必修講義でカルト対策 いかにして学生を守るか

マイスターです。

そろそろ大学は試験期間です。それが終われば夏休みですね。
4月に入学した新入生。友達ができてキャンパス生活にもなじんできた人もいれば、できていない人もいるかと思います。

昨今では、後者の学生をどのようにサポートするかが、大学の大きな課題。
充実したキャンパスライフを送っていただきたいという教育的な観点での想いもさることながら、「放置しておくと退学者の増加につながる」という、差し迫った事情もあります。
前期中に友人ができないままだった学生が、夏休み明けに退学届を提出しに来るというのは、わりとありがちなパターンだと聞きます。
そんなわけで特に新入生については、勉強以外はノータッチというわけでもないのが今の大学なのです。

しかし、友人ができれば誰でも良い、というわけにもいかないのが、またやっかいなところです。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「夏休み前に異例の実施、カルト対策 必修講義…阪大」(読売オンライン)
http://osaka.yomiuri.co.jp/edu_news/20070627kk02.htm
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教祖による女性信者への性的暴行が問題となった韓国発祥のカルト集団「摂理」が、多くの大学生を信者にしてきたことを教訓に、大阪大が勧誘の標的になりやすい1年生を対象に必修の特別講義を行っている。約2700人全員に受講を義務づけるカルト対策の講義は全国でも例がない。大学は「カルトに精神をむしばまれ、貴重な青春を失わないで」と訴えている。

阪大は摂理が勧誘に力を入れた大学の一つで、今も複数の信者がおり、霊感商法で知られる団体なども勧誘活動を続けているという。約5年前からカルトに関する保護者の相談が寄せられ、毎年の新入生オリエンテーションで注意喚起している。

特別講義は昨秋に初めて行い、今年は夏休みの「旅行」「合宿」と称して勧誘が行われる時期に開講。今月初めから来月中旬に学部・クラス別に計11回開講、講義の最後にリポートを提出させ、出席を確認。欠席の学生にはカルト問題の図書の感想文を提出させる。

今月中旬、大阪府豊中市の豊中キャンパスで行われた講義では、学生生活委員長の大和谷厚(やまとだにあつし)・医学部教授が「自分の生き方を真剣に考えるまじめな学生ほど引き込まれやすい」と注意を呼びかけ、<要注意>サークルの特徴として▽団体の名前がないか、名前をしばしば変える▽参加者によって活動内容を変える▽飲酒・喫煙・恋愛を禁止する――などを挙げた。

大学が把握している偽装サークルも例示し、大学の相談窓口を伝えた。

(上記記事より)

大阪大学の取り組みです。

これは、なかなか踏み込んだ対策だと思います。

「摂理」の問題はメディアで大々的に報じられ、社会に衝撃を与えました。
それ以降、こういった問題について、学生達に注意喚起をする大学は増えたと思います。

しかし「摂理」以前にも、大学キャンパスを活動拠点にする宗教団体はありました。
まっとうな活動を展開するところもあったでしょうし、中には社会的に問題のある集団もあったでしょう。外部の人間には、そのあたりの判断はなかなかできません。

また、学生から「強引な勧誘を受けた」とか、「授業のない日に参加した学外での集会で、反社会的な講演を聴かされた」なんてことを聞いても、大学として、できることは限られています。
サークル活動の内容にまで、大学は干渉できません(むやみにそんなことをやってしまう大学があったとしたら、それはそれで大いに問題です)。

それゆえ「摂理」に関しても、多くの大学では注意喚起の貼り紙を貼るとか、ガイダンスで一言注意を呼びかけるという対応にとどまっているかと思います。
そして「摂理」以外の名称を使う団体に対しては、あまり効果的な対策を打てません。

それでも今回、大阪大学が冒頭のような「異例の」対応を取ったのは、大学側が強い危機感を持ったからなのでしょう。

「摂理」に関しては、明らかに違法かつ反社会的な活動を行っている団体だという認識が、既に世の中に浸透しています。教職員も保護者も、「学生があのような団体に関わったら大変だ」という意識を持っています。
何よりも、今でも実際にキャンパスで関連団体が活動を続けている実態があるのです。放置していれば、被害を受ける学生が増える可能性があるわけです。

ややもすると「踏み込みすぎだ」という批判を受けないとも限らない対策を大阪大学が実行したのは、絶対に現状を放置しない、という強い決断あってのことだと思います。
このように徹底した対策を打てば、「摂理」の被害者は減るでしょう。

他の団体をどう扱うか等、たくさんの課題は残っています。
例えば「ウチの子が勧誘されたサークルも怪しいです。『摂理』と同じように注意を呼びかけてください」なんて要望が保護者からあったとします。でもそれは、単に人間関係がこじれただけとか、ちょっとノリが極端なだけの、まっとうなサークルだったということもあるでしょう。
大学側がそのあたりをどう判断するか、何らかの基準や、手続きのシステムが必要になってくるかも知れません。
慎重な対応や、難しい判断が求められるという点は、おそらくこれまでと変わらないのでしょう。

こういったことは一過性の問題ではないでしょうから、覚悟を決めて、時間をかけて取り組むことが大事なのだと思います。

記事によれば、「阪大は摂理が勧誘に力を入れた大学の一つ」だとのこと。
確かにカルト集団の中には、いわゆる有名大学の学生を狙って活動を展開している組織があると聞きます。卒業した後、社会の中で高い地位を得る可能性の高い人間を信者にした方が、何かと自分達にとってメリットがあるという判断からでしょう。

つまり他の有名大学でも、何らかの対策が求められているということです。
大阪大学のような踏み込んだ対策を行うか、あるいは違ったアプローチを模索するか。大学によって方針は違うと思いますが、あまり悠長にしてもいられないのは確かです。
確実に学生を守る仕組みを構築したいものです。

大学間で対策のノウハウを交換したり、カルトから新入生を守る学生のネットワークを構築したりするなど、複数の大学で対応するという視点も効果的かも知れませんね。

以上、マイスターでした。

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