新設大学に、地元が過剰な期待?

マイスターです。

■千葉大学園芸学部 どうなる移転問題

↑昨日は、大学と地域との関係についての話題をご紹介しました。

長く存在していた大学が移転してしまう際に、地域が反対するというのは、しばしばあることです。

ところで、では大学が地域に新しく移転してきた際、地域はどんなことを期待するのでしょうか?

【今日の大学関連ニュース】
■「ポーアイ“学園都市化”1年余 学生は放課後、三宮に直行?」(神戸新聞)

神戸市中央区のポートアイランドに、神戸学院大学など4大学1短大の「学園都市」が誕生して1年余りになる。学生数は約6000人。新たなキャンパス群には、地域の活性化が期待されていた。空洞化が目立つ人工島は、「若者でにぎわう街」に生まれ変わったのか。現状を取材した。
ポートアイランド中心部のポートライナー、市民病院前駅。大学生がどっと乗り降りする。昨年四月、もともとあった神戸女子大・短大に加えて、神戸学院大、兵庫医療大、神戸夙川学院大が開学した。
(略)しかし、最寄り駅や大学周辺を少し離れると、学生の姿が見当たらない。どうやら、授業が終わればすぐ、ポートライナーに乗って十分足らずの三宮に戻るようだ。神戸学院大経済学部で「観光まちづくり」のゼミに所属する三年の榎本まどかさん(20)は「洋服店とかコーヒーショップとか、学校帰りに気軽に寄れる場所がない」。尾崎翔伍さん(20)も「漫画喫茶のように、眠たくなったら寝られる場所がほしい」と注文。学生たちも近くにたまり場を求めている。
有機野菜などを扱うカフェを営んで八年目という磯崎玉英さん(58)は「ポーアイはもともと店が少ないし、学生たちは、店そのものが存在しないと思い込んでいるのでは」とこぼす。
市みなと総局は「まず、学生に興味を持ってもらいたい」と、昨年秋から神戸学院大で市職員がポーアイについて講義している。NPO法人に委託して、学生によるポーアイのマップづくりも進める予定だ。
(略)集まった大学や学生を、地域の魅力にどう結び付けることができるか。そのための知恵が求められている。
(上記記事より)

以前のニュースクリップでもご紹介しましたが、神戸にあるポートアイランドは、他に類を見ない、大学間連携の実践事例として注目されています。

ポートアイランド西地区には、もともと神戸女子短大がありました。
近年、そのすぐ横の海岸沿いの整備に伴い、なんと3つの大学が新たに開学。しかも隣り合わせに並んだ、邪魔な外壁のない連続したキャンパスとして計画されているのです。
神戸女子短大の敷地内にも、新たに神戸女子大学の学部が増えて、今やかつてない大学地区を形成するに至っています。

大きな地図で見る

複数の大学がこれだけ密接な位置関係で作られるというのは、日本でもここだけでしょう。

各大学の敷地の間には外壁を設けず、自由に学生が行き来できるようにし、食堂などの厚生施設は共同利用。単位互換も柔軟に行う。図書館などの相互利用も推進し、学術資料もなるべく各大学で重複がないようにそろえていく……など、かなり踏み込んだ連携が進められています。

当然、これだけの大規模な構想ですから、行政も地元も、期待します。

島への交通機関となるポートライナーも、大学の移転に合わせて増便されました。

若い学生達を中心に、いっきにポートアイランドで暮らす人々が増えたわけですから、やっぱり多くの方々が最初に創造したのは、経済的な活性化だったと思います。
若い学生達が、ポートアイランド内で食事をしたり、買い物をしたり、遊んだりしておカネを落としてくれるんじゃないか、これで島も活気が出るぞ、本格的な商業化が進められるかも……と、地元の方々の間では、夢が際限なくふくらんでいるかも知れません。

