「全国初・難民向け推薦入学制度、関西学院大が新設」

マイスターです。

大学の入試制度は年々複雑になる一方ですよね。

それも、どの大学でも、「いかに高校生を集めるか」という発想がベースの取り組みなものですから、
日程をライバル校とズラそうとか、
受験科目を減らそうとか、
実際にはただの早期推薦入試なんだけどAO入試と名付けて実施してみようとか、
そういう「改革」がほとんどです。

もちろん、受験生を集めるために、ある程度は必要なことなのでしょうが、マイスターなどはしばしば「抜本的に、全然違う発想で学生を集めて来れないものだろうか」と考えてしまうのです。

入試制度を考案するというのは、とどのつまり、キャンパスをどのようなメンバーで構成したいか、ということでしょう。でも、「日本の高校を出た若者を入学させる」という前提の入試システムばかりがやたらいっぱい増えていくというのは、各大学とも、キャンパスの構成要素をあんまり複雑にしたくないということなのかなぁ、なんて思うのです。

そんなマイスターにとって、この報道は新鮮でした。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「全国初・難民向け推薦入学制度、関西学院大が新設」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060524i111.htm

■「難民入学:UNHCR推薦、毎年2人に奨学金 関西学院大」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060525k0000m040085000c.html

■「UNHCR駐日事務所と関西学院大学 難民入学特別奨学制度の協定を締結」(UNHCR ニュース速報)
http://www.unhcr.or.jp/news/news_archives/060525.html
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関西学院大(兵庫県西宮市)は24日、日本に住む難民向けに、学費などを免除する推薦入学制度を新設すると発表した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連携し、同機関が推薦した難民2人を毎年受け入れる。同大によると、難民を対象とした推薦入試制度は全国初の試み。今年11月に、第1回の面接試験が実施される。
(略)
経済的な理由で高等教育を受けられない難民も多く、「負担をなくして、就学、さらには就職の機会を提供したい。まずは学部だけだが、大学院への進学も今後検討したい」と、同大の平松一夫学長は話す。UNHCRのロバート・ロビンソン駐日代表は「ほかの大学などでも、同様のプログラムを採用してもらえれば、すばらしいこと」と期待していた。(読売オンライン記事より)

12年の学校教育の課程を修了または修了見込みの者で、日本語の能力があり、大学進学を希望するが学費を捻出できない、日本に居住する難民(条約難民、インドシナ難民、補完的保護を受けている難民)をUNHCR駐日事務所が2名まで推薦し、関西学院大学は該当者に対し、書類および面接による審査を行って合否を決定、2007年4月より受け入れる。(UNHCR駐日事務所webサイトより)

さらに、上記2つのサイトを見ると、以下のような情報が書かれていました。

○日本政府から難民認定を受けたインドシナ難民などのうち、大学の授業についていけるだけの日本語が身についていることなどが条件。
○同大の全学部に応募できる。

○入学試験料や授業料など、学業にかかわる経費がすべて免除される
○必要に応じて住居も提供される
○生活費として月5~8万円が支給される予定

これ、すばらしい取り組みだと思います。

関西学院大学が世の中の問題についてどのように考え、どのような形でそれを解決しようとしているかを、示す事例でありましょう。

単なる入試制度だけの話ではありませんよね。
入試、奨学金、学生サポートなどを総合的にデザインすることで、大学として、難民の支援を実践してしまおうという計画であるわけです。日本の難民支援の在り方に一石を投じる、良い意味でとても野心的な試みなのではないでしょうか。非常に画期的です。

教育を通じてこのような形で国際支援を行うというのは、大学だからできること。
他の機関じゃ真似できません。

マイスターが思うに、この制度には以下のような利点があります。

○高度な専門教育を受ける機会を与えることで、難民の就労環境を改善し、彼らの経済事情を良好にする

難民の生活レベルを向上させることは重要です。就労環境を良くしていかないと、彼らの生活は経済的に不安定な状況のままです。
日本の大学できちんとした教育を受けることは、彼らの就労に関する不利をいくらか解決してくれるはずです。

また、彼らが生活上やむを得ず、犯罪行為などに荷担してしまうことを、防ぐことにもなるでしょう。
難民が自立した生活を送れるようになることで、公的機関の支援負担も、軽減されると思います。

しかし何よりも、不安定な環境の母国を脱出し異国の地で不安いっぱいの状態でいる方々にとって、キャンパスでの学びの時間と十分な奨学金が提供されるということは、人道的な観点からいっても、素晴らしいと思います。
関西学院大学が、ミッション系の学校であるということも、こうした取り組みが生まれる背景にあるのかも知れません。

○日本で学んだリーダー達を、国外に増やす

UNHCR駐日事務所のサイトには、
「この制度で入学した学生が、高い教養と専門性を身につけ、日本・母国あるいは国際社会において平和構築や社会発展のためリーダーとして活躍する人材となることが期待されている。」
とあります。

