マイスターです。
中等教育と高等教育の接続。
これは、教育のあり方を考える上で、大きなテーマの一つです。
学校教育法を見てみると、
第17条 小学校は、心身の発達に応じて、初等普通教育を施すことを目的とする。
第35条 中学校は、小学校における教育基礎の上に、心身の発達に応じて、中等普通教育を施すことを目的とする。
第41条 高等学校は、中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする。
……と、小学校から高校までは連続した教育として位置づけられているのに対し、大学だけは
第52条 大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。
……とこのように、他と切り離された教育であることがわかります。
実のところ、高校と大学の教育は現在、ほとんどつながっていないのです。
というか、接続されることを前提にして作られた制度ではないのです。
つながっていない教育を、無理矢理、入試という仕組みで接続しているというのが、現状なのだとマイスターは認識しています。
実際、高校までに教わったことが、大学入学後にそのまま活かされているかというと、そうではありませんよね。大学入試で使われる科目(英語・国語・社会、または英語・数学・理科)の成績が良い学生が、大学に入った後も伸びているかというと、多くの大学では、別にそんなこともないと思います。
現在の大学入試制度は、高校と大学を、本当の意味で接続できてはいません。
このように、「高校と大学の教育はそもそも接続されていない」というのは、大学関係者や高校関係者にとって、非常に重要な前提であるように思います。
(偏差値ベースの進路指導や、理系・文系という分け方など、ここに端を発するのではないかという問題は多いのではないかとマイスターは思います)
そして本来、「付属校」とか「(一貫教育による)全人教育」とかいったシステムは、こうした問題を解決するために生まれた仕組みだったと思います。
ただ、こうした前提は、しばしば忘れられがちです。
少子化と基礎学力の低下が進む中、いかにして大学と高校の間をスムーズに接続するかというのは、さらに大きな課題になってきています。
そんなわけで、今日はこんな話題をご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「立命大、育英西中高に進学枠 3校目 理系付属並み」(京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2007062900193&genre=F1&area=K10
■「奈良育英学園が立命館と協定、立命館コースを設置へ」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200706290086.html
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学校法人立命館(京都市中京区)は29日、奈良市の育英西中高が来春から立命館大理系学部に付属校並みに進学できる「立命館コース」を設置する、と発表した。同コースの設置は、平安女学院中高(上京区)、岩田中高(大分市)に次いで3校目になる。
(略)両法人によると、立命館コースは、立命館大の理工、情報理工学部のほか来春開設の薬、生命科学部への進学が主な対象。立命館が中高のカリキュラムづくりに積極的にかかわり、大学教員の授業への派遣や大学の基礎科目の履修も検討する。
来春、中学2クラス(1クラス30人)、高校一クラス(同40人)に立命館コースを設置する。将来は中学3クラスのうち2クラス、高校4クラスのうち3クラスを同コースにするという。
育英西中高は、関西大(大阪府吹田市)へ入学できる枠(15人)を設けたパイロット校協定を結んでいるが、関大との協力関係は今後も続けるという。
立命館の林堅太郎常務理事は「学校法人が別でも、付属校のように早い段階から教育にかかわることができる。今後も地域にこだわることなく同様のコース設置を進めたい」と話している。(「立命大、育英西中高に進学枠 3校目 理系付属並み」(京都新聞)より)
同コースでは、中・高校ともに立命館の教授を招いて特別授業をするほか、高校では、大学で単位認定する基礎科目の履修も検討している。大学入学後すぐに専門科目が受講でき、飛び級できる可能性が高くなるという。
(「奈良育英学園が立命館と協定、立命館コースを設置へ」(Asahi.com)より)
記事にあるように、付属校以外への「立命館進学コース」の設置はこれで3例目です。
■「立命館進学コース」(平安女学院中学校・高等学校)
http://www.heian.ac.jp/high/heian/course/ritsumei.html
■「立命館アジア太平洋大学・立命館大学進学コース開設」(岩田中学校・高等学校)
http://www.iwata.ed.jp/u_exam/index5.html
(参考:過去の関連記事)
・立命館×平安女学院 ちょっと変わったスタイルの系列校?(2007年02月27日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50293438.html
3ケースいずれも中高一貫校ですが、見てみると「立命館進学コース」は、中学のカリキュラムからスタートしていることがわかります。
単に推薦枠を配布しているのではなく、大学との接続を考え、教育内容についても連携していくという考えがあってのことだと思われます。
同コースに所属する生徒にとっては、実質的に付属校と変わらない状態かもしれません。
もうひとつ気づいたことが。
同じ立命館進学コースでも、岩田中学校・高等学校はAPUに、今回の育英西中学校・高等学校は立命館大学の理系学部に、それぞれ比重が置かれていることがわかります。
APUの方は、地理的な関係性からだろうとわかりますが、育英西の「理系学部」というのは何でしょうか。
もともと同校から理系学部への進学実績が良かったからなのか、同校の理系教育の指導が特に優れているという評価なのか、あるいは大学側の学生募集の事情なのか。
両学園ともまだプレスリリースをwebサイトで公開していないので、そのうち発信されるかも知れません。
これから立命館学園に限らず多くの大学が高大接続の方法を模索していくのだろうと思います。
その際、単なる受験生獲得だけに走るのではなく、ちゃんと高大で連携する意味を持たせて欲しいと個人的には思います。
表面的な部分だけ他大学を参考にして、安易に高校に推薦枠を配布し、関係各所の教育水準を下げてしまう大学が増えたりしないかと、マイスターは少し心配です。
「新しい一貫教育のあり方を世に問うぞ」くらいの姿勢で、周囲に刺激を与えるようなすばらしい高大接続の姿を追求してくれる大学が出てくると、日本の教育も面白くなるのではないかと思います。
以上、マイスターでした。
立命館の斬新な試みが楽しみで時々、HP見ていたのですが、育英西って女子高らしいですね。女子の理系進出への支援というのが公式のコメントのようです。
理系でも医系はバブルですが理工系は不人気ですね。国公立でさえ1倍台の学科が結構あります。かつての花形の電気電子系は就職絶好調なのに偏差値は低迷しています。このような時代にAPUに理工系学部新設を計画したり、女子校からの理工系一貫教育に乗り出したり、かなりの冒険ですね。うまく軌道に乗って同様の試みをする大学が増えれば、科学技術立国の先行きにも希望が見えるのでしょうけど。
確かに。ただ、海外で生活したとき思ったのですが、日本では文・理系というのをあまりに硬直的に切り分けすぎてる気もします。
それと、映像学部のところで、如月社との連携はいいですね。京都の学生時代は名画座が学校でした。