マイスターです。
学校運営や授業研究のリーダーとなる教員を養成する専門職大学院(プロフェッショナル・スクール)、教職大学院。
その設置を目指す大学の一覧が、発表されました。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「来春開校の教職大学院、21大学が認可申請」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0703/TKY200707030456.html
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文部科学省は3日、来春から開校予定の教職大学院について、21の大学から設置認可の申請があったと発表した。国立15校(私立との連合を含む)、私立6校で、定員は計766人の予定。今月18日に大学設置・学校法人審議会に諮問し、審議が順調に進めば11月末に認可される見込み。
(上記記事より)
上記の記事によれば、申請があった大学と定員は以下のようになります。
<教職大学院の設立を申請した大学>
【国立大学:15校】
・北海道教育(45)
・宮城教育(32)
・群馬(16)
・東京学芸(30)
・上越教育(50)
・福井(30)
・岐阜(20)
・愛知教育(50)
・京都教育=京都産業、京都女子、同志社、同志社女子、佛教、立命館、龍谷と連合=(60)
・兵庫教育(100)
・奈良教育(20)
・岡山(20)
・鳴門教育(50)
・長崎(20)
・宮崎(28)【私立大学:6校】
・東京福祉(30)
・聖徳(30)
・創価(25)
・玉川(20)
・早稲田(70)
・常葉学園(20)(上記記事を元に作成)
このように、国立大学がズラリと並ぶ結果になりました。
特に初等教育においては、教員養成の中心は国立の教員養成系大学や、各都道府県にある国立大学の教育学部・教養学部です。
一般の大学も、中等教育を中心に幅広い人材を教育界に送り出しており、一種の棲み分けが成されている状態ではあるのですが、教職大学院に関しては、上記のような結果となりました。
国公私立大学がこぞって設立を発表した法科大学院のときとは、そもそもこうした背景が違います。
加えて、法科大学院開設のときの「新司法試験スタート」のような、差し迫ったニーズがあるわけでもないため、最初は様子見を決め込んでいるという大学も多いのではないかと思われます。
法科大学院の場合、法曹を養成するルートが基本的に大学院に一元化されたため、法学部を持つ大学にとって法科大学院を設立することは死活問題にもなったわけです。
しかし教職大学院は違います。従来と同様、大学院に行かなくても学部4年間だけで教員免許は取得できます。教員免許を持たない大学既卒者が大学院で免許を取る、という役割もありますが、基本的には「教員として、より高い能力を身につけるための大学院」という位置づけです(一応、大学院では専修免許状が取得できる、という違いはありますが)。
「専門職大学院」として法科大学院と並列に語られることが多い教職大学院ですが、その実、どちらかというとMBAなどに近い位置づけなのかも知れません。
21大学の定員総数は計766人で、文科省は「少なくとも約2000人のニーズはあり、将来的には十分とはいえない」としている。
(「教職大学院の設置、計21大学から申請」(読売オンライン)より)
……と読売新聞の記事にはありますが、上記のような認識からいうと、そんな楽観的な「待ちの姿勢」で、本当に集められるのかなという気もします。
この教職大学院、どのような特徴があるのか、中央教育審議会が平成17年に出した「今後の教員養成・免許制度の在り方について(中間報告)」を読んでおさらいしておきましょう。
■(1)「教職大学院」制度の創設の基本的な考え方
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120802/011.htm
■(2)制度設計の基本方針
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120802/012.htm
■(3)具体的な制度設計(主として設置基準に関連する事項について)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120802/013.htm
■(4)その他(設置基準以外の関連事項等について)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120802/014.htm
中でも上記(4)のページでは、具体的な制度設計について、その詳細が記載されています。
○標準修業年限:一般の専門職大学院と同様、2年とすることが適当である。