大学を卒業した後、日本に残るにしても、母国に帰るにしても、あるいは他の国に渡るにしても、「日本の大学で、日本人達に囲まれながら、先端の学問を日本語で学んだ」という事実は残ります。こうした経験が、後にずっと、とても大きな意味を持っていくだろうということは、想像に難くありません。

日本にとっても大学にとっても、こうした交流が生み出す影響は、はかり知れないのです。

○難民とともに学ぶことで、他の在学生達にとってもいい学習機会を提供できる

日本人の学生にとって、難民の方と学びながら交流するというのは、非常に貴重な機会です。国際関係学や法学、政治学をはじめ、あらゆる学生にとって、刺激になることでしょう。

まだまだメリットはたくさんありそうですが、すぐにマイスターのアタマに浮かんだのは上記の3点です。

読売オンラインの報道によれば、UNHCRのロバート・ロビンソン駐日代表は「ほかの大学などでも、同様のプログラムを採用してもらえれば、すばらしいこと」と期待しておられるそうです。

確かに、すばらしいことですね。

関西学院大学では、全学部を、この難民向け入学制度の対象にしていますが、関西学院がこの制度で受け入れるのは、最大でも2名までのようです。
確かに、一校で難民を何十人も受け入れるという状況は、色々な面で実現が難しいです。大学側の受け入れ態勢を整えるのも大変ですし、奨学金の支援額もふくらみます。一度にキャンパスの人種・国籍構成比率が大きく変わることも、他の学生のためには好ましくないでしょう。

ですから、他の大学にも、こうした取り組みをしていただけたらいいなと思います。

特に、こうした海外からの訪問者に対し、十分な日本語教育を施せる教育機関が不足していそうです。
関西学院の「2名」という枠は、「12年の学校教育の課程を修了または修了見込みの者で、日本語の能力がある」という条件を満たす方が、そもそもそんなにいないということを意味しているのでしょう。
アメリカならコミュニティ・カレッジの役割になるのかも知れませんが、もし語学教育面で難民のサポートができたら、社会への貢献度は大きいと思います。

・近未来の日本社会で、大学に求められる新たな役割とは?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50139628.html

↑以前にも、これに近いことを書いたのですが、短大とか、どうでしょうか?
学生数減に悩む短大が、難民教育事業で復興するというのは、すごく良いモデルのような気がします。
問題は教育費をどこから出すかです。
↓このような基金もありますので、大学としてこうした組織と連携をすれば、奨学金もある程度は用意できるのかなと思います。

■「難民教育基金(Refugee Education Trust – RET)」(日本UNHCR協会)
http://www.japanforunhcr.org/ret.html

ただ、この難民教育基金、十分な額を運用できているわけではないようですから、大学としても、何らかの工夫は必要になってくるでしょう。

■ルード・ルベルス国連難民高等弁務官 講演会「世界の難民状況、そして私たちに何ができるのか(2004年9月9日)」
http://www.geocities.jp/nanmin_now/high_commissioner.html

今回のテーマで色々と調べていて、たまたま見つけたページです。

人間の安全保障の概念は人間の能力付与と人間の開発とに訳せます。
これを実現するためには人間の生活基盤であり、また生活に大きな変化を与える教育が不可欠であります。教育と能力付与の分野での日本のさらなる貢献を多くの難民を代表してお願いします。
現場を訪問すると生徒や教師、教師の訓練から教材などにいたるまで教育支援の要請を多く受けます。難民は日本人と同様、学ぶことや高等教育を必死に求めています。UNHCRは難民への教育を支援してきましたが限られた予算の中では多くの場合、初等教育しか提供できません。ですがNGOと協力して中等教育を提供しようと努力しております。一例としては緒方氏がUNHCRを去られる前に立ち上げられた、中等教育を提供するための『難民教育基金』。これは素晴らしいイニシアチブではありますが資金は残念ながら十分とは言えません。難民に対する奨学金も同様で多くの拠出国に奨学金プログラムがあっても財政的な理由で、この数年間その数が減少しています(上記リンク先より)

このように、UNHCR側としても、関西学院大学のようなパートナーを常に探しているような状況なのでしょう、きっと。

なお、上記のページには、

以前、ある大学がパキスタンに逃れていた元アフガニスタン難民女性二人に卒業まで奨学金を提供していたと聞きました。これは素晴らしいイニシアチブではあり、関連する組織も追随していただきたいと思います。

なんて記述もありました。
どこの大学であるかは存じ上げませんが、先達がいたのですね。

関西学院大学の取り組み、これから注目を集めていくことでしょう。

マイスターも、自分の勤務先にこういう制度があったらすばらしいと思います。
他の大学からも、追随していくところが出てきたらいいですね。

以上、マイスターでした。