「脳トレ」の報酬24億円 川島教授の取り分はゼロ?

マイスターです。

大学関連のニュースが、ネットでちょっと話題になっていましたので、ご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「川島教授、「脳トレ」の報酬はゼロ」(GameSpot Japan)

ニンテンドーDSの大ヒット作「脳トレ」の看板教授は、「仕事が好きだから」という理由で一切の報酬を受け取ることを断っていると話している。
「Dr. Kawashima’s Brain Training」(日本版の名称は「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修脳を鍛える大人のDSトレーニング」、米国版は「Brain Age」)は英国だけで100万本以上販売されており、ニンテンドーDSの販売数を押し上げ、ゲームの魅力をより広い層に広めた。
しかし、このゲームの看板教授はAFPとのインタビューで「私の財布には1円も入ってきていない」と話している。この48歳の教授は、印税の半分 –およそ24億円(約2200万ドル)–を受け取ることもできたが、同氏は1100万円(10万ドル)の年収で満足しているという。その代わり、この支払いは同氏の雇用者である東北大学に対して行われている。
川島氏の家族は本人ほどは淡泊にはなれなかったらしく、問題が生じたという。同氏は「私の家族はみな私に腹を立てているが、お金が欲しければ自分で稼ぐようにと言っている」と認めた。
(上記記事より)

通称「脳トレ」。
正式名称は

「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」

です。
大ヒットし、続編も発売されましたので、ご存じの方は多いんじゃないでしょうか。

大学の研究センター名、および教授の名前が入っているという、非常に珍しいゲームタイトルです。
(そのおかげで、正式名称が異様に長いです)

■「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」(Nintendo)
■「Dr Kawashima’s Brain Training: How Old Is Your Brain?(オーストラリア、ヨーロッパ版)」
■「Brain Age: Train Your Brain in Minutes a Day!(北米版)」

このソフトが海外でも販売されているということを、マイスターは今回初めて知りました。

オーストラリアのカップルとかが、よく知らないままに「Dr Kawashima はもうプレイしたかい?」みたいな会話をしているのかと思うと、ちょっと不思議。
製品名を通じて名前だけは何となく知っている研究者……という点では、セキュリティソフトの「ノートン先生」みたいな存在なのでしょうか。

そして、この「脳トレ」、日本だけではなく海外でも売り上げ絶好調!
印税がなんと、24億円にものぼったのだそうです。
研究成果を製品開発に反映させる、産学連携の成功例と言えるかも知れませんね。

産学連携というと、世間一般では「人の役に立つ」技術という印象がなんとなく強いように思います。
でも「脳トレ」は、医学の研究成果が反映されているのでしょうが、基本的にはエンターテイメント。なるほど、こんな連携もあるのかと、多くの人が思ったんじゃないでしょうか。

ただ冒頭の記事によると、実は印税はすべて勤務先である東北大学に入れ、川島教授個人の報酬は1円もないのだそうです。
東北大の規定では、知財創造経費の最大2分の1を研究者個人が得られる仕組みになっているらしいのですが、川島教授は全額を研究費にしたのですね。
その理由として、「仕事が好きだから」とコメントされています。

この報道が、賛否両論を呼んでいるようなのです。

○大勢の人々を喜ばせた対価なのだから堂々と受け取って良いのに、「仕事が好きだから受け取らない」と、『美談』のように語られてしまうのは、かえって不健全なのでは。
学者は清貧でなければならない、学者はみんな研究が趣味でなければならない、という風潮にならないか。

○研究者も貢献度に見合った対価を得るべきだ、という流れがやっとできつつあるのに、こうした前提を作られてしまうと、後に続く研究者が困ることにならないか。「自分の取り分」を主張しづらくなったりしないか。

……というのが、否定的な意見です。
確かに、もっともです。

しかし一方では、「いや、川島教授のやり方は賢い」という意見も見られます。

○個人名義のお金が入っていないというだけで、実際には東北大学を経由し、研究費という形で対価は得られている。巨額の研究費によってより充実した研究を行うことができることは大きい。

○大学への貢献により、大学も教授を評価するはず。

○個人で印税をもらっても、多くを税金でとられてしまう。
しかし非営利組織である東北大学に入るお金であれば税率は低くなるので、結果的に川島教授が研究等で使えるお金として活かされる。

……というのが、その代表的なもの。
実際、昨年も川島教授は「脳トレ」で得た研究費で、研究棟および研究用機器を整備。
「脳トレ」の売り上げを、より高度な研究の実現につなげています。

仙台市青葉区の東北大加齢医学研究所に完成したブレイン・ダイナミクス研究棟が14日、報道関係者らに公開された。川島隆太加齢研教授の脳科学基礎研究による産学連携で得た「知財創造経費」で建設。世界最新鋭の機器を備え、6月には脳機能を解明する研究が始動する。
(略)川島教授の研究室には2006年度、脳の活性化をトレーニングする人気ゲームソフトなどの監修料として、約4億4000万円が民間企業から支払われた。
東北大の規定では、知財創造経費は最大2分の1を研究者個人が得られるが、川島教授は全額を研究室の収入に組み入れ、研究棟の整備費などに充てた。残額を活用し、本年度末には超高磁場の磁気共鳴画像装置(MRI)を備えた研究棟も完成する。
川島教授は「税金を使わず、自助努力で自分たちの研究に再投資する仕組みは世界でも初めてだろう」と話した。
(「『脳トレ』ヒット川島東北大教授 監修料で新研究棟」(河北新報2007年5月15日)記事より)

このように書かれると、確かに、そう悪くない選択であるようにも思えてきます。

でも、日本の他の研究者の中には、「もうちょっと、後進に夢を与える使い方をしても良いのに」と考える方もいるでしょう。

これは勝手な想像ですが、川島教授ご本人は別に「研究者は清貧たれ!」みたいな主張をお持ちなわけではなく、本当に研究が好きなだけなんじゃないでしょうか。
だから、(ご家族は怒るかもしれませんが……)ご自身にとってベストと思えるお金の使い方をされたんだろうと思うのです。

もしかすると、「仕事が好きだから」というコメントがもうちょっと違っていたら、あるいは、新しい研究棟に川島教授の名前がついていたりしたら、もう少し周囲の反応は違っていたのかも知れない、なんて気もします。
(でもこんなこと、ご本人にとっては余計なお世話以外の何者でもないですよね……うーん)

ちなみに、川島教授はこういった使い方をされたけれど、他の人が同じようにする必要はないだろうとマイスターは思います。
研究で発生した対価は、自分が正当な報酬として受け取れる分は、きちんと受け取っていいはず。
(そもそも、チームで進めた研究だと成果配分がスッキリいかずに揉めそうですが、それはまた別の課題)

色々な事例が出てきた方が、研究者の世界も面白くなると思うのですが、いかがでしょうか。

以上、冒頭の記事を読みながら、そんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。