でも、実際には、冒頭でご紹介した記事のように、「学生は、授業が終わったらすぐに三宮に帰っちゃうじゃないか!」……と、不満も聞こえるようです。

で、冒頭の記事を読んでの個人的な第一印象。

最寄り駅や大学周辺を少し離れると、学生の姿が見当たらない。どうやら、授業が終わればすぐ、ポートライナーに乗って十分足らずの三宮に戻るようだ。

……とのことですが、ポートライナーの駅は大学からすぐのところにあるのですから、そりゃ授業が終わったら、乗るでしょう。

基本的に、これらの大学に通う学生達はほとんど三宮方面から通学しているのでしょうから、買い物をするにも、お茶を飲むにも、別にポートアイランドで過ごさなければいけない理由がないなら、敢えて留まったりはしないでしょう。

ポートアイランド内にも(少ないながら)店はある、という意見が紹介されていますが、学生に気づかれていないということは、駅より遠いのだと思います。
わざわざ歩いて島の中で店を探すくらいなら、三宮で色々なお店を選ぶでしょう。

これって、自分自身の購買行動を考えてみたら、結構当たり前のことです。
普通の人は、あまり選択肢がない大学や会社の周辺よりも、通学途中に電車を乗り換える大きな都市で買い物をします。
「島」という、地図上の枠組みで物事を整理してもこの場合、あまり意味はないんです。

冒頭の記事のストーリーは、

 <大学が来たのだから当然、自動的に島内のお店がすべて活性化するはず>
→<実際には活性化していない。学生は、島内の店を使っていない>
→<問題だ>

……という、一見するとわかりやすい構成になっていますが、上記のような当たり前のことが無視されているため、よく考えてみると、これがかなり強引な展開であることに気づきます。

大学が来たからって、自動的に島の中が活性化されるわけではありません。
大学と駅の間に商店街でもあれば、そこだけは何もしなくても盛り上がったかもしれませんが、ポートアイランドの場合、それもありません。

有機野菜などを扱うカフェを営んで八年目という磯崎玉英さん(58)は「ポーアイはもともと店が少ないし、学生たちは、店そのものが存在しないと思い込んでいるのでは」とこぼす。
市みなと総局は「まず、学生に興味を持ってもらいたい」と、昨年秋から神戸学院大で市職員がポーアイについて講義している。NPO法人に委託して、学生によるポーアイのマップづくりも進める予定だ。
(冒頭記事より)

……なんて書かれているので、なんとなく、ポートアイランドが盛り上がっていないのは学生や大学の問題であるように思えてしまいますが、実際には、そうではないでしょう。
これ、純粋にビジネスの問題です。大学の問題ではありません。

大学が来たのは、地元の方々にとっては、間違いなくビジネス的に大きなチャンスでしょう。でもそのチャンスを生かせるかどうかは、自分達の責任です。

たとえ市の職員がポートアイランドについて講義をしたり、NPOがマップを作ったりしても、三宮(およびその周辺)よりも魅力的のある環境を自分達で構築できなかったら、学生がポートアイランドで買い物をすることはないでしょう。

何でも、大学のせいにしていないか? ……と、記事を読んでちょっと思いました。

大学を巡る報道の中には、このように「それって実は、大学にはあまり関係がないんじゃない?」というものも含まれているように思います。

ところでポートアイランドでは、大学の新設ラッシュに伴い、学生や教職員が居住する地区を整備しようという計画もあると聞きました。
このように、住居も含め、ポートアイランド内を総合的に学園都市化するというのであれば、話は少し違ってくるでしょう。住居地区の周辺に限っては、生活を支える産業、つまり飲食や生活雑貨、娯楽ビジネスなどに、少しチャンスが出てくると思います。

ポートアイランド内に新設された大学は、まだ完成年度を迎えていません。これから数年間、学生が増え続けるわけです。が、現時点で、ラッシュ時のポートライナーの輸送力が限界を迎えてきているという話も耳にします。

そんなことも考えると、行政と地元で手を組んで、安価な住まいを整備するなど、学生が暮らしやすい環境を整備していくというのは方向性として悪くないんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。