○必要修得単位数時45分単位以上とすることが適当である。また、そのうち10単位以上は学校における実習によることとし、10単位の範囲内で、大学の判断により教職経験をもって当該実習とみなすことができるようにすることが適当である。
○教育課程:学校現場における中核的・指導的な教員として必要な資質能力の育成を目指し、理論と実践の融合を強く意識した体系的な教育課程を編成すべきことを明確にする必要がある。具体的には、体系的に開設すべき授業科目の領域として、1)教育課程の編成・実施に関する領域、2)教科等の実践的な指導方法に関する領域、3)生徒指導、教育相談に関する領域、4)学級経営、学校経営に関する領域、5)学校教育と教員の在り方に関する領域のすべての領域にわたり授業科目を開設することが適当である。
○教育方法:少人数で密度の濃い授業を基本としつつ、理論と実践との融合を強く意識した新しい教育方法を積極的に開発・導入することが必要である。(例えば、事例研究、模擬授業、授業観察・分析、ロールプレーイング 等)
○免許状未取得者:教職大学院在学中に所定履修単位のほか、一種免許状の取得に必要な所要単位を修得することが必要である。この履修に当たって、学部での開設科目の履修のほか、教職特別課程(教職に関する科目の単位を修得させるために大学が設置する修業年限を一年とする課程)において履修することも可能である。
○専任教員:最低限必要な専任教員数は11人とするとともに、うち実務家教員の比率はおおむね4割以上とすることが適当である。実務家教員の範囲は学校教育関係者・経験者を中心に想定されるが、そのほか医療機関や福祉施設など教育隣接分野の関係者、また民間企業関係者など、幅広く考えられる。
(「(4)その他(設置基準以外の関連事項等について)」(中央教育審議会)より抜粋。強調部分はマイスターによる)
実務家教員4割以上というのが教職大学院の大きな特徴です。
「教育学の知識を学ぶ」のではなく、「教育を身につける」ことに重きを置いた結果なのでしょう。
しかし、実務家として経験を積んだ方であれば「理論と実践との融合を強く意識した新しい教育方法」が生み出せるのかというと、そう言うわけでもないでしょう。
現場に活用できる事例研究や実践研究が豊富に生み出され、蓄積されるといった、研究面の強化も重要です。
両者がうまくかけ合わさってこその教職大学院です。
その辺りのシステムの完成度が、各大学院の今後の評価につながっていくものと思われます。
個人的には、この教職大学院が社会に対してどのような成果を生み出すか、楽しみです。
ぜひとも、「あそこは良い学校だから、ぜひ私も機会を見つけて通ってみたい」と、地域の教員達に言われるような大学院になっていただきたいと思います。
■「大学院修学休業制度」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyuugyou/syuugaku.htm
上記のような制度も、教職大学院の拡がりにともない、いっそう活発に使われるようになるといいですね。
以上、マイスターでした。
こんにちは。専門は教育学のこばこばです。
教職大学院いついては、かなりの大学で様子見をしているようです。というのは、従来の教育学研究科との整合性の問題が大きいからです。
ご指摘されたように、実務家がたくさんいればいいということではなく、むしろ現職の先生方(実践者)による研究の場として機能することが重要なように思います。
なお、大学院修学制度についても、各都道府県教委が難色を示すケースが多く、なかなか広がらないようです。
一方で、多くの国々で行われている学士とあわせ、6年間での教員養成に道を開いたことの意義は大きいとも考えます。
国立大学は法人化後、運営費交付金の減で専門性のある教科の教育者を整理したり、経費削減が一通り行われ、余力を足すための自由裁量経費でさえも潰え、新たな創造性ある取組みがはかれない状況です。
…そう言えば、放送大学という大学が有りますが、このような受講対象フィールドが広い大学は、公共性や統一した指導を徹底する等の面で有効な大学と考えますが、参入が厳しいのでしょうか。
例えば、放送大を中核として、教育系大学が講座・講義を提供し、指導者・教育者を派遣し、実技・実習、認定試験等は、地方の教育系大学や放送大の学習センターを活用する!
現在の疲弊した制度に安価な投資で効果的な成果を求めるとしたら、これ以上は存在しない機構となると思うのですが…
応募に関して文科省から内諾を得たところ(文科省から「応募してもいいよ」と言われたところ)だけが、今回設置要請をしたのではないでしょうか。
だから、本当はもっと多くの教員養成系の学部が申請を希望しているのではないかと思われます。
マイスターさんがおっしゃていること以外にも、(1)地元への教員採用率が低減してきている地方国立大の教員養成系学部の生き残り戦略、(2)文科省からの予算配分などを有利に進めるために、とにかく改革・改組している姿を見せなければならないという実情、などが背景にありそうな気がします。