理想の小学校建築は

マイスターです。
明日から二泊三日の出張です。
まんなかの日だけはどうしても、おそらくブログが更新できないと思います。
これまで休みナシでやってきましたが、申し訳ございませんっ!

さて、今日は小学校建築の話です。

みなさんが通っていた小学校、中学校は、どんな建物でしたか?

おそらくは、

コンクリートでベージュ色の外壁、

北側に廊下があり、

南側に同じ形、同じ大きさの教室がずらっと並ぶ、

そんな校舎を思い出す方が多いのではないでしょうか。

それは「北廊下型」と言われ、日本全国で量産された建築のプランです。

全国どこでも同じ教育、同じ活動が行われることを前提にしたプランでもあります。
教師が子供を自分の教室に「閉じこめ」て、
黒板に板書する形で授業を行っていく、という教育ですね。

では、この学校はどうでしょうか。

■博多小学校 写真(「シーラカンスK&H」webサイトより)
http://www.coelacanth-kandh.co.jp/works/n_works/proj_hks/proj_hks.html
※小さい写真にマウスを合わせると、拡大した画像が表示されます。

これは、シーラカンスK&Hという建築家ユニットが設計した、福岡市立博多小学校という学校です。

■福岡市立博多小学校 webサイト
http://www.fuku-c.ed.jp/schoolhp/elhakata/

この写真をみて、みなさんはどう思われたでしょうか。

「いかにも現代建築家っぽい、こじゃれたコンクリートの建物だ」

とかでしょうか?

写真だけ見せられて、そう思われるのも無理はありません。

しかしこの学校こそ、おそらく日本で最も子供のことを考えて設計された小学校ではないかと、マイスターは思います。


学校をつくろう!―子どもの心がはずむ空間

設計の中心になった工藤和美さんによる、博多小ができるまでのプロセスをつづった記録が、この「学校をつくろう」です。

工藤さんは気鋭の建築家で、同時に、小さな子供を持つ母親でもあります。

子どもの遊びや元気を最大限に引き出そうとする教育者の視点、

デザイナーとしての、気持ちの良い空間や使い心地のいい家具に対するこだわり、

地域のことを考える建築家としての視点

そして母親としての視点、

そんな様々な想いがこの小学校に注ぎ込まれています。

この学校は、オープンスクールです。
教室と廊下の間に壁がありません。

このオープンスクールには、「子どもが集中できないのではないか」という不安を抱かれる教員も多いと思います。

しかし、こう考えてみてはいかがでしょう。

例えば小学校1年生は、最近まで幼稚園に通っていた子どもです。
そんな子ども達が、これまでのように机の並んだ教室にじっと座って、前を向いて授業を受けることの方が、そもそも無理があるのではないか。
このくらいの年齢の子ども達はむしろ、先生を取り囲むように座って勉強する方が適しているのではないか?

同じオープンスペースでも、6年生用と1年生用が同じはずはありません。

工藤さんは、教員達と何度も意見を交わしながら、教育的な視点も交えてこのように細やかに学校の空間を考え出していきます。

家庭科や図工、理科などの授業の中身を吟味し、それをもとにかつての学校の教室編成を大胆に変えたりもしています。

例えば

「普通の家庭で、食事と針仕事を同じ場所でするだろうか?」

という疑問から、家庭科室をまず「家庭科調理室」「家庭科被服室」に分けています。
最終的に家庭科被服室は理科室と一緒になって、広々とした使い勝手のいい空間として設計されました。

こうした提案は、教員達と一緒に設計を進めなければできません。

また全体を通じて、生活の場としての学校空間をつくることにも腐心しています。

勉強するところと食事を取るところが同じ場所で、果たして食事をおいしく、楽しくとることができるだろうか?
学校だからそれは当たり前、というのはおかしい!

そんな観点で、屋上に面したランチルームを設計しています。
これらは、地域の方や子ども達から聞いた意見が、反映された結果でもあります。

あまりに贅沢に便利に作ってしまうと、子ども達の社会性が育ちません。
そんなところのバランスも考えられています。

博多のコミュニティの強さも反映されています。

都市の中にありながら開放的で、地域活動の場として使えるような配慮も随所になされています。

計画段階では地元住民も参加し、いまや、地域の誇りとして、誰もが学校を自慢している様子が、本の記述や写真から読み取れます。
読んでるこっちがうれしくなりますね。

本来学校とは、このように手間ひまかけて作られるべきなのではないでしょうか。

子どもの成長の舞台であり、生活の場。

大人と子どもが触れ合う社会としての場。

地域の中心として意識され、使われる場。

そんな重要な施設が他にあるでしょうか。
しかし、その重要性のわりに、ほとんどの公立学校の建物には手もお金もかかっていません。
「使えればいい」というレベルのものがほとんどです。

どうして学校の建物はこんなに安いのだろう、ということを、工藤さんは著書の中で問いかけています。

他の公立学校とあまり差をつけられては困る、
あまりすばらしく設計されては、不平等だという声が出る、

そんなことを行政から言われたと、本には書かれています。

博多小学校においては、それでも設計上の工夫と努力によって、かなりコストが下げられました。
設計者の労力にかかる部分のコストを下げたわけです。

本来は、全国の小学校にはもっといい椅子や家具、もっと気持ちのいい空間、食べ物がおいしく感じられる食器、お金と時間をかけた設計が必要なはずだ、と工藤さんは言います。

学校にかけたお金は、将来、間違いなく活きてきます。

学校に手をかけない、お金をかけないと、将来そのツケがもっと大きい形でまわってくるとマイスターも思うのです。

「学校をつくろう」は、教育に関わる人には非常に参考になる本です。

設計者によって、こうも学校って変わるのか!と、発見される方も多いと思います。

設計が進むにつれ、関わっている全員が、夢を膨らませていくのがわかります。
いまや全国から見学や視察が訪れている博多小学校、まずはぜひ、本で見てみてください。

追伸:

総合学習のコンセプトが発表されてまもなく作られた、
千葉市立打瀬小学校
は、工藤さんがかつて在籍していた「シーラカンス」の作品です。
(今は、工藤さんたちは独立して「シーラカンスK&H」を名乗っている)

この学校も、学校らしからぬプランで当時、たいへん話題になりました。

打瀬小も、非常にオープンな設計なので、
あの池田小事件が起きたときには、専門家の評価が分かれました。

博多小は、事件の後に設計されていますが、
地域に開かれた学校というコンセプトは、打瀬小と変わりません。

ガラスを効果的に使い、地域活動を常に学校に引き入れることで、

「地域の大人の目が届かないところがない」

という、人によるセキュリティを作っています。

博多小の2代目の校長先生は、「人の命は人の垣根で守る」とおっしゃったそうです。

安全に関しては、まだ絶対の正解はないと思いますが、
塀を高くして鍵をかけるだけが、子どもを守る方法ではないのではないかと、マイスターも思います。