員が理系でもよいと思うくらいだ、という、刺激的なコメントが紹介されています。

■「『東大生の電気電子離れ加速、企業の求む人材と乖離』~さらば工学部(2)
東京大学・保立和夫工学部長に聞く」(NBOnline)

東京大学は、入学後は教養学部で学び、その後、「進振り」という仕組みで各学部に進学していきます。
その際、工学部の中で人気・不人気の学科が別れ、社会的に重要な分野、需要の多い分野であっても、学生を取り込むことが難しくなってきているケースがあり、それに危機感を覚えていると語っておられます。

印象的なのは、保立工学部長ご自身が教授を務める電気系工学科の人気が低迷していることについて、

(進振りでの)進学の基準となる最低点も、前年に比べて落ちていました。進振りのダイナミズムの1つとして、進学者の最低点があります。進学に必要な成績がどれほどの水準なのかに、学生は敏感です。学生は進学基準の点数が低いところには行きたくないという心理があります。一度、この最低点が下がってしまうと、もう一度上がることが本当に大変です。
(上記記事より)

……と語っておられる部分。
もちろん、こういった学生ばかりではないでしょうし、他にも学科選択の要因はあるでしょう。
ただ、これではなんだか、「偏差値エリート」になることを目指して進学する発想そのもの。

マイスターは、分野云々以前に、そういったメンタリティで進学先を選んでいるという点に危機感を覚えまました。

■「『「教育の金沢工大」は“褒め殺し”。教育改革に一切気は抜けない』~さらば工学部(3)
金沢工業大学・泉屋利郎理事長に聞く」(NBOnline)

独自の教育方針を徹底したことにより、大学業界で注目を集める存在になった金沢工業大学。
同大が打ち出した施策については、すでに大学関係者の皆様はご存じでしょう。

特に工学教育、ものづくり教育に関わる大学には、同大の施策をそのまま自校に導入した大学が少なくありません。

ところでこの記事で興味深かったのは、独自路線の打ち出しに関する、以下のコメント。

2050年の大学進学率が現在と同等の60%と考えれば、計算すると、入学者は36万人へと大きく減少します。その時に大学はどうなっているか…。
国公立大学は大学数を減らさず、定員も変わらない可能性が高いでしょう。定員数は約19万人。そして、慶応義塾大、早稲田大を中心に、大学のブランド化、あるいは系列化が進んでいます。こうしたブランド大が保有する定員は約10万人と見ています。そうすると、残り中堅大学は、約7万人の取り合いになってくるわけです。私の見立てでは、この「7万人争奪戦」の中に入ってしまったら、その大学はつぶれる可能性が高い。進学率が落ちてくるとさらに厳しい。
私たちはこの7万人の争奪戦には入らないように、独自性を高めなければいけません。
(上記記事より)

数字の大きさには様々な意見があるでしょうが、こういった発想で先を見通すこと自体は、大学を経営する上で正しいことだと思います。
これは、工学系以外の大学にも参考になる部分ではないでしょうか。

■「『存続できず、廃部に追い込まれた工学部』~さらば工学部(4)
九州共立大学・小島治幸工学部長に聞く」(NBOnline)

募集停止した工学部の事例。
当事者として事態の推移を見てこられた学部長による、貴重なインタビューです。

2002年から入学者は定員の8割~9割まで落ち込みます。私立学校ですから、経営を維持するために定員を確保しなければなりません。教員としては少しでも優秀な学生を取りたい。だから、あるレベルのところで合格のラインを切りたいと思う。ところが、経営者である理事会の意向として、そうはいきませんでした。
ほとんど「全入」と言ってもいい状況でした。かといって、誰でも入学させていいわけではありませんから、「数学の試験で0点の人に限り不合格としよう」といった最低限の基準を設けました。工学部としては苦渋の選択と言っていいでしょう。
(上記記事より)

その後、授業についていけずに退学する学生が増加し、学部の運営が困難になっていく様子が綴られています。
程度の差はあれ、どの大学でも似たような傾向はあるかも知れませんが、「廃部」に追い込まれてしまったところの事例からは、リアリティが伝わってきます。

■「『溶接の総本山・阪大の異変』~さらば工学部(5)
大阪大学接合科学研究所・野城清所長に聞く」(NBOnline)

学問分野の統合や再編などについて、教育と研究の関係について、色々と葛藤している様子が紹介されています。
国全体として、工学系の研究をどのように支えていくべきか考える上で、参考になる記事です。

以上、日経ビジネス・オンラインの元記事では、より詳細な内容を読むことができますので、よろしければご覧下さい。
いずれも日本の工学教育のあり方を考える上で、色々と考えさせられる内容になっています。

ものづくり離れや理科離れ、基礎学力の低下など、工学部のまわりには様々な課題があります。
高校生の意識も変える必要がありそうですし、大学関係者も変わっていかなければならない部分はあるでしょう。一方で、変えずに守り抜かなければならないところもあるでしょう。

日本の産業を支えてきた工学部に対して、社会も注目しています。
今後の工学部をどのように設計していくか。関係者には、大きな注目が集まっていると思います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。